バイク呉服屋の忙しい日々

今日の仕事から

10月のコーディネート  菊の小紋には、月の使者・うさぎの帯を

2020.10 26

秋を代表する年中行事と言えば、お月見。今年の十五夜(旧暦8月15日の夜の月)は今月1日で、十三夜(旧暦9月13日夜の月)は29日。中秋の名月と後の月が、同じ10月の内にあるのは珍しい。

秋の澄んだ夜空に映える、真ん丸の月。これを「月見」と称して愛でるようになったのは、平安時代初期から。919(延暦19)年、当時の宇多天皇が開いた十三夜の月見の宴が、その始まりとされている。

この宇多天皇(第59代 887・仁和3年~897・寛平9年在位)という人物は、菅原道真を重用したことでも知られ、彼の建議を受けて、遣唐使を廃止している。この天皇は、自ら政治を司る・天皇親政を執っており、国史編纂事業や、度々歌合せ(和歌の批評会)を催すなど、文化的事業にも関心が高かった。文化面から見れば、唐主体の輸入文化から国風文化への橋渡しとなる、いわば分水嶺にあたる天皇だっただろうか。

 

「この世をば わが世とぞ思ふ 望月の 欠けたることも なしと思へば」。これは藤原道長が、権勢をふるまっていた自らを詠んだ歌として、今に伝えられている。

「この世の中は、私のためにある。それは満月のごとく。今の私に欠けているものは何もない」とは、全く不遜なこと甚だしい。しかし、自分の娘を次々と天皇の后として送り込み、外戚(皇后方の親族)として、政治を意のままにしていればこそである。この和歌も、自分の三女・威子を僅か11歳の後一条天皇に嫁がせた際の宴で詠んでいる。時は、1005(寛仁2)年。宇多天皇の世から1世紀あまりで、天皇の地位は形骸化し、すっかり摂関家が幅を利かせた世に、成り変わってしまった。

さて道長は、自分の権力を月が満ちる姿・望月に例えたのだが、この名前の由来は「餅付き」から生まれていると言われる。餅付きとはもちろん、月の中でうさぎが餅をついている姿である。うさぎと月とは、切っても切れない縁があり、それ故にこの動物は「秋のイメージ」を持つ。

 

そこで今月のコーディネートでは、秋のキャラクター・月見うさぎに10月の花・菊をモチーフにした小紋を合わせて、この季節に楽しめる着姿を考えてみたいと思う。さてどのような「うさぎコーデ」になるのか、ご覧頂くことにしよう。

 

どうして、月の中にうさぎの姿があるのだろうか。それは、中国や天竺(インド)の神話や伝説の中に答えがあるが、日本で記されているものに、「今は昔」という始まりで知られている説話モノ・今昔物語集がある。

巻5・第13話に出てくるのは、老人に姿を変えた仏教の守護神・帝釈天と動物の話。ある日神は、腹を減らした老人に扮し、三匹の動物(猿・狐・兎)に食べ物探しを依頼する。猿と狐は沢山の食べ物を調達してきたが、兎は何一つ持ってくることが出来なかった。そこで兎は悩んだ末に、自分で火の中に入り、自分を食べてもらおうとする。

老人のふりをした帝釈天は、そんな兎の姿を大いに哀れみ、月の中で生かしてやろうと考えた。これが、「月うさぎ」の伝説になっているのだ。よく、白い雲のような霧に包まれているうさぎの姿が描かれているが、これは霧ではなく、自分を焼いた時の煙である。また、餅をつく姿が定番になっているが、これは先述したように、満月=望月=餅つきと想像しての姿なのであろう。

 

こうして帝釈天のおかげで、月の中に姿を蘇らせたうさぎ。満月と共に生きるこの動物は、秋の月見には欠かせないキャラクターであり、また今の季節を象徴する動物ともなった。もちろんキモノや帯の図案として、月や秋草と一緒に意匠化されることも多く、名物裂の中には、花をあしらった独特の「花兎文様(角倉文様)」がある。

けれども今回のうさぎ図案は、月の彼方から円盤に乗ってやってきた「常識外れのうさぎ」である。今日はまず、そんな個性的な帯から、品物を紹介していこう。

 

(グレー地 円盤に乗ったうさぎ模様・金砂子紋織綴れ袋帯  織屋不明)

綴れの帯と言えば、爪描き綴れに代表されるように、大変手の込んだ図案と織手間のかかる高級品のイメージが強い。綴れは、地も文様も平らな組織だが、無地場以外は織幅を貫く緯糸が渡っていない。そして図案においては、地を織りなす色緯と文様を織りなす色緯を、別々に織り進める。

