バイク呉服屋の忙しい日々

今日の仕事から

4月のコーディネート  淡色の桐と水仙で、門出の春を

2020.04 26

今は、不要不急の外出を、出来る限り避けなければならない。非常事態宣言が発せられて以降は、営業店舗もかなり少なくなったことから、都心の繁華街では人通りが消えた。ところが、居住地近くの商店街や公園では、逆に人出が増えたところがある。家籠りが長くなるとストレスが溜まり、外に出たくなる気持ちは判るが、こうした行動は、ウイルスの飛散に影響しかねない。

そして、気分転換にと、車で少し遠出をする人もいる。鎌倉や江の島、千葉の九十九里、茨城の大洗など、先週末には県外ナンバーの車が目立ったようだ。県を跨いで移動することは、よほどのことでなければ自粛しなければならないが、首に縄を付けて家に蟄居させる訳にもいかず、それぞれの自治体ではこんな来訪者の扱いに苦慮している。これでは、近づきつつあるゴールデンウイークの人の流れが、気がかりになる。

 

本来ならこの時期は、一年の中で最も多くの人が移動する。旅行や故郷へ帰る人達で、飛行機や新幹線は混雑し、高速道路は各所で激しい渋滞が起こる。それが今年は、空路も鉄路も、連休の予約がほとんど入っていない。今や乗客の数は、昨年比で9割以上減っている。こんな事態が長く続けば、やがては経営の根幹に関わってくるだろう。

うちの三人の娘たちも、山梨を離れて、それぞれが違う場所で働いている。いつもの連休なら、各々の予定に合わせてみんな帰ってくるが、今年は誰も来ない。また家内も、実家で暮らす高齢の父親が心配だが、今はなかなか行くことが出来ない。どうやら休みは、夫婦二人だけで、家でじっと過ごすほかは無さそうだ。

娘たちに聞けば、この春招かれていた友人の結婚式が、ことごとく中止になり、日延べされたという。現状では、致し方が無かっただろうが、何とも気の毒である。結婚式は、式場選びから始まって、何か月も前から様々な準備をしなければならないので、また日取りから決め直すとなると、かなり大変なことになる。

 

春は、結婚シーズンであるばかりか、入学・卒業と節目の式が重なり、一年のうちで一番和装の出番が多い。結婚式なら黒留袖や色留袖、訪問着など重厚な第一礼装、入卒ならば無地や控えめな付下げ。いつもならば、フォーマルな場を彩るキモノの良さを、多くの人に実感して頂ける季節になるはず。

しかし、今年は難しい。そこで今日のコーディネートでは、春を感じさせる色とモチーフを使い、上品で優しい印象を残す着姿を考えてみよう。そして、入卒を始め、披露宴やパーティなど、出来るだけ幅広い場面で使うことが出来るような装いとしてみたい。

来年の春が、いつもの春であることを願いつつ。

 

(薄水浅葱色 桐に水仙模様・江戸友禅付下げ  白地 立湧菊模様・袋帯)

訪問着と付下げ、どちらも着用する場面は同じだが、模様に嵩があり、全体に繋がりのある訪問着は、豪華な印象を持つ。一方、模様が控えめで、分離することが多い付下げは、おとなしく楚々とした雰囲気が漂う。

訪問着は、絵羽付けのまま(キモノの形に仮縫いして)模様を描くために、全体に繋がりのある図案となりやすく、付下げは反物のままで製作されるので、それぞれの図案が離れやすい。二つのアイテムの違いは、そのまま作り方の違いが特徴となって表れるとも言えるだろう。豪華な総模様の訪問着は、無地に近いおとなしい意匠の付下げと比べれば、格上の品物となろうが、使い道を考えれば、基本的にはどちらも変わらない。

 

バイク呉服屋は、控えめでおとなしい品物が好きなので、訪問着よりも付下げの扱いが多いが、これも着用される方がどんな場面で使うかにより、変わってくる。ただ、仕入れをする時には、やはり自分の趣向に沿うモノを選ぶ傾向は否めず、棚にはどうしても雰囲気が似通う品物が並んでしまう。これは、個人で営む専門店の特徴と言えるが、バリエーションに富んだ品揃えという観点から見ると、随分外れているように思う。

今日ご紹介するコーディネートは、あくまで「控えめで上品に」というコンセプトの上に立っている。しかも、地色や配色はパステル系の淡い色を意識している。私の場合、春の着姿はどうしても、「明るく優しく」が基本になってしまうので、毎年この季節にご覧頂く品物は、同じようになってしまうが、その点はどうかお許し願いたい。

