バイク呉服屋の忙しい日々

今日の仕事から

「裄」の寸法をどう考えるか(2) 時代の変化が映すこと

2014.02 26

呉服屋を長く続けていると、「寸法を測る」という作業がだんだん略されてくる。それは、「測らなくとも」、お客様の姿を拝見すれば、どこの寸法を工夫すれば着心地のよいものに仕上がるかがわかるようになるということだ。

身丈(キモノの着丈)や身巾などは、身長や体型を見ただけでほぼ正しい寸法が割り出せる。工夫しなければならないのは、「細部」の寸法である。

例えば、「胸のふくよかな方」であれば、「抱巾」を通常より広くするとか、「袵(おくみ)巾」を4寸で通しに付けるとか、である。また、お客様の「着方」によっても変わる寸法がある。例えば、「衿を抜いて(衿を広く、ゆったり開けて)着る方には、「くりこし」を余計に付けたり、「衿肩開き」の寸法を変えたりするとか、である。ただ、このことも「体格」を拝見したり、希望をお聞きすればわかることで、わざわざ「測ったり」はしない。

 

このようにほとんどの寸法は「測らず」ともわかるが、「必ず測らなければならない」寸法がある。それが、「裄」と「襦袢丈」である。長襦袢は、「おはしょり」なしで使うため、身長に応じた正確な計測が必要だ。この丈に関しては、きちんと測りさえすれば、ほとんど問題は出てこない。

難しいのは、「裄」の寸法の捉え方である。ここ数年、我々が考える「裄」の長さと、お客様が考える「裄」の長さにギャップが生じているように思える。このことが、今日の「本題」になる。

 

尺差しを置いて「裄」を測る。(品物は米沢紅花紬)

肩巾が8寸5分

袖巾が9寸。これで「裄丈」が1尺7寸5分ということになる。(昔で言う、「男並み」の裄寸法)

ブログを読んでくださる方には、すでにご承知の「基礎的」なことと思えるが、改めて「裄」の場所を確認していただく意味で、画像にして載せてみた。

 

さて、「裄の長さ」のギャップはどこから来るものなのか、話を進めていきたい。私がお客様の「裄」を測る場合、「手を横に水平に広げて」頂き、背の中心(背骨)からくるぶしが隠れるところまで、「尺メジャー」を使い測っている。

「裄」の長さは、そのお客様の体型により変わる。「なで肩」か「いかり肩」かでも、随分寸法が違ってくる。「身長」や「体重」から割り出せるものではなく、「測ってみない」とその人の正しい寸法が出てこない。

 

こうして測られた「裄」の寸法が、「手を下げると短い」と感じられる方が多い。特に若い方や、普段キモノに馴染んでいない方である。採寸する時、「手を横に伸ばした」状態で測っているため、手を下げると、「裄」は短くなる。すこし「くるぶし」が見えるようになることもあり、それが、「短い」と感じる要因だ。

「手を下げて」もくるぶしがすっぽり隠れ、手首ぎりぎりのところまで袖があるとすれば、今までの「採寸」方法からすると、1寸以上の誤差が生じている。もし、この長さにすれば、「手を広げた」時には、キモノの袖が手首よりかなり前に被さるような形になるだろう。

1寸以上のギャップは、どうして生まれたのか。おそらく、「洋装」の影響が最大の要因だろう。手を下に下げた時、「くるぶし」が洋服の袖先から覗いていたなら、それは「裄」が短いと判断されることが多い。その意識が、「慣習化」されているため、寸法の差となって表れるのだ。

 

では、「呉服屋側」がなぜ、現代の人が短いと感じる「裄」を正しいと判断しているのか、ということである。それは、キモノを普段着として着ていた頃の名残ともいうべきものと言えるだろう。

生活の一部として、「キモノ」を着ていた時代、当然のことながら、食事の支度も掃除も「キモノを着たまま」なされていた。つまり、「キモノを着て動いていた」日常があった。例えば、「モノを動かす」時に、「手が隠れる」ような長い裄のキモノを着ていたら、その都度、「袖をまくり上げなければ」ならない。「袖」が邪魔になり仕事がしにくくなるのだ。このような「実用」に沿った形で、「裄」の寸法が決められていた。

もちろん現代では、日常にキモノを着て過ごす方は、少数である。大多数の方は、「キモノで動きまわる」ようなことはない。我々も当然そのことを考慮に入れて、「裄の寸法」を割り出さなければならないが、必要以上に「長く」してあればそれでいいというものでもない気がする。本質的に、「キモノ」と「洋装」の「裄」は「別モノ」ということを少しだけ、意識して頂きたいと私は思う。

 

前回、日本人の体型の変化(裄の長さの変化)により、反物の巾が広がったという話をした。1950(昭和25)年の日本人女性の平均身長は、148,9cm。それが、2010(平成22)年には、158,3cmになっている。60年間でおよそ10cmも大きくなった。

昔の女性の「裄の並み(普通)寸法」が1尺6寸5分だったものが、現代では、1尺7寸~7寸5分になっている。これでは、「反物の巾」は広くならざるを得ない。

この裄の変化もだが、現代女性の体型の変化が、思わぬところに影響が出ている。それは、「仕立て」に関する問題である。この話を少ししてみよう。

 

