バイク呉服屋の忙しい日々

現代呉服屋事情

呉服屋の「情報発信」と「宣伝」を考える(後編)

2014.10 08

ここ何年間かずっと、何軒かの「振袖屋」さんから案内状やカタログが届いている。うちには、一歳おきに三人の娘がいるのだが、一体どこで「個人情報」を調べたのか。

うちの住居は、仕事場(店舗)とは別のところにある。プライベートなことなので、もちろん公にはしていない。今、娘たちの通った学校などでは、「個人情報」の管理が徹底されており、ここから洩れるとは思えない。我々の時代には、クラスや学年ごとに、「名簿」が作成され、同級生の住所や電話番号をひと目で知ることができたが、今は、「卒業アルバム」にも載せることはない。

だが、現実として「振袖屋」が使っているということは、少なくとも「年齢・性別」ごとの「名簿」が存在するということになる。これでは、いくら自分たちが、「個人情報」を洩らさぬように注意していても、「どこからか」流出してしまうことになる。そして、その「流出元」を突き止めることは、ほぼ困難だ。

 

教育出版の大手「ベネッセ」から、千万人単位の「子どもの情報」が洩れたのは、記憶に新しい。「添削」や「模擬試験結果の郵送」などで得た、「住所・氏名・学年・学校名・電話番号」などの情報が、「まとまって、そっくり」外部に流れた。

ベネッセの場合、社員ではなく、「出入りの業者」のような者が流出させたのだが、あまりに大量なデータだったのと、著名な会社の「信憑性のある情報」だったため、それが、「世間」に知れることとなり、大問題に発展した。

だが、このようなケースは「氷山の一角」であろう。学校や企業、団体などが保持している「個人情報」は、「どんな不届き者」から洩れるとも限らない。それは、「情報が金になる」からだ。

「個人情報」という商材は、「売れる」商材でもある。この商材の仲介をするのが「名簿屋」ということになる。名簿屋は、「情報」を「仕入れ」、それを必要とする事業者に売る。仕入れたものが、正確で、多岐にわたった内容ならば、より「高く」売ることができる。さしずめ、「ベネッセ」から洩れたものは、「高く」売れたに違いない。何せ、「流出元」が、有力な教育産業だったからである。

余談がまた長くなってしまったが、前回の続きとして、呉服屋の「宣伝」から透けて見える、その「質」というものを考えてみよう。

 

「モノを売る」ために、どのような媒体を使うか。それは、モノの性質にもよるだろう。「呉服」というものが、一般には「馴染みの薄い、わかりにくい品物」だけに、難しさがある。また、「必要としている人が限られている」商品なので、やみくもに情報発信をしても、効果は上がらない。

折込チラシ、新聞の広告、TVのCMなどが有効な品物は、多くの人が「必要」としているモノであろう。効率的な宣伝とは、「必要としている人」だけに、「ピンポイント」で情報を発信し、宣伝すること。「無関心」な人や、モノが不要の人のために、「経費」を使うことは、「無駄」になるだけである。

そんなところへ、ITが出現した。これは、「必要な人」を呼び込む手段として、画期的な道具である。今や、「関心がある人」ならば、ネットを使って物を探すのが「当たり前」の時代になった。「スマホ」の急激な普及で、いっそう平易になり、「いつでも、どこでも」欲する情報に触れることが出来てしまう。

こうなると、モノやサービスを売る側は、「ネット」における「発信の仕方」をどのように工夫するか、考えなければならない。「魅力的」なHPを作ることはもちろん、「迅速な情報発信」や「リアルな対応」が求められる。「facebook」や「twiter」の登場は、これをも可能にした。

だが、これから先の時代、ITだけに「限定」されて、情報発信や宣伝がなされるかと考えると、そうとも言い切れない。まだまだ、「アナログ」な方法である、「チラシ」や「広告」、また個別に送られる「案内状」や「勧誘」の「葉書」なども使われていくだろう。なぜならば、ITは、見る側の「意思」がなければ、「見てもらえない」からであり、アナログ媒体は、見る側の「意思」がなくても、「目に留まる」ことになるからだ。

 

では、この「アナログ」な宣伝媒体を、呉服屋がどのように使っているのか、考えていくことにしよう。「チラシ」や「広告」の中身や、送り付けられる「紙媒体」の内容で、「送り主の呉服屋」がどんな類の店であるか、ある程度「見えてくる」ことがある。

