ニュースを見ていると、東京では、雪の予報が出たり、朝の気温が氷点下になっただけで、大騒ぎをしている。日本の人口1億2千万の1割強・1300万人が住む街だけに、天候に限らず、報道が首都の話題に偏ることは、ある程度仕方あるまい。
けれども、例えば最近話題になっている東京都議会の混乱や、豊洲市場への移転問題などは、あくまで東京だけの話であり、地方にいる者には、ほとんど関係ないことだ。これを、NHKの全国ニュース・トップで伝えることには、いささか違和感がある。これは、あくまで「東京ローカル」の問題ではないか。
首都への一極集中を問題にするならば、まずこんなところから、改める必要があるように思えるが、都会の人からすれば、地方に住む者の僻みとしか聞こえないだろう。
立春が過ぎ、暦の上では冬から春に向かっているが、2月はまだ寒い。東京の朝の平均気温は、まだ3℃前後だ。だが甲府では、-1℃で4℃ほど低く、旭川に至っては、-12℃なのである。私も、出張で東京へ行くと、暖かく感じられるが、北海道の人など、もしかしたらダウンジャケットを脱いでしまうような暖かさかもしれない。
日本気象協会では、「服装指数」というものを出している。これは、その日の気温により、何を着用すれば良いのか示していて、服装の目安になるもの。
指数は0~100の10段階に分かれているが、例えば、10だとダウンジャケットを着用、20はマフラーや手袋が必要になる、30は、コートなしでは寒い。30以下は、気温が7℃以下の冬仕度である。
一方、70だと長袖シャツだけで十分、80は半袖ポロシャツになり、90になるとTシャツ一枚で過せる。80以上は、気温が25℃以上の夏の装いになる。
洋服着用の場合は、このような服装指数があるが、これを和装に当てはめると、どうなるだろうか。おそらく、洋装の指数・30以下であれば、キモノでも上に羽織るモノが必要になろう。つまり、「帯付き(コートや羽織を着用しない着姿)」だと、着ている本人も寒いし、周囲からも寒々しく映るということだ。気温に当てはめてみると、11月~3月までは、やはり外出時にはコート・羽織類が必要ということになろうか。
そんな訳で、今日は、道中着の話をしてみる。先日、お客様から依頼を受けて紬地のものを作ったが、以前小紋を使ったものもあり、素材を変えた二枚の道中着がどのような姿になるのか、ご覧頂こう。そして、衿の形や飾紐にも、ぜひ注目されたい。仕上がった品物をご紹介しながら、カジュアルに使うコートについて考えてみよう。
(青磁色 十日町紬 花織風格子模様・キモノ衿道中着)
キモノの上に羽織るコートというと、多くの方が、道行コートを使っているかと思う。衿の形の定番は、道行衿(額縁形に開けられている衿)である。この衿の開き方には、標準的な寸法があるため、着姿としては同じような見え方となる。
道行コートの場合は、フォーマルからカジュアルまで使うが、生地のあしらい方により、少し使い道が違ってくる。例えば、キモノの絵羽モノのように、模様位置が決まっている「絵羽コート」や、無地あるいは、それに近いものなどは、フォーマル用のコートであり、総柄の小紋で作ったものならば、カジュアル向きとなる。
お客様がコートを作る時には、殆どの方が、フォーマル・カジュアル兼用になるように、無地やぼかし、飛び柄など無難なモノを選ぶ。そういう意味では、礼装専用の絵羽コートなどは、贅沢な品物と言えるだろう。
また、最近の衿の形は、道行衿が定番であるが、へちまのような形のへちま衿や、道行衿の角に丸みを持たせた都衿、さらには被布のようなかわいい形の被布衿など、実に様々な衿の形がある。
以前は、着用する方の体型や年齢、好みなどにより形を色々考えたものだが、そういう依頼も少なくなった。特殊な衿の仕立には、ある程度技術も必要なので、この仕事が出来る和裁職人も限られている。これからは、もっと少なくなるだろう。
コートには、防寒や塵除けの意味があり、長さは使う方の用途や好みにより、まちまちだ。もっともポピュラーな丈は、裾から1尺~1尺1寸程度上がった長さ。これが、6~7分コートに当たる。防寒を強く意識したり、礼装用だと、もう少し長くする場合もあり、中には雨コートのように対丈で作ることもある。
