12日、今年の世相を表す漢字が「税」に決まった。「税」は、もちろん「消費税」のことで、4月の8%引き上げと、来秋10%引き上げの延期など、何かと話題になることが多かったからだろう。
だが、もし「山梨県人」が今年の漢字を選ぶとすれば、多数の人は「雪」を挙げるに違いない。2月14日から15日にかけて降った、1m14cmもの「バレンタイン豪雪」は、強烈な印象と教訓を残した。
この2,3日、「爆弾低気圧」による猛烈な寒波で、地域が孤立したり、雪下ろしで亡くなる方の報道に接すると、とても「他人事」には思えない。特に、過疎地で苦労されている高齢の方々を思うと、胸が痛む。
地方再生の大段幕を掲げる政府は、何よりもまず、厳しい自然と向き合って生きる過疎地の人々をどのように「守る」のか、具体的なプランを提示して頂きたいものだ。「地方に仕事を持っていく」ことよりも、「今を生きる人々」の命を守る方が先なのではないだろうか。
今年も残すところ10日余り。このブログの更新も、今日を入れてあと3回の予定である。最近では、「新しい年」を期して「キモノ」を誂えるような方は少ないのだが、そんな中、珍しく「正月用の子どもキモノ」のご依頼を受けたので、今日はその話をしてみよう。
(水色雲取り模様小紋・5歳女児用キモノ)
元は、普通の大人用小紋だったものを、子どもモノに仕立て直したもの。30代のキモノ好きの若いお母さんが、お正月用のキモノとして自分の娘に使うために依頼してきた。
大人モノから子どもモノへ仕立て直した品物は、以前このブログの中でもご紹介した。(昨年9・27 「母の江戸小紋、娘の七歳祝着になる」)この時は、無地感覚の江戸小紋を仕立て直して、「晴れの日の祝着」として使うものだったが、今回は総柄の少し大人っぽい小紋である。「祝着」ではなく、普段「楽しむため」のキモノならば、使わなくなった大人モノを再利用することを考えてよいと思う。今日ご覧頂くのは、そんな品物である。
大人モノとして使っていた時の小紋。
おそらく、30年ほど前のものと思われ、「捺染」による小紋のキモノ。裏地は胴裏、八掛ともに正絹が付けられている。
寸法を測ってみると、身丈が3尺7寸とかなり短い。ここから、このキモノを使っていた人の身長は、145~147cm程度の小柄な方と類推される。また、「中揚げ」の縫込みもあまりないため、このまま「大人モノ」として使うことはかなり難しい。ということで、より小さな「子どもモノ」に直して使うには、向いている寸法状態と言える。
裄は1尺6寸5分、身巾は前が6寸、後が7寸5分で、昔の寸法で言えば「女性の並み寸法」になり、体型は「中肉あるいはやせ型」と思われる。ここも、子どもモノとして直すには、問題ない。
一ヶ所だけ困ったのは、袖丈である。ここが1尺2寸と短く、縫込みがない。小紋や紬、無地などの「柄合わせ」の必要がないものは、「縫込み」を入れず、使う人の寸法に合わせて「切り落とす」ことが多いが、それでも袖丈の場合には、少なくも2寸程度の「縫込み」を入れておくのが普通だ。
「子どもモノ」の袖丈は、最低でも1尺5寸以上欲しい。あまりにも袖が短いと、「子どもキモノ」の「愛らしさ」が出ない。縫込みがないとすれば、余ると思われる「胴」の部分を「袖」に足すより方法がない。いわゆる「ハギ」を入れるということだ。
「袖」は表から見える部分なので、「ハギ」を入れたところが「あからさま」に見えてしまう。常識的には、袖にハギを入れることはあり得ないが、そうかといって1尺2寸と言う短い丈のまま、「子どもキモノ」として使うのも憚れる。悩ましいところだが、さてどうしたものだろう。
「トキ・すじ消し」が終わった状態。
大人モノから子どもモノへ変えることということは、単純に考えれば「大きい寸法」から「小さい寸法」への変更である。仕立て直しをするには、大きくするにせよ小さくするにせよ、全部解いて、元の縫い目を消さなければならない。なるべく費用を節約するために、裏地はそのまま使う。ひどい汚れはなく、状態はまずまずだ。
うちで「子どもモノ」の仕立てを請け負う職人さんといえば、「中村さん」である。このブログでも、今年の1・14と22日の二回にわたって、「八千代掛け(お宮参りキモノ)」の仕立てに関する話を書いた。「鋏を入れず」に産着を作り、それを3歳・7歳の祝着や十三参りのキモノとして使い回すことについて、紹介させて頂いた。
中村さんは、自分の師匠が「子どもモノ」の仕立てを得意としていたため、それに習って、「小裁ち」のものが上手だ。だから、「八千代掛け」ばかりではなく、子ども全般の品物の仕立てを一手に引き受けてもらっている。
仕立てをするにあたり、着用する娘さんの採寸をする。年齢は5歳、身長は106cm。身丈2尺2寸5分(約85cm)、裄1尺1寸5分(約44cm)。
子どもの「裄」寸法は、「身丈」寸法のおよそ半分というのが、以前の寸法採りの時には一つの目安となっていたが、最近の子ども達の「裄」は長くなっている傾向がある。この辺りは、現代の大人の裄が長くなったのと同様である。やはり、この娘さんの裄も身丈の半分より3cm程度長い。
