バイク呉服屋の忙しい日々

今日の仕事から

「付下げ」について考える 『訪問着』との違いは?

2013.12 01

今日から、師走。ブログの公開を始めて半年以上が過ぎました。のべ4700人もの方にご覧いただき、大変感謝しております。(うちの「訪問カウンター」は、同じ方が一日に何度訪問されても、重複して数えることはなく、あくまで、一人なので、この訪問者数は実数になります。)

もっとも身近にいる「家内」や「娘たち」に、ブログに対する感想を聞けば、「とにかく、長すぎて、読むのに疲れる。これ、ブログって言わないんじゃない」。私も「長い」ことは承知して書いていますが、最初から「コラム」的なものにするという目的があったので、こういう形態になるのは、ある程度仕方ないと覚悟をして始めました。

この「コラムブログ」は、「呉服屋の仕事」の内容や、職人とのかかわり、など今まであまり表に出なかったところに「焦点」を当ててお話しています。「キモノ」の上級者にも、「キモノ」の初心者にも、また「キモノを着ない人」にも、ある程度楽しんでいただけるように、これからも書き続けて行こうと思っています。

 

では、今日のテーマ。お客様からの質問で、もっとも多いものの一つ「付下げと訪問着はどのように違うのか」ということについて、話を進めたい。

(銀鼠地 ちりめん花籠模様付下げ・仕立上がり 菱一)

付下げと訪問着の「使い方」について、「違い」はない。どちらもフォーマルものであり、例えば、親族以外で結婚披露宴などに招かれた場合の衣装として使われる。いわば、代表的な「晴れの日」のキモノといえる。

では、なぜ「同じように使われるもの」が、名前を変えて流通しているのか、という疑問点である。お客様にとって「キモノの形」にしてしまえば、その品が「付下げ」として売られていたものなのか、「訪問着」として店頭に並んでいたのか、ということを気にされないだろう。それほど、似通っていると言える。

そもそも、「柄の付け方」はほぼ変わらない位置に付いている。「上前からおくみ」に主となる模様が付き、「胸」や「袖」に柄が配されているのも同じである。では、何が違うのか。わざわざ、二つのアイテムに分けられている理由は何か。それを考えていこう。

 

この二つの売り場に並ぶ形態の違い、付下げは反物で、訪問着は仮絵羽(キモノの形に仮縫いされている状態)で流通している。また、訪問着には八掛が付いているものがほとんどで、付下げにはほぼついていない。

なぜ、「同じようなもの」なのに、「形態」を変えているのか、という疑問である。一般的に言えば、これは、ほとんど売り手と買い手の便宜を図るためのもの、つまり、「商売上」の都合だと言える。お客様に品物を見せる時、「反物」より「仮絵羽」になっていたほうが、イメージをつくりやすいということが第一にあげられる。

実際に商いを行うとき、お客様に品物を「掛けて」いただき、自分に似合うものかどうか判断していただくことが多い。この際、「仮絵羽」になっている品であれば、簡単に「掛けて(着て)」みることができ、実際の「着姿」を想像しやすい。だから、「小売屋」と「消費者」双方が、モノを売り買いしやすい「手段」として、「仮絵羽」にされているのである。仮絵羽の訪問着のほうが、「売り手が素人」でも商売しやすいともいえるのだが、そのことは、後述する。

また、「仮絵羽」になっていることで、「店側」が「展示しやすい」ということも含まれていると思う。品物を衣桁にかけて見せられるという点である。付下げを撞木にかけても、せいぜい「上前」と「胸」の柄部分だけで、キモノ全体が想像しにくい。

 

では、「品物」としての違い(作り方や柄の付け方)がないのか、といえば、実はこれがあるのだ。決定的に違うのは、その作り方である。「付下げ」を作るとき、反物の状態のまま、仕事がされていく。付下げは、手前から、「片袖」・「前見頃」・「胸」・「後見頃」・「おくみと衿」という順番に「柄の位置」が並んでいる。このことは、まず最初に「どこにどんな模様をつけるか、あらかじめ決めて」仕事にかからなければ、「反物」の状態のまま作業は進まないということになる。

一方、「訪問着」の場合、まず最初に「白生地」を「仮絵羽」の形にしてから、仕事にかかる。「キモノの形」にしておいたほうが、全体的な柄のバランスや、難しいつながりの文様を描きやすい。また、「独創的」な品物も作りやすく、「作家」と呼ばれる人たちも、「訪問着」としての作品は多いが、「付下げ」としての作品は少ない。「訪問着」が「高額品」となりやすい理由であろう。

この双方の作り方の違いが、微妙な柄の付け方の違いや柄の「嵩」に影響している。全体を見ずに柄を決める「付下げ」は、どうしても「小さくまとまりやすい」模様になる。つまり、「柄全体の繋がり」に少し欠け、あっさりとした印象になりやすい。一方の「訪問着」は、キモノの形のまま模様付け(下絵)をするため、全体を一つの模様とするような、大胆な柄を作ることができるのである。

この「柄の嵩」が、「訪問着」の方が「付下げ」よりも「格上」にあたる品物と見られている原因とも言える。(もちろん「仮絵羽」になっているという「見た目」にもよるだろう)

