バイク呉服屋の忙しい日々

今日の仕事から

伝統的工芸品の証紙から判ること(前編)  本場大島紬編

2020.03 10

消費者が品物を購入する時には、誰が、何処で、どのような方法を使って生産したかということが、モノ選びの大切な情報となる。特に、毎日の生活で欠かせない食品ではその意識が強くなり、安全性や鮮度は常に注視される。

そこで最近よく見かけるのが、野菜に貼ってあるQRコード。ここには、生産場所や生産者の名前はもとより、どんな方法で生産されたか、生産履歴の全てが入っている。多くの情報が格納出来て、スマホで簡単に読み取ることの出来るQRコードは、品物の情報を伝達するためには、とても有意な手段である。

食品に限らず、生産者や流通の者にとって、商品の情報を的確に消費者に伝えることは、何より大切なことで、発信の仕方次第で、売れ行きが大きく変わる。そして当然、情報に間違いが許されるものではない。多くの品物には、製造物責任法(PL法)や品質表示法などの法令の定めがあり、企業や個人は、常に扱いに責任が問われている。

 

翻って、呉服屋が扱う品物を考えてみよう。一般的に、キモノや帯の質や、それに見合う価格であるか否かを、消費者が判断することは難しい。とすれば、扱う小売の者には、正しく商品の情報を伝えて、モノ選びの判断となる材料を消費者に提供することが、どうしても求められる。

けれども、それが各々の売り場できちんとなされているか否か、現状では相当怪しい。では何故、商いとしてこんな基本的なことを怠っているのか、と思われるだろうが、その理由は幾つもあり、そこには呉服業界の不可解な流通や販売方法とも関りがあって、簡単に説明することは難しい。だが、携わる者の多くに、基本的な知識が無くなってしまったことだけは、確かである。

消費者にしてみれば、品物を扱う店の者が、「モノを知らない」のでは、困る。八百屋だって、仕入れた野菜のことに理解はあり、旬はいつで、どのような食べ方をしたら一番美味いかぐらいは、客に話すことが出来て当然だ。肉屋や魚屋だって同じだろう。けれども今、多くの呉服屋にはそれが出来ないことになってしまっている。

こんな情けない現状を踏まえると、これはもう品物そのものに、生産方法や品質の情報を載せておく以外にはあるまい。では、どうするのか。それは前述したQRコードを使えば、簡単に出来る。例えばインクジェットで染めたものなら、原産国や製造工場の名前を掲載しておけば良いし、手描き友禅なら、模様を考案した図案師から、下絵師、糸目糊置き職人、地染め職人、色挿し職人など、仕事に関わったすべての人を掲載し、その仕事を一手に統括した悉皆屋(染匠)も明示する。

いずれにせよメーカーや問屋が、品物を流通させる責任において、この情報開示を行えば、消費者の理解はずっと容易になるだろう。野菜の販売には出来て、キモノや帯には出来ないというのは、情報化が進むこのご時世では、全くもって不可解と言わざるを得ない。私は、業界として、すぐにでも取り組むべき課題と思うが、残念ながらそんな気配はどこにも感じられない。

 

和装品においては、消費者が知り得る情報が少ない中で、一部に「どのような品物か」を見分ける指標がある。それが「証紙」である。特に、国から「伝統的産業品」として認可を受けた品物には、厳密な製造基準があり、証紙そのものに重みがある。

そこで今日から二回に分けて、品物に貼付けてある証紙に注目して、話を進めることにしよう。証紙と言っても、品物によって様々なものがあるが、そこから何を読み取れるのか、見ていくことにしたい。

 

本場大島紬に貼られた二通りの証紙。左の地球印が奄美組合・右の旗印が鹿児島組合

伝の一文字と日の丸を合わせた「伝統的工芸品」のシンボルマーク。この印をつけた品物は、昨年11月の時点で232点。その中で、呉服屋の扱う織物は38点、染色品は12点である。今回この稿では、織物の証紙に絞って話を進めてみたい。

 

