バイク呉服屋の忙しい日々

今日の仕事から

2月のコーディネート  春を先駆ける好文木、梅模様を軽やかに装う

2020.02 25

先日、日本気象協会が発表した今年の桜開花予想によると、東京での開花は3月17日頃。やはり記録的な暖冬の影響を受けて、平年より10日ほど早くなっている。ここ数年、暖かい冬が続いているものの、今年は特別。平均気温は、全国軒並みに3℃近く高く、降雪量は、観測史上最少を記録する場所が続出している。

暖冬や少雪は、除雪作業の負担軽減や燃料費の節約をもたらすが、一方で雪や氷を必要とする観光業は打撃を受け、冬野菜などは取れすぎて価格が下がり気味になる。このように、極端な気候の変化に伴う影響は、功罪相半ばするものの、やはりそれぞれの季節には「らしさ」が欲しい。人は、寒ければ寒いほど、春を切望するもの。日常の中で感じる季節のうつろいは、心の潤いにも繋がっているだろう。

 

本来ならば、早い春の到来に心浮き立つはずだが、世の中にその空気は微塵も感じられない。日々報じられる得体の知れないウイルスの蔓延が、人々の心を内へと向かわせ、暮らしは閉塞感に満ちている。まだこれといった対処方法が見つかっていないので、誰もが恐れる気持ちを持つのは当然だが、果たして本当のところはどうなのだろう。

「ものをこわがらな過ぎたり、こわがり過ぎたりするのはやさしいが、正当にこわがることはなかなかむつかしい」。これは、明治から昭和にかけて活躍した物理学者であり随筆家だった寺田寅彦の言葉。

今求められているのは、この「正当にこわがる」ことではないか。恐れすぎないと危機意識が薄くなり、防御が甘くなって対策が後手を踏むが、恐れ過ぎると心配や不安ばかりが先に立ち、反応が過剰になる。つまりは、いかに「正しく怖がって」バランスの良い対策を立てるかということだろう。

政府に求められるのは、この感染症に対する指針を正しく発信し、素早く浸透させること。これが出来ないうちは、どうしても不安が先行してしまうが、国民一人ひとりが、病を正しく認識し、終息するまで対策を積み重ねていくことでしか、解決できまい。それは何より、その時々の情報に左右されず、冷静に対処することが求められる。

 

さて暗雲漂う中で、趣味的なブログを書くのも気が重くなるが、今日はコーディネートの稿。今年は春の花の主役を、桜に早く譲りそうな梅をモチーフにした品物を、ご覧頂くことにしよう。読者の方に、ひと時でも「嫌な空気感」を忘れて頂ければと思う。

 

(梅重ね絣模様 白大島紬・黒地 梅模様 手描友禅染帯)

春に先駆けて咲く花と言えば、水仙や椿が思い起こされる。二つとも12月から3月までが旬だが、季節としては冬のイメージが強い。どちらかと言えば、春を呼び起こす花、あるいは「春待ち花」にあたるだろう。では、春の花で、早春を意識させるものと言えば、これはもう梅をおいて他には無い。

そんな梅には、春の代表花に相応しく、様々な名前が付いている。「春告草(はるつげくさ)」や「初名草(はつなぐさ)」は、名前の通り、春の訪れを最初に告げる草(花)であり、年が明けてから、最初に名前を聞く草(花)という意味である。

また梅は「好文木(こうぶんぼく)」とも呼ばれているが、これは中国・晋の皇帝が、「学問を好むと梅の花が咲き、学問を怠ると梅の花が散る」とした故事に基づく。梅は、日本に伝来した奈良・万葉の頃から、歌の題材として数多く詠まれていたように、この花の気品と優美さには、古くから誰もが心を動かされていた。そして、平安から鎌倉へと時代が移っても、物語や随筆、あるいは説話、謡曲等に登場し、まさに日本の「文学を好む木・好文木」となっていたのである。

 

そして当然のことながら、梅花は文学の題材にとどまることなく、文様としても古くから取り入れられてきた。それは、写実的な花姿だけではなく、梅鉢やねじ梅、さらに光琳梅などに見られるように図案化・意匠化された「梅文」も数多い。

そこで今日は、キモノ・帯ともに梅だけをモチーフにした品物を使い、「早春の梅尽しコーディネート」を考えてみたい。同じ模様を重ねると、くどくなる気がするが、そこは工夫された図案を使って、さらりと明るく、個性的な「梅姿」にしてみよう。

 

