バイク呉服屋の忙しい日々

今日の仕事から

9月のコーディネート 夏冬双方の帯で、単衣付下げを二刀流に着回す

2018.09 21

先日、大リーグ・エンゼルスの大谷選手が20本目のホームランを放った。日本人のメジャーリーガーとして20本塁打以上を記録したのは、コジラこと松井秀喜さんに続いて二人目だ。

その上、ピッチャーとしても10試合に登板し、4勝を挙げている。投打どちらか一方でも、大リーグのレベルに達することは至難だというのに、彼は当たり前のように、二刀流を貫いている。長い歴史を持つ大リーグでも、1シーズンで、投手として3勝以上を挙げ、ホームランを20本以上打った選手は、あのベーブルース以来(1919年・9勝・29本塁打)約1世紀ぶりのこと。そんな記録を見ただけでも、彼の類稀なる才能が伺える。

 

我々のような凡人だと、ことわざに、「二兎を追う者、一兎も得ず」とか、「虻蜂取らず」とあるように、二つのことを同時に成し遂げようとすると、ほとんど失敗する。「一石二鳥」とか「一挙両得」と上手く事が運ぶことは、そうそうあるものではない。

だから、目標を一つに定めて、手堅くまとめた方が無難であり、間違いは少ないのだが、今の世の中、優秀な方は意外と多くいらっしゃるらしい。それは、社員の副業を容認する企業が増えていることでも、判る。優秀な社員ほど、才能があり、自分で仕事を得る能力にも秀でている。もし、副業を認めなければ、より自由度の高い他の企業に引き抜かれてしまう可能性があり、それは、有能な人材を失うことにも繋がってしまう。

能力のある者は優遇され、力の無い者は容赦なく切り捨てられる。年功序列制度が過去のものになった今の会社では、サラリーマンと言えども、安穏としてはいられない。能力も競争心も欠如しているバイク呉服屋など、つくづく家業があって良かったと思う。

さて、キモノにも、二足のわらじならぬ、二本の帯で季節を跨ぎ、使い廻すことがある。今日は、そんな事例のコーディネートを、皆様にはご覧頂くことにしよう。

 

6.9月に着用する単衣に合わせる帯を、夏帯にするか、冬帯を使うのかは悩ましい。読者の方の中にも、迷われた覚えのある方は、多いだろう。特に、昨今は温暖化の影響で、以前よりも暑さが長く続いている。カジュアルモノならばまだ、慣習に捉われず、ある程度融通を利かして、季節を越えた品物を着用することも出来るが、フォーマルモノとなると、自由度が狭まる。やはり、きちんとした場面では、これまでの慣例を守る意識が強くなる。

それでも、単衣に使う帯は、夏・冬どちらかに限定することは出来ないだろう。6月、9月ともに、二つの季節の帯を、臨機応変に使い分けることが必要になってくる。しかし、その月の時期で夏冬を分けるというのも、難しい。6月上旬でも、30℃を越える日もあれば、9月上旬でも、25℃以下の肌寒い日もある。

要するに、その日の天気や気温、湿度などの気象条件により、選ぶものが変わってくるということ。そしてまた、着用する場所や、どのような立場でそこに出席するか、なども関わってくるだろう。その結果として、夏・冬どちらの帯を選ぶかは、着用する人の選択に任されることになり、だからこそ悩ましい。

そこで今日は、一枚の付下げを使い、夏帯・冬帯二通りの合わせ方を試してみる。帯を変えることで、雰囲気がどのように変化するのか、見て頂きたい。

 

(薄桜地裾鴇色ぼかし 流水に小桜と秋草文様・加賀友禅付下げ 大久保謙一)

ほんのりとした薄い桜色地に、赤みを帯びた藤色で裾をぼかした付下げ。小桜があるので春秋花なのだが、模様の中心は「流水に秋草」という、秋単衣の定番とも言えるオーソドックスなもの。模様そのものにあまり主張がなく、楚々とした野の花の雰囲気を醸し出している。

しかもこの品物が、箔や縫い取りを使わない加賀友禅だけに、なおさらおとなしく、上品な印象を残す。作者は、大久保謙一。以前ブログで、この作者の州浜文様・色留袖をご紹介したことがある。

模様中心の上前身頃とおくみの合わせ。模様上部が小桜で、下が秋草。

このように、小花だけをあしらった控えめな模様だと、キモノだけが着姿から目立ってしまうことはなく、使う帯により、その雰囲気が変っていく。無論、この品物の慎ましやかさは、大切にしなければならず、それを踏まえながら、相応しい帯を選んでいかなければならない。そしてそこに、単衣に使うものとして重要な、夏帯らしさ、冬帯らしさを、それぞれ考える必要がある。

では、夏冬双方の帯を選び、それぞれのコーディネートを見ていくことにしよう。

 

(白地 流水に菱唐花文様・紗袋帯 川島織物)

夏を意識した単衣の合わせ。9月上旬、まだ夏の陽射しが残る中では、着姿に涼やかさを持たせたい。つまりは、盛夏に絽や紗を着用する時と同じ意識を持つことになる。とすれば、ごく自然に帯は夏帯となる。

キモノの図案にリンクした流水模様と、唐花、菱唐花をあしらった紗袋帯。模様の配色は、青磁、ピンク、水色の三色のみで、どれもほんのりと淡い色合いでほとんど目立たない。遠目から見ると、かなり地の白さが浮き立つ。

前の合わせ。キモノが絵画的に野花を描いた図案なので、帯は文様化された模様を使う方が、まとまりやすいように思う。たとえ、キモノ・帯ともに花だけのモチーフであったとしても、このように、写実的な表現と文様化された図案を対照的に組み合わせれば、着姿にくどさが出てこない。

