年頃の娘を持つ家では、しばしば結婚が話題になる。だが、昔とは違って、親が干渉することはほとんどなく、どう考えるかは本人次第だ。我が家も、三人の娘達の結婚に関しては、当人達に任せてあり、自由に決めれば良いと考えている。
だが、こんな風潮は、この40年くらいの間で徐々に広がったことであり、以前は親(家)が積極的に、子どもの婚姻には関わってきた。それは、どんな形で相手を探したかということ、つまり見合い婚と恋愛婚の比率を見れば、そのことが裏付けられる。
国立社会保障・人口問題研究所では、1930年より5年ごとに、出生動向基本調書を作ってきた。これを見ると、昭和初期から、現代に至るまで、この90年間の見合い婚と恋愛婚の比率が判る。
昭和初期の比率を見ると、見合いが69%で恋愛が13%。戦後の昭和20年代後半には、恋愛が増えてその差が若干縮まったが、見合い54%、恋愛33%と、まだまだ親主導型の結婚形式であった。
見合いと恋愛の比率が拮抗したのが、1965(昭和40)年頃で、その後完全に逆転し、1985(昭和60)年には、見合い17.7%・恋愛80.2%、さらに直近の2010(平成22)年の調査では、見合いは僅か5.5%で、恋愛は87.7%にまで伸びた。これは、結婚相手を探したのが、本人自身であることを証明していると思われる。結婚相手と出会うのは、学校や職場、さらに友人や兄弟との繋がりの中で生まれ、そこで恋愛感情を持って結婚に至る。これでは、親の出る幕などほとんど無い。
だが、恋愛結婚が増えるのと同時に、未婚率も急上昇する。1930(昭和5)年の、男性30~34歳の未婚率は8.1%で、女性は3.7%。それが2015(平成27)年には、男性が47.1%で、女性が34.6%までに上昇。現代の男性の二人に一人、女性の三人に一人が独身となっている。しかも、生涯未婚率も、23.4%、14.1%となり、独身のまま人生を終えることも、決して珍しくなくなった。
恋愛結婚の増加が、未婚率の増加とどのくらい関連性があるのかは、わからない。もちろん、男女の社会的地位の変化や労働環境の変貌、さらには家族の在り方の変容も、大いに影響を及ぼしているように思う。だが現代では、結婚したくても、適う相手を探す手段が見つからないことも、一つの要因ではあろう。
そこで、旧来のお見合いの様式を取り入れ、結婚相手との出会いの場を設けたのが、結婚情報サービスという事業である。これは、お見合いの時には、互いの「身上書」を交わしたように、学歴や職業、収入や特技や趣味、さらには出身地や、親の職業なども事業所に提出し、ふさわしい相手を紹介してもらうシステム。もちろん、自分がどんな相手を希望するのかを、予め伝えておける。
そこで事業所側は、依頼者にふさわしい相手を探し、次々と紹介していく。また、何人かをまとめて「お見合いパーティ」を開き、そこで気に入った相手を見初めてもらおうとする、出会いの場も設ける。
この、人と人を結びつける際に、一番基本となるものが、身上書にあたる依頼人の個人の情報であることは、まず間違いない。学歴や職業、収入など、同じような環境に育ち、同じような立場で仕事をしている者同士の方が、成婚する可能性が高い。また趣味が一致していることなども、大きな要因となる。
こう考えると、身上書は、人間の品質証明書に当たるものと言えるのではないか。つまりは、結婚相手を探す際の、ベースになる重要なものということだ。無論、学歴や職業、さらに収入などは、偽ることが出来ず、人を選ぶ有力な材料となるが、価値観やどのように人生を生きるかなどの、人間の内面に及ぶことは何も判らない。100人いたら、100人とも異なる人間の気質など、コンピューターでのマッチングでは、測りようもない。この人間の品質証明書には、この辺りに限界があるように、思える。
