バイク呉服屋の忙しい日々

今日の仕事から

絵羽・道行コートの扱いについて どんなキモノの上に合わせるか

2015.12 06

毎日夕方4時頃、佐川急便の兄ちゃんが集荷にやって来る。送る荷物があってもなくても、とりあえず顔を出す。現代では少なくなった「御用聞き」である。

うちでは毎日のように、直し依頼の品物を預る。運賃が馬鹿にならないので、一週間に一度(日曜日が多い)、まとめて職人のところへ発送している。しみぬきや各種補正は、東京・下谷のぬりやさん。洗張り、すじ消し、丸洗いは人形町の加藤くん。帯関係の直し物は、京都のやまくまを経由して、西陣の植村商店さん。

職人の他に、取引先の問屋やメーカーに荷物を送ることも多いが、最近増えているのは、お客様宛ての荷物だ。わざわざ遠方から店に来られ、そこで求められた品物を送る場合や、県外のお客様が送ってきた直し依頼の品物が、仕上がった時などである。

 

この他、県外の結婚式場やホテルの美容室宛に、荷物を送ることもよくある。遠方で披露宴などがあり、どうしてもキモノを着なくてはならない場合は、荷物だけを先に送っておく。

キモノを着るためには、かなりの道具が必要になる。キモノ・帯・襦袢はもちろんのこと、肌襦袢やすそよけから、帯板、腰紐に至るまでの小物類、それに草履やバッグなども一緒に入れなければならない。

これだけの品物を、コンパクトにまとめて荷造りするというのは、なかなか難しい。そして、もっとも大切になるのは、キモノや帯がシワにならないようにすること。現地で荷物を開けた時、キモノがくしゃくしゃになっているようでは大変である。

当日、車で式場へ行かれる方は、自分で持参するが、飛行機や電車を使われる方は、大きい荷を抱えて移動することは、厄介だ。だからどうしても、あらかじめ荷物を送る必要が出てくる。

こうした理由で、お客様から荷物の発送を依頼される。バイク呉服屋では、品物が型崩れしないように、工夫して荷造りすることは、ある程度慣れている。新しく作って頂いた品物など、神経質なくらい慎重に梱包する。仕上がりを待っていたお客様が、荷物を開けて品物を見たら、シワだらけだったというのでは、信用に関わる大問題となる。

 

式場宛に、荷物を送ることが多いということは、家や式場以外の美容室などから、キモノを着たまま会場に向かう方が少ないということになり、それは、キモノ姿で外を歩く機会が無くなることに繋がる。

けれども、もしフォーマル姿で外を歩くとすれば、上に羽織るものが必要になる。特に今の季節から、4月初めまでは必需品だ。

今日の稿は、この礼装時に使うコートについて。先頃、求められた方がおられたので、その品物を御紹介しながら、話を進めてみよう。

 

(一越木蘭色裾ぼかし 絵羽道行コート・菱一)

キモノの上から羽織るものとしては、道行コートや道中着、羽織、雨コートなどがある。それぞれ、フォーマルの上に使うもの、普段着の上に使うものがあり、少し使い分けが必要になる。

コート類を作る場合、どのような反物から作るか、ということで用途が分かれる。総柄小紋で作る道行コートや羽織ならば、カジュアル用となり、無地場の多い飛び柄小紋ならば、無地や付下げのような、少しフォーマル的なキモノのコートとして使うことが出来る。

さらに、雨コートは、繻子や平織の紬地などに、防水加工を施して使うことが多く、今はあまり見かけなくなったが、黒の紋付羽織は、正装用の羽織となる。

今日御紹介するものは、黒留袖や色留袖、訪問着など、もっとも畏まった装いの上に、使用するコートである。

 

後から品物を見たところ。このコートの最大の特徴は、模様の位置が予め決められていること。上の画像で判るように、裾へ行くと地色が濃くなり、点々と小さな模様も見える。また、右後袖には、裾と同様の模様があり、左後袖は、無地のまま。

黒留袖や色留袖、訪問着などは、いずれも模様の位置が決まっていて、キモノの形に仮縫いされて(仮絵羽と呼ぶ)品物になっているが、このコートも同様である。やはり、コートの形に仮縫いされることにより、模様位置がわかるようになっている。このようなコート地のことを、絵羽(えば)コートと言う。

 

前から見た画像。地色は木蘭色(木の実や木の皮を煮詰めた時に生まれる色)あるいは白茶色をかなり薄めたような、柔らかい色合い。前は、左前袖に模様があり、右は無地のまま。やはり、裾へ向かって地色がぼかされている。

