バイク呉服屋の忙しい日々

現代呉服屋事情

毎月届く、呉服屋への招待状   取引先が主催する展示会とは 

2020.10 09

モノの作り手を川上、消費者を川下と言うように、流通は川の流れに例えられる。そして、我々のような小売屋や問屋は、中間業者ということで川中の名前が付いている。どんな製品にも言えることだろうが、消費者には、モノを作る現場から店頭に並ぶまでに、どのような過程を辿っているのかは、あまり知られていない。

中でも呉服は、古い商慣習が随所に残ると同時に、流通過程が複雑なため、なおのこと判り難い。特に、外からは見えない川中での商い如何は、価格を大きく左右する。その結果として、消費者がこの商売に対して疑心暗鬼を抱き、ひいてはこれが、業界全体の信頼を損いかねない一つの要因になっている。

 

言うまでもなく、どんな品物でも、質と価格は比例していなければならない。けれども呉服の場合、通ってきた流通経路により、たとえ同じメーカーが作った品物でも大きく価格が変わる。そして、問屋が小売屋に品物を一時貸しする業界特有の「浮貸制度」は、なお価格を不透明にする。そこにあるのは、小売が品物を買い取って店の棚に置く、通常の仕入れ価格との大きな差である。

多くの小売屋は、品物を持つリスクを回避するため、仕入れをせずに、展示会を開くときだけ、品物を借りる。これを受ける問屋側は、貸す代償として、当然卸価格を高く設定する。そのため、否応なく展示会での価格は高くなる。それは時として、きちんと仕入れて売る価格の数倍にも、跳ね上がることがある。さらにこの問屋自体が、モノ作りをしていなければ、小売屋へ商品を貸すために、メーカーから品物を借りてくる。つまり展示品は、「借り物の重ね餅」になっているのだ。

そして悲しいかな、消費者にこのからくりを見抜く術は無い。現状は、質に応じた価格が付けられているか否かが、非常に判り難い呉服だからこその、いびつな商いになっている。もちろん呉服屋が開く展示会が、すべてこの通りとは言わないが、こうした要因を数多く孕んでいることは、間違いない。

 

よく、「付き合っている友人を見れば、その人となりが判る」と言われるが、各々の呉服屋の質にも同じことが言えるだろう。それは「付き合っている取引先を見れば、どんな店なのかが判る」ということだ。

専門店であれば、一口に問屋と言っても、モノづくりをしているメーカーとの取引を重視する。川上と川中を兼務する染屋や帯メーカーと直接取引出来れば、それだけ流通を省略することとなり、安く仕入れて、安く売ることが出来る。またそれは価格面だけでなく、製品について、作り手から直接情報を得ることが出来るという利点がある。小売の者が、モノ作りの過程を詳しく知ることは、消費者に品物の情報を正しく伝えるための第一歩になる。

では、専門店に連なるメーカーや問屋は、通常どんな売り方を採っているのか。こうしたことは、消費者からはほとんどわからない。そこで今日は、皆様にその一端をご紹介しようと思う。ほぼ毎月のように、月初に開かれる問屋の展示会。小売屋には、来場を促す「招待状」が送られてくるが、この案内にも取引先の個性が伺える。これをご覧頂きながら、専門店と取引する問屋とはどんな店なのかを、理解して頂くことにしたい。

 

龍村美術織物の案内状。春と秋の二回、帯展・「斐成會(あやなすかい)」を開く。

小売屋が各々の問屋(メーカー)から品物を仕入れる機会は、ほとんどが展示会である。以前は、問屋の営業マンが出張の際に品物を持参し、商いをすることも多かったが、どこも毎月取引先に出かける余裕がなくなり、今はめっきり少なくなった。

問屋が展示会を開くのは、月の初め。問屋によって、ほぼ毎月開催するところもあれば、隔月の会社もあり、中には年に1~2回だけのところもある。呉服関係の問屋の多くは、京都に本社を構えているが、中には東京に営業所を置く店がある。こうした問屋では、月初に京都で、そして一週間置いて東京で展示会を開催する。

 

展示会は、問屋ごとに毎回テーマを決めて開かれるが、呉服の場合は、半年先を見据えた上で、モノづくりをしている。その関係から、冬の寒い時期に開く会(1~2月)では、その年の夏に商いをする品物が発表され、初夏(5~6月)は、その年の秋・冬用の品物が並ぶ。

