バイク呉服屋の忙しい日々

今日の仕事から

7月のコーディネート  千鳥流水の絽小紋で、水辺の涼やかさを装う

2019.07 22

今年は、どうも長梅雨の気配である。7月も20日を過ぎ、子ども達が夏休みに入ったというのに、まだ夏の陽射しがやってこない。ここ数年来、梅雨末期にみられる大雨は、今年も、九州を中心とした西日本各地で続いている。

ただ従来なら、どんなに曇天が続いていても、数日の「梅雨の晴れ間」は訪れるはず。しかし、今年に限っては、それもほとんど無い。ここ山梨を含む関東圏の日照時間は、軒並み平年の一割程度。そのおかげで、気温も30℃に届かず、「夏日」を記録することがほとんど無い。

連日、灼熱の太陽にさらされるのも辛いが、体にまとわり付くような湿気は、なお不快になる。むしろ、カラリと晴れた日の方が、潔く暑さに対処できる気がする。これだけ、人間も鬱々とした気分になるのだから、お天道様を必要とする作物にとってこんな雨続きは、一大事である。

 

その結果、キュウリ、茄子、レタスなどの夏野菜は、どれも日照不足のため生育が遅く、品薄になっている。価格は平年の二倍、キュウリが一本100円近くもするとあっては、おいそれと「キュウリもみ」を食べる訳にはいかない。

また、各地のビアガーデンでは閑古鳥が鳴き、ビールの需要そのものが落ちている。そして夏の定番アイス・「ガリガリ君」は、昨年と比べて3割ほどの減産を余儀なくされているらしい。都内のプールでは入場者が9割減で、これまた「死活問題」となっている。天候に左右される農業や商売では、その対策が立て難く、予測も難しい。

ということで、今年はまだ夏らしい夏がやってきていないが、ブログの7月コーディネートの稿で、夏の装いを御紹介しないという訳にもいかない。そこで今日は、見た目にも涼しげな水辺文様をあしらった絽小紋を取り上げ、ご覧頂くことにしたい。これで皆様に、少しでも「梅雨の鬱陶しさ」を解消して頂ければと思っている。

 

(水色地 千鳥流水・絽小紋  白地 縦青磁段ぼかし・紗八寸博多帯)

トンカツにはキャベツの千切り、カレーには福神漬、牛丼には紅ショウガ。特定の料理には、味を引き立てるために欠かせない「定番の付け合せ」がある。もしも、これが無いとすれば、それは何とも間の抜けたものになってしまうだろう。

キモノも、これらの料理付け合せとは少し意味合いが異なるものの、タッグを組む相手が決まっている文様がある。そして、この二つのモチーフを組み合わせることで、特定の季節を表現出来るものとなり得る。

「梅に鶯」は、春の訪れを告げる文様となり、「柳にツバメ」は、初夏を表現する。さらに、「萩と蜻蛉」なら秋の気配を感じさせ、「深山もみじに鹿」だと、晩秋の彩りとなる。このように、同じ季節をイメージする植物文と動物文を一緒にあしらうと、見る者によりリアルさが伝わる。この組み合わせは、今に始まったことではなく、千年も前の平安期頃から、すでに文様として使われており、中には図案として意匠化されているものもある。このようなことからも、古来から日本人は、特有な視点で季節を表現してきたことが窺える。

 

今日御紹介する「千鳥と流水」のダブルスも、古くからずっとこの組み合わせで、愛されて続けてきた文様。そして多くが、水辺の涼やかさを表現する「夏の図案」として、様々な薄物の中で使われてきた。それは、訪問着や付下げのようなフォーマルモノだけでなく、小紋や染帯、そして浴衣にも多く見られ、その使用範囲は広い。

では、この夏の代表的な水辺文・千鳥と流水が、どのような姿であしらわれ、それがいかに夏姿に相応しい図案であるのか、これからお話することにしよう。

 

(水色地 飛び柄 千鳥に流水模様 絽小紋・千切屋)

