バイク呉服屋の忙しい日々

今日の仕事から

平安時代の配色の妙・襲の色目を、現代のコーディネートに生かす

2021.02 28

平安時代の貴族女性の正装・女房装束が、何枚も衣装を重ねて着装する「十二単(じゅうにひとえ)であることは、皆様ご承知の通り。一番上には唐衣(からきぬ)と裳(も)、次に表着(うわぎ)、打衣(うちぎ)、さらに五衣(いつつころも)の別名がある袿(うちき)を付け、一番下は裏無しの単(ひとえ)と袴となる。

正式な場に出る時には、必ず唐衣や裳を着装しなければならず、やや改まった所では、袿の上にやや丈の短い袿・小袿(こうちき)を重ね着する。日常時は、袴に単姿で袿だけを上に付ける。衣装の寸法は、上へ重ねるに連れて、少しずつ寸法を小さく誂える。そのために、袖や衿、裾や褄先に僅かずつズレが表れ、これが視覚的に「色が重なる様」を生み出すことになるのだ。

 

中でも単と表着の間にある袿は、内側の衣・内衣(うちき)の意味を持ち、衿や袖口、裾を数枚重ねることから、五枚重ね・五衣の名前が付いた。そして着姿から僅かに覗くだけの色は、そこに着装する女性のセンスが表れ、その配色や濃淡には、誰もがこだわりを持った。

また、下から上へと色が透き通る絽や紗、羅、あるいは生絹(すずし)と呼ぶ薄絹を装う時は、重ねた色が、光に透かした時にどう映るかを予め想定して、配色が考えられた。そして色重ねは、四季ごとにテーマとする色が考えられ、どの植物染料を使用するかも決まっていた。例えば、紅梅をイメージするなら、表側が紅花で裏が蘇芳、牡丹ならば、表の白絹を裏の紅花染で透けさせて色を透過させる、といった具合である。

 

襲の色目の構成パターンは一つではなく、幾つかある。例えば、「匂い」と呼ぶ配色構成は、濃淡を対比したり、段階を区切って同じ色の濃淡を付ける「暈繝(うんげん)」と呼ぶ形式。こうした配色が、より美しく着姿を彩ることから、まさに「色が匂うよう」として、「匂い」という名前が付いた。

また、白を上に重ねることで、下の濃色を淡く見せる「薄様(うすよう)」や、同系色を使って、上は薄く下は濃く見せる「裾濃(すそご)」、同色で所々に濃淡を混ぜる「村濃(むらご)」があり、袖口や裾の裏地を表に折り返し、縁のように見せる「おめり」という変わった方法もある。

 

こうして平安人たちは、衣に色を重ねることで、それぞれの着姿に自分の感性を表現してきた。そしてその色の「重ね方」には、着装する季節ごとに、相応しい色合いが映し出されてきた。この、様々に工夫された「襲の色目」は、現代のコーディネートにも十分通じる。今日は、この配色の妙を、裏地の色替えをした振袖で試してみよう。特に、小物の僅かな色の変化が、着姿にどのような影響を及ぼすのか。実際の品物を通して、見て頂くことにしよう。

 

八掛と小物(帯〆・絞り帯揚げ・伊達衿・刺繍衿)を、朱で統一したコーディネート。振袖は、ほぼ露草色一色の総絞り。

八掛の色目は、キモノのアイテムによって、考え方が異なってくる。黒留袖や喪服はもちろん黒だが、色留袖や訪問着のような、ここ一番のフォーマルな品物には、濃淡の差はあれ、地色に近い共色を使うことがほとんど。そして、柄位置が決まっている絵羽モノには、ほぼ八掛が一緒に付いていて、その中でも、加賀友禅や京友禅の上質なモノには、返しに丁寧な模様をあしらっていることが多い。

色無地の場合、八掛を別に付ける三丈モノと、表地と一緒に染めてしまう四丈モノがあるが、色は表地と同色を使う。また、他の染モノ・付下げや小紋は、地色と同系色を使い、濃淡で表地と裏地の差を付ける方法をよく使う。これは先述した「襲の色目」のパターンで見ると、「匂い」と呼ぶ配色構成に当たる。そして表地色ではなく、模様の中に挿されているひと色をピックアップすることもある。いずれにせよ、地色に近接した色を使うか、まったく別の色を採るかは、着用する方の好みや使う場面によって変わる。もちろん色は自由で、そこにセンスが試されているとも言えるだろう。

 

今日、例として取り上げる品物は、総絞りの振袖。現在ほとんどの振袖には、八掛が一緒に付いているので、別に用意する必要は無い。ただ絞りの場合には、友禅とは違う仕事のために、裏を付けないこともある。この振袖は、今から30年ほど前に製作されたもので、当時も八掛は別に用意していた。

今回、娘さんが受け継ぐに当たり、寸法を直すと同時に、八掛の色を替えることになった。そして、同時に小物の色を見直して、全体の雰囲気をリニューアルすることも希望された。今日ご覧頂くのは、八掛の色と小物の色をリンクさせて、新たにコーディネートした姿である。着姿から僅かしか見えない裏地だが、この色の変化に伴い、どのような小物を選びをしたのか、ご覧頂きたい。

 

菖蒲だけをあしらった、大胆な総絞り振袖。製作したのは藤娘・きぬたや。総疋田の地に、縫い絞りや小帽子など、多彩な絞りの技術を駆使して模様あしらいをした、手の掛かった品物。今ではあまり見かけないが、30年前は、こうした挿し色のない、大胆でシンプルな絞り振袖が数多く作られていた。この時代はうちの店でも、振袖の仕事をたくさん請け負っていたので、毎年何点かは、ママ振袖の手直しとして、このような絞り振袖が店に帰ってくる。