 

(薄水浅葱色地 桐に水仙模様 手描江戸友禅付下げ・大松【菱一】)

画像でお判りのように、桐と水仙だけを描いたシンプルな意匠。模様の繋がりがほとんどなく、いかにも付下げらしい品物。左袖と胸の図案は水仙、着姿の中心となる上前の衽、身頃には桐と水仙。

地色は、僅かに青みを含んだ銀鼠色で、水浅葱色をより淡くしたような色に映る。画像で見るよりも実際の方が、パステル感があるだろう。また、挿色も柔らかいので、全体からは、淡々(あわあわ)とした雰囲気が伝わってくる。

 

模様の中心・上前衽と身頃の合わせ。

花札で桐は、最後の月・12番目の花として位置付けられているので、冬の花と思われがちだが、本来花が咲くのは、晩春から初夏にかけての4~5月。つまりはこれからが旬で、淡い紫色の花を付ける。キモノや帯で使う桐は、季節感よりも文様として意識されることが多く、菊と並んで高貴な花文の代表格である。

一方水仙は、椿と並んで春を告げる花として認識される。旬は1~3月。季節とすれば冬から春になるが、この花が咲くと、「春近し」と感じられる。つまりこの付下げは、同じ春花でも、少し咲く季節がずれる桐と水仙を並べ、模様全体から春姿を醸し出そうとしているのだろう。

メインの桐花全体を写してみた。葉の中には、菱に梅花、雪輪、蔓を持った鉄線を描いている。こうしたちょっとした工夫で、意匠としての広がりを持たせることが出来る。

桐の花弁を拡大してみた。花びら一枚一枚の暈し方が全て違う。そして緩やかな枝には、手で描いた糸目ならではの自然な姿が表れている。

この付下げは、今では数少ない江戸手描き友禅の工房・大松の品物。花びらを縁取る刺繍は所々で光を放っているが、こうした金糸の使い方は、大羊居や大彦の作品にも見られる。いずれも、江戸・安永年間に創業した大黒屋幸吉(大幸)を源流とする友禅の作り手。現在大松の作品は、四代目・野口雅史氏の手に引き継がれて製作されている。

うちはこれまで、菱一から大松の品物を仕入れていたが、昨春に菱一が廃業してしまったので、現在は仕入れ先を失っている。貴重な江戸手描友禅だけに、また扱いたいと思うのだが、大松の作品を扱う問屋がなかなか見つからない。現在店の棚に残っているのは、この付下げを含めて三点だけになった。

こちらは水仙。白と黄色を主体とした花弁と長い茎で、この花を水仙と判断したが、実際には、こうした葉は付いていない。図案としてデザイン化されているので、細かいことにそれほど留意しなくとも良いのだが。

水仙の花弁を拡大してみた。こちらも所々の花の輪郭に刺繍が施されている。また中には、銀であしらった花芯を持つ花も見られる。品物全体から見れば、ほとんど目立つことのない小さな花弁も、実に丁寧に描く。これこそ、手描友禅ならではの意匠である。

さて、春の花をモチーフとした淡色の付下げを、もっと春らしい姿で演出するためには、どんな帯を使えば良いのか。考えることにしよう。

 

(白地 子持立湧菊文様 袋帯六通・紫紘)

清潔感溢れるシンプルな白地の立湧模様。帯の図案としてはありふれているが、パステル色主体の配色が優しい帯姿となり、見る人に明るい印象を残すはず。

有職文の一つとして、よく知られている立湧文様。キモノや帯で使う場合、その多くは、この帯と同じように、瓢箪のように上へ上へと連なっている。そして立湧の内側には、様々な図案を置く。この帯は図案化した菊だが、他に雲や波、笹、藤なども使う。

立湧はご覧の通り、相対する二本の線の中ほどが膨らみ、両端はすぼまった形になっている。文様の名前に「立湧」と付いたのは、この姿を水蒸気=雲気が立ち上る姿と見たからである。中でも、内側に雲を入れ込む図案・雲立湧は、文様の由来となった代表格の立湧文であり、この意匠の装束は限られた高位の者が身に付けた。なおこの文様は、平安貴族の衣装として女子の袿(うちぎ)、男子の指貫(さしぬき・裾を紐で括る袴)に使われることが多かった。

こうしてお太鼓を作ってみると、立体感のある立湧文様が、動きのある帯姿を作るように思える。そして、単純な図案の配列が、すっきりとした印象を残す。

この帯を織ったのは紫紘だが、帯の端には文様の名前と会社のロゴ、それに伊太郎謹製の文字が見える。言うまでもなく、創設者・山口伊太郎の名前だが、不思議なことに、もっと手を尽くした細かい紋図の高価な帯には、伊太郎の名前が入っていない。二月にご紹介した「源氏物語絵巻・竹河 春艶文」にもない。

