バイク呉服屋の忙しい日々

今日の仕事から

「草木染」は見分けられる? 紅花紬の場合(後編)

2013.11 22

山形県は4つの地域に分けられる。県南部の米沢を中心とした「置賜地方」。県庁所在地のある山形は「村山地方」。新庄を中心として県北部で秋田県に隣接する「最上地方」。そして、日本海岸の酒田を中心とした「庄内地方」。県の面積はかなり広く、それぞれ気候や風土が違う。

山形新幹線が開通した現在では、東京から米沢まで2時間ほどで着くことができるが、それ以前は福島で奥羽本線に乗り換えた上、板谷峠をスイッチバックで越えなければならず、急行で5時間以上を要した。山形の人達にとって、東京が日帰り圏内になった訳で、新幹線が「魔法の杖」であることを実感していると思う。

置賜地方の中心地、米沢と長井、白鷹は少し離れている。長井へは、米沢から米坂線(新潟の日本海沿いの町、坂町まで繋がる路線)に乗り換えて今泉まで行き、さらに長井線(今は長井フラワー鉄道)に乗り換えなければならない。長井はその途中駅、白鷹は終着駅(国鉄時代は荒砥という駅名だった)。いずれにせよ、素朴な雪深い山里である。

ということで、今日は前回の続き、山形県の特産品でもある、紅花紬(置賜紬)に使われている「草木染」の見分けについて話を進めよう。

 

前回の話で、草木染を使っているか否かの「見分け」は、どのように品物に「表示」がしてあるかで類推する他にないと述べた。つまり、品物(反物)の色を見ただけでは判別が難しいということである。

上の画像は、「紅花紬」の反物の端に付けられた、「製造者」の「証紙」である。「新田」で作られた縞柄、「太子間道」と名づけられている。注意して見て欲しいのは証紙の右端に見える「主な染料」の記載。

画像が少しわかりにくいが、「紅花」、「ログウッド」、「黄檗」、「合成染料」の文字が見える。これは、当然織り糸の染めにどんな染料(材料)を使ったかの表示である。

反物を拡大したところ。「虹重ね」と名前が付けられているように、幾重にも横段で少し濃淡が付けられ、織られている。さて、この「材料表示」があることで、実はある程度どの色が何から染められている(どの植物染料か合成染料か)が判別(類推)することが出来るように思う。

まず「紅花」は「濃いピンク」の部分だと思われる。このあざやかな色は、「掻練(かいねり)色」とも呼ばれている色で、平安時代から宮中の衣装である「襲(かさね)」の中でも使われており、「紅花」染めの代表色の一つとも言える色である。

「ログウッド」は、「紫」に見えるところ。「濃ピンク」部分の前後に、淡く色が出されている糸で使われていると思われる。理由は「ログウッド」を媒染液で染め出すと「赤紫」系の色になるからだ。

黄色部分は「黄檗(きはだ)」であろう。「黄檗」はみかん科に属する木で、その樹皮の内側に「濃黄色」の部分がある。古来より、この部分を煎じて染料として使われてきた。この反物でも、黄色の色はかなり濃くなっている。

では、最後に残った「合成染料」がどこの色に使われているか?ということだが、これは品物の色を見てもわからない。だが、この「合成染料」(化学染料)の記載が、この品が「正直な品」であることのひとつの証明になっているのだ。

何も記載しなければ「100%草木染」と言われても十分通用する品であり(ほとんどが草木染なので)、それだけ「手をかけて」糸染めをしているものであろう。だが、ほんの一部でも「合成染料」を使っていることを、記している。製造者としては「あたりまえ」のことかも知れないが、書かなければ我々はもちろん、消費者には全くわからないことだ。そして、「100%草木染」であるなら、「価格が高くなる一つの理由付け」になるのだが、わずかな合成染料の存在が、その「謳い文句」を付けることを拒んでいるようにも思える。

この品を作った「新田」という織屋は、現代における「紅花紬」の「創業者」的存在の会社である。昭和38年、先代の新田秀次により復活させた「紅花染」の伝統を受け継ぐ姿勢がこんなところにも見られる。製造の「情報公開」を正しく表示するということが、「新田ブランド」の信頼を高めることになっている。

 

さて、次の「置賜紬」について見てゆこう。前回、国に指定された「伝統工芸品」の認定について、少し書いた。この品に付けられている表示がそれで、例の「伝」マーク証紙も付いている。

「置賜紬」ブランドの管理は、画像でもわかるように「置賜伝統織物協同組合」だ。この組合が、作られた品物が「伝統工芸品」として世に出せるものかどうかを決めている。この組合で付けられている「表示」をよく見て頂きたい。

まず、米沢、長井、白鷹と三つの産地が記され、「長井」のところに○が付いている。これは、「長井紬」での認定ということになる。前回お話したように、「置賜紬」とひとくくりになっているが、それは、「米沢紅花紬」「長井紬」「白鷹紬」の三つを総称したものである。それぞれ、特徴があり織り方も異なる。

少し細かい文字で見えにくいが、「置賜紬」と認定する「条件」の記載が見える。100%草木染で化学染料を含まないもの。手織(手織織機・足踏み織機・いざり織)。絣(括り・板締め・摺込み)。おそらく、これに「合致」しない品物には、「伝」マークの証紙が付けられないということであろう。

だが、ここで一つ疑問がある。通常では、この「条件」の部分に○印が付いてなければならない。例えば「手織織機」によるものなら、その記載のところに○が、絣なら、どの方法「板締め」ならそこに○が付けられている。

