バイク呉服屋の忙しい日々

今日の仕事から

バティック(ジャワ更紗)でオリジナルな帯を作る

2013.12 15

インドネシアには二つの伝統的染織技術がある。「染」は「バティック(ジャワ更紗)」で「織」は「イカット」。「イカット」については、その経絣の裂地が「広東錦」に経由され、日本の絣のルーツの一つになっていることを書いた(「聖徳太子の文様」・太子間道の稿)。

今日は、もう一つの「バティック」の話をしようと思う。なぜなら、この生地を使った名古屋帯の仕立を、お客様から依頼されたからである。「帯」は、その要尺さえあれば、どのような素材(絹・木綿・麻等)でも作ることができる。また、「柄行き」も「帯」として模様をどう付けるか、生地の模様配置を見ながら工夫することもできる。

さて、どんな「オリジナルな帯」にすることが出来たか、見ていただきたい。

 

(バティック パラン模様 オリジナル名古屋帯)

インドネシアのバティックの起源は、インド更紗であるが、その染色技法については、インドのものと大きな隔たりがある。それは、「蝋染め」の技術に関してだ。

「バティック」の染めは「蝋引き=ローケツ染め」。伝統的な「蝋染め」には「チャンティン」という専用の道具が使われる。この「チャンティン」というのは、銅製のツボの先に付けられたパイプ状の注ぎ口から、蝋を垂らしながら染め付ける仕様になっている。「蝋を垂らした」部分は色が染まらない「防染」の役割を果たしていて、当然「白く抜ける」。

インドネシアでこの「蝋染め」が発達した要因は、その気候風土と大いに関わりがある。インドネシアは、「熱帯」のため、常温で「蝋」が固まらない。だから、「チャンティン」のような道具を使い染付けが出来る。これが、日本のような気候であれば、「蝋」が固まってしまい使い物にはならないだろう。

「バティック」は、その「染め方」が何種類かあり、その手間により価格が異なる。このあたりは、「日本」の「キモノの染め」と同じ感覚と言えようか。

先に述べた「チャンティン」を使い、最初から最後まで「手作業」で染められる方法を「トゥリィス(tulis)」という。これは、もっとも上質なバティックで、布の表裏がわからないほど鮮明な色と蝋の線が出ている。

「チャンプ(cap)」という「銅版スタンプ」を使う方法があるが、それは、スタンプに蝋を付け、手作業で押していく。これにより、押されたところは染まらないようになる。連続した幾何学模様などの染付けに多用される技法。

この「チャンプ」と「手描き」を併用したのが、「コンビナシー(kombinasi)」。これは、例の「スタンプ」で押した部分の一部に手描きで模様を付ける。

最後に、「蝋」を使わないで染められるもの。いわゆる「プリントモノ」である。これは「バティック」の中でも「一番手が掛かっていないモノ」である。使われる布は質の良くないもので、仕上げに「糊」を使うため生地の質感がなお悪くなっている。勿論、値段も安い。(このあたり、インクジェットのキモノと同じ感覚である)。

 

では、この依頼品を見てみよう。布の巾はおおよそ1m、長さは2,6mの長方形。上の画像は二つ折りの状態。尺で換算すれば、縦2尺7寸、横7尺。帯丈を考えれば当然生地を「横」に取る。そうすれば「ハギ」を入れる箇所が一ヶ所で済む。もちろん「外には見えないところ」にハギを入れる。

「バティック」の模様には、それぞれ意味と歴史がある。しかもキモノの文様と同じように、「古典柄」と呼ばれているものもあるのだ。

預かったこの品の模様を調べてみると、「パラン」と呼ばれる柄ということがわかった。上の画像を見るとわかるが、「S」の字が斜めに連なったように見える模様である。これは、「バティック」の中でも、もっとも「格調ある」ものの一つとされているもので、古い時代のインドネシアでは、「王族」だけが使うことが出来るという、いわゆる「禁制文様」だった。

このような伝統ある「パラン模様」は、今でも「王宮の制服」の柄として採用されている。この「幾何学的」模様には、他の模様のように「動植物」などの柄が併用して付けられることはほとんどない。模様の発祥の地は、ジャワ島中部の中心都市の「ジョクジャカルタ」だ。

この生地に付けられた、「製造元」の会社のロゴ。そして、「染めた人」と「日付」を記したような「黒いキレ」が縫い付けられている。依頼したお客様が言うのに、この「黒いキレ」が付けられているものは高い生地なのだそうだ。(手染めということなのか?)

