バイク呉服屋の忙しい日々

今日の仕事から

4月のコーディネート  「清楚さと愛らしさ」 白とパステルの振袖姿

2019.04 23

店を開けている間には、様々な電話が掛かってくるが、商品の営業や勧誘の電話ほど迷惑なものはない。相手は決まって、「お忙しいところ、恐れ入りますが」と話し出す。忙しいとわかっているのなら、掛けて来ないで欲しいが、先方もそれが仕事なので、そうもいかないのだろう。

最近多いのは、電話料金が安くなるとか、電力料金が節約できるという話。以前は、やれ金を買えとか、プラチナは儲かるとかの、いわゆる「商品先物取引」の勧誘が多かったが、バイク呉服屋には金が無いと判ったのか、随分と少なくなった。

電話を使ったこの手の営業が、果たしてどれほど実際の仕事に結びつくのだろうか。私には効率が良い商いの方法とは、とても思えないが、懲りもせずに行われているところを見ると、ある程度の成果が見込めるのだろう。「下手な鉄砲も、数打てば当たる」ということか。

 

消費者に対する、このような泥臭いコンタクトの方法は、このところの呉服業界、特に振袖屋においても常態化している。振袖対象者である18~19歳の個人情報を「名簿屋」から仕入れ、片っ端から電話を掛けまくって、勧誘に務める。中には、専門のオペレーターを雇う業者もある。そして電話と共に、カタログや展示会案内を送り付ける。

業者は、高校卒業時から、二十歳を迎えるまでの二年間、毎月案内状を出し続け、その間に何度も電話勧誘を続ける。これは、一社だけではなく、複数の業者が同じ方法を取る。だから、この年齢の娘を持つ家は、成人式が終わるまで、振袖屋の紙爆弾と度重なる電話攻撃に晒されることになるのだ。

今の時代、多くの消費者は、和装に馴染みが無い。だから特定の呉服屋と縁を持つ人は少なく、振袖を用意するとしても、どこへ行けば良いのか判らない。業者はそれが判っているからこそ、こんな無節操な方法を採れるのだろう。そして、これが一定の効果を上げているのは、間違いない。

 

しかしながら、先物取引や怪しい公共料金の値下げ勧誘と同じ方法を採る、こんな呉服屋の振袖営業に対して、ある種の「胡散くささ」を感じている人は、かなり多い。そして「呉服屋の商いは、こんなものか」とも思われている。これが、呉服業界全体のイメージダウンに繋がっているのは、確かである。

振袖という品物を重視せずに、マトモな商いをする専門店にとって、振袖屋は迷惑な存在で、同じ呉服屋という括りにして欲しくはないだろうが、私なんぞは、どうでも良いと思っている。それは、振袖屋が何をどのように売ろうとも、自分の仕事とは何の関係も無く、影響を受けているとも思わないからだ。

お客様から求められた仕事に対して、誠実に答える。それだけで精一杯で、私は、よそさまのことに気をとられている暇は無い。

 

とかく問題がある現在の振袖商いではあるが、やはりこの品物は、未婚の第一礼装として特別なアイテムであることに変わりは無い。若さを象徴する華やかな色や意匠は、振袖なればこその相応しいあしらいである。

先週の土曜日、あるお客様から、久しぶりに振袖一式を揃える御用事を承った。バイク呉服屋が請け負う振袖仕事のほとんどは、寸法直しや汚れ落としなどの再生、あるいは帯または小物だけを新しく替えることなので、「一式の誂え」は、大変珍しい。

そこで今日は、今回どのような品物を選び、お客さまが望む振袖姿を整えたのかを、今月のコーディネートとして皆様にご紹介してみたい。

 

(白地 束ね熨斗に松竹梅模様・振袖  黒地 光琳流水に色紙花文・袋帯)

(空色地 扇面に薬玉花尽し模様・振袖  白地 花鼓文様・袋帯)

今回、振袖を依頼されたお宅は、おばあちゃんの代からお付き合いがあり、お母さん、さらにお孫さんと、代を繋いで品物を見て頂いている。お客様が三代ということは、うちとしても、祖父、父、私と三代にわたり、お相手をさせて頂いていることになる。

振袖は、もちろんこのお孫さんが着用するのだが、私はこのお嬢さんが七歳の時に、祝着一式の御用を承っている。だが、今回連絡を頂くまでは、お孫さんが大学生になっていることに、気付いていなかった。本来ならば、私の方からお声掛けをしなければならないのだが、普段振袖を売ることに頓着しない商いなので、ついぞ大切な方のことを忘れてしまう。こんなことでは、いくら何でも、商売人としては失格であろう。

 

こうした前振りがあって、品物を選んで頂くことになったが、実はまだ品物が確定していない。当日は、おばあちゃん、お母さん、お孫さんが連れ立って来店し、私と家内も含めた五人で、一番見合う振袖姿を考えることになったが、最終的に二組のコーディネートが候補に残った。だが、着用するお嬢さんは、どちらも気に入ってしまい、決めかねてしまう。私は、考える時間が必要と判断したので、後日お返事を頂く約束をして、待つことにした。