冒頭にお話した、「振袖屋」の「カタログや案内状」などは、言うまでも無く、「振袖対象となる年齢の女性」がいる家に限定されて、送り付けられる。もちろん、それまで「店」と「送り先の家」とは、ほとんど面識がない。

「ピンポイント」で必要な人(「振袖」は、誰もが必ず使うものと店側が信じ込んでいる)に「宣伝」をするには、「誰が、対象年齢か」がわからなければ、出来ない。だから、「情報」を買うのである。「振袖屋」が自ら、「振袖対象者」の名簿を一軒一軒調査することなど、出来るはずもない。この類の店は、「名簿屋」の存在は「無くてはならない」ものであり、自分が使う「名簿」がどのように持ち出されてきたのか、などは「どうでもよいこと」なのだ。「個人情報」ということに関する「モラル」の欠如は、如何ともしがたい。

そして、「モラル」より「商いの道具」としての考え方の方が、優先されるようなところの「商い道徳」などは、「押して知るべし」と言うしかなく、このような「振袖の売り方」をする店は、それだけで「どのような店」か判断出来よう。

 

上に述べたことは、情報の発信方法に関わる問題だが、今度は「発信されている内容」から、その店がどのような店かを、判別してみよう。これは、「受け取る側」に少しでも「知識」があれば、「見抜く」ことが出来る。

そこで、「価格」に関することを幾つか例に挙げてみよう。多くの一般消費者にとって、「呉服の価格」は「わからない」ものであろう。「キモノ」というだけで、「高価なモノ」とイメージされている方も多いはずだ。

例えば、「訪問着・付下げ・10,000~」とか「袋帯20、000均一」などとチラシに載っていれば、「安さ」を感じる人もいるだろう。中には、150,000の品が50、000円とか、メーカー希望価格200,000円を特別価格70,000円などと、「安さ」を強調して書かれているものもある。

品物の質など関係なく、「安ければ安いほど良い」という消費者に対してならば、何も言うことはない。しかし、ある程度の「質」を求めるならば、「安くなっている理由は何か」を考える必要がある。

そもそも、「本来の価格」として、どのくらいが「妥当」か、「見分けること」のできる消費者は少ない。だから、5万に下がっている品が、もともと15万の価値があったものかどうかが、わからない。そもそも「メーカー希望価格」の「メーカー」がどんなところなのかも、理解されていない。モノを買う時に一番大切な、「買う側のモノの価値の見極め」というものが難しく、「売り手」の都合に「任されてしまった」状態なのだ。

では、これを「解消」するために、「店側」は、消費者に何を、発信しなければならないか。それは、出来るだけ商品知識の薄い人にも「わかりやすく」、「商品の情報」を付け加えることである。

今や、ネットでいくらでも、モノの価格を調べられる時代である。一昔前のように、「消費者がわからないから」と言って、「いい加減」な価格を付けて、それがまかり通るような時代ではない。だから、チラシにしても、何にしても、「価格」というものを載せるときには、その品物がどんなモノなのか、具体的に書く必要がある。

例えば「本場大島紬・9マルキ泥染め・平田絹織物 350,000が190,000」とか、「龍村光波帯 メーカー希望価格 98,000が68,000」とか、品物と、内容、また具体的な製造メーカー名などが、記載してあれば、「見る目や知識」を持った人には、「安さ」が実感できる。また「知識を持たない方」も、「市場の価格をネットで調べる」ことが出来る。そしてそこに、商品の「画像」を一緒載せておくことが必要なのは、言うまでもない。

という訳で、「よいチラシや案内状の内容」というのは、「具体的な商品の情報」が記されているかどうか、で判断できるように思う。こんな「宣伝」が出来るような店ならば、価格も信頼することが出来るだろう。

もし、「加賀友禅色留袖・毎田仁郎製作 1,200,000が350、000」とか、「北村武資・袋帯 780,000が180,000」とかのチラシを見つけたならば(普通そんな価格はあり得ないが)、バイク呉服屋だって、「客」のふりをして、「エンジンを思い切り吹かしながら」真っ先に買い付けに走る。

 