「インドネシア語」で書いてあると思われるので、想像の範囲を出ないのだが、おそらく「作り手の名」と「製造年月日」であろう。とすれば、「人の手」による蝋染めの仕事と見てよいだろう。ただ、これが全て「人の手」でおこなう「トゥリィス」なのか、「スタンプ」を使う「チャンプ」なのかは、わからない。

そこで、製造元のロゴの下に記載されたHPにアクセスしてみた。会社名は「グナウァン セティウァン社(Gunawan Setiawan)という。この読み方で合っているかどうかもわからない。HPは今年の10月に開設されたばかりで、店舗(製造販売か?)と仕事場の様子、そして、製造現場の画像が少しだけ掲載されている。

例の「スタンプ」を押し付けて蝋染めしている画像があり、この柄が、「幾何学連続模様」であることから、おそらく、「チャンプ」による染め方だと類推できようか。

 

「バティック」の模様は、この「パラン」の他にも、方形、円形模様の「チュプロック」(細部を繋げるという意味で、様々な文様の組み合わせで出来ている)や、「スメン」と呼ばれる動植物を図案化して組み合わせて表されるものなどがある。

幾何学模様と動植物文様を組み合わせることで、その数は無限に出来る。また、地域により、それぞれ特色ある独特な文様が作られていて、そこには、各地方の歴史的背景や、他国との交易の差、またその文化の違いというものを含みながら、表されている。

 

「インドネシアの伝統柄」が「日本の帯の文様」になることに、それほど「違和感」がない。それは、どこかに、日本の文様との共通点があるからだろう。このような、「横段の斜め文様」は日本の帯の図案にも見ることができる。以前、「異文化が伝えるもの」の稿でも書いたが、世界で描かれてきた伝統的文様にはその歴史や地理的条件、そして表す方法などの違いこそあれ、人々が感じるモチーフや配色には、どこか繋がる部分がある。たとえ民族や地域が異なっていても、「人の感性」だけは「世界共通」ということなのだろう。

最後に出来上がった「バティック帯」とキモノの組み合わせを考えてみた。「帯の柄」が前面に出るので、少し控えめな無地っぽい紬の合わせ方にして見たが、いかがだろうか。下の画像でどうぞ。

(刈安色緯総縞大島とバティック帯 帯で表情を変える無地モノで楽しむ)

(銀鼠色無地結城紬とバティック帯 刈安色とは違う「落ち着き」がみられる)

(薄藍地みじん格子緯総大島とバティック帯 帯の前を写したところ)

 

「帯」というものは、必要な長さと巾さえあれば、どんな生地からでも作ることが出来ます。自分だけの「オリジナルな帯」を考えるのも楽しいものです。それは、「カジュアル」なものに使うからこそ出来ることで、それこそ柄や色、素材は自由に選べます。

費用は「仕立て代」と「帯芯代」だけで、安価に簡単に出来ます。「気軽な楽しみ」として、自分が締めたい「帯用の生地」を探すのも、「呉服」をもっと楽しむ方法として考えてみたらいかがでしょうか。「店の中の商品」にない品を作るのは、「究極の楽しみ」です。そのうちに、私も自分で生地を探して、「バイク呉服屋オリジナル帯」を作って、店頭に置いてみたいと思っています。

今日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 

 

 

 

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松木 茂」プロフィール

呉服屋の仕事は時代に逆行している仕事だと思う。
利便性や効率や利潤優先を考えていたら本質を見失うことが多すぎるからだ。
手間をかけて作った品物をおすすめして、世代を越えて長く使って頂く。一点の品に20年も30年も関って、その都度手を入れて直して行く。これが基本なのだろう。
一人のお客様、一つの品物にゆっくり向き合いあわてず、丁寧に、時間をかけての「スローワーク」そんな毎日を少しずつ書いていこうと思っています。

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