バイク呉服屋の忙しい日々

今日の仕事から

11月のコーディネート  白鷹縞お召とペルシャ花帯で、晩秋を過ごす

2020.11 24

全国の気象台や観測所では、様々な植物や動物の変化を観測し、それぞれの場所で年ごとに、季節のうつろいを記録し続けてきた。これが「生物季節観測」で、今から半世紀以上も前の、1953(昭和28)年から始まっている。これまでに記録されてきたものは、植物34種、動物23種の開花や落葉、そして初鳴きや初見である。

しかし気象庁は今月の10日、この観測の対象物を大幅に削減すると発表した。これは、動物の観測を全て廃止すると同時に、植物を紫陽花の開花・銀杏の黄葉色付と落葉・梅の開花・楓の紅葉色付と落葉・桜の開花と満開・薄の開花の僅か6種類に限るという内容で、随分と思い切った削減になっている。

 

今回、これだけ多くの動植物の観測を廃止してしまう理由として、観測地点での生態環境の変化に伴い、対象植物の標準木を確保出来ないことや、観測する動物や鳥を見つけ難くなっていることを挙げている。観測の縮小を発表した気象庁の長官は、「環境が変わり、観測から季節の進み具合を把握するという、本来の目的を達成することが難しくなり、観測を続ける意味が無くなった」と述べている。

昔よりも対象物の観測が難しくなったことは、その通りかと思うが、例えばセミや鶯の初鳴きなどは都会であっても聞かれるだろうし、モンシロチョウやカエル、ツバメの初見は、地方ならまだ見られるはずだ。現在の観測も、観測地ごとに対象物が違っているので、何もわざわざ全てを廃止する必要は無いだろう。

気象庁のトップは、動植物の変化による季節のうつろいを、「意味がない」と切り捨てたが、何とも情緒の無い考え方で、風物詩というものにまったく理解が無い。極端かもしれないが、こうしたお役人には、日本人としての繊細な心持が欠けているのではないだろうか。南北に長い島国・日本では、地域ごとに季節の進み方が異なる。各々での動植物の変化は、自分の故郷や遠い地方に思いを馳せることに、繋がっている。そしてこうした感受性こそが、日本人特有の「季節に寄り添うくらし」の基礎になっていると、私には思えるのだが。

 

よく考えてみると、この「生物季節観測の対象動植物」は、ほとんどがキモノや帯のモチーフとして使われており、これはまさしく、「図案作成における対象動植物」である。そして、植物の開花や落葉した姿を描くことは、季節を意識したあしらいになる。

モチーフは、それぞれの季節に相応しい色で表現され、そこに日本人の繊細な美意識が反映される。春には春の、秋には秋の彩があり、それが地色や模様の挿し色となって表れてくる。そこで今日の稿では、今の季節に似合う「遅い秋の色」に注目しながら、コーディネートを試してみたい。

 

(朽葉色 微塵縞・白鷹お召  白地 ペルシャ花文様・型絵染帯)

季節ごとにある色のイメージは、その時々に咲く花の色と関連することが多い。例えば春の色だが、多くの人が桜のピンク色を連想するだろう。また、少し具体的に早春の色と言えば、梅や椿の紅色や、水仙の柔らかな黄色を思い浮かべる方がおられよう。

一概に、赤とか黄色とかピンクなどと、決まった色の系統がその季節のイメージカラーになることは無い。けれども、色の濃淡や明度の違い、つまり色の性質、気配を考えることで、季節性が生まれてくるように思う。

 

長い冬が終わり、明るく優しい陽ざしに包まれる春には、各々の色に白を混ぜた淡いパステルカラーが好まれる。その一方、気温が下って葉が色づき始める秋になると、落ち着きのあるビビッドカラーが似合う季節となる。もちろんこれが全てではなく、あくまでも季節をイメージした色の傾向なのだが、キモノや帯に表現される色も、何となくこれに沿っている気がする。

だから、このブログで紹介する月ごとのコーディネートでも、春はパステル系、秋はビビッド系の色調の品物を選択することが多い。ありきたりに思われるかも知れないが、私はどうしても、こうなってしまう。今日選んだ品物も、深い芥子色・朽葉色のキモノだが、無地に近い細縞なので、秋にしては柔らかみのある雰囲気を持っている。ではどのような品物なのか、話を先に進めていくことにしよう。

 

(朽葉色 微塵細縞 手織白鷹お召・山形置賜織物 白たか織・佐藤新一)

