モノを長く使うには定期的にメンテナンスをすることが何より重要だ。
うちのバイクは走行距離1000キロごとにオイル交換と点検をしてもらう。今の走行距離は約11万キロなのでもう100回以上点検を受け続けたことになる。お読みいただいている方には「呉服屋の話」でなくて申し訳ないのだが、「バイク呉服屋」を名乗る以上、「バイクの話」もしておかなければいけないと思う。
これもある意味「職人の仕事場」の話と言えるのかも知れない。
バイクの主治医「井上モータース」はうちの店から2,3分のところにある。先代の社長からのお付き合いなので少なくとも40年以上は経つであろう。今のご主人の年齢は、私より少し上だがほぼ同世代だ。この20年というもの、新しい品物は何も買わないのによくお付き合いしていただいている。走行距離が7万キロを越えた頃に一度かなり重篤な状態になったことがあったが、熱意と技術で復活してもらった。以後は定期的なメンテナンスを欠かさないように心がけている。
「スーパーカブ」は基本的に頑丈に出来ているので、「タイヤ」や「オイル」「バッテリー」など、使っている人間が消耗の度合いを注意しながら交換していけば長く使えるものだとご主人はいう。つまり使う人間の「心がけ次第」=「バイクを愛する気持ち」が大事だということだろう。「愛して」いれば常にその状態に気を配り、メンテナンスをする機会を必ず守っていくことになるはずだ。
今回はもっとも消耗の激しい「タイヤ」の交換。前輪と後輪、両方とも変える。交換時期は「タイヤの溝」の減り具合を見て判断する。上の画像は古いタイヤをはずし、新しいものと交換しているところ。タイヤの中にはチューブが埋め込まれており、そのチューブに損傷がないかどうか水につけながら慎重に見てゆく。「タイヤ交換」してもチューブに傷があると、そこから空気が漏れてしまい新しいタイヤの意味をなさないのだ。
画像を見て頂ければ、車軸や前カゴを支える軸が赤茶色に錆びているのがわかると思う。これだけ年数が経っても基本部分がしっかり作ってあることの裏返しである。技術的なことは何もわからないが、「バイクの心臓部」である「エンジン」など、どんな作り方をすればこれだけの年月を走れるのか。その技術まさに驚嘆に値する。
「ホンダスーパーカブ」が誕生したのは1958(昭和33)年。私が生まれる前の年である。ほぼ私の年と同じところにも親近感を持っている。このバイクは、当時のホンダ社長本田宗一郎と常務の藤沢武夫がヨーロッパを視察し、どのようなバイクを作るかを考えたのちに作られたものだった。この新しいバイクは「小型のエンジン」で「実用的」また「耐久性にすぐれたもの」というコンセプトをもとに作られ、また「燃費」の面でも出来るだけ安く乗り回せるように考えられた。
1958年と言えば、日本が高度経済成長の道を歩み始める端緒になった頃である。まだまだ「自動車」が高嶺の花だった頃、この実用性に富んだスーパーカブが商店や中小企業の日々の商いにどれ程貢献してきただろうか。
スーパーカブのフォームは決してお洒落なものとはいえない。いかにも「頑丈」で「働き者」のイメージだ。これはこの50年間変わらぬスタイルであるが、「変わらない」ということが、創始者本田宗一郎がこのバイクを作った「コンセプト=精神」を今に伝えていることに他ならない。「スタンダード」とは「本質を尊重する」こと、コンセプトを守るということだと思う。
「井上モータース」には道を隔てた真向かいにオシャレな「バイクショップ」がある。「Buell」や「Harrey」など高級輸入バイクの専門店でもある。ご主人の如才ない人柄でファンも多い。しかもメンテナンスは前の古い店舗で充実した仕事をしていて、任せておけば安心である。にこやかな笑顔のご主人だが、なかなかの仕事人である。異業種の人から学ぶべきことは多く、その仕事の姿勢をみれば人柄がわかる。基本は「よい仕事のものを長く使って頂く」ということに尽きると思う。
タイヤ交換とオイル交換が終わり、最後に次回の点検の目安になるシールを貼ってもらう。ちょうど1000キロ後の12057キロである。私としては左にもう一つ「1」を足してもらいたいといつも思う。正確には112057キロなんですけど・・・
「バイク検診」の話はいかがだったでしょうか?「愛着」とは「長く使う」ことや「慣れ親しむ」ことから生まれるのですが、それを支えてくれる「仕事人」がいなければ出来ないことでありましょう。だから、「よい直し」が出来る店は「よい品物」が扱える店ということが言えると思います。「よい品物」は「長く使う」ことに耐えられる品物だからです。私も心して仕事にのぞみたいと思います。井上さんご協力ありがとうございました。新しいバイク買うのはもう少し待ってください。(買わないかもしれないけど)
今日も最後まで読んでいただいて、ありがとうございました。