昼間の気温が25℃前後になると、「長袖」から「半袖」に移る方が多くなる。連休が終わり、「梅雨」に入るまで、つかの間の晴れ間が続く今は、一年の中でももっともすごしやすく、さわやかな季節になる。
初夏にふさわしい色は何か。それは、やはり澄んだ空と深い海を思い浮かべる「青」。人々が自然界から受ける色として、もっともなじんでいる色である。
人類初の宇宙飛行を行った「ガガーリン」は、「地球は青かった」とその感想を述べたのは、よく知られているが、我々も、飛行機の機上から外を見れば、天(空)と地(海)からその「青」を感じることが出来る。
キモノにとって、5月から6月は、袷から単衣へ移りゆく季節。春の「柔らかい色」から、「涼やかな色」をまといたくなる頃。今日は、そんな今の季節にふさわしい「青」を、今月のコーディネートとして、表現して見よう。
(縹色地格子にトウィグワー・千鳥模様琉球絣 生成色藍色更紗模様・生紬染め名古屋帯)
「青」という色を一言で説明するのは難しい。空や海の色がその時々に変化して、様々な表情を見せるのと同様に、濃淡による微妙な変化はもちろん、繊細な挿し色や織り出された色により多様な「映り方」となる。
「藍」という色一つをとってみても、ごくごく薄い「甕覗き」のような色(ほんのわずかに藍色がかっている色・色がほとんど出なくなっている枯れた藍の染め液に浸し、繰り返し染めることにより、ようやく出すことが出来る薄い色)から、「インディゴ・ブルー」と称される「インド藍」を用いた深い藍色まで、「濃淡」の範囲は広い。
この「濃淡」を出来る限り、キモノと帯のコントラストの中に生かしながら、「涼感」を表現してみた。琉球絣の「色目」が画像によってかなり違っているが、ご容赦して頂きたい。
藍色に鼠色を混ぜたような織り地色。色の区分だと「縹(はなだ)色」の範疇に入るかと思われる少し淡い色である。この「縹色」にも濃淡様々な色があり(奈良期には、深・中・次・浅の四等級の色があったとされる記述がある「延喜縫殿式」)、その色相はかなり異なる。「縹色」は「花田色」とも呼ばれ、元々この色出しは、初夏に咲く露草の花の汁から染められていた。
柄の基本は、「格子」であり、横段の中に「琉球独特」の千鳥(トウィグワー)模様の絣が織り出されている。細く白い二本の縦横格子と、それより少し太い縦の薄藍色の縞と千鳥絣入りの横段縞で構成されている格子、二つの格子が重なるように付けられている。
織り柄を拡大したところ。微妙に織り出されている絣や縦横の格子の不均一さがわかる。自然な手織りの仕事の跡を見ることが出来る。
先ごろお話した、「伝マーク証紙」と検査に当たった事業体「琉球絣事業協同組合」の証紙。
この琉球絣の織り出しに使われている糸は、すべて「青」の系統である。「縹地色」、縦縞の「薄縹色」、さらに、千鳥絣が入っている横段の色はごく薄い「甕覗きのような藍色」。「濃淡」で柄を強調したものである。
さて、この涼感のある「青」を使ったキモノを一層引き立たせ、さらに「青」や「藍」の色を印象付けるために、どのような帯を合わせるべきか。
動きのある伸びやかな「更紗模様」を、型と手挿しで表現している染め帯。生成色の紬地を使うことで、ふんわりと柔らかさを出すことが出来る。中の色が「藍色」にほぼ限定されていて、ほんのわずかに「金」色が挿されている。そこがアクセントになっているが、全体のイメージは、藍色の濃淡使いで、茎や葉の大きさを微妙に変えながら、「更紗」を描いている。
更紗の柄が混み過ぎることなく、「無地場」を生かすように、割とあっさり付けられているところが、ポイントである。琉球絣の縹地色に合わせると、帯の更紗模様が浮き上がり、帯の中の藍色の濃淡が生きてくるように思う。
帯の更紗の花の藍色と、琉球絣の縹色のコントラストで、「爽やかな初夏」をイメージする。キモノが総模様の格子柄だけに、帯で、いかに全体像を「すっきり」見せるかがポイントになる。単にキモノと帯の色が「リンク」していれば、それでよい訳ではなく、帯に付けられている模様の構成が重要になる。大切なのは、他人が着姿を見たとき、この組み合わせに「涼やかさや爽やかさ」を感じられるかどうかである。
(薄鼠色と水浅葱色の市松格子帯揚げ 勿忘草色市松丸ぐけ帯〆 共に加藤萬)
帯揚げ、帯〆共に「青のイメージ」から離れない色でまとめてみた。帯揚げは、帯地の生成色の邪魔にならないように、薄い地合いのものを使う。濃い色だと、そこだけ浮き上がってしまい、調和しない。帯〆は、更紗に付けられている「藍色」より、少しおとなしめの「勿忘草(わすれなぐさ)色を使う。ムラサキ科の多年草「わすれなぐさ」にちなむ色。
小物類は、最初にイメージされて組み合わされた、キモノと帯のバランスを崩さないことをまず考える。帯揚げと帯〆選びは、コーディネートの仕上げであり(体操競技における最後の「着地」のようなもの)、ここの出来映えは着姿の良し悪しに直結する。今日の品物に使う小物であれば、やはり、「青」という色の濃淡で合わせていくのが基本だと思う。
コーディネートの最終形。「初夏の青を爽やかにまとう」姿を思い浮かべられるだろうか。
5月、6月、どちらにも、この組み合わせが使える。キモノを「袷」にしても、「単衣」にしても、どちらでもよいだろう。以前は厳密に5月が袷で、6月から単衣と使い分けられていたが、最近ではそのことをあまり意識しないで使う人も多くなった。特に「紬や小紋」など、カジュアルに楽しむ品物では、少し暑くなれば、5月でも「単衣」を着てしまっても構わないと思う。
コーディネートの基本になることは、着姿に何を感じてもらうかということです。今日の組み合わせなら、「初夏の涼感と、爽快感」ということになります。そこから、どんな色を基調とするキモノを選び(今日は「青」)、またそれに合わせて「帯」を選び、最後に小物合わせをする、という手順を踏みます。
これまでブログで紹介したコーディネートは、いずれも「フォーマル」の品でした。「フォーマル」には、その品物により、「使う場所や格」が決められていることが多いため、組み合わせの方法に一定の限度があるように思われます。これに対して、紬や小紋のようなカジュアルは、「テーマ」を決めて組み合わせたり、「旬」を意識して組み合わせたり、自由な発想の下で考えることが出来ます。
だからこそ、「カジュアル」のコーディネートには、品物を「選ぶ」楽しさがあり、小物合わせ一つをとって見ても、工夫の範囲は広く、「着る人の個性」が発揮できる場になります。
「どんなテーマでキモノを着るか」、それは季節にふさわしい色や柄を考えて決めるのもよし、抽象的な「柔らかさ」や「爽やかさ」、「涼やかさ」を表現するような「感覚的なもの」であってもよいでしょう。それぞれの方が、「自分の描いたイメージ」を大切にしながら、コーディネートを楽しんで頂きたいと思います。
今日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。