織る時は、経糸の下に置いた台の上に、実物大の下絵を置く。職人は上から経糸を透かして図案を見ながら、それに従って、色糸ごとに縫取杼に巻いた緯糸を織り込む。その際に織手は、ヤスリでノコギリ刃のように削った爪の先に緯糸を掻き寄せ、これを櫛を使って寄せつつ、糸を織り込んでいく。

綴れの特徴として、経糸に沿って把釣孔(はつりこう)という隙間が出来る。それは地と図案の境界で、緯の色糸が左右に織り返されるからだが、そのために表裏に同じ文様が現われてくる。つまりは、リバーシブルなのだ。帯全体に緯糸を織り込み、下絵に描いた文様を織り上げる。当然、気の遠くなるような織手間を要する。

 

お太鼓と前模様に、それぞれ違う図案が見られる。「太鼓柄」の紋織綴袋帯。

長々と「贅沢な爪描き綴れ帯」の説明をしてしまったが、今日ご紹介する「綴れ帯」は、これとは根本的に違う。基本的に綴れは、下絵を置いて織り進めていくが、この帯は通常の帯と同じように、帯の設計図・紋図を作り、ジャガードを使って織ったもの。

綴帯については、品物をきっちりと差別化するために、前述した爪描き綴れを「本綴れ」と呼び、紋図を用いた綴れに関しては、「紋織綴れ」と呼んでいる。

まるで「円盤」に乗っているように見える、不思議なうさぎ図案。

本綴れの場合、そのほとんどが名古屋帯だが、一重太鼓で締める帯にも関わらず、第一礼装に使うことが出来る。本来ならば、二重太鼓の袋帯を使うのが常識だが、綴れは例外的である。つまりはそれだけ、格調の高い織物として認識されていることになる。

反面、紋織綴れは袋帯のことも多く、その図案によってフォーマル使いのものと、カジュアル向きのものに分かれる。この円盤うさぎの場合、図案は遊び心があるが、金銀糸主体なので、どことなくフォーマルの雰囲気も残している。はっきり言えば、どっちつかずで中途半端な感じがする。

この帯は数年前に、今は亡き菱一から仕入れたもの。菱一は染メーカーだったので、扱う織帯はすべて、帯メーカーからの仕入れである。ある時の展示会で、うちを担当する社員から、「ちょっと困っている帯があるんですけど、松木さんなら面白がってくれると思うので、見てくれませんか」と言って、出してきた。

確かにこの円盤うさぎは斬新だが、何故綴れの袋帯の図案としたのか、少し不思議である。名古屋帯なら、まだこうした遊びも受け入れられるが、二重太鼓の、しかも綴れとあっては、何とも使い難い。おそらく、菱一の帯の仕入れ担当が「間違って買ってきてしまった」のだろうが、これは、なかなか売れないだろう。

難しい帯だが、円盤に乗ったうさぎさんの行き先が無いのも、可愛そうな気がする。破格の値段が提示されたこともあり、私は買い入れることにした。この時は、いずれ見初める方が現われるだろうと高を括っていたのだが、すでに3年ほど過ぎた。

そこで今回、思い切って秋の小紋・コーディネートの主役に抜擢してみた。合わせる小紋のモチーフは、菊。果たしてどうなったのか、ご覧頂こう。

 

(一越ベージュ地 黒枠菊花弁連ね 小紋・トキワ商事)

今回、円盤うさぎ帯に使う菊小紋を、二点用意してみた。ただ同じ「菊」というモチーフでも、図案は全く異なる。フォーマルともカジュアルともつかないこの帯の雰囲気を考えると、使いどころは難しい。その中で小紋は、晴れと褻の中間に位置する要素があるので、割と使い道が自由に決められる。だから、この「中途半端なうさぎ」を、小紋ならば、上手く使いまわすことが出来るように思えた。

この菊図案は、花弁だけを生地いっぱいに連ねた総模様。そのデザインは、輪郭が黒で花芯が黄色と個性的。単純でありながらも、大小の菊をぎっしりと詰めた小紋は、かなり目立つ着姿になる。しかし、これだけ密集するキモノ図案だと、帯はあっさりした雰囲気でなければ、模様が重なってくどさがでてしまう。案外、コーディネートが難しい小紋である。

では、円盤うさぎの綴れ帯を合わせて、試すことにしよう。

 

お太鼓姿を作ってキモノの上にのせて見ると、帯の円盤うさぎとキモノの菊が、割とぶつかっていない。これで、キモノと帯それぞれの図案の個性が、互いに生かされることになる。キモノと帯双方とも、配色が少なく、色合いが似ている。だから何となく、釣り合いが取れていると思う。