だが、「訪問着」であっても「柄の嵩」のない品物もあれば、「付下げ」であっても「訪問着」に負けない重厚な柄付けの品物もある。「嵩」だけ見ていて、どちらが上で、どちらが下という判断は出来ない。だから、すべての「訪問着」が「格上」のアイテムとは言い切れないであろう。ただ先に話したように、「高額品」が多く見受けられるということだ。(もちろん「柄の嵩」だけではなく、どのような施しで模様付けされているのかが問題になるが)

 

では、「柄の付け方」に違いがあるのか。ということを実際の品物で見ていこう。

これは、最初の仕立て上がった付下げの「衿」と「胸」の部分を写したところである。「衿」にほんの少し「小菊」が散らされていて、「胸」に柄付けされた「花籠」や「流水」と柄が合っていない。つまり、「衿」と「胸」の模様は「単独で別々なもの」と見ることができる。この付下げの「衿」には、わずかな模様が見られるが、「衿」に柄がなく「無地」になっているものも多い。

これは、先ほど述べた、「反物の状態」のまま仕事をしているため、あらかじめ「柄」を決めて置かなければばらず、「柄」がそれぞれ「孤立」しやすい。また各部分(袖、胸、見頃)同士の「繋がり」をつくる難しさがある証拠である。

(黒地 紋綸子熨斗目模様訪問着 未仕立品 北秀)

この訪問着の「衿」と「胸」と「袖」部分に注目して見ていただきたい。「衿」・「胸」・「袖」にかけて付けられた「熨斗目」模様が、全部「一体」になって「繋がっている」ことがわかるかと思う。しかも、この三か所は、それぞれ「ピタリ」と柄が合うように付けられている(逆にここが合わなければおかしい柄になってしまう)。

「仮絵羽」の状態で仕事をしているため、部分相互の柄の繋がりを考えながら作られていることがわかる。「衿」をよく見れば、上部の「胸」や「袖」に繋がるところだけではなく、下部の「剣先」や「前見頃」に繋がる部分にも合わせて「柄」の施しが見られる。キモノ全体見渡した上で、「柄が置かれている」訪問着の特徴がよく出ているものと言えよう。

衿の下部から比較した「付下げ」と「訪問着」の画像。「柄の嵩」と「繋がり」は対照的な品物といえる。

この「衿」の柄の付け方が、「付下げ」と「訪問着」で大きく違いが表れる部分であろう。仕立上がったものでも、ここを見ると、どちらの品だったのかがわかるように思う。

ただし、この双方、どちらが「良い、悪い」と一概に言えない。柄のあっさりした、上品な品を好む方は、「付下げ」を選ぶだろうし、華やかで人目を引くものを好む方は「訪問着」ということになる。また、最初に述べたように、「付下げ」と言えども「訪問着」に準ずる「柄付け」もあれば、「訪問着」として仮絵羽になっていても「あっさりした」模様のものも見受けられる。

 

「付下げ」と「訪問着」の違い、それは、それぞれに施された「模様の繋がり」の違いであろう。「格」を言えば、「訪問着」の方が「華やかで人目を引く」品が多いという点で、「格上」のようにも考えられるが、それとて「柄付け」の好みの問題であり、そうと決めつけることは出来ないだろう。

「付下げ」には、反物あることから、訪問着のように「仮絵羽」部分の「ヤケ」を心配しなくてすみ、「店での保管」に適しているという利点がある。また、お客様に品をお見せするとき、自分で「柄合わせ」をして、キモノの形に作らなくてはならない手間があるが、それも「呉服屋」ならば、簡単に出来て当たり前の所作であろう。

「付下げ」が反物としてどのような配置になっているか、その「柄の付け方」などを含めて、次回にお話することにしよう。

 

昔と比較して、「呉服屋の暮れの忙しさ」は大分変わったようです。「除夜の鐘」を仕立て屋のコタツの中で聞いたというような話を、よく聞いたものですが、「正月」に向けてキモノを新調するような方は本当に少なくなりました。

ただ、そうは行っても、年の暮れは「商売の区切り」でもあり、預かった手直しの品を納めたり、「勘定」の受け取りなどもまとまってあることから、忙しくなっています。

バイクは重宝なもので、「少しの寒さ」を我慢すれば、仕事での移動時間を短縮できます。「オーバーヒート」しないよう、「優しく」乗らせて頂いております。そんな訳で、今月は、この「コラムブログ」を書く時間が限られているため、週三回から週二回の更新に減ると思われます。ご了承ください。

今日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 

 

 

 

 

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このブログに掲載されている品物は、全て、現在当店が扱っているものか、以前当店で扱ったものです。

松木 茂」プロフィール

呉服屋の仕事は時代に逆行している仕事だと思う。
利便性や効率や利潤優先を考えていたら本質を見失うことが多すぎるからだ。
手間をかけて作った品物をおすすめして、世代を越えて長く使って頂く。一点の品に20年も30年も関って、その都度手を入れて直して行く。これが基本なのだろう。
一人のお客様、一つの品物にゆっくり向き合いあわてず、丁寧に、時間をかけての「スローワーク」そんな毎日を少しずつ書いていこうと思っています。

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