バイク呉服屋の忙しい日々

今日の仕事から

大柄な菊と桐の小紋羽織で、冬の街を歩く  

2020.12 10

7日は、二十四節気の一つ・大雪だった。暦の上では、雪が沢山降り積もる頃とされているが、今年はまだ少ない。豪雪地として知られる北海道・幌加内や朱鞠内で70cm、青森・酸ヶ湯でも50cm程度である。昨シーズンは、日本中どこでも記録的な暖冬だったが、今年もそれが続くような気配である。地球温暖化の傾向は、いかに対策を立てようとも、もう止める術がないかも知れない。

21日の冬至までの二週間が、一年の間で最も夜が長い。朝7時前にならなければ陽が昇らず、夕方4時過ぎには暗くなる。ここのところ、全国的にコロナが再燃しており、大都市では再び飲食店などに、営業自粛が呼びかけられている。一年で一番夜の町が賑わう時期だが、今年はそれもない。ほとんどの人が家路を急ぎ、自宅に籠って長い夜を過ごすことになるのだろう。

 

例年だと師走は、パーティや会食が多くなり、外に出かけることが増える。キモノを嗜む方にとっても、着用の機会が最も多い季節。そこで出番が増えるのが羽織だ。すでにこの季節は、帯付きでは寒々しく映り、どうしても上に羽織るものが欲しくなる。

そこで今日は、冬に相応しい小紋、それも少し大柄な菊と桐をモチーフにした品物を選び、個性的な冬姿を演出してみたい。今年の冬は、なかなか和装で出かける機会を作り難いと思えるが、皆様には次の出番に備えて、ぜひ参考にして頂きたい。

 

羽織に向きそうな大柄な小紋 菊模様と桐唐草模様

体感的に羽織を着用したくなるのは、日中の最高気温が20℃を下回り始める頃で、それは11月上旬・「立冬」あたりになるだろう。それから、東京の桜が散っていく4月上旬・「清明」くらいまでが、羽織の出番となる。考えてみれば、一年のうちで5か月も使う機会あり、特に晩秋から早春までは、欠かせないアイテムと言えよう。

 

キモノが日常の中に溶け込んでいた70年代までは、羽織は欠かせない品物だった。その頃は暖房事情が悪く、今のように家が外気を遮断する構造になっていない。防寒面から考えても必需であったが、家庭でキモノを着用する習慣が消えてからは全く廃れ、ほとんどその着姿を見ることがなかった。

だが、平成になって、少しカジュアルキモノが見直されるとともに、街で羽織姿を見かけるようになる。そしてその多くは、大正期に流行った長い丈のものだった。こうした傾向は今なお続いており、うちで受ける羽織の注文も、ほとんど2尺4寸以上の長丈である。だから必然的に、着尺(キモノ用)を使わなければ寸法が足りず、ほとんどの羽織は、小紋で作る。

そこで、今日ご紹介する長羽織用の小紋だが、街歩きの時に目立つような、少し大胆で大柄のものを選んでみた。合わせるキモノは大島。織のキモノと合わせると、より冬らしい羽織の良さを演出出来ると思うが、どうなるだろうか。早速試してみよう。

 

(鬼シボちりめん 団栗地色 大菊模様 小紋・菱一)

秋から冬をイメージすると、やはり深くてくすみのある色を使いたくなる。この小紋の地色は、焦げ茶に黄土を混ぜたような気配で、玉ねぎを焦した時の飴色のような、また団栗の皮のような渋みのある色。いずれにせよ、深くて落ち着きのある色合いだが、どことなく温かみも感じる。

ご存じの通り江戸幕府は、度々奢侈禁止令を出して、贅沢な施しや華やかな色の衣装を着用することを禁じた。そのため庶民が着る色は、茶や黒、鼠など地味で目立たない色に限定されていたが、人々はそんな制限下にあっても、明度や色相が僅かに異なる色を見分けながら、自分なりのお洒落を楽しんでいた。当時は、「四十八茶、百鼠(茶色は48種類、鼠色は100種類)」と言って、茶系と鼠色系が最も細分化されていたが、この小紋の団栗色も、そんな茶系色の一つである。

 

画像でも判るように、生地の表面にシボが立っている。これは縮緬生地の中でも、最も撚りが強い糸を使って織り込んでいるために、それが細かい波のような皺となって、生地に表れてくる。

このような大シボ縮緬を「鬼シボ」と言うのだが、着用してみると、どっしりとした質感を感じる。おそらく柔らかみのある生地に、ぽったりと包まれるような着心地になるだろう。重い生地なので、自然と下に垂れるような形となり、羽織姿をより強調する。こうしたちりめん生地の小紋は、その特徴から、しばしば羽織用として使われる。

反物巾いっぱいに、大きな菊の花があしらわれる。メインの花弁と葉には疋田を使い、図案の間は、沈んだ紅色と芥子色の花で埋めている。菊の図案として、これほど大胆で大きい姿は珍しい。個性的な小紋で、キモノにすると相当目立ちそう。

 

