バイク呉服屋の忙しい日々

今日の仕事から

続・寸法直し、ここを見る(身丈、身巾直しの場合)

2013.09 06

9月に入り、徐々に直しの依頼が増えてきた。お客様方も、さすがに今夏の猛暑では「キモノ」を箪笥から取り出すのも億劫だったと思う。

来春の成人式に使う、振袖の直しや小物の確認も「秋」になってからで十分間に合う。また七五三用の祝い着の直しや肩揚げ、腰揚げなどの寸法取りも、夏休み後に始めさせて頂くようにしている。なぜなら、「子ども達」は、夏に急に背が伸びて大きくなることがあるからだ。

今日は前回のこのカテゴリーの続き、身丈と身巾直しについてお話しよう。

 

その3 身丈を直す

親子の間でキモノを受け継ぐ時、不思議と「背丈=身丈」の問題が少ない気がする。やはり、背の高さは「似る」ことが多いからであろう。「裄の長さ」はかなり違うことが多く見受けられるのに比べれば、と言うことかもしれないが。

同じ身丈の寸法をどれぐらいの誤差まで着ることができるか、まずこのことから考えたい。女性のキモノには「おはしょり」というものがあり、ここの長さを少し調節することにより、着ることのできる寸法の範囲が広がる。今までの私の経験では1寸(4,5センチ)程度の違いなら、直さずそのまま使えると思う。

例えば、お母さんの身長が150センチで、使っているキモノの身丈が4尺の長さであったとしよう。これをそのまま使える娘さんの身長は155センチくらいまでであろう。5センチまでなら、先にお話した「おはしょりの調節」で着ることができるはずだ。若干「おはしょり」の部分が少なくなり「着づらい」と感じるかもしれないが、「使えない」ことはない。

問題になるのは、5センチ以上身長の違う場合である。大方の場合「娘」の方が「高い」。そこで「丈を出す」必要が出てくる。このような場合、どの程度まで寸法を出すことができるか、というのは「キモノの状態」による。ではどのような状態になっていれば「丈が出せるか」、ということを具体例をあげて説明しよう。

前回も例に取り上げた、「絽留袖」を使って話を進めたい。上の画像は「身丈」の寸法を測ったところである。うちの場合、身丈は「背から」測る。呉服屋さんによっては「肩から」測るところもあるので、同じ「身丈」を測ってもそのやり方により寸法が異なってくることもあるので注意されたい。

預かった品の身丈は丁度2尺差し二本分、つまり4尺である。直しの依頼人の通常の身丈寸法は4尺5分である。その差はわずか5分(2センチ程度)なので、このキモノに関して身丈直しの必要はなく、そのまま使えることになる。

さてこのキモノがもし、5センチ以上差のある方が直して使おうとした時、「身丈」が出るかどうか、どこで判断するかということだ。先にお話した「丈出し出来る状態か否か」ということである。

上の画像を見て頂きたい。これは、身頃の中に縫いこまれた「中揚げ」の部分である。色が濃く、二重に重なった部分がおわかりになるかと思う。このように、「胴」の中にある程度の「縫込み」を入れておくのが普通である。

この「縫込み=中揚げ」がどれくらい入っているか、で出せる寸法が変わってくるのだ。これを入れておくのは、「将来身長の高い人が、直して着ることがあるかも知れない」という「予測」の上に立って、のことである。

縫込みは大体「2寸(7~8センチ)程度」入れておくのが普通である。この絽の留袖も約2寸の縫込みであった。これで、このキモノの身丈は4尺2寸まで長くできる。結果、もしこのキモノを使うとすれば、160センチ弱までの身長の人ならば、「縫込みをはずす」ことで、ほぼ寸法通り直すことが出来るといえるのだ。

絽の品物なので、裏から中の縫込みの寸法を測る。袷の品物では、少しトキをしてどのくらい中揚げがしてあるか測ることがある。また、胴裏が一緒に、どの程度縫いこまれているか確認するためでもある。「裏地」が足りないときは、「裏地ハギ」をして足すことが多い。裏地は「見えない」ため、「ハギ」の位置や長さにそう気を使う必要はない。

 

では、この品を160センチ以上の人には直しても着ることが出来ないか、といえば、まだ幾つか手段がある。一つは「くりこし」をはずすということだ。キモノの「胴」には「くりこし」というものが付いている。通常は5分~7分ほどである。これを「胴」でなく「衿」に持っていくことで、その分の寸法を「身丈」部分に使うことができる。このくりこしをはずす作業は「全部トキ、仕立て直し」をしなければならない。この仕事をすることにより、さらに1寸程度伸ばせる。つまり、163,4センチの人まで使えるようになるのだ。

ではでは、それでも身丈が足りない人(165センチ以上の人)がこのキモノを使うにはどうしたらよいか、というと、それは、「胴ハギ」と言う方法で使うことができるようになる。「胴ハギ」とは、「帯の下に入って表からは見えなくなるところ」に別の生地で「ハギ」を入れて長くすることだ。

「ハギ」は当然別の生地を足すので、その「足したところ」が見えてはいけない。この「足す位置」が着る人の着方や、帯の締める位置により変わり、「ハギ」をどの位置に持ってくるかということが難しい。もしかしたら、この「胴はぎ」の仕事が直しの中で一番厄介なものかも知れない。