「千鳥」と総称される鳥の数は、かなり多い。科目は、チドリ科・シギ科・ウミスズメ科などに分かれるが、その数は19科・390種にも及ぶ。いずれも川や海の畔に群生しており、その数は千羽にも達するとして、「千の鳥=千鳥」と名付いた説がある。

この、どこにでも見られる鳥たちは、海や川辺の風景を表現する時のモチーフとして、古くから歌にも詠まれてきた。

千鳥鳴く み吉野の川の川音の やむ時なしに 思ほゆる君(万葉集巻6・915)

訳:千鳥が鳴いている吉野川の川音が、やむことがないのと同じように、あなたへの思いも、やむことはありません。

この歌には、相手への「思い」が込められているが、万葉の古人たちは、この鳥たちに自分の心を託して詠みこんでいた。千鳥というモチーフが、後に文様化した理由は、この鳥に託した人々のこんな「詩情」が、大きく関わっているのではないだろうか。

 

千鳥文が文様として完成したのは、自然風景を写し取る絵画的文様が萌芽した平安期のこと。高野山・金剛峰寺に所蔵されている「沢千鳥螺鈿蒔絵小唐櫃」に描かれている千鳥は、この時代を代表する写生文の一つである。

なお、「唐櫃(からびつ)」とは、脚を付けた蓋付き箱のことで、衣服や書物、日常の用度品を入れていたもの。この唐櫃の千鳥文は、貝を埋め込んだ螺鈿細工と、漆の表面に金粉で描く蒔絵で描かれていて、贅を尽くしたこの時代の平安貴族の趣味が伺える。

 

この小紋の地色は、淡い藍色にあたるが、透明感のある水の色を表現している。この清々しく明るい色合いは、夏の水辺を想起させる。そして絽の柔らかな着姿は、この地色によって、よりしなやかなものとなるだろう。

千鳥と水の波頭は小さく、模様の嵩も少ない。こうした飛び柄小紋は、地の色を強調させる意識がある。そして、中にあしらう配色を極力抑えることで、涼感を印象付ける。

丸々と太ったツガイの千鳥。本来この鳥は、このような姿ではないが、現在キモノや帯の図案として用いられている千鳥文は、この姿に意匠化されていることが多い。

このように単純化した千鳥の表現は、江戸時代前後からと考えられている。徳川美術館所蔵の、家康が着用した小袖の残り布・「茶地千鳥文辻が花染裂」は、現在の意匠化された文様に近い姿で、千鳥を描いている。桃山期以後には、こうしたデザイン化された千鳥の姿が現れはじめ、それは小袖や狂言の装束だけでなく、中型小紋など型染モノにも使われ、後には、絞りや絣などでも見られるようになった。こうして、上層階級から庶民まで、幅広くこの文様が受け入れられたのは、この鳥に対し、多くの人々の「特別な情」があったからと理解出来よう。

地色より少し濃い、藍色の疋田で染めた千鳥。疋田を使うと、模様に愛らしさと優しさが出て来る。福々しい千鳥の姿を強調するのには、効果的な技法。波頭は、糸目をそのまま模様にする、いわゆる「白上げ」の状態。小紋なので、当然型による糸目ではあるが、ほどこしをシンプルにすることで、すっきりとした夏姿のキモノに仕上がる。

では、こんな「いかにも夏らしい絽小紋」に、どのような帯を使うと、より涼やかさが増す夏姿を演出出来るのか。早速試してみよう。

 

(白地 水色縦段ぼかし 博多紗八寸手織帯・西村織物(織手 国分絵美子)

この紗の博多帯は、波を思わせる織姿。紗特有の生地の隙間に変化を付けて、縦によろけた縞を作る。これが波紋のような模様となって表れている。白地に水系色だけの濃淡。この優しいグラデーションが、爽やかさを増幅させている。博多と言えば、真っ先に献上縞が思い浮かぶが、この帯は、シンプルでありながらも実にモダン。

 