コートは、その名前の通り、外で「道を行く時」に限って使う品物であり、中に入れば脱がなくてはならない。けれども、コートを着用した時に、全体としてどのような着姿に見えるのかということを、少し意識しながら、品物を選ぶことも必要になるだろう。
使う場により品物が変わり、長さも変わる。そして、一緒に着用するキモノの色や模様も、考えなければならない。意外と選択の幅が広いアイテムなのかもしれない。
さて、今日ご紹介するのは、コートの範疇でも「道中着(どうちゅうぎ)」と呼ばれる品物である。
この品物の扱いは道行コートと同じだが、略式なコートという意味合いがあり、カジュアルに使う場合が多い。ただ、全くフォーマルに使えないかと言うと、そうではないように思う。無地やそれに近いモノならば、準礼装(色無地や付下げあたりまで)では、使えそうな気がする。道中着の使い回し方には、意見が分かれるところだが、これはあくまでも、私の個人的な考えだ。
上の画像のように、紬や総柄小紋で作るような道中着は、カジュアル専用。普段着の上に着用するコートなので、素材は織の紬やお召でも良く、染の小紋では、総模様でも飛び柄でも良い。ただ、寸法を長く取るため、コート地専用の羽尺では足りず、キモノ用の着尺を使わなければならない。
使用している紬地は、十日町紬の格子柄で、中に沖縄の花織のような模様が織り込まれている。経糸と緯糸を交互に織り込んでいく平織で、生地の表面には光沢があり、大島と同じように滑るような質感で、着心地は軽い。
十日町の紬には、各地の紬の模様や製法を模したようなモノが沢山あり、これもその一つ。糸染めも化学染料を使い、機械機で織るため、価格も廉価だが、コートや道中着として使い勝手の良い品物かと思われる。特に、上のような平織紬は、防水加工を施して、雨コートに使うこともよくある。緯総大島の格子模様なども、同じような使い方をする。
道中着の特徴は、衿の形がキモノの衿と同じようになっているもので、着用すると、衿元がキモノの衿と寄り添うように重なることで、胸元のVゾーンが同じ見え方となり、目に馴染む自然な着姿となる。
この品物の衿形は、キモノと同じバチ衿で、折らずにそのまま使える「キモノ衿」。この他にもう一つ、広衿で裾まで衿が取られている「道中着衿」があるが、この衿の巾は、上が狭く(3寸程度)で下が広い(4寸程度)。そのため、着用時には、自分で背の衿中心から二つに折り、キモノの衿に添うように合わせていく。
道中着の特徴として、もう一つは、この飾り紐の存在。上前と下前を結わえる役割の紐は、花のように形作られ、洒落た着姿を演出する。衿の先端に付けることで、花飾りがより目立ち、アクセントとなる。
紐は、仕立を請け負った職人が、キモノ生地の残り布を使って、自分で作る。うちでコートや羽織類を依頼している小松さんは、ご覧のように、飾り紐を美しく作る器用な職人さん。五枚の花びらと、真ん中のくるみボタンを使った花芯とを繋ぎ、花飾りにする。飾りばかりではなく、結わえる紐そのものも、キモノ生地で作ってある。
道中着の内側。ベージュの壺垂れ模様の裏が取られているが、内側の結び紐は、裏地の残り布を使う。道中着は、着用の時には、まず内側の紐を体型に合わせて結わえる。内紐は、調節が出来るように、少し長めに付けておく。
道中着の丈は、道行コートと同様に、お客様の好みで自由に決められる。傾向としては、道行よりも少し長めに作られる方が多い。コート丈で言えば、8分コート以上の長さになろうか。また、コートや道中着の下に、羽織を着用するのであれば、持っている羽織丈よりも、長い丈にしておかなければならない。
(グレー地 花柄総模様・小紋 変わりバチ衿道中着)
もう一枚、小紋を使った道中着をご紹介しよう。こちらは、以前家内用に作った品物。使った小紋は、これまで、「女房の仕事着」としてこのブログで紹介してきた品物と同様、長いこと店の棚に眠っていた「棚晒品」である。