衿を作り、羽織の姿にしてみた。キモノでは、着用する方の体格を選ぶことになりそうだが、不思議に羽織だと、模様の大きさがあまり気にならない。

合わせたキモノは、井桁と菱の小絣・白大島。羽織の地色より薄い、優しい色のキモノに合わせると、大胆な菊模様と鬼シボ生地の質感が、前に出てくる。帯は、二つの菊色(渋い紅・芥子)のどちらかを使うと、上手くいくように思うが、出来るだけ模様をシンプルにする方が、大胆な羽織柄が着姿に生きてくるだろう。

 

(一越生地 抹茶色 桐唐草模様 小紋・菱一)

もう一つの小紋は、同じ縮緬系でもシボが細かい一越生地。地色は抹茶色に白を混ぜたような、薄く柔らかい色。図案は桐だが、間を唐草で繋げているので、流れのある意匠になっている。先ほどの鬼シボ菊と比べると、地色も模様もかなりおとなしい。

本来桐は、初夏に紫の花を付けるが、花札では「ピンからキリまで」の語呂に合わせて、12月の花となっている。だが文様としての桐は、天皇の紋章として高貴な図案と意識されてきたために、季節感とは離れたところにある「特別な花」だ。これは菊紋も同じことだが、桐の方が特別感が強いように思える。

同じ縮緬でも、表面に全くシボは見えない。一越生地は、経糸は平糸で、緯糸に右撚り・左撚りの強撚糸を「一越(一本)ずつ」交互に織り込んだもの。縮緬生地の中では最も使い道が広く、キモノ地だけではなく、襦袢地や半襟、帯揚げにも見られる。

この細いシボの生地を使うと、重々しくならず、さらりとした羽織姿になる。最初の大菊羽織は、ポッタリとした鬼シボの風合いから、真冬の着用に相応しいと思えるが、この桐唐草だと、生地の軽さや地色の雰囲気から、早春をイメージする羽織になりそう。

桐唐草の挿し色は、花の中心にある紅色の点だけ。この赤があることで、模様が引き締まり、古典的な桐図案をモダンな姿に変えている。こうした僅かな施しが、品物全体の雰囲気を支配することがある。

 

羽織衿を作って形にしてみると、予想以上に桐唐草の繋がりが目立つ。また桐花の赤もインパクトがある。地色のはんなり感はあるものの、しっかりと図案が主張していて、かなり個性的な羽織になるだろう。

赤と深緑を花に配した、泥大島を合わせてみた。写す時の光の加減で、羽織地色が実際より薄くなってしまったことを、お許し頂きたい。こんな深い色のキモノでも、この羽織を使うと途端に着姿が優しくなり、何か春めいてくる気がする。

 

小紋を仕入れる時には、「これは羽織に向く」と考えながら選ぶ品物がある。今日ご紹介した二点が、まさにそれにあたるが、キモノには大胆すぎて躊躇する意匠でも、羽織では違和感なく使えるものがある。それがまさに、「羽織として誂えてこそ、生きる図案」なのだ。

だが実際の商いでは、こうした売り手の思惑が外れることがよくある。この桐唐草小紋は、仕入れてから少し時間が経っていたが、ブログで紹介するのを待っていたかのように、一昨日買い手が付いた。しかも羽織ではなく、小紋として。そして昨日、違うお客様が来店し、この小紋が売れてしまったことを残念がっていた。何年も棚に残っていた品物が、急に脚光を浴びるとは、何とも不思議な呉服屋商いである。

 

今日は、冬を彩る小紋羽織を二点、ご紹介した。普段はキモノと帯、そして合わせる帯〆と帯揚げのコーディネートを考えるのだが、そこに羽織と羽織紐が加わると、より悩ましくなるかも知れない。だが、「羽織ならではの柄行き」も存在し、それを思い切って試してみると、品物に対して新たな視点が生まれるようにも思える。

和装の機会が限られる昨今だが、冬の楽しみとして、大いに羽織を活用して頂きたい。最後にもう一度、二点の小紋羽織姿をご覧頂くことにしよう。

 

最近あるお客様から、リモートで仕事をする時には、キモノを着ているという話を聞きました。外に出かける機会が極端に減っているので、せめて家で着ていたいとのことですが、良い気分転換になるそうです。

何時もなら、人と会う機会が増える年末・年始。今年はすっかり様変わりして、家族以外の人と接することは、無いのかも知れません。そこで、もし余暇があれば、ぜひ「家でのキモノ」をお試しになって下さい。一日をキモノで過ごしてみると、生活に根付くキモノ姿とは何かが、判るかも知れません。皆様には、コロナ禍を逆手に取り、着用の場を日常の中に広げて頂ければ、と思っています。

今日も、最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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このブログに掲載されている品物は、全て、現在当店が扱っているものか、以前当店で扱ったものです。

松木 茂」プロフィール

呉服屋の仕事は時代に逆行している仕事だと思う。
利便性や効率や利潤優先を考えていたら本質を見失うことが多すぎるからだ。
手間をかけて作った品物をおすすめして、世代を越えて長く使って頂く。一点の品に20年も30年も関って、その都度手を入れて直して行く。これが基本なのだろう。
一人のお客様、一つの品物にゆっくり向き合いあわてず、丁寧に、時間をかけての「スローワーク」そんな毎日を少しずつ書いていこうと思っています。

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