バイク呉服屋の忙しい日々

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2017年  酉の年を終えて

2017.12 28

「皆様、お手を拝借」の声で、手締めが始まる。「シャシャシャン、シャシャシャン、シャシャシャン、シャン」と三三一拍子を三回繰返し、最後は拍手で終える。手締めには、一回だけの一本締めと、三回の三本締めがあるが、地方ごとに様式が違うようだ。いずれにせよ、物事に区切りを付ける時に執り行われる、日本的な風習の一つである。

年の終わりを印象付ける手締めと言えば、証券取引所・大納会の風景であろう。この一年最後の取引日には、毎年著名なゲストが招かれ、来場者と共に手締めを行ない、取引終了時には立会所の鐘を鳴らす。ゲストは、その年に活躍が顕著だった人物の中から選ばれるが、今年は、囲碁のタイトル七つ全てを獲得した、棋士の井山裕太七冠。

 

「景気の体温計」と呼ばれる株価だが、今年はおおむね堅調に推移したと言えるのだろう。現在株価は23000円前後だが、これは1996(平成8)年以来、21年ぶりの高値である。その上、三大都市圏を中心に地価も上昇しており、輸出産業を中心に企業業績も好調となれば、世間がもう少し沸きたって良いようにも思えるが、どうもそんな気配は感じられない。

株価や地価上昇の恩恵を受けるのは、投資家や大都市の土地所有者であり、好業績の会社は、やはり大企業が中心。景気の良さが実感できる人というのは、ほんの一握りであり、一般庶民には縁遠い。富める者はなお富み、それ以外の人々との格差は広がるばかり。こんな世の中では、多くの人にとって今の好景気など、他人事となってしまう。

高度経済成長の時代には、国民の9割近くが中流意識を持ち、これがこの国を安定させてきた一つの要因でもあった。だが、格差が生まれたことで、人々の意識は変わり、不公平感も強くなる。正規・非正規の労働格差、都市と地方との格差、また年代間の格差、いずれも解決の方策は容易に見つからない。

そして、少子高齢化の波は否応無く押し寄せ、国は返しきれない借金を抱える。年金・医療・介護など、未来の社会保障に対する不安を、誰もが持つ。人口減少が避けられないとすれば、成長し続けることなどあり得ない。縮小していく中で、どのような国の形にしていくのか、その方策が全く見えていない。だから、人はより不安になるのだ。

 

バイク呉服屋も還暦近くなり、ジジイくさく世の中を嘆くことも多くなってきたが、あまり良い傾向では無い。それはそれとして、何はともあれ、今年も一年間、無事に仕事を続けることが出来た。私としては、これだけで十分であり、何も言うことは無い。利益云々よりも、自分らしい商いが出来て、その上で生活が成り立っていれば、それだけで有難い。

今年手締めの稿は、例年のように、その年の干支・酉の文様に関わるお話をして、終えることにしよう。

 

(白地 含授鳥・サンジャク模様 九寸織名古屋帯  龍村美術織物)

ひとくちに鳥と言っても、日本的な鳥、中国伝来の鳥、オリエンタルな鳥、そして実在しない仮想の鳥など、様々である。文様の中の鳥は、時代ごとに特徴があり、その姿を見ると時代背景が判るものも多い。

そして、特定のモチーフと一緒に使われる鳥、例えば千鳥と流水とか、鶯に梅、柳に燕などは、それぞれ定番のように使われている。また、優雅に舞う鶴は、その姿の麗しさから平安貴族の間でもてはやされ、やがて有職文様として意匠化する。二羽の鶴が向き合った「向い鶴文様」や「鶴丸」などは、その代表格であろう。

唐花の中を舞い飛ぶサンジャク、となればやはり正倉院に伝来する特徴的な天平文様。この姿は、これまでブログでご紹介した品物の中にも、多く見られ、皆様にもお馴染みかと思う。この鳥の別名は、含授鳥(がんじゅちょう)。

サンジャクは、中国やヒマラヤの奥地に生息し、全長70cmほど。画像でも判るように、羽根の付いた長い尾に特徴がある。黒い頭と青い翼、そして赤い嘴。シルクロードを通じて、天平期にもたらされた「オリエントな鳥」の一つ。その優美な姿から、嘴に花や授帯(官職を示す紐)を咥えて描くことが多くなり、高貴な鳥=含授鳥として意識された。

天平を代表する鳥には、この他に鸚鵡やヤツガシラ、鴛鴦などがあるが、いずれも、壮麗な宝相華文や美しい唐花文と共にあしらわれている。

 

(ちりめん紫地 福良雀模様 九寸染名古屋帯  菱一)

雀はカラスと並んで、我々にとって最も身近な鳥であろう。朝窓を開けた時に聞こえるこの鳥の囀りは、一日の始まりを告げ、人々に爽快さを与えてくれる。ゴミの集積場で食べ物を漁り、道を汚しているカラスとは、同じ馴染みの鳥でも大違いだ。