家内がキモノとして使うには、さすがに少し派手であり、反物の入り口部分に、若干の色ヤケもあったため、そこを避けて使える道中着にしたという訳である。地味な色の紬を着用する時には、このくらい華やかな小紋道中着でも、良いかもしれない。どのような映り方になるのか、後で、着姿をお目にかけよう。
この道中着に使用した小紋。すこし濃いグレーの一越生地に、牡丹や菊、萩のような花の総模様。捺染(なっせん)による小紋なので、手は掛かっておらず、廉価である。地味な地色なのに、模様が密で配色も明るい。派手なのか地味なのか、少し中途半端な小紋である。売れ残った訳は、そんなところにあるのだろうか。
先ほどの紬道中着との大きな違いは、衿の形。紬地はキモノの衿と同じように、予め折ったバチ衿だが、こちらの小紋の衿は、直線的ではなく、緩やかカーブを描いた衿。衿の上部は曲線で狭く、下部は直線で広くなって裾まで続いている。このような衿姿は、胸元が優しく見える。これは、通常の広衿の道中着衿を、アレンジした形。
飾紐も、生地の共布で作ったものでなく、生地の地色に近い色の紐を使っている。七枚の花びらを輪のように作り、その結び目を繋ぎ合せて、花芯にしている。先ほどの飾紐とは、また異なる作り方で、これはこれで難しい。
道中着の内側。裏地は、薄グレー色に段ぼかし。見て判るように、全体に裏地を付けている。こちらは、より防寒を意識した、いわゆる袷の道中着になる。紬地で作ったものは、裏地が肩すべりだけなので、単衣道中着であり、どちらかと言えば、塵除けの意味合いが強い品物である。なお、素材的には、紬の方が暖かいので、総裏を付けずに、肩すべりだけでも、十分防寒の役目を果たすことが出来るように思う。
では最後に、家内の着姿から、改めて道中着の雰囲気を見て頂こう。
まず、中の内紐を結ぶ。丈が長い時には、紐が一ヶ所だけだとしっかり止まらないので、二ヶ所に付けてある。紐は、こちらも裏地の残布で作ってある。着用する時、紐を自分の体型に合わせて調節し、結んでおく。
胸元のVゾーンは、キモノの衿に添った形になっていて、細いバチ衿。それが、上前と下前が交差するあたりから、緩やかに衿の巾を広げている。この曲線が、着姿に柔らか味を出している。
この道中着の丈は、2尺7寸。キモノの裾から6寸ほど上がったところが、道中着の裾。だいたい、8分の道中着寸法。下のキモノが、地味な藍地の紬なので、外歩きの時ならば、これくらい明るい小紋を羽織っても良いと思う。
紬・小紋と素材を変え、衿の形や飾り紐の材料、さらには裏地の付き方なども違う二点の道中着を、ご紹介してみた。
街歩きを楽しむ、カジュアルなキモノの上に、少しお洒落な道中着を羽織るのも、着姿にアクセントを付ける上では、大変有効である。素材や衿の形、長さなどを自在に考えることが出来るのも、この品物の特徴。ぜひ、皆様も、コートのアイテムの中に、道中着を加えて頂きたいと思う。
バイクに乗っている時の体感温度を、割り出す公式があります。気温-時速÷3.6。
例えば、気温が-2℃の中、時速40Kでバイクを走行した場合には、-2-40÷3.6=約-13.1℃になります。この時、もし3mの向かい風が吹いていたら、さらに温度は3℃下がり、-16.1℃にもなってしまいます。風速1mに付き、気温は1℃下がるそうですから。
甲府の2月朝の気温は、大体-2℃あたりなので、バイク呉服屋は毎朝、-16℃の中を疾走していることになります。同じ月の旭川では-12℃なので、それより寒く、北海道の中でも厳寒の地とされる朱鞠内(しゅまりない)が、-16℃で、私のバイク体感温度とほぼ同じ気温。
若い頃、この朱鞠内の駅で、除雪作業をしていたことがありますが、酷いときには、-20℃以下に下がりました。こんな経験が、少しは役に立っているのかも知れません。今もって私は、どんなに寒くとも、下着は半袖シャツ一枚とパンツ一枚だけ。
もちろん、カイロなど使ったこともなく、ほぼノーガードと言える状態です。それでも、この20年、風邪一つ引きません。頭もノー天気ですが、体そのものも、ノー天気ということになるでしょう。「○○は、風邪を引かない」の典型ですね。
今日も、最後まで読んで頂き、ありがとうございました。