(白恵泥染め 梅重ねカタス絣模様 白大島紬・廣田紬扱い 恵織物)

大島の色と言えば、真っ先に思い浮かぶのが、深い褐黒色。海辺に自生する車輪梅(テーチキ)の煎液で糸を煮染めした後、鉄分を多く含む泥田の中に浸す。この工程を何回も繰り返すことで、大島独特の深い色が生まれる。これは、車輪梅の幹の皮に含まれるタンニンと泥の鉄分が反応し、そこで得られるタンニン鉄の黒い生成物を糸染めに利用したもの。

泥染大島とともに主流だったものが、藍大島。これは染料に藍を用いて糸染めしたものだが、藍色の大島と一口に言っても、天然染料の蓼藍(たであい)を使ったもの、化学染料を用いたもの、藍染めと泥染めを併用したものと、様々である。ほとんど黒か茶だった大島の色に、変化をもたらした藍大島は、昭和初期に開発された。

戦後になってからは、さらに色のバリエーションを広がり、白大島と色大島が生まれる。背景には、高級織物と認識され始めた大島に、従来のイメージ・暗い色ではなく、明るくお洒落な品物を作って、新たな需要を喚起しようとしたからかと思われる。

白大島は、地糸を染めない。そのため、確かに明るい印象を受けるが、生地の風合いを考えると、泥染には及ばない。そこで何とか、泥染と遜色のない白大島を作れないものかと考え続け、開発されたものが「白恵泥(はっけいどろ)」という技術だった。

これは泥染めが、泥田の土の粒子に鉄分を含んでいることで、黒く染め上がることに注目し、この土の中に、白の発色をもたらすものを入れたら、上手くいくのではないかと考えられた。そこで使ったものが、「白もん」と呼ばれる薩摩焼の原料・白土である。研究を重ねた末、この土を加工した粒子を泥の中に揉み込むと、泥大島同様に、豊かな風合いを持たせることが出来ると判った。

この新たな染め方では、白泥の成分・超微粒子の作用により、摩擦に強く、耐光性のある堅牢度に優れた糸となる。そして、織物として仕上がった時には、つやがなく光沢が少ない白となり、まさに「マットホワイト」の生地感となる。この技術を開発したのは、「恵織物」。だから、白と泥の間に恵のひと文字が入っている。

 

モチーフは梅花だけの総模様だが、絣で埋め尽くした花、絣を輪郭に使って白抜きした花、また、少し濃いグレーで他と色の差を付けた花など、花そのものにバリエーションが付いている。また、模様は場所によって花を密集させたところと、少し地を開けたところがあり、総柄と言ってもメリハリの付いた梅姿になっている。

絣は、「T字型」が並ぶカタス(方数)式。大島の図案は、経絣糸と緯絣糸の交わるところが絣となって表れるが、その絣構成には、一元(ひともと)式とカタス式がある。

旧来の大島は、経緯二本ずつの絣糸を組み合わせて、絣を作っていたが、糸二本が一つの単位となることから、これを「一元」と呼んだ。一元の絣は、井桁型に組み合わさり、それが織手の糸調節により、風車型絣となる。一方のカタス式の場合、一本の経糸と二本の緯糸を組み合わせ、絣を作っている。カタスの絣は、最初キの字型に組み合わさり、最終的にはT字型絣となる。

拡大してみると、梅花の輪郭と蕊がT字型・カタス絣で構成されていることが、よく判る。また、ルーペでさらに拡大してみると、T字型絣が微妙に異なっている。まるで点描画のように見える密度の高い絣だが、合わせる織手の手仕事の跡が、こうした僅かな不揃いの絣となって表れている。

梅花を重ねたところ。絣の使い方を変えることにより、花の表情が異なる。色の気配はほとんど無いが、一部の花に、ほんのりと藤紫色の気配が見える。

「白恵泥」を使った品物であることを示す証紙が、貼ってある。恵織物は、後継者がいなかったことから、先ごろ機を閉じた。白恵泥は、開発に寄与した元恵織物の技術者・益田勇吉氏に受け継がれ、品物は今も作り続けられている。

すっきりとした白大島の雰囲気を生かしつつ、絣の工夫で単純な梅花だけの図案を、優しく可愛い表情に仕上げている。まさに、春告草・初名草に相応しい意匠のキモノだが、帯も同様に、梅をモチーフにした意匠で考えてみよう。

 

(黒地 梅花模様 手描友禅 染名古屋帯・四ツ井健)