今の女性達は、すごく「スタイル」がよい。特に若い方を見るとそう感じる。身長があり、手が長い。それと同時に「ウエスト」は細く、スマートである。実はこのことが「仕立て職人」の頭を悩ませている。

キモノの「身巾」と「裄」の関係は、仕立てをした時に「格好よく」仕上がるかどうか、に関ってくる。スタイルの良い女性達は、「手が長く=裄が広く」、「ウエストが細い=身巾が狭い」のだ。この結果としてキモノの形はどうなるか。

それは、下が窄まり、上が広がるという、いわゆる「扇」のような形になってしまう。キモノの仕上がりとしては、「不恰好」な形である。具体的にどのあたりに影響が出てくるのか、職人の保坂さんと話してみた。

それによるとキモノの肩巾(上の画像を参考にされたい)と身巾の後巾の差が1寸以上付くと、袖付のヤマ(肩の部分)にシワが出来るという。下の狭い身巾が、上に行って急に広がるため、無理が生じる。背が高く、華奢で裄が長い人であれば、後巾は7寸5分、肩巾は8寸5分以上になるだろう(差は1寸以上)。このような寸法例は稀ではなく、ごく当たり前に遭遇する。

下(身巾)は、生地が余り、上(裄)は目一杯使う。この弊害である。昔の日本人女性の体型は、言葉は不適当だが、少し「寸胴」であり、体の「上下」の部位のバランスが取れていた(極端な裄と身巾の差は出ない)。

 

では、「仕立て職人泣かせ」のスタイルのよい女性のキモノを、「格好よく」仕上げるために、どんな工夫をしているのか、ということである。袖付けのヤマにシワなど出さぬよう、また、脇から「扇」のように上だけ広がった、「仕上がり」にならないようにするための工夫である。

上の画像で、「尺メジャー」を置いてあるところが、「抱巾(だきはば)」と呼ばれる部分の寸法である。(このキモノは約7寸)

この部分を「調節」することにより、「扇のような広がり」を回避する。通常、この抱巾は上に行くに従い細くなる。「胸」の大きな方などは寸法を変えないが、これは特別な場合だ。

「細く」したままの「抱巾」だと、いきなり「裄」の部分が広くなれば、「扇」のようになってしまう。これを避けるために、「袖付け」から1寸5分下がった脇のあたりから、「抱巾」を斜めに徐々に広げていく。こうすれば、いきなり上で広がるような印象にはならない。また、抱巾を広げることと同時に「身巾」を少し広くする必要も生じる。全体のバランスを取るために、「巾」を広げるということもしなくてはならなくなる。

「格好よく」するためには、すこし弊害も出る。「抱巾を広げる」ことは、先にも述べたように「胸のふくよかな方」に対しての施しである。上記のように、「扇」になることを防ぐために抱巾を広げ、それがもし「胸が華奢」な方であれば、今度は「胸」のところで生地が余り、着た時に「シワ」が出る。このような場合、着る時に「胸」に「綿」などを入れて、「補正」しなければ、格好が付かない。

今日のような「寸法」の話はわかりにくく、説明になっていないだろう。ただ、「スタイル」のよくなった日本人に対して、どのように対応するか、旧来の「仕立て方」だけでは「難しい」こともあるということだけでも、ご理解いただければと思う。

 

「裄」をどう考えるか、そして「長い裄にどのような仕立ての工夫をするか」、この両方の問題に共通するのは、「時代の変化」をどのように捕らえ、対応して工夫していくかという点である。読まれている方には、この事は「大した問題」ではないと思われる方も多いだろう。

ただ、呉服屋であるならば、少しでも「着心地よく」、また「格好よく」キモノを仕上げたいと考えるのは当然である。「たかが裄、されど裄」なのだ。

 

「寸法」にたいしてこだわりを持つ、ということも「専門店」としての大切な条件と考えています。実際に仕立てをする職人さんは、お客様の姿を見ていません。どのような寸法にするか決めるのは、店の者であり、それを正しく職人さんに伝え、仕事をしてもらわなければなりません。

つまり、「仕立て」に関しての責任は、全て「店」が負うということになります。我々の判断一つで、「着やすいキモノ」にもなり、「着難いキモノ」にもなってしまいます。

「寸法を取る」ということは、かなり「重大なこと」という意識を常に持ちつつ、仕事にのぞみたいと思います。

今日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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このブログに掲載されている品物は、全て、現在当店が扱っているものか、以前当店で扱ったものです。

松木 茂」プロフィール

呉服屋の仕事は時代に逆行している仕事だと思う。
利便性や効率や利潤優先を考えていたら本質を見失うことが多すぎるからだ。
手間をかけて作った品物をおすすめして、世代を越えて長く使って頂く。一点の品に20年も30年も関って、その都度手を入れて直して行く。これが基本なのだろう。
一人のお客様、一つの品物にゆっくり向き合いあわてず、丁寧に、時間をかけての「スローワーク」そんな毎日を少しずつ書いていこうと思っています。

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