バイク呉服屋の忙しい日々

今日の仕事から

続・2月のコーディネート 連山切り込み模様京友禅振袖(後編)

2014.02 23

呉服屋には、その商売にあたり、先人から伝えられてきた格言のようなものがある。例えば「一枚のキモノに三本の帯」。これは、「キモノ一枚に付き、三本の帯を合わせて使いまわせ」ということだ。持っているキモノは一枚でも、帯を変えることにより、印象を変えることが出来るということを言っている。

この考え方でいけば、「キモノの枚数より帯の本数を多く持つこと」がキモノのバリエーションを広げる近道ということになる。

もう一つ「帯は妹の帯を借りて締めろ」。これは、少し派手に思えてもその方がキモノを引き立たせることになる。あまり「地味」にしない方が「着映え」がするということだ。「派手さ」も限度があるが、フォーマルな席では、すこし「明るめ」の帯のほうがよく映るのは確かな気がする。

 

ここ何年かで感じていることは、年配の方々が好まれる「地色」が変わってきたことだ。以前では選らばなかったような「明るい」色をお召しになろうとする方が増えている。

特にフォーマルの席で使う「付下げ・訪問着」や「無地モノ」ほど、「優しく、明るい地色」になる傾向がある。少しピンクを含んだグレー色、いわゆる「灰桜色」や「胡桃色」、また絹の「生成り」のような明るい「黄土色や丁子色」などが「売れ筋」の色だ。

街を歩くと、真っ赤なセーターや濃ピンクのカーディガンなどを、「颯爽」と着ておられる60代以上の方をよく見かけるが、その姿には何の「違和感」もない。むしろ若々しく好ましい印象になることが多い。

さすがにキモノで「赤やピンク地色」をお勧めする訳にはいかないが、明るい色が好まれる理由は、「洋服」における「色感覚」が変化した影響を受けているのも一因だろう。

 

今日は、前回のコーディネートの続き、「帯」を変えることで変化するキモノの印象について書いてみよう。使う振袖は前回と同じ品。「一枚のキモノに帯三本」という意味を少し実践したところを見て頂こう。

 

(群青色 日光菱彩錦袋帯 龍村美術織物)

今回合わせる品は、帯の地色としてはめずらしい「群青(ぐんじょう)色」を使ったもの。前回では「ガチガチな古典」をイメージして「梅垣の帯」を合わせ、「正統派」コーディネートを意識した。さて、どのように印象が変わるのであろうか。

多色使いの振袖に対して、帯がキモノに埋没することなく、ある程度「主張」できるような存在感を持たせなければばらない。そのため帯地色で、「ある程度のインパクト」を出す必要がある。前回の黒地の帯ほどはっきり主張されていないが、この「群青色」でもその目的は達成できるように思う。

前回の帯文様が「松竹梅」であるのに対し、こちらは抽象的な「菱文様」を重ねている図案である。柄の中に使われている色も、「鶸、橙、浅紫色」などが控えめにほどこされ、地色の群青色を引き立たせているように感じられる。その上、「龍村独特」の光を放つ「金、銀糸使い」がモダンな印象を与える。

後ろから見た、帯合わせ。

前回は、「古典+古典=これぞ伝統的キモノ合わせ」という、「堅苦しさ」が感じられたが、今回、帯を変えて見ると、その印象は薄れている。「重厚」さが無くなった代わりに、柔らかさがある。野球で言えば、前回の合わせが「ストレート」ならば、今回は「変化球」の投球だろうか。言葉でうまく言い表せないが、「古典」の中に覗く現代感覚が、かい間見えるという感じだ。

ただし「現代的」といっても、帯に使われている文様は、「古典」であり、その範囲の中での工夫である。特にフォーマルで使われる品物ならば、キモノにせよ帯にせよ、「伝統的な文様」というものを意識せず、「モノ作り」をすることはない。そして、「文様」という基礎があって品物が出来ていると売り手が意識しなければ、「モノを見る目」が狂ってしまう。

前から見た、帯合わせ。

キモノの上前地色は「朱」色が基調となるため、帯の群青色とのコントラストがはっきり出てくる。連続した大小の菱文様も「前」から見た感じと、後ろのお太鼓からみた姿では、大分印象が違う。

(菜の花色疋田絞り帯揚げ 菜の花色梅花模様平打ち帯〆 両方とも加藤萬)

小物合わせをしたところ。「朱」と「群青」の間にどんな色を持ってくるのか、少し悩むところだが、どちらの色にも「邪魔」にならないような明るい「菜の花色」のような黄色でまとめてみた。青の補色は黄色であり、朱との相性もよい。難を言えば、帯〆の存在が少し薄いような気がするが、あえて、強調しないという合わせもある。

「鶸色」で合わせると、帯揚げはキモノ地色の朱とは合うが、帯〆が帯の群青に対していまひとつしっくり行かない。「朱系」の色だと、帯揚げはキモノ地色の朱と重なってしまい存在感がなくなるが、帯〆は、帯とマッチして、「締まる」感じになる。どちらの色も「小物使いの色」として、一長一短である。そこで、無難に「黄色系」の「菜の花色」という結論になった。

(白地花の丸文様 刺繍半衿 加藤萬)

前回使った刺繍半衿と模様は同じだが、中に使っている糸の色が異なる。こちらは、極力色を押さえたおとなしい印象の衿。帯揚げや帯〆同様に、小物を強調せず、静かにまとめた感じになっている。

小物を組み合わせると、上のようになる。

もう一度、今日ご紹介した、振袖コーディネートの品々をどうぞ。

 

帯を変えることで、変化するキモノの印象は如何だったでしょうか。一枚のキモノに多様な帯を使うとしても、それが、もちろん何でもよいということではなく、あくまで「キモノ・帯双方を生かす」ものでなければなりません。色のコントラストばかりでなく、「キモノの柄のほどこし」との関わりにも大いに注意する必要があります。

その上で、帯揚げや帯〆を変えながら、考えていく。難しいことですが、ここが「キモノ選び」の楽しさもなっています。様々なコーディネートを提案していきながら、それぞれのお客様にとって最良な形での仕上がりを考えることが、小売をする者に課せられた重要な仕事と言えましょう。

特に、「キモノのことはよくわからない」というお客様が増えた現在では、このコーディネートをいかにわかりやすく伝えるか、ということも大切であり、「品物を選んでいただく」ための道筋として、我々もセンスを磨き続けることと、文様や色に関して知識を深めて行かなければならないことは、言うまでもありません。

今日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 

 

 

 

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このブログに掲載されている品物は、全て、現在当店が扱っているものか、以前当店で扱ったものです。

松木 茂」プロフィール

呉服屋の仕事は時代に逆行している仕事だと思う。
利便性や効率や利潤優先を考えていたら本質を見失うことが多すぎるからだ。
手間をかけて作った品物をおすすめして、世代を越えて長く使って頂く。一点の品に20年も30年も関って、その都度手を入れて直して行く。これが基本なのだろう。
一人のお客様、一つの品物にゆっくり向き合いあわてず、丁寧に、時間をかけての「スローワーク」そんな毎日を少しずつ書いていこうと思っています。

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