また社ごとに、バーゲンを開催する月もあれば、記念行事でもあれば、それに合わせた品物を集めて販売することもある。先述したように、普段品物はデパートや各小売店に「貸し出されて」いることも多く、展示会を開催する月初以外だと、社内に品物が少ない。需要の減少により、問屋が扱う品物の量は、毎年減り続けている。そして当然メーカーは、作る数を制限して、リスクを出来るだけ回避している。だから問屋に品物が揃って並ぶのは、ほぼ展示会の時に限られ、なおのこと小売屋は、この機会に仕入れをせざるを得ないのである。

ではバイク呉服屋の取引先は、どのような展示会の案内状を送り、私を仕入れの場へと誘っているのか。個別に、ご紹介することとしよう。

 

竺仙の案内状 年初に外の会場で大々的に開催される会は、唯一の展示会でもある。

まず見て頂くのは、達筆な宛名が見える竺仙の案内。毎年正月明けに、浅草の都立産業貿易センターで開催される展示会は、竺仙が開く唯一の会。この機会以外には、大々的に品物を集め、取引先に来場を呼び掛けることはほぼ無い。

先ほどもお話したが、キモノや帯は半年先を見越して製作される。メインの会を1月に開催する理由は、浴衣が主力商品の竺仙だからこそ。竺仙と取引のある店は、この展示会でその年に扱う浴衣を選び、誂えを依頼する。竺仙の浴衣は現品より、見本帳から選んで注文するモノがほとんど。麻半巾や琉球系の半巾帯も、ここで発注する。

案内状には、その年のテーマが記されている。今年は「ゆかたも今や、夏きもの」であったが、思いもよらぬ感染症の流行で、浴衣を始めとする夏薄物は、ほとんど動かなかった。この展示会を開いた1月は、まさか今年の夏が、こんな事態になるとは思いもせず、需要を見越して仕入れをしてしまった店も多いだろう。うちも含めて、在庫を残したところは、必然的に来年の仕入れを抑える。これはやむを得まい。

 

龍村美術織物が開催する展示会・斐成會の案内状。これは、今年9月のもの。

この斐成會(あやなすかい)という展示会名は、中国・晋代(3世紀後半)の文学者・左思(さし)の漢詩、「貝錦斐成、灌色江波」(貝殻の文様のように美しい錦、色鮮やかな糸を集めて織りなした錦のようにあやがあり、美しい様子)から、初代龍村平蔵が引用して名付けたと、案内状に記されている。

春と秋の二回、京都のホテルオークラや産業会館で開催されるこの会は、取引先に向けた最大の展示会。新作の袋帯を始め、小物類が一堂に揃うのは、この機会をおいて他には無い。龍村の帯は値が張る品物が多いので、おいそれと手が出せないが、仕入れをせずとも、手を尽くした帯を見ることが出来るのは、直接取引をしている店の特権だ。

 

本社の三階にある織場を写した絵葉書は、紫紘の案内状。

コロナ禍で、春先から5月まで営業を休んでいた紫紘。そのため、特別なバーゲンセール・赤札の会を、9月に本社で開催した。これまで、東千本町の本社で展示会をすることは無く、バーゲンも暮れの12月に一日だけだったことを考えれば、こうした会を開くこと自体が、異例なこと。

百貨店を始めとして、多くの小売店は、5月まで店を閉めていたところが多い。そのため問屋やメーカーも、営業したところで取引は皆無に近く、必然的に休むところがほとんどだった。案内状にも、営業再開の旨が記してある。無論、こんなことは初めてだが、病が完全に抑え込まれないと、いつまた同じような状態になるのか、判らない。

 

大島バーゲンセールの案内と、丹波布と結城紬を写した葉書は、廣田紬。

シンプルに品物の画像を使った案内は、いかにも紬専門問屋らしい。廣田紬では、ほぼ毎月京都本社で展示会をする。この葉書にある大島のバーゲンは、今月初めに開催されたが、実は展示会場に行かずとも、品物を見られるようになっていた。

廣田紬のHPでは、今回出品された大島の画像が、すべてアップされている。もちろん一般の人は見ることが出来ないが、取引先にはパスワードが知らされているので、これを使って画像置き場に入る。そこで取引先が気になる品物があれば、メールか電話で連絡し、一度送ってもらって実物を確認した上で、仕入れるか否かを決める。

実はバイク呉服屋も、最初このHP展示会を知らなかった。今の状況では、地方から東京や京都に行くのは、やはり躊躇われる。だから、こうしたリモート展示会は有効で、これからもっと増えるだろう。先日画像を見て、良さげな大島が三点ほどあったので、早速送ってもらうことにした。

 

京都の問屋やメーカーは、年に数度東京で、4~5社ごとに共同展示会を開く。よく使う会場が、富沢町の綿商会館。案内状を見ると、同じ日の同じ時間に同じ会場の3、4階で開かれている。うちの取引先は、3階の紫紘と千切屋治兵衛、4階の廣田紬。見に行く側は、同じ場所だと助かる。実際に私もこの時、駆け足で3社を見て回った。

