バイク呉服屋の忙しい日々

にっぽんの色と文様

移ろい行く秋によせて 楓文様

2013.10 06

秋分を過ぎたというのに、日中の気温はまだ30℃近い。年々「秋」を感じる時期が先送りされていくように思える。

今夏の甲府盆地の暑さは、例年にも増して過酷なものだっただけに、このところの朝夕の涼しさを、なにより待ち遠しく思っていた。まだ、「空の高さ」を感じるところまではいかないが、季節は確実に「秋」に向かっている。

北海道の山々では、今が紅葉の盛りであろう。今頃「大雪山の麓、十勝三股」では、見渡す限りの山々が「絵の具を散りばめた」ように映っているはずだ。気温が8℃になると葉が色づき始め、5℃以下になると本格的な紅葉の見頃を迎えるようだ。

今日はそんな訳で、まだ少し早いが、秋の文様として代表的な「楓文様」を取り上げて話を進めたい。

 

(茄子紺色 楓柄江戸友禅付下げ 菱一)

「楓文様」だけで描かれた付下げ。地色は一応「茄子紺」としてみたが、もう少し「紫系統の色」がかかっているような感じ。「楓」に使われている色は「山吹色」や「梔子色」そして「朽葉色」といった「黄色系」の色だけを使って挿してある。

この品のように、「季節が特定できるモノ」というのは、「敬遠」されがちだ。あまりにも「旬」を意識させる図案と色目だからである。つまりは、このキモノが「使える時期」が決まっているからだ。お召しになるのに「ふさわしい」季節は、「秋」それも10~11月にほぼ限定されよう。

「楓」の色づき方はその種類にもより異なるだろうが、おそらく青楓(緑)→黄→赤→朽葉→落葉と言う順で色が変化してゆくように思う。この品のように「黄色系」だけで色が挿してあるものはめずらしく、斬新な色の使い方である。

近接して写した「楓」。よく見ると一枚一枚に違う「細工」が施されているのがわかると思う。糊を置いた友禅であり、挿し色も「黄色系」の色で「ぼかし」が使われ、「型疋田」を用いたり、左上の葉のように、わざと葉の一部に「穴」をあけたように描き、そこは「胡粉」が置かれている。葉の一部に「駒縫い」が入れられているものも見える。

一番上の画像ではわかりにくいが、遠めに見てもある程度の立体感が出るのは、このような細やかな仕事がなされているからだ。同じ系統の色で柄行きに変化を持たせるには、どうしても「表し方=施しの工夫」が必要であり、「色」の変化がない分、むしろ「手がかかる」。

「楓」の葉は、「蛙の手」に似ていることから、「カエデ」と名づけられたと言われているが、これほど日本人が「秋」を感じる植物はないだろう。週末になれば、「紅葉前線」がどこまで来たと伝えられ、「季節感の道標」にもなっている。「楓」図案のキモノは「秋を装う」もっとも代表的な品と言うことが出来、上の品のように「旬」が明らかな品こそが、贅沢でお洒落なモノになるのだ。

 

(菜の花色 桜楓文様 四つ身友禅小紋 千切屋治兵衛)

このように、「桜」と「楓」が並べて描かれている文様を「桜楓(おうふう)文様」という。「桜」が春の代表的な花として、古来から愛でられてきたのはご承知の通りで、「楓」と組み合わせることで「春秋(しゅんじゅう)模様」となる。

「桜楓文様」を使った上の品は「子どもの祝着」として使われる「小紋」である。これは「型紙」を使った「型小紋」で、女の子の産着である八千代掛け、三歳、七歳の祝着、そして十三参りのキモノとして使われている。千切屋治兵衛の「定番」とも言える品であり、うちでも、もう40年以上この小紋を「子どもキモノ」として使っている。

余談になるが、呉服業界でこの「千切屋(ちぎりや)」を名乗る会社が三社ある。いずれも元は京都の「西村家」から出発している問屋である。歴史を辿れば、16世紀半ばにまで遡り、京都室町で法衣屋を営んでいた「西村与三右衛門貞喜」が「千切屋一門、中興の祖」とされる。ここが、江戸時代になって分家され、千切屋治兵衛(千治)、千切屋總左衛門(千總)、千切屋吉右衛門(千吉)の三家に分かれた。

この三家は、今に続く呉服問屋であり、それぞれ友禅のメーカー問屋として独自の位置を築いている。中でも千總はデパートなどを通して沢山の品物を供給しており、ご存知の方も多いと思う。

千切屋治兵衛(「ちじ」と業界では呼ばれている)の作るこの小紋は、子どもキモノにふさわしい、華やかな「赤」「黄色」「水色」などの明るい地色を使い、柄行きもこの品のような「桜楓文様」や「揚羽蝶、蝶文様」「手毬文様」などが使われている。

最初の品と違い、「春秋文様」であることから、当然「旬」を選ぶ柄行きではない。図案を見れば「流水」の中に花があしらわれているが、「楓と流水」という組み合わせはよく見られるものである。

例えば、「色づいた楓が川を流れ行く様」を描いた文様は、「龍田川(たつたがわ)文様」と呼ばれている。「龍田川」は奈良県の斑鳩地方を流れる川で、「古今和歌集」にも「紅葉の名所」として詠まれていることで知られており、その事がこの文様の名前の由来となっている。

 

(紋綸子黒地 立て枠に楓・撫子・笹文様 型友禅振袖 菱一)

最後に、「振袖」の中に描かれた「楓」文様を紹介しよう。一緒にあしらわれているのは「笹」と「撫子」である。桜との組み合わせは割りとよく見られるのだが、上の品のような図案はめずらしい。「立て枠」の中に花が「散らされている」のは、「流水の中の桜楓」と同じような意図の模様の付け方である。よく見ると「楓」の中にだけ柄の施しが見えるようだ。そのあたりを下の画像で見てみる。

「楓」の葉の中のあしらい。一枚一枚異なる施しが見える。「菊と亀甲紋」「橘と花菱紋」「カタバミの花紋」「型疋田を使った葉」など。上前おくみと身頃に、この施した「楓」の葉の模様が付けられていることから、この振袖の柄のポイントはやはり、「楓」ということになるだろう。

模様全体を写したもの。柄の配置が裾の方でかなり多くなっているのがわかる。これもある意味で、「楓散し文様」と呼べるような柄行きだ。

 

今日は「楓」をテーマに、「付下げ」「小紋」「振袖」においてどんな「文様」の工夫や配置、色の挿し方になっているかを見てきた。「楓」というものは「挿す色」により「変化する季節感」を出せる図案であり、キモノに使われるモチーフとしても、様々な表情を出しやすい、使い勝手のよい文様といえるのではないだろうか。

それは、「旬」の柄行きとして贅沢に使うのも良し、「春秋模様」として、使いやすく使うのもまた良しということになるのである。

 

山梨県内の紅葉は、富士五湖地方と八ヶ岳周辺が早く、今月中旬から色づき初め、下旬には見頃を迎えるようです。甲府では、例年11月に入らなければ「楓」を愛でるまでには至らない気がします。暦の上では、8日は「寒露」に当たりますが、今だに「夏」と「秋」の境のような気候が続いているため、本格的な季節の移ろいを感じるのは、もう少し先になりそうです。

今日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 

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松木 茂」プロフィール

呉服屋の仕事は時代に逆行している仕事だと思う。
利便性や効率や利潤優先を考えていたら本質を見失うことが多すぎるからだ。
手間をかけて作った品物をおすすめして、世代を越えて長く使って頂く。一点の品に20年も30年も関って、その都度手を入れて直して行く。これが基本なのだろう。
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