「簡潔」に語るということが昔から苦手だった。文章を書き始めると「とりとめもなく長くなってしまう」のが悪い癖である。
昨夜東京で、数年ぶりに北海道にいた頃の友人たちと会って、旧交を温めたが、その席で、30年来の女性の友人から「昔、松木さんの手紙はいつも長くてね・・・」と言われた。
私が伝えないうちに、彼女がこのブログを読んでくれていて、文章が相変わらず「長い」ことは変わらないなどと言い、それが褒めているのか、どうなのかわからないが、ともあれ、そんな昔の友人も読んでいてくれているのは、本当に嬉しい。
今日は、出来るだけ「簡潔」に、うちで誂えた「加賀のれん」の話をしたい。
(ちりめん藍鼠地 松竹梅花の丸加賀紋 吹き寄せ文様 別誂えのれん)
「ブログ」の「お店案内」の横に掛かっているのれんが、この「加賀のれん」。これは、先頃、「織部・佐藤和次さん」の稿で少しご紹介した、京都の染問屋「松寿苑」の松本さんに依頼して、金沢で別誂えした「うちののれん」である。
生地は、少しシボのあるちりめん地。地色は藍色が混ざったような鼠色。うちの家紋である「五三の桐」を染め抜いたまわりに、「松竹梅」を施した「花の丸」模様が染められている。のれんの三連の裾部分は「松葉や楓」を散らした「吹き寄せ」模様。
(近接して撮った加賀紋 生地のちりめんの質感がわかると思う)
「加賀のれん」とは、「加賀紋」が入れられたのれんのことである。作られている場所はその名の通り加賀友禅の故郷、金沢だ。では、「加賀紋」というのはどのような「紋」を指すのだろうか。
それは、一般的に「花紋」あるいは、「飾り紋」「華紋」などと呼ばれ、「刺繍」あるいは「染」の技法を駆使して、「紋」を様々にあしらう「お洒落紋」のことである。だが、この「加賀紋」というものの「入れ方」は単一なものではない。そのいくつかをご紹介しよう。
(色糸すが縫い紋 丸に抱き茗荷 梅花加賀紋)
(白糸陰縫い紋 丸なし五三の桐 桐花加賀紋)
上の二つは、家紋自体がそれぞれ違う技法で入れられた刺繍紋に、「梅」・「桐」が刺繍により縫い取られている。これは「縫い取り=刺繍」による「加賀紋」である。「のれんの加賀紋」は、紋も染め抜きで、紋周りの「松竹梅」が糊置きの友禅で染められている「染」によるものということがおわかりになるだろう。
(白糸すが縫い紋 丸に三つ盛り木瓜 松虫草加賀紋)
(白糸すが縫い紋 丸に二つ引き 梅花加賀紋)
この二つは、共に「すが縫い」という技法の「縫い紋」で家紋が入れられているが、糸を「白」にすることにより、少し家紋自体が強調されるものになっている。
(縫い取り 椿にりんどう加賀紋)
上の画像は、「家紋」が入れられていない「加賀紋」。このように、紋と関係がない花をあしらったものを入れてもよい。これは、入れた「キモノの格」を上げることに関係しない、単に「お洒落」を「紋」という形で表現したものと言えよう。
今まで、見てきたように「加賀紋」といっても、様々な技法により入れられているのがおわかりかと思う。加賀紋は加賀友禅同様、江戸時代に金沢で作られ始めたものだ。「紋」が付いている「キモノ」は「紋付」と呼ばれ、「格」の高いもので、「フォーマルモノ」の代表である。昔の人は、「紋」を付けることで、「キモノが重すぎる」ことを避けるため、この「替わり紋」としての「加賀紋」が考えだされてきたと思われる。
うちのお客様でも、加賀紋の付け方は色々で、「あしらう花」も上の画像のように自分の家紋と関係ある花(例えば五三の桐ならば、桐の花というように)にされる方もいれば、加賀紋を入れたキモノを、「春」にお召しになるから「桜の花」を入れるという方もいる。また自分の「誕生花」を「図案化」して付けて欲しいという方もいた。
このように、「しゃれ紋」であるからこそ、「自由に」つけられる花も図案もあるのだ。「堅苦しい紋付のキモノ」も華やかな「加賀紋」で生まれ変わることになる。
では、「うちののれん」に話を戻そう。次は、のれんに施された「吹き寄せ」模様について話をしてみる。
松の葉、銀杏、楓などの様々な落ち葉や、花が吹き寄せられたものを文様として使っている「吹き寄せ文様」。この文様は元来「秋の風」により吹き集められた花や葉を使い、「晩秋」の様を表していたのだが、こののれんの図案の中にも見られるように、「秋」以外の花(例えば桜、梅など)も用いられるようになった。
「吹き寄せ」のほかに、この図案の上の方に見られる「白揚げ」という友禅の技法を用いた「丸い実」のような図案、と横に不規則に引かれた線がこの文様を引き立てている。「白揚げ」とは、友禅の糊のみで防染していて、色を挿していない技法のことで、柄を非常にあっさりとした印象にするとき使われるもの。「吹き寄せ」の中の「松の葉」にもこの技法が使われている。
上の画像が、ブログトップの「お店案内」に使われたもの。「五三の桐」の家紋周りに付けられた松竹梅の挿し色の上品さが、いかにも「加賀友禅」の故郷の「加賀染」を印象付けるものに仕上がっている。この「のれん」を掛ける限り、店の品も「上品さ」を失わないことを心がけて行きたいと思う。
やはり、私には、「簡潔」な文章は難しいようです。おそらく色々な説明がかなり「回りくどい」ものになっているのでは、と不安になります。肝心な事を要領よくお話できるようになるのはいつになるでしょうか。下手なりに一生懸命書いていることは、間違いないので、どうぞお許し頂きたいと思います。
昨日会った北海道時代の友人で、「プロ」のような写真を撮る人がいて、彼に少し画像撮影のアドバイスを頂きましたが、私には、これもまだまだ当分「修行」が必要かと思います。彼は「にっぽんの職人」を撮りたいとのことですので、今度同伴してもらい、画像を提供していただこうと考えています。そのうちに、このブログで、素晴らしい写真をお見せすることが出来るはずです。
今日も最後までお読みいただき、ありがとうございました。