バイク呉服屋の忙しい日々

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娘たちの祝着 桜・揚羽蝶・梅模様キモノ

2013.10 15

うちの娘達は一歳違いずつ三人である。だからそれぞれが「七・五・三」という年があった。一応「呉服屋の娘達」なので、その年には三人にキモノを着せた。もう15年も前のことだが、その時彼女等が着たモノは、次の代に受け継がれる。ただし連中が結婚して「女の子」が生まれれば、の話だが。

と言うわけで、前に「娘達の振袖」の稿を書いたので、今日は「娘達の祝着」を紹介しよう。三人が一緒に「着た」ために、三枚の「子どもキモノ」がある。

 

(上から七歳・五歳・三歳の時にそれぞれが使った品)

通常、女の子には「五歳」の祝着は使わないのだが、うちの場合、先ほど説明したような「年回り」だったので、「五歳の娘」にも「ついで」に着せてしまった。

まず「七歳」の品から。

蒲公英色桜花模様 七歳祝着(トキワ商事)・黒地手毬模様 祝帯(製作会社は不明)

キモノは、少しシボのあるちりめん地に、蒲公英(たんぽぽ)の花びらを思い起こさせるようなあざやかな黄色地。模様は一応「絵羽付け」(訪問着のように柄の位置が決まっている)になっているもので、「桜の花」だけの柄構成。

全体を写したもの。裾と袖、肩あたりに柄が集中して付けられている。「桜の花」が「丸紋」のように図案化されているのが、「子どものキモノ」らしいあしらい。京都の「トキワ商事」が製作したものだが、仕事は「型友禅」と「型疋田」使いのものなので、それほど「高価」なものではない。それでも「子どもの祝着」としては十分な品であろう。

合わせた帯はご覧のように「黒地」の「手毬」模様。毬は蝶や鈴などと並び、「子どもの図案」としてよく使われる。大人モノでもそうなのだが、「黄色」と「黒」の色の合性がよく、濃い黄系地色のキモノは特に、帯を黒地にすると一層引き締まる。

大小の手毬の連続模様。色は黒、白、金、赤でシンプルな配色がよい。帯の中に多色を使うと、キモノを合わせた際に色が「邪魔」になるため、単純に引き締まるものの方がよいようだ。どこから仕入れた品なのかはもう不明である。

 

次は「五歳」の品。

朱色揚羽蝶模様 五歳祝着(千切屋治兵衛)・鶸色地花篭模様祝帯(製作会社は不明)

この朱色のキモノは、以前お話した「千切屋治兵衛」の小紋である。これは、娘達の初宮参りの時使った「八千代掛け」をトキ、仕立て直したもの。八千代掛は生地に鋏を入れないで仕立てをするので、後に「三歳や七歳のキモノ」として使う。

ご覧の通り、あざやかな「濃朱色」。小紋なので柄全体に「揚羽蝶」が飛んでいる。最初の七歳の品のように「柄位置」が決まっているものに比べ、「子どもらしいかわいらしさ」のある模様だ。「蝶」に施されている挿し色は、「赤」「黄」「水色」「鶸色」の4色を使い、柄も「蝶」の大きさを変えながら付けてある。千治のこの小紋柄は、どれもかなり前から作られており、ほとんど変わることがない。「型小紋」であるので、この品と「同じ図案」で色違いのものがある。

鶸(ひわ)色に花篭模様の帯。帯生地に「金糸」を織り込んでいるため、「光」の反射で「金色」のように映る。先ほどの黄色系と黒の合性のよさをお話したが、朱系と鶸の合性もまた良い。このあざやかな朱地色に黒い帯も考えてよいが、全体が少し「きつい」印象になる。「振袖」でこのような朱色使いのキモノなら「黒地の帯」を使うことに躊躇がないのだが、「子どものキモノ」なので、もう少し「柔らかい」色を使いたかった。ただ緑系の色でも「鶸」ではなく、もう少し濃い「若竹色」や「深緑色」ならば、また印象が違う。この帯も仕入先不明だが、「西陣」ではなく「桐生」あたりで作られたものかも知れない。

 

最後に「三歳」の品。

朱色飛び絞り梅模様 三歳祝着(北秀?)・紋綸子鶸色 被布(加藤萬)

地色は、先ほどの千切屋治兵衛の小紋の「朱」より、もう一回り「明るさ」がある「朱色」。こちらの柄は「梅模様」を絞りと刺繍であしらったもの。

最初の七歳祝着と同じように、柄は「絵羽付け」になっている。前の品が「桜模様」に対してこちらは「梅模様」。柄としては至ってシンプルなものだが、絞りと刺繍のあしらいを施して付けられたもので、仕事としては三枚のキモノの中で一番、「手をかけたモノ」である。おそらく「北秀」が作ったものだと思うが、15年以上経つので判然としない。大きい花は駒縫いで輪郭を付け、中の花芯も縫いとりである。絞り部分も「白抜き」であることがまたよい。変に色を挿さないことがポイントで、シンプルな色使いにより、「三歳の子」が着る「かわいらしさ」を演出しているように思える。

菱文様の紋綸子生地の被布。色は「鶸色」。先ほどの千治の蝶小紋と帯の色合わせと同じ「朱」と「鶸」の組み合わせである。「キモノと帯」でも「キモノと被布」でも色映りを考えればこのようになる。上の被布をキモノに掛けた画像を見ていただければ、この組み合わせのよさがわかっていただけると思う。前のキモノの「帯」の色は他の色でもよいものがあるかもしれないが、この三歳のキモノに使う「被布」の色は「これしかなく」、迷うことはない色だ。

被布を作ったのは、質のよい襦袢や帯揚げを作ることで知られている「加藤萬」。今はもう「被布」を製作していないらしいが、生地の絹の質感がよい。今日紹介した三組のうち、この三歳のキモノと被布の組み合わせのものが、品物として「贅沢なもの」といえるかも知れない。

 

先日キモノの保管のための「風通し」の話をしましたが、この稿を書くために久しぶりにこの「祝着」を出して、「風」を入れました。「呉服屋」のくせにとお叱りを受けそうですが、「紺屋の白袴」「医者の不養生」の諺通りで、なかなか自分の家にあるキモノの「手入れ」は疎かになってしまいます。

これをお読みの皆様も、忘れがちな「祝着」の「風通し」もよろしくお願いします。さて、何年後にこの品物達が日の目をみることになるやら(今の世の中、誰もが結婚する時代ではないので)、せいぜいそれまで大切に「保存」していこうと思います。

なお、娘達三人がそれぞれのキモノを着て、一緒に写した写真があるのですが、彼女等に「ブログ」に載せる許可を貰えなかったため、残念ながら、載せられませんでした。(今の姿ではなく、子ども時代のものなので私はかまわないと思うのですが)。

今日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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松木 茂」プロフィール

呉服屋の仕事は時代に逆行している仕事だと思う。
利便性や効率や利潤優先を考えていたら本質を見失うことが多すぎるからだ。
手間をかけて作った品物をおすすめして、世代を越えて長く使って頂く。一点の品に20年も30年も関って、その都度手を入れて直して行く。これが基本なのだろう。
一人のお客様、一つの品物にゆっくり向き合いあわてず、丁寧に、時間をかけての「スローワーク」そんな毎日を少しずつ書いていこうと思っています。

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