バイク呉服屋の忙しい日々

今日の仕事から

2月のコーディネート 連山切り込み模様京友禅振袖(前編)

2014.02 19

昨日、中央高速が開通し、今朝からJRも復旧、東京方面へのアクセスが可能となり、甲府もようやく「陸の孤島」から抜け出しつつあるようだ。

だが、山間部の除雪が進まず、孤立している集落が多く残る。自衛隊が応援部隊を増強し、道路の確保を急いでいるが、「なだれ」なども頻発して、作業が難航している。

身延、小淵沢、大月などには、毎月一度お伺いするお客様がいるので、その方々が少し心配になる。道路が復旧しても、物資が手に届くまでまだ時間がかかるのではないだろうか。

今回のような「想定外」の大雪で得た教訓を、今後どのように生かすか、考えなければならない。災害への備えは雪ばかりでなく、地震や噴火、大雨、猛暑など多様である。人が生きていく上で避けられないのが、自然の猛威であり、いかに被害を「最小限」に止めるかで、その「人間力」が試されているような気がする。

明日は雪の予報が出ていたのだが、どうやら回避されるようなので、通常に戻りブログを更新しようと思う。

 

呉服屋として大切なことの一つが、「コーディネート」である。いかに質の良い品物を扱っていたとしても、お客様それぞれに合った「キモノ」・「帯」・「小物」の組み合わせが出来なければ、何もならない。

専門店としての呉服屋のセンスが試されるもので、ここが商いの「キモ」でもある。「色」の組合せや、「柄」の組み合わせ、それに対して「小物」をどのように配するかなど、考え方は無限であり、「正解」はない。

お客様に相対した時、どのような組み合わせで品物をおすすめするか、即座に判断出来なければならない。売る側が迷ったり、悩んでいたりしたら、店の信用にも関ってくる。

品物をお目にかけるまでのわずかな時間で、お客様が何をどのように使いたいのか伺い、色や柄の好みも聞く。また、お客様の体型から似合う色や柄行きを判断することもある。

「キモノと帯と小物」まで、トータルに揃える場合は、順を追って品物を選んでいくが、お客様が持参された「キモノ」や「帯」に合わせ品物を選ぶ場合もある。また、帯〆や帯揚げだけ新しくするような時もある。お客様の希望に応じた対応が求められるのは、言うまでもない。

また、「フォーマル」と「カジュアル」では、「コーディネート」の幅に差がある。「晴れ」の席で使われるものは、その場にふさわしい品であることが第一条件になるが、「褻(け・日常のこと)」に使うものならば、組み合わせの自由度は広がる。

 

これまでこのブログでは、「品物を組み合わせて選ぶ」という、「商売の実際」に関る話をしていなかった。だが、具体例をあげて、「コーディネート」の考え方を見ていただくことは大切であり、読まれている方が少しでも、参考になればと思う。同時に、私の「呉服屋」としてのセンスを問われるということにもなるだろう。

そんな訳で、月に一度ほど様々な品(「晴れ」の品から「褻」の品まで)を取り上げて、私が考える具体的な「コーディネート」を見ていただこう。

 

(朱・水浅葱色・柑子色・白 連山切り込み文様 京友禅振袖 菱一)

「コーディネート」される最初の品は、帯、小物合わせがわかりやすい「振袖」を取りあげよう。

ただ、上の品物を見て頂いてわかるように、「地色」がひと色ではなく、四色が「切り込まれ」組み合わされているものである。柄行きは、「山の連なり」が基調となり、その中に、松、菊、橘、桜などが配されている。技法は、型染め疋田や桶出し絞り、箔と刺繍など、「京友禅」の基本的なほどこしが各所に見られる。

図案と色使いは、単純なようでも、大胆に見える、古典的な振袖と言えよう。では、この振袖に、帯と小物をどのように組み合わせていくのか、考えてみる。

 

(黒地 松竹梅文様袋帯 西陣 梅垣織物)

この振袖の特徴は、多色の地色使いになっている点で、キモノ全体を使って一つの模様が形作られている。振袖に限らず、フォーマルの絵羽モノは、柄のポイントが「上前身頃とオクミ」に重点が置かれている品が多いのだが、この品のように一体感のある印象を受けるキモノには、使う帯がその柄行きに負けないことが大切だ。

キモノと帯のバランスは、均等に取れていなければならず、両方の「相乗効果」により一体となり、全体を引き立てていなければならない。キモノだけが目立ったり、帯がキモノに埋没することは避けたい。

後ろから見た、帯合わせ。

このような振袖を「押さえ込める」帯の色としたら、真っ先に「黒地」が考えられる。多色使いや、一体感のある柄行きを引き締め、キモノを際立たせるとすれば、「黒地のインパクトのある柄」の帯がふさわしい。

帯の柄行きは、吉祥文様の一つ「松竹梅文様」。キモノに負けない「重厚」な組み合わせになり、「古典そのもの」という印象になる。

前から見た、帯合わせ。

上前の帯の上に出てくる地色は「朱」になることを考えると、「黒と朱」の組み合わせは、若々しくかつ重い雰囲気になる。帯がキモノを「引き締めている」ことがわかると思う。

