バイク呉服屋の忙しい日々

にっぽんの色と文様

山梨の秋を彩る 葡萄文と葡萄唐草文(前編)

2015.09 08

マニキュアフィンガー・ロザリオビアンコ・ゴルビー・藤稔・ベリーA・アジロン。 これは全てブドウの名前だが、皆様はいくつご存知だろうか。

マニキュアをした爪のように、細長い形をした粒が特徴的なのが、マニキュアフィンガー(赤紫色)やゴールドフィンガー(黄緑色)。ロザリオビアンコは、アレキサンドリアとロザキという二品種を掛け合わせて作られたもので、鮮やかな黄緑色で爽やかな甘さがあり、皮ごと食べられる。ベリーAやアジロンは黒い粒で赤ワインの原料になる。

山梨生まれのバイク呉服屋も、全く知らないブドウが沢山ある。ここのところ毎年のように、新しい品種のブドウが生まれていて、その色も味も粒の大きさも、多種多様だ。

 

我々が子どもの頃から馴染み深いのは、デラウェアや甲州、さらに甲斐路や巨峰、ピオーネくらい。もっと年配の方だと、ブドウといえば、甲州原産の甲州ブドウのことと認識している。

甲州ブドウは、酸味が強く種があるため、生食用よりむしろワイン原料として栽培されることが多い。今は、甘みが強いものや、粒の大きいもの、そして皮ごと食べられるものや種のないものが好まれるようだ。おそらく、そんな消費者のニーズを意識しているからこそ、ブドウの多品種化や品種改良が進められているのだろう。

種を失くしたり粒を大きくするために、農家がやらなければならない作業がある。「ジベレリン処理(通称・ジベ処理)」である。ジベレリンとは、植物成長調整剤・植物ホルモンの一種で、この溶剤をブドウの房に浸すことで、種なしブドウや、粒の大きいブドウを作ることが出来る。

ジベ処理は、開花後一定の日数を経た時に行われる。この時期はブドウの種類ごとに異なり、その上ひと房ずつ丁寧に、人の手で付けて行かなければならない。元のジベレリンは無色なので、溶剤を作る時に、食紅で赤い色に染めておく。これはすでに処理をしたブドウか、そうでないものかを判るようにするためで、赤い色はその目安となる。

このように、消費者が食べやすい「種無し」を作るには、予想以上の手間が掛かり、ブドウ農家の仕事を煩雑にしている。機械化は出来ず、手を抜くことが出来ないだけに、大変である。

 

ということで今回の文様の話は、代表的な山梨の秋の味覚・葡萄をモチーフにした品物をご紹介しながら、その特徴や模様の雰囲気などを見て頂きたい。今日はまず、図案としての葡萄文について、そして次回は、天平期より伝わる葡萄唐草という文様について、話を進めてみよう。

 

(銀鼠地色 葡萄の丸文様・小紋  菱一)

キモノや帯にほどこされている図案は、同じ植物を描いていても、旬を意識させるものと、そうでないものとに分かれる。描き方により、季節が前に出てくるものもあるが、そもそも文様そのものの性質や成り立ち方で、区別されることが多い。

つまり、単純に葡萄をモチーフにつかった「葡萄文」では、当然秋という季節を意識して使うものとなり、「葡萄唐草文」では、秋に限定した文様という意識は少なくなるということだ。

 

最初の品物は、丸文様の一つ・花の丸文で、その花のモチーフとして葡萄を使ったもの。花の丸文ほど、自由自在に花を選べる文様はなく、梅・桜・橘・楓・菊など、花の数だけ花の丸文がある。中には、幾つかの花を組み合わせて、花の丸を形作るようなこともあり、伝統文様にして、実にアレンジしやすい意匠である。

葡萄の葉と蔓、それに実を組み合わせて花の丸を形作っている。挿し色も青と緑の寒色系だけなので、すっきりした印象。また、白い型疋田で模様付けされた葉も所々に散らされていて、それがアクセントになっている。

飛び柄小紋なので、大きい葡萄の丸と小さい葡萄の丸、それに白疋田の葉模様がバランスよく配されるように、仕立の工夫をしなければならない。簡単なようで、なかなか難しい品物である。

 

(薄鼠地色 葡萄文様・手描き友禅単衣訪問着  北秀?)

