バイク呉服屋の忙しい日々

今日の仕事から

呉服屋の道具・10 綿風呂敷

2014.11 02

呉服屋以外で、今でも「風呂敷」を仕事の道具として使っている人といえば、「検察官」であろう。風呂敷に包まれた書類を、法廷の机の上で広げている姿などは、日常的に見受けられている。

検察官が風呂敷を使う理由は、沢山の裁判資料をひとまとめにして運ぶのには、大変都合がよいからだ。中には、「証拠品」などを持ち込まなければならない時もあり、「鞄」や「袋」では納まりにくい。

「検察庁」や「地検」では、「検事」に「風呂敷」を供給している。驚いたことに、各地検ごとに「柄」が異なるらしい。「東京地検」の場合、「紺地」に、「五三の桐紋」が染め抜かれたものが使われており、「紋」の位置も、真ん中と、四隅の計五つが入れられるという、「念の入った代物」である。

素材は綿、あるいはポリエステルで、大きさは「90×90cm」というから、巾で言えば「二四巾」にあたり、かなり大きいものである。この特殊な「紋入り風呂敷」を持つことは、ある意味で「検察官のステイタス」と言えるかもしれない。

今日は、前回の「反箱」の続きとして、呉服屋が、「モノを包んで運ぶ」道具として欠かせない「風呂敷」の話をしてみよう。

 

呉服屋にとって、「風呂敷」ほど毎日必ず使う道具はない。お客様の所へ品物を持って行く時、または直し物を預かりに行く時、それに、仕立物を和裁職人に運んだり、紋入れ反物を紋職人の元へ運ぶ時など、「モノを運ぶ」際には、必ず「風呂敷」に包んでいく。

私も、毎日の仕事の中で、いつ、どこで品物を預かってもいいように、「バイクの荷台」には必ず「風呂敷」を搭載している。

一般の方が、慶弔用として使う風呂敷は、「絹」生地であることが多いが、呉服屋が仕事で使うものは、「木綿」生地。綿は強くて丈夫であり、大きさも多様で、その時々の荷物の大きさや多さによって使い分けられる。

 

風呂敷の大きさには、鯨尺の9寸=1巾とする基準がある。これは、風呂敷を作る時に、「反物」が使われていた名残りなのだ。今でこそ、「裄の長い人」が増えた関係などで、反巾は、9寸5分~1尺5分に広がっているが、昔の反巾は9寸が基本だったからである。

風呂敷というものは、「正方形」ではなく、どちらかが、8分(3cm)くらい長い。だから一巾風呂敷の寸法は、9寸×9寸8分(34×37cm)ということになる。

これを基準として、様々な大きさの風呂敷が作られる。二巾は1尺8寸×1尺8寸8分(68×71cm)、四巾はその倍、六巾はその三倍で5尺4寸×5尺4寸8分(204×207cm)。この六巾風呂敷は、一反を5分割して縫製して作られるもので(一反を約3丈2尺とすると)、別名「一反風呂敷」と呼ばれる。これを広げると、「畳二枚分」を覆うことが出来る。

この他に、四方が同じ長さ(正方形)のものがあり、「中巾」と呼ばれるのは、一辺が1尺2寸(約45cm)、その倍の2尺4寸(約90cm)は、鯨尺の寸法の長さから「二四巾」と呼ばれている。最初にお話した、「検察官」が使っているのが、この大きさのものである。

大きさの異なる風呂敷を5枚重ねてみた。大きい方から、六巾弱、五巾、四巾、三巾、二四巾。「六巾」は、「布団一組」を包める大きさであり、「五巾」は「コタツ掛け」として使え、「四巾」は、「ソファーカバー」に利用できる。「木綿素材」は、二四巾以上の大きさのものに、多く見られる。

 

では、風呂敷をどのように「使い分け」するのか、実際に反物を包んでお目にかけよう。当然ながら、運ぶ荷物の量により、違うものが使われ、その「包み方」も異なる。

「サギ」に積まれた12反の反物を包んでみる。使うのは、「四巾」の大きさで、少し厚めの木綿の織り生地のもの。

反物を、風呂敷の中央に置いて、縦横・上下の隅と隅を結ぶ。

この結び方を「四つ結び」と言い、結び目が中心にきて、花弁のように形作られている。このとき左右上下の長さが均等になるように、そして、きれいな「十文字」に見えるようにならなければ、「美しい結び」とは言えない。

お客様の所で「反物」を広げる際に、「品物」をどれほど丁寧に運んできたかわかって頂くには、「包み方」にも工夫が必要だ。その「呉服屋」が、日常どんな品物の扱い方をしているのかが、こんな些細なことからもわかる。

少し沢山の品物を運ぶ時には、このように「しっかり」と四隅を結ぶことで、運びやすくなり、結び目が解けて荷物が落ちるようなこともなくなる。

 

もう少し、運ぶ反物が少ない時の例を、ご紹介しよう。

5反の反物を包んでみよう。先ほどの風呂敷より一回り(30cmほど)小さい「三巾」のものである。

今度は、反物を巻き込んで、左右一ヶ所だけ結び目を作る。ただし、「店のロゴや名前入り」の風呂敷を使う場合には、「ひと工夫」が必要だ。

この風呂敷は、当店の前身の店「永源」のもの。ということは、戦前から祖父が使っていたものだ。このような、「店名」入りのものを使う時は、必ず「人の目に見える所」へそれを出さなければならない。名前は風呂敷の四隅のうちの一角に入れられており、ここが、包んだときに結び目の下から、片側の面に出るように工夫する。

