バイク呉服屋の忙しい日々

ノスタルジア

成竹登茂男 桜色裾ぼかし・紅白牡丹に尾長鳥模様 加賀友禅振袖

2015.03 05

母と娘は、やはり似ている。顔立ちや背格好が違っていても、その人から受ける印象や雰囲気など、どこかしら共通する所が必ずある。

当店で扱った振袖は、世代を越えて使われることが多いが、母が使った品物をお嬢さんに着せて付けてみると、たいていよく似合う。顔立ちが似ている母娘ならば、母は時間がタイムスリップして、若かりし頃の自分の姿を見ているように思える。

洋服を考えてみると、母が若い頃流行っていたファッションが、今の娘達にそのまま受け入れられるようなことはあるまい。例えば、30年前のハマトラだの、ニュートラだのといった格好を、自分もしてみたいとは思わないだろう。

キモノが使いまわせるのは、その形式が変わらないこともだが、スタンダードな模様と色が存在しているからである。特に振袖には、それが強く出る。若い時にこそ使うことの出来る色があり、華やかな模様がある。

母が着た振袖を見ると、その人の若い頃の気質までわかる気がする。おとなしい性格の人ならば、優しく上品な色を選んでいるし、個性的な人なら、大胆で目立つ模様の品を求めている。キモノと着る方の雰囲気とにミスマッチは、あまり見られない。

これは、振袖を選ぶ時に、売り手が着る人の印象を視切って、品物を勧めたからこそであろう。そして、30年後娘がそのキモノを着てみると良く似合う。母娘の雰囲気は、やはり似るものなのだ。

 

ノスタルジアで、成竹登茂男の振袖を取り上げるのは、二回目。今日の品もやはり、加賀友禅らしく、上品で写実に富んだ作品である。

この振袖を所有しているお客様は、甲府から東京に嫁がれた。昨年11月、娘さんにこの振袖を着せ、そのまま「あずさ号」に乗って実家のお母さんに見せにきた。その時、わざわざ当店にも立ち寄って頂いたので、今日は、品物ばかりでなく、実際の着姿もご紹介しよう。残念ながら、お顔を出すことはできないが、お母さんにとても良く似た、上品な美人さんである。

世代を繋いで使われる品物の素晴らしさを、ぜひ感じとって頂きたいと思う。

 

(成竹登茂男 加賀友禅振袖・桜裾ぼかし地色 紅白牡丹に尾長鳥模様)

(1981年 甲府市・I様所有)

「立てば芍薬(しゃくやく)、座れば牡丹、歩く姿は百合の花」とは美人を形容した言葉であるが、牡丹の花はその豪華さから、中国・唐代より百花の王、または富貴の花とされてきた。この品物のように、振袖の模様として表現される、絢爛豪華な大きな花弁は、若さを象徴するものでもある。

この成竹登茂男の作品では、キモノの図案として、牡丹の花そのものがどれだけ細密に描かれているか、またぼかしの技法を始めとした色挿しにより、花がどれほど存在感のあるものとなっているのかを、注目して見て頂きたい。

箔も刺繍も用いていない、加賀友禅でなければ表現することのできない、繊細な美しさと上品さを、その模様に感じることが出来ると思う。

 

裾模様を見たところ。上前おくみと身頃、さらに後ろから見える部分の柄付け。鮮やかな朱色と紅色、そして白の三種類に色挿しされた大輪の牡丹、枝の先には小梅の花、さらに模様の上部には、尾の長いサンジャクのような鳥が、花々の間を舞っている。

実際のお客様の着姿で、前の模様を見ると、上のようになる。三種類に色分けされた牡丹の花の配置が巧で、豪華さが際立っている。また、おくみの最上部に飛ぶ尾長鳥がアクセントになっているのがわかる。

 

花弁を立体的に見せるため、一枚一枚を丁寧に写し取って描かれていることがわかる。外側の花弁が濃い紅の色、内側は桜色をぼかしすことにより、花弁ごとの差異を出す。

単調になりがちな白い花も、ぼかしを使うことで、濃淡の差が出る。花の下部は、白ではなく、ごく薄い水色で挿されている。

上前の一番目立つ部分に付けられた、大輪の朱牡丹の花弁。花芯の小さな蘂一つ一つにも糸目が置かれている。三様の牡丹は、色を替え、形を替え、技法を変えて、模様の中に表現され、咲き誇っている。それぞれの花には、それぞれの工夫が施されているからこそ、絵画のような美しさがある。