 

最初の八掛は、朱色。前の画像で判るように、模様に色の気配がほとんどないシンプルな振袖なので、八掛の色がかなり際立つ。裾や袖口に少し覗くだけだが、その鮮やかさは着姿の印象に残ってくる。色合いの少ないキモノほど、裏地の色がポイントになる。

袖口に表れる朱。この色は、朱色の中でも赤みが強く、はっきりと主張のある色。地に表れている白い疋田を、抑え込むような力が見える。振袖だけに、八掛の力強い朱色は、若々しい着姿の一端を担っているように思える。

 

この振袖に使った帯は、掛橋に蝶や尾長鳥、さらに四季の小花を織り込んだ、銀引き箔の手織り帯。製作したのは、紫紘。精緻で華やかな色使いの図案は、いかにもこの織屋らしい。最近では、このような橋をモチーフにした派手な帯は、あまりお目にかからないが、昔は振袖用として定番だった。

画像のように、母親が着用した時には、帯〆・帯揚げ・伊達衿と、全て八掛の朱色と色を合わせている。伊達衿は八掛とほぼ同じ濃さで、帯〆と帯揚げはやや薄いが、しっかりした朱。帯の模様にも、朱色系は多く使っているので、ごく自然な映りとなる。

今回のリニューアルでは、この朱色八掛を外して、同じ赤系の紅色に替えてみた。では、どのように雰囲気が変わったのか、ご覧頂こう。

 

紅色の八掛に付け替えた絞り振袖。朱の派手さとはまた違う、落ち着きのある赤。明度は少し劣るものの、独特の品の良さを感じる。もちろん、若々しさは失われていない。朱と紅、どちらが良い悪いではなく、それぞれの色の特徴が、ほんの少しだけ覗く八掛に現れる。この色の違いが、印象を変える。

元の朱と、新しい紅。並べて見ると、色の気配は明らかに違う。朱は柔らかみがあり、紅はキリリとしている。表地と色を重ねることで、着姿のアクセントとなる八掛。現代の襲の色目は、こんなところに息づいているのだ。

袖口の色で見ると、朱と紅の違いが判りやすい。一見、目立たないようでいて、実は結構印象に残る。それが、八掛という裏地の特徴であろう。この色を替えることは、やはりイメージチェンジに繋がる。そして八掛が替われば、自然に小物も変わっていく。

 

伊達衿は、八掛とほぼ同じ明度を持つ紅色。刺繍衿も、同じ色使いの桜がポイントになっているものを使い、衿元で紅を強調する。

帯〆には、白に薄紅の花を組み込んだものを使う。帯揚げは、八掛や伊達衿とほぼ同じ紅色の絞り。帯〆まで紅ひと色にしてしまうと、すこし印象がきつくなるような気がしたので、あえて柔らかい色にしてみた。

 

さらに赤系を離れて、鶸色を基調としたコーディネートを試す。紅や朱の華やかさとはまた違う、爽やかな若々しさが感じられる。振袖の色が単調なので、小物の色合わせ次第で、全く違う映り方を工夫することが出来る。しかも鶸色は、帯模様に僅かに入っているので、違和感が無い。

必ずしも、八掛の色と小物の色をリンクさせる必要は無い。こうして画像を見ても、紅色と鶸色の取り合わせは、悪くはないだろう。シンプルな振袖だけに、裏地や小物によって色の効果が出しやすい。

 

現代では平安貴族のように、何枚も色を重ねて着装することは無いが、僅かに覗く「表裏に重なる微妙な色の気配」は、着姿に大きく関りを持って表れてくる。

八掛の色や小物の色を、キモノの地色や模様の挿し色、また帯地色や模様の色を勘案して、様々に考える。そのコーディネートには、明確な決まりなど何も無い。アイテムでも、着用する人の年齢でも、着る場所でも、着る季節でも、変化していく襲の色目。だからこそ難しく、楽しい。

そして、たとえ同じキモノ、同じ帯を使ったとしても、帯〆一本の色を替えるだけで、印象が変わる。簡単で自在に付く、豊富な着姿のバリエーションこそが、最大の和装の特徴であり、魅力なのであろう。皆様には、大いに「色目」にこだわりを持ちながら、キモノライフを楽しんで頂きたいと思う。最後に、今回リニューアルした振袖一式を、もう一度ご覧頂こう。

 

裾や袖、衿に、ほんの少しだけ覗く裏地や小物。そこに表れる僅かな濃淡や色の気配が、着姿に深みと独特の彩を持たせます。そして、色をどのように重ねるか。そこにこそ、人それぞれが持つ「感性」が表れます。

唐の詩人・白居易(はくきょい)の有名な詩の一節に、「雪月花時 最憶君」があります。「雪や月、花が美しい時には、もっともあなたのことを思い出します。」という意味ですが、雪花月(せつげつか)は、季節の彩を象徴する事象と捉えられています。

十人十色の色の好み。それが形作られる背景には、四季折々に移りゆく自然の姿・「色のうつろい」があるように思います。日本人の色に対する繊細なこだわりは、こうしたことに、大きく関わっているのでしょう。蛇足ですが、宝塚歌劇団の組名も、この雪・月・花に因んでいますね。

今日も、最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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松木 茂」プロフィール

呉服屋の仕事は時代に逆行している仕事だと思う。
利便性や効率や利潤優先を考えていたら本質を見失うことが多すぎるからだ。
手間をかけて作った品物をおすすめして、世代を越えて長く使って頂く。一点の品に20年も30年も関って、その都度手を入れて直して行く。これが基本なのだろう。
一人のお客様、一つの品物にゆっくり向き合いあわてず、丁寧に、時間をかけての「スローワーク」そんな毎日を少しずつ書いていこうと思っています。

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