梅模様と言っても、かなり図案化されている。配色が梅色の濃淡なので、「なるほど梅か」と判るが、花の形が従来の五弁ではなく六弁なので、リアルさが消えている。

図案の花は少し大きく、対角線上に一定の間で並ぶ。花と花の間を沢潟(おもだか)のような鏃型の模様が繋いでいる。これは、単に梅をモチーフにした帯というより、作家の意図したデザインの中に、梅を意識して使ったもの。それだけに図案は面白く、作り手の個性が前に出ている。

模様をよく見ると、六角形の亀甲型沢潟が、梅花の周りを囲んでいる。花の色は、梅を念頭に置いて、赤紫と淡い藤紫の濃淡であしらわれている。規則的に並ぶ図案は、立体感のある帯姿として映る。

梅花を拡大すると、細部まで丁寧に引かれた糸目の形が見て取れる。作者の四ツ井健さんは、加賀友禅作家としても落款登録があるが、今は問屋サイドの仕事を離れて、個人で自由にモノ作りをしている。自分の品物に理解がありそうな店を探し、営業活動も行う。一点ずつ製作するため数は少なく、従って扱う店も一部の専門店に限られる。

こちらは薄い配色の梅花。花弁の中心にあたる女蘂とガクは、金箔で模様付けされている。加賀友禅ではほとんど箔のあしらいが無いので、この辺りに四ツ井さんの独創性が表れている。帯の地色は黒なのだが、お太鼓と前の模様部分は、白地。黒の地が出てくるのは、前合わせの一部と垂れだけ。

さて、このモダンで可愛い梅友禅帯を、梅連ねの白大島に合わせると、どうなるのか。

 

キモノも帯も梅だけの意匠だが、重ねて合わせてみても、くどさが感じられない。キモノに色の気配がないだけに、帯の梅色が目立つ。どちらも模様の地が白なので、着姿に優しい印象を残すだろう。

前模様を合わせてみた。ここには帯地の黒が現れるが、使ってみると白大島が、より明るく見える。黒地だけに模様中央の梅柄が強調され、帯としての主張が前に出る。他の帯地色では、こんなにすっきりとした感じにはならないはずだ。

小物は、梅色系を使って二通り考えてみた。少し落ち着きのあるこっくりとした海老茶色を使うと、ピタリと着姿が引き締まる気がする。

こちらは、少しピンク色が掛かった鴇色(ときいろ)を使ってみた。前の海老茶に比べると、柔らかい印象を与える。春をイメージした優しい色合わせになるのだろうか。(小物合わせは二点とも、帯〆・龍工房、帯揚げ・加藤萬)

今日は、いまが旬の「梅」を題材にした品物同士をコーディネートしてみた。梅は植物文様の中で、もっともポピュラーなモチーフだが、斬新なデザインにアレンジし、それを優れた絣や友禅の技法であしらうと、個性豊かで面白い品物に仕上がる。

これから迎える陽光溢れる春は、和装で気軽に街歩きを楽しむには、とても良い季節。だから今は、一日も早く新型ウイルスの蔓延が終結することを、願うばかりだ。最後に今日ご紹介した品物を、もう一度どうぞ。

 

マスクやアルコール消毒で、ウイルスの侵入を防ぐことは大切ですが、一番大事なことは、自分の体に抵抗力を付けることではないでしょうか。

普通の風邪やインフルエンザを考えても、たとえ身近に感染した人がいた場合でも、罹患しないことがよくあります。それはとりもなおさず、ウイルスをはねつける力が、体に備わっていたからなのでしょう。

よく食べて、よく眠り、適度な運動で体を鍛える。ごく当たり前のことですが、こんな基本的な生活習慣をきちんと守ることが、感染を防ぐ第一歩になるはず。正しく怖がりつつ、普段の生活は、いつもと変わりなく送りたいものです。

今日も、最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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このブログに掲載されている品物は、全て、現在当店が扱っているものか、以前当店で扱ったものです。

松木 茂」プロフィール

呉服屋の仕事は時代に逆行している仕事だと思う。
利便性や効率や利潤優先を考えていたら本質を見失うことが多すぎるからだ。
手間をかけて作った品物をおすすめして、世代を越えて長く使って頂く。一点の品に20年も30年も関って、その都度手を入れて直して行く。これが基本なのだろう。
一人のお客様、一つの品物にゆっくり向き合いあわてず、丁寧に、時間をかけての「スローワーク」そんな毎日を少しずつ書いていこうと思っています。

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