今月、京都で開催された四社合同の展示会。紫紘と米沢の紬問屋・粟野商事が一緒になっている。こうした共同展示会では、取引の無い問屋の品物を見ることも出来、そこで新たなお付き合いが始まることもある。米沢の粟野商事との取引も、この紫紘との共同開催の会が契機だった。

 

小物メーカー・加藤萬の案内状。京都と東京で、開催日をずらしている。

夏真っ盛りの7月には、夏モノはもうバーゲンで、正月用小物の発表と受注を始めている。小物メーカーも、半年先を見ながらモノ作りをするのは、染織メーカーと同じ。いつもは10月に行うバーゲンも、今年はひと月前倒しで、9月に開催。コロナは、各問屋の展示会にも様々に影響している。

 

京都の染メーカー・トキワ商事の案内状。日を変えながら、東京・名古屋・福岡でも開催される。地方に取引先を多く持つ問屋は、こうした取り組みが必要になる。

上物の染モノを扱うメーカー問屋・千切屋の案内。この秋、京都本社が新しくなったので、それを記念してバーゲンセールを打っている。社屋移転のような事業は、度々あることではないので、こうした時のセールは、思い切った価格を提示することが多い。仕入れる側とすれば、チャンスである。

一文も、京都に本社を置く老舗。昨年、双子の女の子用として、オリジナルの桃と桜の小紋を製作してもらったように、染帯や付下げ、小紋を得意とする染問屋。千切屋とこの一文は、昨年春に起こった菱一の廃業を受けて、新たに取引を始めた問屋である。

 

今日は、毎月送られてくる「案内状」を通して、呉服専門店とそこに連なる取引先の関係をお話してきた。もちろんこれは入口であり、実際の商いの姿はほとんど見えてはいない。だが呉服専門店としては、どのような問屋・メーカーの品物を扱っているか、出来る限り情報を開示することは必要であろう。何故ならそれこそが、消費者にとって、品物を探したり店を選ぶ時の標となるからである。

平成以降の30年間で、呉服業界を取り巻く環境は、大きく変わった。需要の落ち込みは、そのまま問屋やメーカーあるいは小売屋など、いわば「流通の川中」に存在する者の淘汰に繋がってきたのである。この先、和装が皆無になることは絶対に無いだろうが、どこまで行ったら下げ止まるのか、誰にもわからない。そして今年のコロナ禍によって、なお不透明さが増したことだけは、間違いあるまい。

問屋も小売屋も、この事態を受けて、これまでの商いをドラスティックに変えざるを得ないだろう。この機会を、「絶好の変革チャンス」と前向きに受け止めたところだけが生き残れると、私は思っている。

 

今日の稿で、呉服屋と問屋の取引が、今なお「アナクロ=時代錯誤」的な方法を主流としていることを、読者の方々には理解して頂いたと思います。ですが、僅かながらも、ITを利用した「デジタル的商い」を試行するところも出てきました。

帯メーカーの川島織物などは、ユーチューブに展示会の様子や、出品した品物の画像をアップし、それを予めパスワードを知らせておいた取引先に見てもらうという、いわゆる「リモート展示会」を今月初めて開きました。本文にも書いた廣田紬の方式も、一部はこれに当たるでしょう。

しかしながら、実際に仕入れをするとなれば、現物を見ない訳にはいきません。遠隔展示会は、商いの端緒に過ぎないのです。もちろんこうした方式を採用する取引先は、これから多くなるでしょうが、呉服という品物の特殊性は、アナクロから完全に離れることが難しい、という点にあると思います。

これは、小売屋と問屋の関係だけでなく、小売屋と消費者の関係も同じこと。パソコンに構築した仮想世界と現実を認識して、どのように使い分けるのか。これがこの先、商いをする上で最も大切なポイントになりますね。

今日も、最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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このブログに掲載されている品物は、全て、現在当店が扱っているものか、以前当店で扱ったものです。

松木 茂」プロフィール

呉服屋の仕事は時代に逆行している仕事だと思う。
利便性や効率や利潤優先を考えていたら本質を見失うことが多すぎるからだ。
手間をかけて作った品物をおすすめして、世代を越えて長く使って頂く。一点の品に20年も30年も関って、その都度手を入れて直して行く。これが基本なのだろう。
一人のお客様、一つの品物にゆっくり向き合いあわてず、丁寧に、時間をかけての「スローワーク」そんな毎日を少しずつ書いていこうと思っています。

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