上の品物には、「長井紬」のところに○が付いているだけで、「製造方法」の記載部分に印がない。つまり、「表示」がされていないということになる。では、記載してある「いずれの作り方」でもないということなのか。とすれば、「伝統工芸品」にはならないはずなのに。ただ、これを作った「渡源織物」は確かに「長井紬」の織元であり、間違いなく「組合の一員」である。そもそも「長井紬」を作る織屋は6軒しかない。

改めて、近接した画像を見てみよう。地色の糸は100%草木染なのか、どうかということはうかがい知れない。もし、そうであるなら、「草木染」と記してあるところに○が付けられていなければならない。他の「置賜紬」の証紙が付いた品を探して確認してみると、印の付けられた品が見つかった。ということは、この品には付いていないので、100%ではなく、草木染と化学染料の併用と考えることも出来る。

もしかしたら、証紙上の、この「100%草木染」の条件は、先に挙げた「置賜紬」の中の、「米沢草木染」だけに課せられた「条件」で、後の二つの「長井紬」と「白鷹紬」には課せられないとも考えられる。最初の「新田」紅花紬にこの証紙が付けられていないのは、わずかながら「合成染料」が入っていたからなのか、それとも「新田」という会社そのものが、「置賜織物組合」に加入していないのか、そのあたりはもう少し調べてみないとわからない。

また、この品物の「絣」に注目してみると、これは、「緯総絣」である。もちろんこの絣は長井紬の特徴でもあるので、それはよいのだが、どのような「絣」の技法なのか、表示がない(○印がない)。また「手織」の方法についても表示がない。とすれば、「機械織機」によるものなのか、という見方もできる。

私が、なぜここまで、その「製法」にこだわるのかといえば、「客観的」にこの品の「手間」のかかり方を知りたいと思うからである。もちろんこの品を買い入れた「問屋」に問いただせば解るのだが(問屋でなく「渡源織物」に直接聞けばよいのだろう)、「消費者目線」で考えれば「明らかな品質表示」があって然るべきと思われる。

仕入れ値段から類推すれば、「伝統工芸品」の「証紙」が付いているとはいうものの、高くはない。小売値はせいぜい7万円台の品である。「置賜紬」を売っているネットの販売サイトを見ると、この「証紙」が付いていれば値段が「高くなる」傾向がある。どうしても「消費者」はこの「伝統工芸品」の「証紙」を「高い品」と思いがちになるのは無理なからぬことであろう。

しかし、ここでとりあげた「置賜紬」のように、証紙があっても価格が安い、または、安くなければならない品があるということを知っておいて欲しい。それは、呉服の価格というものが「手間のかかり方」にリンクするのが「基本」だからである。

価格からすれば、最初の「新田・紅花紬(一部合成染料)」の方が「高い」。10万を少し越える値段である。これは、「糸染め手間=草木染の割合」の違いだからといえよう。

 

最後の品を見よう。実はこの品の端に「優衣紬」と名づけられた「紙」が貼られているのだが、それ以外に(絹100%とは記してある)何の記載もない。もちろん、織屋の名前もなければ、どのような染料で「糸染め」をしているのか、原料の表示はない。

一応「紅花紬」として流通しているのだが、おそらくほとんど「化学染料」による糸染めであろう。そう思わせるのに、十分なほど「品質表示」を怠っているのである。小売価格は3万円台がせいぜいである。まず織り方も「機械織機」とみて間違いない。つまり、「安い」ことの理由を消費者に伝えて、「紅花」の雰囲気を気軽に楽しめるものとして、売ればよい品物である。

 

これまで、三点の品物を「草木染」の有無という点から見てきたが、「品質の表示=どんな植物からとられた染料か」の明示がはっきりされているものほど、「良質」で「価格に信用のおける」品である、ということがいえよう。

もちろん最後の品のように、簡単に作ってあれば、消費者に「安く」提供して、その色合い(紅花風の)を楽しんでもらえばよく、化学染料による「紅花」紬の存在が全て「悪い」という訳ではない。

ただ、やはり、最低限でも商品における「作り方の表示」というものは必要に思える。それは、「わかりにくい」とされる呉服の価格を、消費者が類推できる道具、つまり「情報の公開」と位置づけるべきものであろう。また、よく調べれば、あいまいな商品基準の「伝統工芸品」の「伝」マークが付けられた商品に、その作り方に見合う価格が付けられているかどうかなど、我々呉服小売屋にとっても難しい問題があるのは事実である。

 

「何を使って染めてあるか」という、極めて「単純」な話なのですが、それが現実には実に「判り難い」ということになるでしょう。我々呉服屋は、「仕入れ価格」で作り方を見極めるようなところがありますが、それは、全てに当てはまるものではなく、中には「手間」がかかっているのに問屋が「安く」放出する品もあります。(現金に換えたいため)

出来れば、そんな「良質」の品を探して、商品を提供したいと思うのは常ですが、品物を作る「量」が極端に減ってきているため、昔ほど問屋が「商品を見切る」機会も少なくなってきたように思えます。

何はともあれ、「よい品を買い取って」消費者に提供するのが、「小売の常道」と言えましょう。

今日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

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松木 茂」プロフィール

呉服屋の仕事は時代に逆行している仕事だと思う。
利便性や効率や利潤優先を考えていたら本質を見失うことが多すぎるからだ。
手間をかけて作った品物をおすすめして、世代を越えて長く使って頂く。一点の品に20年も30年も関って、その都度手を入れて直して行く。これが基本なのだろう。
一人のお客様、一つの品物にゆっくり向き合いあわてず、丁寧に、時間をかけての「スローワーク」そんな毎日を少しずつ書いていこうと思っています。

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