この帯を製作した「梅垣織物」は、重厚な古典模様のキモノにふさわしい帯作りをするメーカーとして知られている。銀座の名店だった「きしや」が長い間扱った帯屋の一つ。(現社長の梅垣慶太郎氏は、この「きしや」で修行されたようである)

「梅垣」のHPを拝見し、「商品案内」のところを見ていくと、この帯と同じものが紹介されている。「江戸寛文小袖」の図案をモチーフにした「松竹梅花文様」。古典の組み合わせをする上で、欠かすことの出来ない「帯メーカー」の一つである。

 

キモノと帯を組み合わせたら、後は「小物合わせ」に移る。中でも「帯〆」と「帯揚げ」の組み合わせは、とても大切だ。特に帯とのバランスや配色をどのように考えるか、大げさに言えば、ここを誤ると全体の印象が変わってしまうことにもなりうる。

特に「振袖」の場合、長襦袢の半衿や伊達衿との組み合わせ方も重要になる。キモノと帯が、「正統」な伝統的古典模様の組み合わせならば、それにふさわしい合わせ方が必要だ。これを理解しなければ、「専門店」としての「呉服屋」にはなれない。

今風の「振袖屋」がひっくり返っても出来ない、古典的な「色」のバランス感覚を磨かなければ、「正しい」品物を売ることは出来ない。

では、小物合わせをして見よう。

(鶸色疋田絞り帯揚げ 鶸色金彩梅花模様平打ち帯〆 両方ともに加藤萬)

「色」の組み合わせを考える上で、頭のすみに置いておくことは、「補色」という概念である。補色とは、「色相関」の上で、正反対に位置する組み合わせのことだ。この「補色」同士の色は、互いの色を引き立てる役割がある。

「色相関」を見ると、「赤や朱色」の補色は「緑や鶸色」、「黄色や橙色」の補色は「紫や青」。キモノの帯合わせや、小物合わせの場合、「補色」が全てということにはならないが、参考にはなる。

上の振袖の「朱」地色部分と黒地の帯とを繋ぐ「帯揚げ」の色として、「鶸色」を使ってみたのは、間違いの少ない「手堅い組み合わせ」になる。

(白地花の丸模様 刺繍半衿 加藤萬)

襟元は、キモノの地衿、伊達衿、襦袢の半衿の三枚重ねとなる。画像には入っていないが、「伊達衿」の色は帯〆、帯揚げの色と同じ「鶸色」を使う。この三ヶ所に共通の色を配することで、バランスが保たれる。私が振袖小物のコーディネートをする時には、この部分の色は「濃淡の差」こそあれ、ほぼ同系色でまとめている。

また、「伊達衿」は、振袖以外のものにはあまり使わない。襟元は、キモノ地衿と半衿の二枚重ねの方が、すっきりする。これは、「私の好み」のせいであろう。

「刺繍半衿」の地は「白」で、刺繍の色は一ヶ所だけ「朱の花弁」があるものだが、全体的にはおとなしいものを選んで見た。

小物を組み合わせると、上のような形になる。

(五葉花文様 草履とバック 龍村美術織物)

ついでに、この振袖に合うような、草履とバックも選んでみた。「龍村」の小物は名物裂から取った文様が使われることが多いが、これは少しモダンな花文様である。バックも「キモノ専用」ではなく、ドレスにも持てるようなしゃれたデザインになっている。

もう一度、今日ご紹介した、振袖コーディネートの品々をどうぞ。

 

次回は、後編として、同じ振袖を使いながら「違う帯合わせ」を考えてみたい。帯が変われば、小物の色も変わり、同じキモノでも受ける印象がかなり変わる。

「コーディネート」の考え方一つで、キモノを生かすことにも、駄目にすることもある。そのあたりの難しさを見て頂きたいように思っている。

 

「バイク呉服屋流・コーディネート」は如何なものだったでしょうか。読んで頂いた方には、もっと他の組み合わせの方がよいかも、と思われた方も大勢おられると思います。それぞれのお客様に対して、一番ふさわしい合わせは何か、ということを考えるには、今まで自分が経験した「裏づけ」が基礎になります。

「コーディネート」には、「正解」というものがなく、あるとすれば、「お客様」がいかに納得していただけるものになるかということでしょう。センスを磨くには、経験を積み重ねていく以外になく、この仕事を続けていく限り、終わることのない「修行」だと思われます。

今日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 

 

 

 

 

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このブログに掲載されている品物は、全て、現在当店が扱っているものか、以前当店で扱ったものです。

松木 茂」プロフィール

呉服屋の仕事は時代に逆行している仕事だと思う。
利便性や効率や利潤優先を考えていたら本質を見失うことが多すぎるからだ。
手間をかけて作った品物をおすすめして、世代を越えて長く使って頂く。一点の品に20年も30年も関って、その都度手を入れて直して行く。これが基本なのだろう。
一人のお客様、一つの品物にゆっくり向き合いあわてず、丁寧に、時間をかけての「スローワーク」そんな毎日を少しずつ書いていこうと思っています。

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