昔ならば、「持ち運んでいる」時にも、「店の名前」が世間に知れるようにという、ある種の「宣伝」の意味もあったのだろう。

 

今度は3反の包み。反物は重ねず横並びに置く。使うのは5反の時よりさらに小さな「二四巾」で、「松木」のロゴ入りのもの。

同様に、「店のロゴ」が正面から見える位置にくるように包む。「結び目」は一ヶ所で、基本的には四角いものを包むときの、「お使い包み」という包み方と要領は同じ。

 

最後に1反だけの包み方。使うものはやはり二四巾だが、もう少し小さな二巾の方がよいかもしれない。

反物を中心に置いて、下の端を上の端に合わせ、巻き込んでいく。「ロゴ」入りのものなので、やはり、ここが表に出るように位置取りする。

巻き込んだら、左右両端を「ま結び」で結ぶ。しっかり巻き込み、堅く結わえることで、中の反物が動くことはなく、崩れる心配がない。また、持ち運ぶのにも重宝な結び方である。「松木」の「ロゴ」も表から見えている。

 

さて、今度は品物を「預かる時」、あるいは「納品する時」の風呂敷の使い方を見て頂こう。特に「納める時」はより以上に注意が必要で、せっかく丁寧に仕立てたり、手入れをされた品物が、「運ぶ時」の扱いの悪さで、シワだらけになったり型崩れしてしまったら、元も子もないのだ。

使う風呂敷は、品物が入れてある「タトウ紙」の大きさにより違う。上のものは35×55cmの「中サイズ」のタトウ。「バイク」で運搬されることが多いので、品物が崩れないように、「ベニヤ板」製の台を置く。この板のことを「手板」=「手に持つ板」と呼んでいる。

「中タトウ紙」だと、「四巾」の風呂敷がピッタリ包めるサイズになる。これを「お使い包み」の要領で包み、「ま結び」でしっかり結わえる。持つ時は、「結び目」を持つのではなく、両手で平らに抱え、出来るだけ品物を揺らさないようにする。「キモノの形」が崩れないよう、細心の注意を払う。

 

タトウ紙が35×87cmの特大サイズ(キモノを二つ折りにして収納する大きさ)の場合、品物の下に敷く「手板」もそれに合わせたものを用意し、使う風呂敷も、より大きな「五巾」のものを使う。

持ち運びやすい「包み方」をすることと同時に、「体裁」も考えなければならない。お客様のお宅に着いて、品物を広げてお渡しする際、「丁寧な扱い」をしていることを感じて頂くことが大切である。呉服という品物が、お客様にとって「思い入れ」のあるものであったり、「節目」で使われるものであると自覚していれば、当然のことであろう。

 

今日は、「風呂敷」という道具が、呉服屋の仕事の中でどのような役割を果たしているのか、お話してみた。これは、「どのように品物を扱っているか」ということを見て頂いたことと、同じである。

今、「モノを包んで運ぶ」ために使われる、「道具としての風呂敷」を、普段の生活の中で見かけることは本当に少ない。だが、この道具の素晴らしいところは、「自在」なところにある。「包み方」を工夫することで、異なる大きさ、形状のモノに対応出来たり、「結び方」を変えることで、「運びやすい」形に出来たり、「見映えの良さ」を表現することも出来る。「単純な布」だけに、その使い方は、「使う人」に任されているのだ。

また、「風呂敷」そのものにも、様々な色や柄があり、「店」オリジナルの「ロゴ」を入れることなども出来る。それは「使い手の個性」をも表現できる道具ということになる。

 

「検察官」のシンボルが、なぜ「五三の桐」なのでしょう。「国のシンボル」としての紋は「桐紋」の中の、「五七の桐」なので、どうも関連がありそうなのですが、よくわかりません。

「風呂敷」を使うことが、「検察の伝統」になっているからこそ、「紋を五ヶ所」に入れるような、「こだわり」のあるモノを使うのでしょう。これは、「実用性」と共に、自らを「象徴するもの」という意識が「風呂敷」そのものにある証でありましょう。

それはともかく、読んでいる皆様も、一度「日常の道具」として風呂敷をお使いになってみたらいかがですか。世間の目に止まることは、間違いありません。しかも、その柄や色が「センス」あふれたものだったら、なおのことです。

今日も、最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

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このブログに掲載されている品物は、全て、現在当店が扱っているものか、以前当店で扱ったものです。

松木 茂」プロフィール

呉服屋の仕事は時代に逆行している仕事だと思う。
利便性や効率や利潤優先を考えていたら本質を見失うことが多すぎるからだ。
手間をかけて作った品物をおすすめして、世代を越えて長く使って頂く。一点の品に20年も30年も関って、その都度手を入れて直して行く。これが基本なのだろう。
一人のお客様、一つの品物にゆっくり向き合いあわてず、丁寧に、時間をかけての「スローワーク」そんな毎日を少しずつ書いていこうと思っています。

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