「伝統マーク」を付けた品物の正式名称は、「経済産業大臣指定伝統的工芸品」であるが、法令が出来たのは1974(昭和49)年で、その指定は翌年から始まった。指定された工芸品は、その名称とともに、伝統的な技術・技法、伝統的に使用されてきた原材料、製造されている地域が「経済産業省告示」として官報に掲載され、この条件を満たす品物だけが、伝統的工芸品と認められ、伝統マークを貼ることが出来る。

産地では、製造した品物が「告示の条件」に適うものか、厳密な検査が求められた。その責務を担っていたのが、産地それぞれの組合である。法令にも、特定製造協同組合等は、伝統証紙表示事業実施規定に従い、対象となる伝統的工芸品について検査を行い、その基準に合格したものに、伝統証紙を貼付けするとある。つまり、経産省が認可した産地組合だけが、証紙を貼ることが出来るのだが、それは産地が質に対する責任をすべて負うという意味でもある。

こうして作り手が厳格に審査し、「伝統マーク」の入った伝統的工芸品は、産地や携わる職人にとって、誇りとなり、また消費者にとっては品物の質を識別する材料になった。では、産地別にどのような証紙表示がなされているか、今回は大島を取り上げる。

 

(工芸品指定・1975年 本場大島紬  検査:本場奄美大島協同組合)

本場大島紬の検査を行う組合は、奄美と鹿児島の二つの組合。1901(明治34)年に組合が設立された当時は、鹿児島県大島紬同業組合として一つだったが、機場が、奄美・鹿児島と離れて存在するために、戦後地域ごとに二つの組合を作った。その関係から、伝統的産業品として指定された後も、別々に検査を行っている。もちろん、どちらも告示された基準を同様に順守していることに違いはない。

奄美組合のトレードマークは、地球儀。上の画像を見ると、地球儀印の組合証紙の横に、伝統マークが貼付けられている。そして、証紙には織屋の名前(この品物は伊集院リキ商店)、検査合格の割印、検査した組合員名、反物の長さなどが記載されている。

こちらは、別の奄美証紙の大島。反物下端に◇に一のロゴと「別誂」の織り出しが見える。これは、今は無き菱一が、誂え品=留め柄として奄美の平田絹織物に発注した品物。昔は、問屋が絣図案を指定して織らせ、出来上がた品物を全て引き取る商い方式が主流だった。

また違う奄美証紙の大島。製織は前田紬工芸。画像では、地球儀証紙の横に、水色で菱型の証紙が見えるが、これが泥染を使った品物であることの証。草木染めを使っている品物には、薄茶色の「草木泥染証紙」が貼られる。そして産地証明として証紙を貼るばかりでなく、奄美の品物には、反物の先端に赤で、地球儀と本場奄美大島の文字を織り込んでいる。最初の画像では証紙の下に隠れてしまったが、後の二点では織り出し文字がはっきり見えている。

また、どの画像にも、地球儀マークの下にパンチ穴が開いていることを確認できるが、証紙に穴を打ち抜くことが、きちんと検査を経たことを意味し、それが、証紙の偽造を防止する役割を果たしている。このことからも、産地にとってこの証紙が、いかに重要なものであるかを理解出来よう。

 

(工芸品指定 1975年 本場大島紬  検査:本場大島紬織物協同組合)

こちらは鹿児島の組合を通った品物。トレードマークは、日の丸の旗印。奄美の品物と同様に、こちらも証紙の横に伝統マークが貼ってある。証紙の形式はほぼ同じで、織屋の名前(この品物は田畑織物)や反物の巾と長さ、検査人の印が見える。

鹿児島証紙の品物にも、菱一別織の織り出しが見られるものがある。製織したのは恵織物で、これも菱一の留め柄だった。恵は、先日ブログで取り上げた白泥染に代表されるように、すぐれた技術を持つ織屋だったが、図案や配色もモダンなものが多かった。また、奄美同様に、反物下端には織り出しがあり、こちらは、旗印を挟んで黄色で本場・大島と入っている。