ということで今日ご紹介するのは、お客様が迷われている、この二組のコーディネート。どのような違いがあるかに注目して、ご覧頂くことにしよう。

 

(紗綾型紋綸子 白地 束ね熨斗に松竹梅模様 京型友禅振袖・トキワ商事)

話を伺うと、このお嬢さんの色の好みは、淡い色。従って、あくまで優しく、柔らかみのある雰囲気を望まれていると理解した。とすれば、黒や朱赤など、濃色系の主張の強い地色はまず考えられない。そこで最初に提案した品物が、上の画像の白地。

白地色のキモノは、昭和30~40年代にかけてかなり流行し、この時代白地は、最もポピュラーな地色の一つだった。特に振袖や、若い方に向く訪問着に白地が多かったのだが、これは、昭和34年に執り行われた「納采の儀」に際し、美智子さま(皇后陛下)が着用したキモノが、清楚な白地であり、これが多くの人に強く印象付けられたためと言われている。

その後時代を追って、地色は白から様々な色へと変わり、いつしか白地のキモノはあまり見かけなくなってしまった。しかし、白地がもたらす清楚さは、他のどんな色も醸し出すことは出来ず、やはり特別な雰囲気がある。

そしてこの振袖は、模様が前に出過ぎず、地の白場が生かされている。二つの束ね熨斗を、上前身頃と後身頃に置き、周りに松竹梅を散らすというシンプル、かつ古典的な意匠により、すっきりと清楚な姿に映し出しされている。

模様の中心、上前おくみにあしらわれた束ね熨斗。束ねた紐は、箔で青海波模様を表現し、熨斗の一つ一つを、七宝や宝尽くし、丸紋や花で埋めている。そして中心の赤梅の輪郭には、駒縫いを使って強調している。型友禅ながら、丁寧に作られた品物と判る。

では、この白地振袖の上品さを、より印象付けて、かつ着姿を引き締めることの出来る帯は何か。そう考えて選んだ帯が、次の画像の品物。

(黒地 光琳流水に色紙花文様 袋帯・梅垣織物)

白い振袖を印象付けるとしても、帯にインパクトがあり過ぎてはよくない。黒地の帯は、着姿を引き締める役割を果たすが、このキモノの場合、「上品さ」が消えてしまっては、元も子もなくなる。

この梅垣の帯は、黒地ではあるものの、金の印象が強い。中でも、色紙と光琳流水にあしらわれている金が、帯の格を上げる役割を果たしている。これを白地の振袖と組み合わせると、清楚さと重厚さを併せ持つ姿になると思うが、どうだろうか。

江戸期より振袖の意匠の中に用いられてきた、吉祥文・束ね熨斗と、貴族的な色紙文の組み合わせは、強く古典を印象付ける。そして、キモノと帯双方に散りばめられている松竹梅の花が、それをより際立たせている。

前の合わせ。こうしてみると、やはり帯は、地の黒よりも模様の金が、前に出ている。「清楚と重厚」が、共存しているように思うが。

振袖の配色の中で、最も際立っている色が、梅の赤。地が白いだけに、真っ先に目に飛び込んでくる。小物に使う色としては、やはりこの赤以外は考え難い。帯〆・帯揚げはもちろん、刺繍衿も、赤が際立つものを使う。ここには合わせてないが、当然伊達衿も同じ色で統一する。(帯〆・絞り帯揚げ・刺繍衿 全て加藤萬)

では、もう一組は、どのような品物なのか。引き続き、ご覧頂こう。

 

(紗綾型小菊紋綸子 空色地 扇面に薬玉花模様 京型友禅振袖・トキワ商事)

淡い色を好むということなので、明るく抜けるような青・空色地の品物を選んでみた。このお嬢さんは、おとなしく可愛い雰囲気があり、優しいパステル系の色がよく似合う。きっと、自分に相応しい色は何かということを、理解しておられるように思う。

長い間この仕事をしていると、お客様にお会いすれば、何となくその人の色の好みがわかるような気がしてくる。人それぞれの雰囲気により、似合う色があり、パステル系を好む方は、慎ましやかで優しげな人が多い。ただし、稀にバイク呉服屋のような「悪顔・任侠系」もいるので、気が抜けない。店に置く品物の地色を見れば、私の淡色好きがよく判る。

パステル色には、ピンク系の桜色や緑系の若草色があるが、ブルー系の空色や水色は、柔らかさと爽やかさを兼ね備えている。この地色は、澄み渡った空「スカイブルー」を想起させる。

主模様は、扇面と薬玉(くすだま)。特に薬玉は、半分に割って四季折々の花が盛り込まれ、花カゴのように見える。薬玉は、別名「久寿玉」の字を当てる縁起の良い飾りで、七五三の祝着の意匠としてもよく使われる。華やかで愛らしさがあるあしらいが、パステル地色には良く似合う。