これはどうしたことかと紫紘の担当者に聞くと、伊太郎翁は、「特徴ある精緻な図案の帯は、すぐワシが織ったものとわかるやろ。けどな、誰もがモチーフとするありきたりな図案の帯は、誰が作ったか一目で判らない。単純な図案だからこそ、ワシの名前を入れておく。きちんと作り手を示しておかないと、帯の価値がわかり難くなる」と言ったそうだ。ポピュラーな図案も、「ワシが織ると違うんやで」と言いたかったのだろう。

全く同じ図案で、黒地の帯。模様の配色も変わらないが、地が白と黒では全く印象が違う。本当は白地だけを仕入れるつもりだったが、あまりの違いに黒地まで買ってしまった。「対照的な色を二本持っていると、重宝でっせ」という、紫紘の甘言にまんまと乗せられてしまったのだが、これだけ雰囲気が違うと、合わせるキモノも変わって来るので、商いをする上では持っていても損は無い。

さて、前置きがすっかり長くなってしまったが、同じイメージを持つ付下げと袋帯のコーディネート、試すことにしよう。

 

キモノの薄水浅葱地色はかなり薄い色だが、帯地の白がキリリとしているので、割とコントラストが付く。しかも、双方の模様配色が柔らかく、キモノと帯の色はしっかりと同調している。やはり似たモノ同士の合わせは、雰囲気を増幅させる。

前の合わせ。立湧文が波文のように見える。配列が単純な幾何学文は、お太鼓と前とで姿が変わり、見る者には、変化を富んだ帯姿を印象付けることが出来よう。また、キモノは図案が離れた植物文、帯は流れのある幾何学文と、文様にコントラストが付いているため、色の気配は似ているものの、キモノと帯双方が、どちらかに埋没してしまうようなことはなく、独自の個性は保たれている。

今回は、あえて小物の色を、着姿の中に埋没させる方法を試してみた。帯〆、帯揚げともに、帯配色の一つ・淡い青磁色を使っている。これだと、着姿を引き締める色が無いが、全体がより淡くなるだろう。はんなり感を意識するならば、こんな組み合わせも悪くないと思うが、如何だろうか。(帯揚げ・加藤萬 帯〆・龍工房)

 

今日は、門出の春姿を演出するというテーマで品物を選び、コーディネートを考えてみた。今年の春は、様々な式典が中止になったことで、改めて節目にあたる儀式の大切さが、再認識されたように思う。残念ながら多くの若者が、何かあやふやなままで、次のステップを迎えることになってしまったが、社会はこうした人たちの気持ちを慮り、暖かく見守って行くことも必要ではないだろうか。

繰り返しにはなるが、来るべき次の春が、晴れやかに迎えられることを祈りたい。  最後に、今日ご紹介した品物を、もう一度どうぞ。

 

当為(とうい)という言葉があります。この意味は「なすべきこと、あるべきこと」。今は、特効薬もワクチンも無いウイルスに対し、出来る限り蔓延させないための防御をすること。それはやはり、人との接触を避けることが全てだと思います。

そして、医療に従事されている方々には、とてつもなく重い負担が強いられています。そんな方々の現状を考えれば、みんなで我慢すること、自粛することが「当為」に当たるでしょう。連休が始まりますが、私も許される範囲で適度な運動をしながら、おうちで過ごすつもりです。

ということで、4月29日~5月7日は休業致します。現在も時短営業をしておりますが、連休後の予定はまだ決まっておりません。店舗営業に関しては、またブログ上でお知らせする予定です。なおご用件は、メールにて承っておりますので、どうぞお寄せ下さい。

今日も、最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

 

 

 

 

 

日付から

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このブログに掲載されている品物は、全て、現在当店が扱っているものか、以前当店で扱ったものです。

松木 茂」プロフィール

呉服屋の仕事は時代に逆行している仕事だと思う。
利便性や効率や利潤優先を考えていたら本質を見失うことが多すぎるからだ。
手間をかけて作った品物をおすすめして、世代を越えて長く使って頂く。一点の品に20年も30年も関って、その都度手を入れて直して行く。これが基本なのだろう。
一人のお客様、一つの品物にゆっくり向き合いあわてず、丁寧に、時間をかけての「スローワーク」そんな毎日を少しずつ書いていこうと思っています。

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