山形県南部(置賜地方)では、米沢市の紅花・草木染紬をはじめとして、今も多彩な伝統織物が生産されている。今回取りあげるキモノも、そんな置賜の織物の一つ、白鷹お召である。

生産地の白鷹(しらたか)町は、米沢から新潟の坂町に抜けるローカル線・米坂線に乗り、途中の今泉で、分岐する長井フラワー鉄道(国鉄旧長井線)に乗り換える。終点の荒砥(あらと)が、町の中心。最上川が流れ、朝日連峰に囲まれた盆地で、ビール原料のホップの生産が盛んなことで知られている。

ここで織っている白鷹織は、お召と紬で、特に独特の絣技法・板締による板締小絣は、伝統的工芸品の認定を受けている。現在白鷹でお召を織っている機屋は、「白たか織」と「小松織物工房」の二軒だけ。今日の品物は、1970(昭和45)年以来、半世紀にわたって織屋を営んできた、白たか織・佐藤新一さんの手によるものである。

 

近接して写してみると、生地表面に浮き出てくる「シボ感」が見て取れる。

そもそもお召とは、「お召縮緬」の略称だが、まず不純物を取り除くためのアルカリ煮沸処理を施した練糸を、左右両方向(右撚り・左撚り)に回転させて撚りをかけ、糊を付ける。そしてこの右撚り糸と左撚り糸を、交互に織り込んで製織する。織り終えた後、生地を湯の中で揉んで糊を落とすと、強く撚った糸が元に戻り、それが生地表面の皺となって表れる。この皺こそが、独特のシボになるのだ。

生地感は縮緬地と同様だが、違いは、お召が先染め糸を使った織物であること。縮緬地は白生地なので、後から色染めや模様付けをして染モノとして使う。ただ風合いからすれば、単純に織物と捉えることが難しく、織と染の中間的な品物とも言えるだろう。

白鷹の絣お召の場合は、経糸と地色部分の緯糸は、片側だけに撚りを掛けた片撚糸を使い、絣部分には、強撚糸のお召糸を使う。そして絣作りは、薄いブナの板に溝を掘り、これに糸を幾重にも巻き、重ねてボルトで締め上げる。これを「染舟」と呼ぶ台の上に載せて、上から染料を注ぐ。こうすると、板が重なるところには染料が入らず、溝の部分だけに入り、絣糸となる。この技法で出来る絣が、板締小絣である。

今日のお召は、絣ではなく縞柄なので、こうした製法を採っていないが、経緯双方の糸は、両方向に回転させた強撚糸を使用しており、「鬼皺お召」と名前が付いている。これは、シボが大きいちりめん生地を「鬼シボ縮緬」と呼ぶのと同様のネーミングだ。

反物に付いている「白たか織」のラベル。「鬼皺お召」の名前も織り込まれている。

シボのある風合いとなると、塩沢お召(本塩沢)が思い起こされるが、実際に生地に触れて見ると、白鷹の方が塩沢より滑らかである。塩沢は尖っている感じが強く、ざらざらとしているのに対し、白鷹の凹凸は柔らかく優しい。その分着心地も良く、シワにもなり難いキモノで、実に使い勝手の良い品物と言えよう。

筋の色が芥子色で、地の色はベージュにやや黄色が掛かった黄土色。近づいて見ると、色の気配がはっきりと判るが、遠目からだと色は柔らかくなり、無地に見える。枯葉がイメージされる芥子系の色は、秋の色として使うことが多いが、この縞お召では、柔らかみのある落ち着いた色として、季節の雰囲気を出している。

この縞お召は織物なので、フォーマルには当たらないものの、さりとて他の紬類のように、完全なカジュアルとも言い切れないところがある。着姿を見ただけでは、一見江戸小紋の万筋にも見えるだろう。そして生地に触れて見れば、これがちりめん生地にも感じられるだろう。これは、一目見ただけでは、判別の付き難い品物である。徳川11代将軍・家斉が好んで着用した「将軍さまのお召モノ」は、フォーマルとカジュアルの狭間にある、中間的な要素を含むアイテムと考えることが出来よう。

だが今日のコーディネートでは、カジュアルの場でお洒落に着こなすことを想定して、帯を選んでみたい。さてどうなるか、試してみよう。

 

(白紬地 ペルシャ花文様 型染帯・松寿苑)