 

白鳳時代の宮廷歌人、柿本人麻呂の代表的な歌に、「あしびきの 山鳥の尾の しだり尾の 長々し夜を 一人かも寝む」(拾遺和歌集・773)がある。恋しい人に会えず、一人寝をしなければならない、秋の夜の長さを、山鳥の尾の長さと掛け合わせて歌ったもの。

正倉院の鳥として、表現されることの多い「サンジャク」も、同じように尾が長い。キモノの図案の中で描かれる鳥の姿として、「尾長鳥」は特徴的なものと言えよう。

片方の翼は20枚、尾は6枚。微妙に形を変えながら、一枚ずつ糸目が引かれている。おくみの最上部と胸の二ヶ所に配置された鳥の姿にインパクトがあることが、お客様の着姿からも見て取れる。

濃い桜色に染められた、裾部分の葉と枝。花と同様に、一枚一枚の葉も微妙にぼかし方を変えて色挿しされ、一枚として同じものがない。光の当たり方で変わる色が、丁寧に表現されている。成竹登茂男氏独特の写実性は、この部分の繊細さにあると思う。

成竹作品での梅花の挿し色は、朱・白・水色。以前ご紹介した同氏の振袖の梅模様を見ても、同様の表現がされている。(2013・6・23の稿をご参考にされたい)

ほどこされている模様を、それぞれ見て頂いた。挿されている色は柔らかく、優しいものばかりだが、柄の配される位置により、濃淡が付けられメリハリがある。上品な雰囲気を保ちつつ、個性を表現することは大変難しいが、技術の高さが伺える。一枚の花弁・一枚の葉の色も疎かにしない、作者の姿勢を作品から見て取ることが出来よう。

もう一度、全体像をどうぞ。

 

 

さて、せっかくなので、この振袖に合わされた帯についてもご紹介しておこう。

(黒地・雲取り大扇面重ね袋帯 紫紘)

お客様の着姿でもわかるように、優しい桜地色に合わせた帯は、大胆豪華な大きい扇面模様。黒地だが、扇に織り出された金地が印象的。

お客様の着姿で、帯の前部分をご覧頂こう。帯の中心にきている扇面図案の中に、紅白の牡丹が織り出されているのが見える。すなわち、キモノの紅白牡丹模様と帯の模様とがリンクするコーディネートになっている。キモノの上品さを引き立てる帯地色ということだけではない、凝った工夫を見ることができる。

二連の雲取り扇面。柄の主模様は、一つは鳳凰に菊、もう一つは揚羽蝶に牡丹。細かい織り出しが駆使された、紫紘らしい重厚な帯である。

オーソドックスな「ふくら雀」で締められた後ろの帯姿。織り柄の美しさがもっとも良く映えるのは、やはり古典的ともいえるこの帯姿であろう。正統的な振袖と帯には、正統的な着方があるという典型的な姿と言えよう。また、この日のお客様の髪型は、自分の地髪を使い、美しくまとめられた日本髪。優しいお顔立ちと、キモノの雰囲気、さらに黒髪と、忘れていた日本女性の美しさを再認識させてくれるような姿だった。

 

着姿も、最後にもう一度ご覧頂こう。I様、ご協力ありがとうございました。

 

上品で若々しさに溢れ、これぞ「にっぽんの振袖」と言えるような成竹登茂男の作品は、いかがだったでしょうか。

受け継がれた方の着姿を拝見し、改めて品物の価値というものは時間を越えるものだと、確信しました。変わり行く時代の中でも、変えてはいけないものがあるということを、ほんの少しでもわかって頂けたらと思います。

呉服屋の仕事は、そんな品物をお客様に長く使い続けて頂けるように、その都度手を入れながら、守っていくことしかないですね。

今日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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このブログに掲載されている品物は、全て、現在当店が扱っているものか、以前当店で扱ったものです。

松木 茂」プロフィール

呉服屋の仕事は時代に逆行している仕事だと思う。
利便性や効率や利潤優先を考えていたら本質を見失うことが多すぎるからだ。
手間をかけて作った品物をおすすめして、世代を越えて長く使って頂く。一点の品に20年も30年も関って、その都度手を入れて直して行く。これが基本なのだろう。
一人のお客様、一つの品物にゆっくり向き合いあわてず、丁寧に、時間をかけての「スローワーク」そんな毎日を少しずつ書いていこうと思っています。

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