また「ハギに使う生地」も何でもよいという訳ではない。一番よいのは「同じ生地」だ。だから「残りきれ」が沢山ある場合は、それを使う。もしないときは、できるだけ似た材質と色(もし上の例のように絽の黒留袖であれば、絽の黒いもの)の生地を使うことを心がける。そうでなければ、「ハギが入ったモノ」であったにせよ、仕立てをして仕上がったとき、全体を見て違和感が出てしまうからだ。「黒いキモノ」に「白いハギ」を入れれば、例え表から見えない所だとしても、見た目は不恰好なものと言わざるを得ないだろう。

このように、「身丈」を直すには、キモノの仕立ての状態(縫込みの有無)や直す寸法の長さによって様々な方法や考え方があり、一筋縄ではいかない。「直し」の依頼の方には、とにかく「現物」を拝見しなければ、確固としたお返事ができないというのは、こういう理由からである。

なお「縫込み」がないものは、「小紋や紬」また「無地紋付(色無地や喪服類)」などに多く見られる。これは、「柄合わせ」の必要がないことにより、着る人の寸法に合わせて、「裁ち切って」しまうからである。フォーマルの柄合わせのあるもの(留袖や付下げ、訪問着類)は「裁ち位置」が決まっているため、着る方の寸法に合わせて「裁ち」を入れることが少ないのだ。

「新しいキモノ」を仕立てる場合、どんな種類のモノでも、「後で自分より背の高い人」が着ることを「想定」し、2寸程度の縫込みは入れておくことが必要だと思う。これは、仕立ての際、「和裁職人」に一言話しておけばよいことであるし、普通の職人なら、こちらが何も言わずとも「縫込み」は入れてくるのが常識である。

 

その4 身巾を直す

「巾」を直すということは、それほど難しいことではない。キモノの胴は前二枚、後二枚から作られており、その巾は「反物の巾」をそのまま生かして作られている。これは、前回お話したように「反物の巾」を裁って使うということはないということにある。

「反巾」は通常9寸以上はある。女性の場合、身巾の寸法は前巾が6寸~7寸、後巾は7寸5分~8寸2、3分の範疇にほとんどの方が入る。反巾をいっぱいに使えば前、後とも最高に出る巾は8寸8分~9寸まで出すことができるのだ。

私の経験では、どんなに「ふくよかな方」でも8寸5分(後巾)が今までで「最も広い」寸法だ。だから、「生地が足りず、巾が出ない」ことはほぼありえないと言えるだろう。「裄」や「身丈」の直しと違い、「出来ない」ということを考えなくてよいのだ。

前巾を測る。6寸3分の寸法。体格は「やせ型か中肉」であることがわかる。

後巾を測る。差しが途中で切れてわかり難いが、7寸5分の並寸法である。

依頼人の通常の「身巾寸法」は、「前巾が6寸8分」で「後巾が8寸」である。このことから、「身巾」を直す必要があることがわかる。前を5分、後を5分出す必要があり、そうしないと、身巾が狭くて「着にくい」品になってしまう。この場合、まず身頃を「トキ」、付いている以前の縫い後を消すため、「すじ消し」をした後、新たな寸法で縫い直すのである。もし、「すじを消さないまま」直してしまうと、前の縫ったところがそのまま「すじ」として出てしまい、不恰好なものになるからだ。

特に体格のよい方が、「前巾」が狭いキモノを着た場合は、上前を何とか「脇の方」まで持っていこうとして、無理に引っ張り、ひどい場合は、縫い目を「ほころばせて」しまうようなこともある。特にフォーマルの絵羽モノ(柄モノ)では、一番目立つ柄の中心部分が、前に来るようにしなければ格好の悪いものになってしまい、折角、よい仕事がしてある品をお召しになっても、それが「台無し」になってしまう。だから、「体格のよい方」の身巾は、よく注意しながら、寸法を割り出さなければならない。

このように、「身巾直し」の場合はキモノ全部の「トキ」をしなくても、部分トキ、部分直しで済ますことが出来る。もし、巾を「広げる」のでなく、「狭く」するような場合は、「すじ消し」も必要でないだろう。それは、以前付いたすじが、キモノの「縫いこみ」の中に入ってしまうためで、「見えなくなってしまう」部分のすじまで「消す」必要がないからである。

 

ここまで、「裄」「袖丈」「身丈」「身巾」の四つの部分の直しについて説明してきた。前回も書いたが、「わかりやすい」ものとはとても言えない内容で、文章力のなさを感じ、とても「歯がゆい」。ただ、「直し」というものには、品物の状態や直して使う方の考え方や、「どこまで費用をかけるか」ということによっても、その「直し方」は変わってくる。だから、依頼される方がどのような考え方を持っているのか、よく聞いた上ででなければ、仕事にかかるのは難しい。

お客様の気持ちを伺った後、私の考えを伝え、「最善の方法(費用は安く、着やすく、きれいに直る)」を探すということを、手順としてしていくことが、大切である。

次回は、例に挙げた品を実際に「トキ」、「すじを消し」、「寸法を直し」、「仕上がる」まで、手順を追って画像とともに説明しながら、見て頂き、仕事の内容をよりわかりやすく理解して頂こうと思う。

今日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

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このブログに掲載されている品物は、全て、現在当店が扱っているものか、以前当店で扱ったものです。

松木 茂」プロフィール

呉服屋の仕事は時代に逆行している仕事だと思う。
利便性や効率や利潤優先を考えていたら本質を見失うことが多すぎるからだ。
手間をかけて作った品物をおすすめして、世代を越えて長く使って頂く。一点の品に20年も30年も関って、その都度手を入れて直して行く。これが基本なのだろう。
一人のお客様、一つの品物にゆっくり向き合いあわてず、丁寧に、時間をかけての「スローワーク」そんな毎日を少しずつ書いていこうと思っています。

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