さて、かように人間の質を証明することは難しいが、品物の質は出来る限り消費者に判りやすく提示されていなければ、正常な取引にはならない。品質を認識することで、価格に納得する。これは、消費者の立場からすれば、当然のことで、製造者や流通に関わる者は、その責務を負わなければならない。
では、消費者にとって、質と価格が判り難い呉服には、どのような表示があれば良いのか。出来る限り、簡単に価格が類推出来るような品質表示が必要と思われるが、それにはどのような内容がふさわしいのか、今日はこのことを考えることにしたい。
西陣織組合のメガネ型証紙と共に、添付されている品質表示。(梅垣織物・袋帯)
そもそも商品の品質表示には、それを義務付ける法律の存在がある。1962(昭和37)年5月に施行された、「家庭用品品質表示法」がこれに当たる。
目的は、消費者が品物を買い入れる際、適切にモノを選ぶことが出来るようにと、それぞれの品物の情報提供=品質表示を、事業者側に義務付けているもの。この法律における対象商品は、繊維製品のほか、合成樹脂加工品・電気機械器具、雑貨など、家庭で使う品物をほぼ網羅するものになっている。
品質表示の基準は、品物ごとに違う。繊維製品だけを見ても、これがかなり細分化されている。コート・セーター・ブラウス・靴下・下着・ハンカチ・マフラー・毛布・ネクタイ等々に分けられ、製品ごとに表示する内容や、表示方法が定められている。
呉服に関しては、羽織・着物という項目で区分けされており、どのような内容を表示しなければならないのか、指示がある。
まず第一に求められていることが、繊維の組成。これは、糸の原料に何が使われているか、つまり材質の明示になる。規定には、含まれている繊維の混用率(材質の異なるものを併用している場合の、それぞれの比率)を%で示せとある。さらに、製品の部位を分離して表示することも求めている。これは表地と裏生地の材質を分けて記せということを意味している。
最初の画像にある品質表示を見ると、この規定に則ったものと理解出来る。この梅垣帯の中に織り込まれている材質は、絹60%で、その他の材質は、金属糸風繊維40%との記載がある。この金属糸風繊維とは、ほとんど聞きなれない名称であるが、簡単に言えば、金属を糸状に引き伸ばして作った繊維ということになる。
記載では、金属糸風繊維にどんな材質が組み込まれているのかが、詳しく記されている。それが、指定外繊維(和紙と紙)・綿・レーヨン・アクリル・ポリエステル。以前にも少し説明したことがあったが、これらの素材は、織糸を生成する過程で使われている繊維で、特に金銀糸を作る時には、欠かせないものだ。
帯模様に金銀を織り込む場合には、幾つかの方法がある。例えば、引箔の場合は、和紙に金銀箔を押し貼りしたものを裁断し、糸撚りをせず、箔のまま織り込む。また多くの金銀糸の場合は、まず、ポリエステルのフィルムに銀を蒸して定着させ、金色で着色した後に紙で補強し細かく裁断、これをレーヨンの芯糸に巻きつける。
つまり、金銀糸風繊維として掲げられている紙やレーヨンなどは、糸のベースになっている材質ということになる。けれども、この記載は、どんな過程を辿って糸を作っているかということを、理解していなければ、誤解を受けかねない。消費者からすれば、絹100%ではなく、化学繊維や紙が入っているなどと表示があれば、帯質にいらぬ疑いを持つことも、あるかも知れない。
現状を見ると、消費者保護の観点から制定された法令でありながら、記載されている品質表示が、判り難いばかりか、質を判断する材料にはなり得ず、帯に限って見れば、反って混乱を招きかねないものになっているようにも思える。
もちろん正確に材質を表示することは大切だが、主役である消費者が、モノを選ぶ時の判断材料になるよう、判りやすくなっていなければ、法令の主旨からは外れ、何の役にも立たない。