中村さんとの仕立ての相談で、問題になったのは、やはり「短い袖丈」をどうするかということだ。例え「普段使い」のキモノにせよ、「子どもモノ」の袖丈が1尺2寸しかないというのは、やはり違和感がある。
そこで、出来る限り目立たないようにして「ハギ」を施し、袖丈を1尺5寸程度に長くしてみようということになった。「布の継ぎ方」をどのように工夫するかは、仕立て職人の腕の見せ所である。どうなったのか、見て頂こう。
「ハギ」を入れて1尺5寸丈にした袖。
こうして、画像で見たところ、「ハギ」を入れた場所は判然としない。施されている柄と色の境界をうまく合わせて接ぎをしている。
実際に「ハギ」が入っているところ。真ん中から少し下に、横一直線に付いた「スジ」が見える。ここが、布を足した位置である。このように、近接して写せばようやくそれとわかるくらいなので、着ている姿を見た時に、「袖にハギが入っている」とは思わないだろう。
このような、総柄小紋では、柄と柄の切れ目を使うことで、ハギを隠すことが出来るという、典型のような仕事になっている。
「ハギ」に使った布は4寸程度で、身丈に使われている「胴」から持ってくる。身丈寸法は、元の大人寸法では、3尺7寸だったものが、この子どもキモノではとりあえず2尺2寸5分しか使わない。残った1尺5寸程度の残りの胴部分は、通常「腰揚げ」や「中揚げ」として胴の中に縫い込まれる。
残りの1尺5寸から4寸程度を「袖のハギ」に回したとしても、十分に「揚げ」の縫込みはある。むしろ、中揚げが多くなりすぎてぶくぶく膨らむような感じを、少しでも回避できて、着やすくなるだろう。
「袖丈」の問題も解決出来て、寸法通りの「子どもキモノ」へと、生まれ変わった。身丈に入れた「揚げ」の長さを考えれば、140cm程度の身長になるまで使うことが出来る。今、5歳なので、小学校4,5年までの5年くらいは、「揚げ」を降ろして長さを調節すれば着ることが可能だ。
ついでに、「子どもキモノの袖」に施す「丸み」について、お話しておこう。キモノの袖先には、使う方の年齢により、異なる大きさの「丸み」が付いている。通常ではこの大きさが、年齢が下がるほど大きくなっている。
上の画像は今回のキモノで、「3寸丸み」が付けられた「袖先」。
二本のものさしの位置を見て頂きたい。袖の縦と横、それぞれ直線から丸みをつけるために、曲線になり始めた場所が、袖の先端から3寸の位置になっている。この縦と横両方の3寸の位置を結んで、「丸み」が付けられる。
「丸み」を大きく取ることで、「子供らしい」着姿になる。
これは、元の大人のキモノだった時の「袖」。袖先の「丸さ」の違いがよくわかると思う。この丸みの寸法は「5分」。上の子どもに施した6分の1の「丸み」ということになる。
このキモノに使う「長襦袢」が無かったので、新しく作ることにした。通常の襦袢生地を使うのは、すこし勿体ないので、工夫して、廉価で仕上がるようにしてみた。
用意したのは、木綿の白のシンモス生地と、端布として残っていた鮮やかな朱赤の絹地、それに、子ども用の濃赤色の刺繍衿。この三つの素材を生かして、「子ども襦袢」を作ってみた。
上の画像は、出来上がった襦袢。
シンモスは「胴」に使い、赤い絹の端布は袖に使う。袖と衿の鮮やかな赤は共通の色。これは、大人の「うそつき襦袢」と同じ考え方である。全てに絹地を使わなくても、子どもの普段着用襦袢としては、十分役割を果たすだろう。「真紅」の色を使ったことで、「子どもらしさ」も出すことが出来た。もちろん、値段も安く上がる。また、キモノ同様に「腰揚げ」と「肩揚げ」を施しているので、年齢が上がって、キモノの揚げを下ろし、長い寸法にする時、同様に襦袢の揚げを下ろせば、同時に使い回せる。
最後に、もう一度仕上がった姿を見て頂こう。
「子どものキモノ」といえば、「七五三祝着」か「浴衣や甚平」くらいしか、「使う機会」がないと思われるだろうが、このような「キモノ」を着せてあげて新しい年を迎えるのも、家族にとっては、楽しい思い出になるだろう。
使われなくなったり、寸法が合わなくなったりした「大人キモノ」であっても、「ひと工夫」することにより、新たな「子どもキモノ」としてよみがえる。もちろん、キモノに携わる職人さんたちの技術があるからこそ、このような依頼を受けることが出来る。どのようにしたら「受け継がれる品物」になるのかを、これからも考えながら仕事に当たりたいと思う。
良質な新しい品物を納める時も嬉しいものですが、このように古い品物が、お客様の依頼通りに「再生」出来た時には、また別の喜びがあります。このキモノは、自分の娘さんに「着せてみたい」と思う「若いおかあさんの希望」があったからこそ、出来上がった品物です。
もう少しでやってくる新しい年。小さな娘さんの着姿を見て「目を細める」ご家族の顔が目に浮かぶようです。
今日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。