最後に、うちの「宣伝」について、すこしお話してみたい。とは言っても、基本的に「宣伝」はしないので、どんな方法でお客様に情報を伝えているか、ということになる。

7,8年前までは、一年に2,3回「テーマ」を決めて、「逸品会」のようなことをしていた。今は、年に二度、3日ずつ「バーゲン」をするくらいなので、他の呉服屋さんのように、「展示会」などの案内状を頻繁に出すということもない。もちろん「振袖」に関することでも同じで、何もしていない。

「催し」の通知も、「不特定多数」の人に出すことはなく、これまで当店と「何らかの取引(品物を購入された方や「直し」の依頼を受けた方)」があった方に限定される。

昔開催した「会」で使ったお客様への「案内葉書」。上の二つは、左が「龍村平蔵展」。右が「江戸小紋の会」。

画像を見て頂ければわかるように、「龍村」の会では、「龍村の謹製葉書」を、「江戸小紋の会」では、「竺仙の謹製葉書」を使っている。「会」に出されている品物がどんなモノなのかは、作っているメーカーが出している「葉書」を使うのが、一番わかりやすい。

しかも、自分で文面をつくり、自分で印刷しているので、「手作り感」だけはあるが、要は、「印刷代」を節約しているということだ。

最初の画像の下の葉書は、「浴衣や薄物の入荷」を知らせる時に使う、「竺仙オリジナル葉書」。上の画像は、ここ何年かで使ったものだが、毎年違う「イメージ」で作られているのがわかる。仕入れた浴衣が「竺仙」から送られていくる際、「販促用葉書」として、一緒に送られてくる。これを見ると、「竺仙」がどんなコンセプトで、その年の「モノ作り」をしているのかが、見て取れる。この葉書は、5月の下旬、特定のお客様に送られる。

 

「大きな売り上げ」を一度に作ることなど考えず(今の時代、そんなことはとても無理と思われるが)、「スローワーク」を心がければ、日常の中で、じっくりとお客様と向き合う時間の方が、大切であり、「特別な会」や、「展示会」などそう必要とは思えない。また、「商品」も買い取ってあるのだから、「会」を催して、「問屋やメーカー」から「借りてくる」こともない。

「消極的経営」と人からは言われるだろうが、「宣伝」は「お客様」がしてくれるように思う。「人の口伝え」ほど、「効果」のある「宣伝」はない。自分の店の規模と、仕事の進め方を考えれば、「経費をかけた宣伝」が必要とも思えず、それで十分である。

ただし、「宣伝」はいらないが、「情報発信」は重要である。自分のところの利益云々ではなく、「呉服屋」としてしなければいけないことだ。自分の店の宣伝よりも、お客様に知識を持って頂くことの方が、よほど大切である。このブログが、自分が予測していたより、はるかに多くの方に読んで頂いている現状を見ると、今まで以上に「襟を正して」、「情報発信」をしなければならないと思う。

 

先ごろ、「来年二十歳になる男の子」がいるお母さんから、「うちにも、呉服屋さんから、振袖のカタログが沢山来ている」と聞きました。

その子の名前は「カオルくん」だったので、どうやら「女の子」と間違えて送られてきたようです。買い取った「名簿屋」の「情報」も、「名前」から男女の判別は出来ないということですね。

その方の話には続きがあり、「カタログやら案内状やら、18歳の頃から、年に10回以上来る。呉服屋さんの『費用対効果』はどうなっているの」。

「どうなっているのかわからない」と答えると、「ところで、どうして、あなたは振袖を売ることに無関心なの」と叱られてしまいました。決して「無関心」ではなく、この仕事への「向き合い方」が違うからなのですが、それを説明するのが、面倒だったので、つい謝ってしまいました。

世間的には、大々的に「宣伝」を撒き散らかしている店の方が、仕事熱心に見えるとは、何とも皮肉なものですね。

今日も、とても「長い稿」になってしまいました。ここまで飽きずに読まれた方、感謝しております。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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このブログに掲載されている品物は、全て、現在当店が扱っているものか、以前当店で扱ったものです。

松木 茂」プロフィール

呉服屋の仕事は時代に逆行している仕事だと思う。
利便性や効率や利潤優先を考えていたら本質を見失うことが多すぎるからだ。
手間をかけて作った品物をおすすめして、世代を越えて長く使って頂く。一点の品に20年も30年も関って、その都度手を入れて直して行く。これが基本なのだろう。
一人のお客様、一つの品物にゆっくり向き合いあわてず、丁寧に、時間をかけての「スローワーク」そんな毎日を少しずつ書いていこうと思っています。

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