これで絵羽コートが、留袖類や訪問着などのキモノの絵羽モノと同様の原則、左前袖と右後袖に模様付けされていることがわかる。

左前袖の模様。模様そのものは、白抜きされたような小丸と、金色の小丸が散りばめてあるだけで、極めて控えめ。礼装用として使われるものは、コートそのものの色や模様が、あまりに目立ってしまうようではいけない。コートの衿元や裾から見える、キモノの色や模様を邪魔することのないよう、上品でいて、さりげなくお洒落な品物であることが重要だ。

模様の小丸を拡大してみた。丸をよく見ると、箔を使って柄にアクセントが付けられており、わずかに鎖のような繍も見える。小さい模様でも、きちんと手が加えられている。単純に見えても、工夫が凝らされていることで、より上質なものとなる。

 

この絵羽コートと一緒に使われる黒留袖。このキモノに見覚えのある方もあられると思うが、以前このブログでご紹介した(2015.4.23 四月のコーディネートの稿)、松本基之作の加賀友禅。あくまで大人しく、かつ上品なコートなので、留袖の裾模様の鴛鴦の色やピンクの梅の花が、より引き立つような印象を受ける。

この絵羽コートの丈は、2尺5寸。だいたい、膝の後あたりの長さとなる。丈は、短すぎても長すぎても、キモノとのバランスがとれないように思える。少し長めの丈、というのが、もっとも格好良く人の目には映りそうだ。

コートには、防寒のためだけではなく、キモノを汚れから防ぐ「塵除け」の意味もある。建物の中に入れば脱がなくてはならないが、外歩きの時には、思わぬ汚れが付くこともあるので、それを守るという意味もある。

 

さて、絵羽コートには他にどんな雰囲気の品物があるのか、簡単に御紹介してみよう。

(一越淡青地色雲模様 絵羽道行コート・菱一)

この品物も、控えめで上品な地色に、ささやかな模様が付けられている。色や模様は違っても、最初の品物と同じような印象を受け、フォーマルモノの上に使うものとしては、ふさわしい品。

上のコートを求められたお客様は、この品物と比較して迷われたが、こちらは寒色系の地色なので、少し寒々しい印象になると思われたようだ。

 

(一越浅緑色地雲に雪輪模様 絵羽道行コート・トキワ商事)

この品物は、上の二枚よりはっきり模様が前に出てきている。それは、雲の模様が、疋田絞りで表現されているためであろう。これでは、第一礼装用のコートとして、模様が主張しすぎる嫌いがある。付下げや無地あたりに使うのであれば、このくらいでも良いが、完全なフォーマルに使うものとしては、すこしくだけてしまう。

やはり礼装用に限定されるコートは、無地に近いもので、その色も出来るだけ優しい色であること、さらに描かれている模様も、控えめながら一工夫されていることなどが、使うことにふさわしい条件となるようだ。

 

キモノに格があるように、コートにも格が存在する。コーディネートを考える時、それぞれの格に見合う品物を選ぶことで、より引き立つ着姿となる。

コート姿は、外でしか着られないものだが、皆様にも、ほんの少しのこだわりを持って、色や模様を見て頂きたいと思う。

 

私は、保守的で堅苦しいのかも知れませんが、最もフォーマルな着姿を考える時には、ある程度それにふさわしい、色や模様が出てくるように思えます。出席する場所や立場に違いがあっても、やはりまずは、「上品さ」が求められるのではないでしょうか。

けれども、カジュアルの時には、何の制約もなく、着る方が自由に考えて個性を出すことが出来ます。

やはり、キモノの魅力は、フォーマルモノとカジュアルモノの落差にあるのでしょう。「晴れ」と「褻(け)」の意識の違いを、明確に品物(着姿)で表現できることです。皆様には、「制約」と「自由」を上手く使い分けながら、キモノライフを楽しんで欲しいですね。

 

今日も、最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

 

 

 

 

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このブログに掲載されている品物は、全て、現在当店が扱っているものか、以前当店で扱ったものです。

松木 茂」プロフィール

呉服屋の仕事は時代に逆行している仕事だと思う。
利便性や効率や利潤優先を考えていたら本質を見失うことが多すぎるからだ。
手間をかけて作った品物をおすすめして、世代を越えて長く使って頂く。一点の品に20年も30年も関って、その都度手を入れて直して行く。これが基本なのだろう。
一人のお客様、一つの品物にゆっくり向き合いあわてず、丁寧に、時間をかけての「スローワーク」そんな毎日を少しずつ書いていこうと思っています。

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