恵の白大島に貼ってある「白泥染」の証紙。そして、この技術が特許を得たものであることを証明する証書も一緒に貼ってある。

鹿児島産地の品物に貼られた植物染の証。蓼藍と糸巻の図案で判るように、天然藍を染料にしていることを意味している。藍大島には、天然染料と化学染料を使う二通りの品物があるが、この証紙があることで、差別化される。

あまり知られていない宮崎・都城の大島紬証紙。証紙に見える「都城絹織物事業協同組合」に加盟している業者は、薩摩絣の織元として知られている東郷織物一社だけである。この組合が経産省から検査認可を受けていないので、伝統マークを貼ることは出来ないが、この証紙を貼った品物も、きちんとした大島紬であることに変わりはない。

 

さて、大島における二つの組合証紙を、それぞれに見てきた。伝統的工芸品の指定を受けてすでに半世紀近くが経つが、産地を取り巻く環境も大きく変わった。そして、同じ「告示」に基づいてモノ作りを継続してきたが、現在双方の組合には、将来に向けての方向性に違いがみられている。

今から三年前の統計によると、奄美組合の検査を通った大島は4402反。一方、鹿児島組合では20376反。生産数だけ見れば、鹿児島が奄美の約四倍なのだが、品物の詳しい内訳を見ていくと、かなり対照的である。

奄美産大島は、全体の91%・4012反が手機・経緯絣で、染色は天然染料を使用したもの(泥・藍など)が50%、化学染は48%。一方鹿児島産大島は、縞や格子、無地モノなどの機械機・緯絣が、15058反と全体の78%を占め、経緯絣は3309反と16%に過ぎない。また染料も、化学染が79%・天然染が18%と、奄美産と逆の内容になっている。

この結果から見えてくることは、奄美産地では、伝統に則った大島へのこだわりが強く見受けられ、付加価値を高めた品物を生産することにシフトしていることが、伺える。つまりは、高級品志向である。一方の鹿児島は、全体に生産コストを下げる意識が見られ、求めやすい品物を市場に出していこうとする考え方が判る。

 

需要の大幅な減退、そして後継職人の枯渇。厳しい現実の中で、奄美・鹿児島ともに、産地としての生き残りを模索しているが、いずれにせよ道のりは険しい。24もの検査工程を経て、合格した品物だけが貼り付けることが出来る伝統マーク。小さな証紙の向こうには、工程ごとに存在する職人の姿がある。産地の灯を消さないためには、何が出来るのだろうか。その答えはまだ出ていない。

次回は、沖縄の織物証紙について、話を進めることにしたい。

 

品物を求めて頂く以前に、まずは消費者に理解を深めて頂くことが先決です。そのためには、情報を公開し、多くの方に知識を持って頂くことへの努力が、我々には求められるということになるのでしょう。

そこで生産者や流通、小売に携る者は、「いかにして判りやすく伝えるか」を考えることが、肝要になります。無論すでに、ITを使った情報発信は、様々なところで為されていますが、それが実際の商いの場でとなると、どうも疎かになっているような気がします。

品物を売る前に、品物を知ること。商いを続ける限り、これを欠かすことはできません。私なんぞが持つ知識など、まだまだ甘いもので、まだ上っ面に過ぎないでしょう。呉服屋はつくづく難しい仕事と思います。

今日も、最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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このブログに掲載されている品物は、全て、現在当店が扱っているものか、以前当店で扱ったものです。

松木 茂」プロフィール

呉服屋の仕事は時代に逆行している仕事だと思う。
利便性や効率や利潤優先を考えていたら本質を見失うことが多すぎるからだ。
手間をかけて作った品物をおすすめして、世代を越えて長く使って頂く。一点の品に20年も30年も関って、その都度手を入れて直して行く。これが基本なのだろう。
一人のお客様、一つの品物にゆっくり向き合いあわてず、丁寧に、時間をかけての「スローワーク」そんな毎日を少しずつ書いていこうと思っています。

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