前模様の合わせ。帯は、深いグレー地に金砂子が散らしてある。横二段に四機並んだ円盤が、総模様の菊の上で舞い飛んでいて、とてもユニークに映る。

小物の色は、帯とキモノ双方の配色に共通するグレーと黄色でまとめる。月のように見える帯揚げだが、黄色の図案は銀杏。帯〆は、銀とクリームの二色使い。こうすると街着より、パーティ着として使えそうな気がする。(帯〆・龍工房 帯揚げ・加藤萬)

 

(ちりめん薄撫子色地 大菊花飛模様 小紋・トキワ商事)

これも同じトキワ商事から仕入れた小紋だが、前の菊連ねと比べると、かなりオーソドックスな意匠。地色は撫子の花色を薄くしたような、優しく上品な色。一つ一つの図案が大きいので、飛柄でも模様はそれなりに目立つ。

花弁は図案化されていて、菊のようでもあり、違う花のようにも見える。ただ、添えてある葉の形を見れば、明らかに菊。花弁には、楓・菊・桜があしらわれているが、中の図案パターンは三種類ある。淡いパステル色が主体の図案配色が、地色のはんなり色と相まって、柔らかい表情を作る小紋となる。

では、こちらも円盤うさぎを合わせてみよう。

小紋地の撫子色を、帯の渋い金砂子グレーが、しっかりと引き締めている。菊連ね小紋との合わせに比べれば、極めてオーソドックスなコーディネートで、色のバランスも良いように思う。

円盤と菊の丸。どちらも丸いデザインだが、図案化された植物と動物模様なので、形の重なりはほとんど気にならない。むしろ丸さが、可愛い印象を与えている。

こちらは、明るい橙系の小物を使ってみた。帯揚げは、菊配色の橙と鶸の暈し。帯〆には、キモノ地色に近いサーモンピンクの冠組。この組み合わせなら、お茶会にも、街着にも、そして気取らないちょっとした集まりにも、使えそうだ。菊もうさぎもかなりデザイン化されているので、その分季節感が弱まり、秋に限ることなく使える組み合わせとなるだろう。(帯〆・加藤萬 帯揚げ・木屋太今河織物)

 

さて今日は、斬新な「円盤うさぎ模様」の紋織綴れ帯を使い、秋を代表する植物・菊図案の小紋コーディネートを考えてきた。こうして見ると、扱いに悩むような帯でも、合わせる品物により、その個性を十分に発揮できる場があるように思う。

もちろん、無難な組み合わせには安心感が持てるが、たまには視点を変えて、思い切り「図案の個性」が前に出るような着姿を考えても良い気がする。こうなると、バリエーションはかなり豊かになり、楽しさも増す。ぜひ皆様も、たまには「自分の殻」を打ち破り、様々な組み合わせを試して頂きたい。

最後に、今日ご紹介したコーディネートを、もう一度どうぞ。

 

団子と並び、お月見に欠かせないのが、薄(ススキ)。里芋やカボチャなどの秋の収穫物と一緒に供えて、翌年の豊作を祈念します。

薄には、尾花や芒、茅など幾つもの別名があります。尾花とは、花が終わると、穂が動物の尾っぽのように毛羽立つことに由来し、茅は、この植物の茎や葉が、屋根をふく材料(茅葺の刈屋根)になっていることを意味しています。

 

秋の野の 草の袂か花薄 穂に出でて招く 袖と見ゆらむ(古今集243・在原棟梁)訳:秋の野で、穂を出した薄が風に揺れる姿は、まるで人を手招きする袖のようだ。

古来からこんな風に詠まれているように、薄にはまた、「袖振草(そでふりぐさ)」というロマンティックな別名があります。華やかな花ではありませんが、寂しげな秋の風情を表すためには、絶対に欠かせません。文様の中では、こうしたバイプレーヤーは貴重な存在です。

秋野や川辺ならば、どこにでも見られる薄。もうすぐ来る十三夜には、ぜひご自分で薄を摘んで、お供えをしてみて下さい。たぶんそれだけで、一段と秋の深まりを感じることが出来るでしょう。

今日も、最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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松木 茂」プロフィール

呉服屋の仕事は時代に逆行している仕事だと思う。
利便性や効率や利潤優先を考えていたら本質を見失うことが多すぎるからだ。
手間をかけて作った品物をおすすめして、世代を越えて長く使って頂く。一点の品に20年も30年も関って、その都度手を入れて直して行く。これが基本なのだろう。
一人のお客様、一つの品物にゆっくり向き合いあわてず、丁寧に、時間をかけての「スローワーク」そんな毎日を少しずつ書いていこうと思っています。

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