こうした微塵縞のような無地感覚のキモノは、合わせる帯でガラリと印象が変わる。着姿を「お洒落に楽しく」というコンセプトで考えると、こんな遊び心のある図案の帯に目が向く。染帯には、季節が前に出る「旬な帯」も多いが、あえてそれを避けてみた。

以前このブログで、同様に松寿苑が扱ったペイズリー模様の染帯をご紹介したことがあったが、この問屋には、こうしたモダンで気の利いた図案の帯がたまに置いてある。この品物も、一目で気に入って仕入れたモノだ。

太陽を思わせるデザインの花や、五角形のヒトデ花。さらに魚のような蝶のような鳥図案。どれも思い切りデザイン化されていて、楽しくなる。紬地だが、地の色は真っ白ではなく、ほのかに生成色の気配が見えている。

前の模様は、左右で異なる。一方はヒトデ花で、もう一方はクローバー花。挿し色は、橙色や水色、鶸色が主になっていて、全体的に明るい印象を残している。帯姿からは、弾むような楽しさが伺えるが、朽葉色縞お召との相性はどうだろうか。

 

帯を載せて見ると、キモノの縞色・朽葉色がほとんど目立たなくなり、全体が淡いベージュ色に染まって見える。だが、帯地色がほぼ白なので、合わせた時には、ある程度コントラストが付く。また帯の挿し色の中で、橙系の色が目立つために、白地ながらも暖かみを感じる。

前の模様合わせ。無地場が多く、あっさりした柄付けなので、その分すっきりした姿に映る。あまり目立たないが、印象に残る帯にはなるだろう。

鎌倉組の一つ・三井寺組の帯〆で、着姿に立体感を出してみる。色目は鼠と小豆色の二色使いで、秋らしく。帯揚は、縞お召の枯葉色に近い黄土色で、端絞り。橙色やターコイズブルーの帯〆を使っても、面白いかも。(帯〆・龍工房 帯揚げ・加藤萬)

 

今日は晩秋に楽しく着こなすコーディネートとして、朽葉色の縞お召と、ペルシャ模様を想起させるモダンデザインの帯を組み合わせてみたが、如何だっただろうか。キモノや帯に、直接季節を意識させる図案が無くとも、全体の雰囲気から、旬を感じさせることは出来よう。

季節に相応しい着姿をどのように捉えるかは、人それぞれであり、また違って当たり前かと思う。秋の葉色は、日ごとに変化して、街の姿を変えていく。人はそんな色の気配を微妙に感じ取り、それがキモノや帯の色にも反映されていく。日本人の暮らしは、季節のうつろいと共にあり、その僅かな変化を見極める感性が、あらゆるところで息づいているように思える。

最後に、今日ご紹介した品物を、もう一度どうぞ。

 

現在、甲府地方気象台で観測されている生物季節観測は、植物15種・動物17種の合計32種。これが来年からは、6種類の植物だけになってしまいます。これまで観測されてきた花は、椿や水仙、タンポポ、シロツメクサ、ヤマツツジ、百日紅など。いずれの花も、開花すると新しい季節を強く感じさせてくれます。甲府の観測植物に春の花が多いのは、盆地が寒く、誰もが暖かい季節の到来を待ち望んでいるからでしょうか。

気象台のHPを見ると、それぞれの生物ごとに、観測開始以来の記録が残されています。例えば、タンポポの開花が最も早かった年は、1994(平成6)年の2月22日、最も遅かった年は、1984(昭和59)年の4月14日。平年の開花日は3月14日で、早い年と遅い年の間では、誤差が2か月もあります。

 

季節観測では、植物では開花した日や葉が赤や黄色に色付いた日、動物では初めて鳴き声を聞いた日や、初めて見た日が記録されますが、私は香りで、季節の移ろいを感じる時があります。それは、2月末~3月初めに咲く沈丁花と、9月末~10月初めに花を付ける金木犀。この匂いが漂い始めると、春と秋の訪れを実感します。皆様には、季節の標となる花や鳥がありますか。

今日も、最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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松木 茂」プロフィール

呉服屋の仕事は時代に逆行している仕事だと思う。
利便性や効率や利潤優先を考えていたら本質を見失うことが多すぎるからだ。
手間をかけて作った品物をおすすめして、世代を越えて長く使って頂く。一点の品に20年も30年も関って、その都度手を入れて直して行く。これが基本なのだろう。
一人のお客様、一つの品物にゆっくり向き合いあわてず、丁寧に、時間をかけての「スローワーク」そんな毎日を少しずつ書いていこうと思っています。

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