キモノと帯双方共に、水を感じさせる配色。夏の同系色コーディネートは見た目にも涼しげ。そこにあしらわれる控えめな千鳥の姿が、色の爽やかさにアクセントを付ける。

前の合わせ。お太鼓では縦に付いている縞が、前では横段に変わる。シンプルなキモノとシンプルな帯。この「てらいのなさ」が、双方を引き立てる。

水辺をイメージした着姿となれば、当然小物に使う色も、水色から離れることはない。絽の帯揚げは、帯と同様に水色濃淡ぼかし。帯〆には、少し濃い目の藍色を使って引き締めてみた。(帯揚げ・加藤萬 帯〆・龍工房)

 

(群青色地 萩に桐模様 紗八寸帯・帯屋捨松)

もう一つ、全く違うイメージの帯を使って、この小紋をコーディネートしてみよう。

こちらの帯は、大きな萩をあしらい、そこに夏植物の桐を添え合わせた大胆な図案。先ほどの「色」を重視した組み合わせとは異なり、帯の夏模様を目立たせることで、着姿を形作る。

地色そのものは、キモノ水色に対して、帯は群青色。同じ青色系なのだが、こうして合わせてみると、かなり色の差が付いている。また、大きな萩の葉と桐の紫色にインパクトがある。これは、おとなしいキモノを帯図案で変化させる方法。

模様の大胆な切り取り方が、いかにも捨松らしい。このクセのある図案が、着る人に個性をもたらす。どのようなコンセプトで、コーディネートを考えるか。それにより、この二つの例のように、使う帯は大きく変わる。

小物は、桐花の藤紫色を使ってみた。この帯配色の中で、最も目立つのが紫なので、帯〆に同じ系統の色を使うと、帯がより強調されると思う。絽の帯揚げは、薄紫ぼかし。(帯揚げ・加藤萬 帯〆・龍工房)

 

今日は、水辺模様の代表格・千鳥流水の小紋を使って、夏の装いを作ってみた。薄物にこそ相応しい色と模様があり、またそれを生かしたコーディネートがある。もちろん、四季それぞれのキモノ姿は美しいが、夏モノでしか表せない、涼やかな着姿は格別だ。皆様にはそんな夏の品物に、ぜひ一度は目を留めて頂きたい。

最後に、今日御紹介した品物を、もう一度どうぞ。

 

昨年は7月早々に暑くなってしまい、「空梅雨」の様相だったというのに、今年は一変しています。人は、その年々で変わる気候に従うより他にありませんが、その対処にはかなり苦労してしまいます。

さすがに農家の方々や、ビール会社、アイスクリームメーカーほどではありませんが、呉服屋で扱う夏モノの売れ行きも、多少は気候に左右されます。昨年などは「暑すぎて」、浴衣の売れ行きが芳しくありませんでした。

着用時期が短い薄物ですが、だからこそ、その着姿には独特の美しさがあるように思います。そして、絹・麻・綿と多様な素材を楽しめるのも、夏ならでは。手軽な浴衣から絽小紋や夏織物まで、実に多彩な品物があります。たとえ着用を考えなくても、ぜひ一度、旬な品物に彩られた呉服屋の店先を覗いてみて下さい。

今日も、最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日付から

  • 総訪問者数:1034545
  • 本日の訪問者数:612
  • 昨日の訪問者数:741

このブログに掲載されている品物は、全て、現在当店が扱っているものか、以前当店で扱ったものです。

松木 茂」プロフィール

呉服屋の仕事は時代に逆行している仕事だと思う。
利便性や効率や利潤優先を考えていたら本質を見失うことが多すぎるからだ。
手間をかけて作った品物をおすすめして、世代を越えて長く使って頂く。一点の品に20年も30年も関って、その都度手を入れて直して行く。これが基本なのだろう。
一人のお客様、一つの品物にゆっくり向き合いあわてず、丁寧に、時間をかけての「スローワーク」そんな毎日を少しずつ書いていこうと思っています。

ご感想・ご要望はこちらから e-mail : matsuki-gofuku@mx6.nns.ne.jp

©2019 松木呉服店 819529.com