金銀糸の作り方は多様だが、例えば和紙を使う引箔を多く織り込んだ帯は、手間もかかり(手機でしか織り出せない)、上質で価値が高い。これを消費者に判りやすく表示するのであれば、引箔や模様箔を使用していること、またその金箔の密度などを明示しておけば、優れた質と理解しやすい。そして、手機か機械機か、織り方の記述もあってしかるべきで、これがあれば、手間の掛かり方が判る。
こうした上で、小売屋は表示を消費者に見せて、品物に対する信頼を持って頂くようにする。もちろん、小売の者は、扱う品物がどんな材質で、どんな作り方をしているのか、理解していなければ、説明が出来ない。これは、知識の無い売り手を、消費者に向き合わせないことに繋がり、ひいては、質に見合わない不適正な価格での販売を排除することにも繋がる。
帯の品質表示は、素材糸の複雑な作り方からもっとも難解だが、染モノだともっと単純な表示が出来るように思う。例えば、インクジェット・捺染・型糸目・手描きという、作り方の大まかな区分を記載するだけで、質の差が判り、消費者のモノ選びの基準になり得る。また、誰がどこで作ったモノか、モノ作りに関わった場所・事業所を仔細に表記する必要がある。作り手の製造責任を明確にしておくために、これはどうしても欠かせないことだ。
例えば振袖に、インクジェット染・中国○○省○○工場とか、同じインクジェットでも、国内産・○○県○○市○○染工場などといった表示があれば、消費者はその質を理解し、価格が類推出来る。そしてそれは、「高くないモノ」という判断にも繋がるだろう。また、型捺染のものと、型が使ってあっても手挿しの品物とでは、染手間や質に違いがある。そこで、色挿しをした職人の名前を品物に表示しておけば、その質に信頼を置く要因となり得る。
要するに、今求められることは、知識を持たない消費者にも、容易に質を理解出来るような品質の表示を、ということになる。売り手にとって、基礎的な取るに足らないことであっても、消費者の立場から見れば、品物が判断できる重要な情報があることを、売り手も作り手も認識すべきと思う。
そして大切なことは、キモノや帯の価格は、素材質の優劣や、製造する時の手間のかかり方で決まるということを、消費者に知って頂くこと。こんな基本的なことを、売る側が伝えていないからこそ、質と価格が一致しない商いが成立してしまい、ひいては消費者に不信感をつのらせる原因にもなっている。
本来なら、たとえ付いている品質表示が、不十分なものであっても、それを補う説明を小売屋がすれば良いだけのことで、バイク呉服屋が、「誰にでも判るような表示方法を」などと力むことは無い。だが、残念ながら、現在の商いでは、品物の情報伝達は、疎かにされていると言わざるを得ない。
質に応じた価格で売ること。こんな当たり前のことが出来ていないようでは、この業界の未来は、決して明るいものにはならない。消費者目線に立った品質の表示と、売り手の丁寧な説明。この二つを両輪とする「呉服商い」の正常化が、強く望まれる。
なお、品質表示に関連して、伝産品(伝統的工芸品)の場合は、どのような記載があるのかお話したかったが、稿が長くなったので、また別の機会を持つことにしたい。
最近は、何でも「活動」しなければ、物事が前に進まないという風潮が、世の中にあるようです。
結婚相手を探す「婚活」、就職先を探す「就活」、人生を終える準備をする「終活」。自分が能動的に働きかけなければ、何も始まらないという訳です。けれども、いつからこんな風になってしまったのでしょう。私は、無理に自分を急き立てると、あまり良い結果に繋がらないような気がします。
「無為自然」としてあるがままに過ごし、「泰然自若」でいること。周囲に捉われるのではなく、「なるようにしかならない」と開き直るほうが、日々を楽に過ごせます。世間では、こういう人間のことを、「脳(能)天気」と呼ぶそうです。
今日も、最後まで読んで頂き、ありがとうございました。