模様の中心、上前のおくみと身頃にある扇面模様。それぞれに鳳凰や牡丹の花を描いている。模様の間に散りばめたサクラは、全てパステル色。このサクラの挿し色と地の空色が相まって、この品物をより可愛い姿に仕上げている。

後身頃から下前にあしらわれている薬玉。隠されてしまうのが惜しいような、可愛い図案。こちらを主模様にしても良かったのではないか。

地色、模様、配色すべてが可愛いこの振袖を、より愛らしくするためには、どのような帯が良いのか。そう考えて選んだ帯が、次の画像の品物。

(白地 花鼓文様 袋帯・川島織物)

着姿全体でパステルの優しいイメージを保つことを考えると、やはり帯は白地になる。控えめながらも、明るくキモノを際立たせる色は、白以外には無い。愛らしさを求めるのであれば、なおのことだ。

サクラや牡丹、菊などの四季の花を付けた鼓。ポイントは橙色の紐。キモノの薬玉紐同様、図案のアクセントになっている。花の配色が、柔らかなパステル系なので、こちらも優しいイメージが残る。よく似た雰囲気を持つキモノと帯だが、組み合わせるとどうなるだろうか。

キモノは、模様の繋がりがあまり無いので、どうしても地色の空色とサクラのパステル色が前に出てくる。この帯ならば、その優しい色合いを消すことはない。こうしてみると、やはり薬玉と鼓の紐が可愛い。

前の組み合わせ。キモノの上前の図案がシンプルなので、帯の鼓模様が着姿にボリュームを出す。可愛いだけではなく、華やかな印象も残る。

小物合わせのポイントとして選んだのが、鼓紐の橙色。赤でも良いが、この色の方が柔らか味が出る。帯〆は、少しインパクトのある四つ組を使い、刺繍衿はパステル色のサクラ模様。伊達衿にも橙色を使う。(帯〆・平田紐 絞り帯揚げと刺繍衿・加藤萬)

 

白地・束ね熨斗模様と黒地・色紙模様の組み合わせは、清楚で重厚。空色地・扇面薬玉模様と白地・花鼓模様の組み合わせは、何より愛らしい。着姿の印象は違うが、どちらもこのお嬢さんの雰囲気には見合うものになっている。さて、どちらが選ばれるだろうか。最後は、本人が「着て見たい」と思う気持ちが強い方で決まる。

久しぶりにコーディネートの稿で振袖を取り上げてみたが、如何だっただろうか。やはり、どのアイテムより華やかな振袖を選ぶことは、楽しい。これからも、着る方の雰囲気を見極めた上で、これぞという一点をお奨めしたいものだ。最後に、今日ご紹介した二つの組み合わせを、もう一度どうぞ。

 

 

バイク呉服屋の商いは、基本的に「待ち」のスタンスです。お客様からの依頼があって、初めて仕事が出来るので、何もお声が掛からなければ、毎日呆然としていなければなりません。もしこれが続くようでは、たちまち経営は行き詰まります。

けれども有難いことに、多くの方から様々な依頼を頂いているので、暇を持て余すことにはなっていません。私と家内の二人で切り盛りする店では十分で、お付き合いを頂いているお客様には、感謝の他ありません。

 

どんな仕事でも、お客様から能動的に受けることと、こちらからお願いしてお付き合い頂くことでは、その意味が変わってくるように思います。売り上げを伸ばし、利益を得て事業を拡大するためには、消費者に「いかに品物を求めてもらうようにするか」ということが大命題で、そのために様々な方策を駆使しなければなりません。いわゆる「営業努力」というものです。

しかし、お客様の方から声を掛けて頂くためには、依頼された一つ一つの仕事を丁寧にこなし、満足感を持ってもらうこと。これに尽きるでしょう。そのために特別な方策は無く、仕掛けも必要ありません。

愚直に相手の立場に立って、仕事を考える。「頼りにされていること」こそが、私の仕事に対する最大のモチベーションになっています。これからも、ひたすらお客様からの依頼を、待ち続けたいと思います。

今日も、長い話にお付き合い頂き、ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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このブログに掲載されている品物は、全て、現在当店が扱っているものか、以前当店で扱ったものです。

松木 茂」プロフィール

呉服屋の仕事は時代に逆行している仕事だと思う。
利便性や効率や利潤優先を考えていたら本質を見失うことが多すぎるからだ。
手間をかけて作った品物をおすすめして、世代を越えて長く使って頂く。一点の品に20年も30年も関って、その都度手を入れて直して行く。これが基本なのだろう。
一人のお客様、一つの品物にゆっくり向き合いあわてず、丁寧に、時間をかけての「スローワーク」そんな毎日を少しずつ書いていこうと思っています。

ご感想・ご要望はこちらから e-mail : matsuki-gofuku@mx6.nns.ne.jp

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