夏帯なので、帯〆と帯揚げにも夏モノを使う。キモノ・帯ともに、色にインパクトが無いので、帯〆に濃い目のピンクと白の二色組を使って、引き締めてみた。絽の帯揚げも同系色。(帯〆・帯揚げともに龍工房)

いずれにせよ、夏帯を単衣に使うということは、着姿に夏の名残を持たせることになる。私の考えでは、9月初旬ならば、まだ連日30℃を越えているので、キモノも夏薄物で良い気がするが、どうしても単衣にこだわるのであれば、帯だけでも夏姿を残すと、季節に添う姿となるように思う。

 

(銀地 蜀江文様錦 袋帯・帯屋捨松)

秋を意識した単衣の合わせ。このところの日中の最高気温は25℃に届かず、かなり凌ぎやすくなった。夜になると、庭から虫の声も聞こえてきて、秋の風情を感じさせてくれる。こうなると、単衣に使う帯は、夏帯ではなく冬帯となる。

蜀江(しょっこう)文は、八角形とその一辺を辺とする正方形を連続して組み合わせ、その図案の中に唐花や蓮華など、様々な文様を入れ込んだもの。この特徴ある幾何学的な図案の枠取りのことを、「蜀江取り」と呼んでいる。

蜀とは、中国四川省・成都を中心とする地域を指すが、2世紀後半まで中国を支配した漢王朝が倒れた後、三つの国が鼎立して国をまとめた時代・三国(魏・呉・蜀)のうちの一つでもある。この時代、蜀の地では、赤染め糸を使った絹の紋織物・赤地錦が生産され、これを蜀紅錦と呼んでいた。日本にも、正倉院に収納されている天皇への献納品に、この赤地の錦織がみられることから、飛鳥期には法隆寺へ伝来していたと認識されている。そしてこの錦の呼び名が、蜀紅錦から蜀江錦とされたのである。

蜀江文様とは、この赤地錦に見られる特有の幾何学文・蜀江取を指すものだが、西陣では、この蜀江錦の織技法そのものも習得されて、帯を製織するようになった。ということで、この蜀江文様は、古くから使われるポピュラーな図案の一つとなっている。

大胆な蜀江取りの中に、大きい八弁花の唐花と小さな菱唐花を、交互に組み込んだ図案。大唐花の配色は、青とピンクの二色に限定されているが、このシンプルさがカクカクした蜀江文を、よりインパクトのある図案にしている。

前の合わせを見ても、柔らかい雰囲気のあるキモノを、カチッと引き締めているように思える。夏帯を使った最初のコーディネートには、控えめな印象が残るが、こちらは帯に主張がある分、フォーマル感が強く出てくる。

小物に使った色は、夏帯同様にピンクを基調にしたもの。蜀江唐花のピンク色ともリンクしている。帯揚げも、同系のぼかし。(帯〆・龍工房 帯揚げ・加藤萬)

 

こうして、同じ付下げを使って、夏・冬双方の帯を合わせてみると、着姿の印象はかなり違ったものになることが、お判り頂けたように思う。夏帯では、季節感を重視した爽やかで控えめな着姿となり、冬帯だと重厚さが出て、畏まった姿となる。

しかも帯の図案を見てみると、どちらも唐花をモチーフにしている。無論構図や配色の違いはあるが、同じ文様の帯でも、夏と冬ではかなり雰囲気の違う姿として、あしらわれていることが見て取れる。

単衣を着用する6月と9月は、季節が移りゆく境目。日によって、違う季節を行ったり来たりする。それは言い換えれば、夏と冬双方の帯を使い廻すことの出来る、特別なシーズンとも言えよう。ぜひ皆様には、どちらの帯を使うか悩みつつも、単衣コーディネートを考える「二刀流帯の楽しさ」を再発見して頂きたい。

最後に、今日ご紹介した品物を、もう一度どうぞ。

(夏帯コーディネート)

(冬帯コーディネート)

 

会社に所属していながら、違う仕事を副業として持つ「二刀流サラリーマン」として有能な方がいる一方で、社内の肩書きを複数持つような人も見受けられます。

これは経営者に多く見られ、「社長兼会長」だの「社長兼CEO」だのと、偉そうな役職を兼任しています。そもそも私には、「CEO」なる役職がわかりません。私が知っているのは、「日清焼そば・UFO」くらいのものです。零細な自営業者であるバイク呉服屋には計り知れませんが、兼ねることに一体どんな意味があるのでしょうか。もしかしたら、役職二つ分の給料を得るためではないかと、下卑た勘繰りをしてしまいます。

うちも一応、有限会社という会社組織になっているので、バイク呉服屋の肩書きは、「代表取締役」になっています。しかし、代表といえども、社内には他に奥さん一人いるだけなので、何をどのように取り締まっているか、意味不明です。そして、兼任している役職は、「便所掃除役」と「ゴミ出し役」。現在、この役職に対して特別な給料が払われていないことは、言うまでもありません。

今日も、最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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松木 茂」プロフィール

呉服屋の仕事は時代に逆行している仕事だと思う。
利便性や効率や利潤優先を考えていたら本質を見失うことが多すぎるからだ。
手間をかけて作った品物をおすすめして、世代を越えて長く使って頂く。一点の品に20年も30年も関って、その都度手を入れて直して行く。これが基本なのだろう。
一人のお客様、一つの品物にゆっくり向き合いあわてず、丁寧に、時間をかけての「スローワーク」そんな毎日を少しずつ書いていこうと思っています。

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