生活の中に溶け込んでいる雀は、古くから文様の中でも使われ、すでに平安期にはその姿を見ることが出来る。この鳥は、一緒にあしらうものにより、旬が表現出来る。稲穂をついばむ姿を描けば秋、枯れ枝に群れる姿ならば冬である。この帯のように、松枝と組み合わせれば、初春を印象付ける。一年中どこでも見ることが出来るため、他の模様と自由にコラボ出来る、いわば使い勝手の良い鳥と言えよう。

このように、ふっくらと太った姿で描かれる雀が、福良雀。丸い胴体と、両方の羽根を広げた格好は、どことなく愛嬌があり、微笑ましく映る。「ふくらむ」=「福良む」と当て字をして、縁起の良い鳥とするために、年の初めに縁起を担ぐ文様としても、よく使う。

また、振袖に使うポピュラーな帯結び・福良雀は、この文様の姿によく似ていることから付いたものだが、その帯姿は、若々しく愛らしいものだ。最近では振袖の帯結びとして、様々にアレンジされたものが見受けられるが、やはり私はシンプルなこの福良雀が、一番美しいように思える。

 

(金引箔 四神聖獣模様・鳳凰 袋帯  泰生織物)

古来より、神と崇められてきた獣がいる。東龍(龍)・朱雀(鳳凰)・白虎(虎)・玄武(亀)、これを四神聖獣と呼ぶ。そのためこの文様は、力の象徴として意識され、多くは権力者の衣装の中で使われてきた。

古代中国の伝説では、鳳凰は、優れた治世者の下で現われる鳥。それは、天下泰平な世の中を象徴する、とても縁起の良い獣ということになる。日本の帝・天皇が、特別な行事の時に着用する御袍に、鳳凰と桐・竹を組み合わせた「桐竹鳳凰文様」をあしらうのも、こんな理由からである。

鳳凰の姿をよく見ると、頭に立派な鶏冠を付け、羽根を鶴のように大きく広げている。そして、孔雀に似た長い尾を持つ。この優美な瑞鳥は、三種類の鳥を合体させて創った架空の鳥、ということになろうか。

吉祥文様として位置付けられる鳳凰は、やはり黒・色留袖や礼装用の袋帯の中で使うことが多い。上の帯は、四神聖獣オールキャストで、傍らに装飾的な唐花菱文を添えている。文様の中でも、もっとも重厚で威厳のあるものの一つと言えよう。

 

天平を彩るオリエンタルな含授鳥、身近な鳥を日本的に意匠化した福良雀、そして最上級のフォーマル鳥として君臨する鳳凰。それぞれの鳥には、特徴的な姿形を生かした図案があり、その出自や歴史とも大きく関わる。

そして鳥の文様は、草木、山水風景、他の動物文など、多様に組み合わせて使うことが多い。また、幾何学文の中に取り込まれて、意匠化するものも見られる。四季のあるこの国で、鳥達は自然の中の名脇役であり、その姿にはそれぞれの季節も映し出される。

キモノや帯でその姿を見ることが出来る鳥達は、まだ沢山いる。吉祥文様の鶴や鴛鴦を始め、正倉院文様の鸚鵡や鴛鴦、そして日本的な揚羽蝶、白鷺、雁等々。また機会があるごとに、ご紹介したいと考えている。

 

平和の象徴と言えば、鳩。しかし酉年の今年、世界を見渡せば、とても鳩のように穏やかな年とは言えず、何やらキナ臭い匂いが漂っている。来るべき戌の年、隣国の某独裁者と同盟国の乱暴な大統領が、一線を踏み越えないようにと祈るばかりだ。ただし、このご両人はどちらも、狂戌(犬)のような人物なので、とても安心はできない。

思わず鳳凰が降臨したくなるような、優れた為政者がどこかにいないものか。来年も、当たり前の生活が続くよう願いつつ、今年の稿を終わることにしよう。

 

今年も、全部で64回のコラムブログを、書き上げることが出来ました。

最初の年にこのブログを訪ねて来られた方は、約5千人。それが今年は、22万人もの方々に読んで頂くことが出来ました。これは、バイク呉服屋にとっては望外なことで、感謝のほかはありません。

そして多くの方からは、沢山のお励ましも頂きました。この場を借りて、御礼申し上げます。来年も小さな呉服屋の主人として、多面的に稿を書き進めて行きたいと考えています。無理をせず、ゆっくりと自分のペースで、この先出来るだけ長く、ブログを続けていけるようにしたいですね。

読んで下さる皆様が、来たる戌年が良い年でありますように。今年も本当に、ありがとうございました。

 

なお、来年の店舗の営業は、1月7日(日)からとさせて頂きます。また、ブログの更新も、7日あたりを予定しています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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このブログに掲載されている品物は、全て、現在当店が扱っているものか、以前当店で扱ったものです。

松木 茂」プロフィール

呉服屋の仕事は時代に逆行している仕事だと思う。
利便性や効率や利潤優先を考えていたら本質を見失うことが多すぎるからだ。
手間をかけて作った品物をおすすめして、世代を越えて長く使って頂く。一点の品に20年も30年も関って、その都度手を入れて直して行く。これが基本なのだろう。
一人のお客様、一つの品物にゆっくり向き合いあわてず、丁寧に、時間をかけての「スローワーク」そんな毎日を少しずつ書いていこうと思っています。

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