この訪問着は、30年以上前に当店で扱った品だが、先日手直しのために戻ってきた。最初の小紋よりなお薄い白鼠地色で、写実的に葡萄が描かれている単衣の訪問着。

葡萄の葉を拡大したところ。葉脈の一つ一つにも丁寧に手で糸目が引かれ、絵画のように葉を描いている。少し色づいた葉先の黄土色で、季節の移りが表現されている。葉には濃緑色と青磁色がバランス良く配され、ぼかし方も巧みである。秋に向かう頃の葡萄の木を、そのまま写し取ったような図案だ。

こちらは、葡萄の実と蔓。自由に伸びる蔓や枝は手描き友禅でなければ、ここまでリアルに表せない。特にかすれたように見える細い枝のところなどを見ると、糸目引きの見事な強弱の付け方が見て取れる。また、不揃いに付けられた一つ一つの実は、糸目を隠す技法がほどこされていて、この品物をより絵画的に見せようとする意識がある。

このように、季節を切り取って描かれたような図案は、否応なく旬を意識させ、品物としては大変贅沢なものと言えよう。桜や梅だけをモチーフにした品物は時々見かけることがあるが、葡萄はなかなかお目にかからない。今となっては、どこから仕入をしたものかわからないが、こんな凝った品物を作ったのは、今は亡き北秀あたりであろう。

 

(鶸色 葡萄文様・九寸織名古屋帯  帯屋捨松)

こちらの葡萄文様は、前の絵画的訪問着とは対照的に、思い切りデザイン化された、遊び心いっぱいの模様だ。秋のカジュアル着を思い切り楽しめるようにと、考えられたものだろう。捨松には、2,30代の若いモノ作りの担い手がいるが、自由で豊かなセンスが伺える若々しい品物である。

そもそも地色に鶸という色を使ったところに、センスの良さを感じる。ひと目で葡萄と判らなくても、よくよく見れば、葡萄でしかない。葉や実の明るい配色も絶妙で、薄地・濃地どちらのキモノに合わせても良い。大胆な図案ではあるが、さりげなく秋を感じさせる品物でもある。

 

葡萄という秋の植物をモチーフにしても、図案の取り方、彩色の違い、さらに品物の種類にもより、これだけ雰囲気の違う文様になる。飛び柄小紋・単衣訪問着・カジュアル名古屋帯と、それぞれの用途に応じた表現がなされているように思う。

大切なのは、モチーフをキモノや帯の中でどのように生かしていくか、ということだろう。図案や彩色の中に、作り手の意識が見える。特に葡萄のように、旬が前に出てくるものには、それが強く表れる。品物を選ぶ側も、その季節を感じ取りながら装う。着姿を表現することにおいて、もっとも贅沢なことではないだろうか。

次回は、秋にこだわらずに使える葡萄文様・葡萄唐草について、御紹介してみよう。

 

勝沼町・ぶどうの丘から見える甲府盆地。

山梨の葡萄産地といえば、勝沼(現在は甲州市・勝沼町)。江戸中期に始まった葡萄栽培は、明治10年の葡萄酒製造へと繋がります。山の際まで埋め尽くされた葡萄棚と、扇状地の地形を生かした葡萄畑の風景は、やはり美しいですね。画像で遠くに見えるのは、南アルプス。残念ながら少し雲が掛かっています。

勝沼町のはずれ、菱山地区の葡萄畑。山の中腹まで畑が広がっていますね。

赤ワインの原料になる「ベリーA」。もちろん食べてもおいしい。

ほんの少し色づき始めた「甲州」。甲州葡萄の中で、一番最後に収穫されるもっとも古い品種。多くがワイン原料として使われる。酸味があり、独特の味わい。地元の人にとって、一番思い入れのある葡萄。

 

葡萄文つながりということで、少しだけ山梨の葡萄風景を御紹介してみました。9月中旬から10月初めにかけてが、葡萄の旬と呼べる季節で、様々な種類の葡萄を楽しむことが出来ます。今年から始まる秋の大型連休・「シルバー・ウイーク」を使って、ぜひお出掛け下さい。

葡萄畑の撮影に協力して頂いたのは、バイク呉服屋が懇意にしている勝沼・「原茂(ハラモ)ワイン」さん。1924(大正13)年創業の、老舗ワインメーカー。自家農園1.5ha、契約農園25haで栽培される勝沼産葡萄を使って生み出されるワインは、勝沼そのものを味わえるものと言えましょう。

画像の母屋は、原茂さんが明治期に建てた二階建古民家を改装したもの。一階はワイン試飲も出来る販売コーナーがあり、二階は洒落たカフェになっています。ここは、重厚さとモダンさの両方を感じさせてくれます。上の画像は、家の前の一面に広がる葡萄棚を写したところです。

今日も、最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

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このブログに掲載されている品物は、全て、現在当店が扱っているものか、以前当店で扱ったものです。

松木 茂」プロフィール

呉服屋の仕事は時代に逆行している仕事だと思う。
利便性や効率や利潤優先を考えていたら本質を見失うことが多すぎるからだ。
手間をかけて作った品物をおすすめして、世代を越えて長く使って頂く。一点の品に20年も30年も関って、その都度手を入れて直して行く。これが基本なのだろう。
一人のお客様、一つの品物にゆっくり向き合いあわてず、丁寧に、時間をかけての「スローワーク」そんな毎日を少しずつ書いていこうと思っています。

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