バイク呉服屋の忙しい日々

今日の仕事から

3月のコーディネート 「正倉院裂・唐花文様」を組み合わせてみる

2014.03 26

以前、「黒留袖」が現代において、「消え行く式服」になりつつあることを、お話したことがあった。

人生の節目である「式」というものが、形式にとらわれないものになり、昔から続く風習や習慣を守る意識が薄れた。「結婚式」のあり方など、その最たるもので、今は、「若い二人」の自由な発想で、式が計画されることがほとんどである。

たまに、「昔ながら」の式を見ると、「ノスタルジー」を感じる。さすがに「仲人」が存在する式はほとんど見られないが、両家の親族が揃って「黒留袖」を着ている姿などは、懐かしい「にっぽんの結婚式」を思い起こさせ、式服としてのキモノの重みと美しさを感じる。

世代が移る度に、「黒留袖」の必要性は、薄くなるだろうが、何とか残しておきたい。今日のコーディネートでは、そんな「式服」としての黒留袖と帯の合わせを、「文様」という観点から考えたものをご紹介しよう。

 

「黒留袖」に合わせる帯、といえば、「金」か「銀」、もしくは「白っぽい」地色で、柄は、「おめでたい」柄のもの、と単純に考えられてきた。もちろん、間違いではなく、それが「基本」なのだろう。

ただ、それだけでは、つまらない。「黒に金」、柄は「吉祥文様」ならば、「公式」の通りの「合わせ」だが、キモノと帯の間に、ちょっとした工夫を持たせる「合わせ」もしてみたい。そこで、考えて見たのが、「文様」という観点で、共通性を持たせることである。

 

「上代(正倉院)裂・唐花文様」の組み合わせ 「黒留袖」と「袋帯」

 

「上代裂(じょうだいぎれ)」というものには、「東大寺・正倉院」に伝わる「正倉院裂」と法隆寺に伝わる「法隆寺裂」がある。共に、唐やシルクロードの先のペルシャなどから、奈良期にもたらされた美しい文様の「裂」である。

このブログでも、度々「龍村美術織物」の手による復元された「上代裂」の文様について、ご紹介してきた。今日の「合わせ」で考えた、「唐花(からはな)文様」も、「正倉院裂」の代表的な文様の一つ。

「裂」に見られる「唐花文」は、画一なものではない。文様の形態はほぼ同じだが、中にあしらわれている花のデザインや、種類は多様であり、その組み合わせによる変化は、どのくらいあるのかわからないほどだ。

ポピュラーなキモノや帯の文様として、使われている「唐花文」は、この「正倉院裂」に伝えられているデザインが基本となっていて、それを様々に「アレンジ」したものである。今日は、どちらも「唐花文」を使った「黒留袖」と「袋帯」を組み合わせることで、コントラストがどうなるか、見ていただきたい。

 (熨斗に唐花文様 型友禅黒留袖 菱一)

吉祥文の一つである「熨斗(のし)」文様と、「唐花」文様を組み合わせた黒留袖。「型友禅」ではあるが、丁寧に色挿しされ、模様の所々には箔と刺繍が施された品である。上前から裾にかけて、流れるような「熨斗」と「宝飾」のような「唐花」が描かれている。

 

留袖に表現された二つの「唐花」。この「唐花」には特徴がある。画像をよく見ていただくとわかるのだが、両方とも花弁の数が同じである。花は何層もの花弁で構成されている複合的なものだが、形作られている花弁は「8つ、或いは4つ」である。

龍村が復元した「天平八稜華文錦(てんぴょうはちりょうかもんにしき)」は、正倉院の御物の中に表されている「赤地蓮唐花文錦」をモチーフにしたものだが、このことから、「唐花」というものの原型は「蓮」の花ということがわかる。

「熨斗」文様の中にも、様々な文様のあしらいが見られるが、やはり、「唐花」や「葡萄唐草」、「鳥襷文」など正倉院裂に伝わる模様で散りばめられている。ということで、この黒留袖の柄は「正倉院文様」と呼ぶこともできる。

 

(白地 ペルシャ花文様袋帯 紫紘)

どちらかといえば、日本的な「国風」文様を得意とする「紫紘」の手による品である。正倉院文様の帯といえば「龍村」を連想するが、「ペルシャ花文」と名付けられている通り、これも「唐花」をモチーフにしているもの。「ペルシャ=シルクロード伝来」という意味で名付けられている。

ご覧の通り、こちらも忠実に「8つ」の花弁が複合的に重なる、典型的な「唐花文様」である。しかも中心は「八角形」の一つの花になっていて、一層「8」を強調するような図案構成である。

 

この「唐花」同士による、同じ文様のキモノと帯の組み合わせで気がかりなのは、すこし「くどく」なりはしないか、つまり「取って付けた」ような感じにならないか、ということである。

合わせてみたところ。キモノと帯のバランスとして、「唐花」が重なることの違和感はないと思う。キモノの方の「唐花」が「熨斗」文様に添えるように付けられており、花の大きさも一回り小さい。また、「唐花」という文様がもつ「華麗さ」が、「重なり」の「くどさ」を消しているようだ。

前の合わせから見たところ。帯の「唐花」が半分に折られることで、後姿のイメージとは違う雰囲気になる。帯は少し抽象化された文様に映る。

 

帯〆、帯揚げを合わせてみる。白を基調とし、控えめに金糸が組み込まれている帯〆と、金の入らないシンプルな白い帯揚の組み合わせ。帯の文様が少し大胆なので、小物はあっさりしたものの方が邪魔にならないようだ。

(白金平組帯〆 道長取り模様白紋織帯揚げ 両方とも加藤萬)

 

ついでに草履とバッグも合わせてみよう。

(葡萄唐草文様 草履・バッグ 龍村美術織物)

どうせなら、これも「正倉院」伝来の文様で。合わせてみたのは、龍村の白い「葡萄唐草文様」の草履とバッグ。この「葡萄唐草文」は、東大寺大仏開眼の時に使われた舞装束の模様の一部に見られる。「正倉院裂」の中でも代表的な「唐草」文様の一つと言っていいだろう。

 

改めて、今日ご紹介した品物を見て頂こう。

「唐花文様」というものが持つ、「精緻」で「優美」な文様は、「晴れの日」に使われる黒留袖や帯にふさわしい模様であり、「天平」より伝わる華麗で、宝飾的なデザインは飽きることのない、ある種の「モダニズム」をも感じさせてくれるものである。

 

今日の「コーディネート」はいかがだったでしょうか。「黒留袖」を誂る方も少なくなり、実際にお客様の前で、こうした「合わせ」をする場面はあまり多くありません。

単調になりがちな、第一礼装の「留袖と帯」の合わせを、「文様」という視点で考えると、違った観点から品物を提案することも出来ます。

我々がお客様にモノを勧める時は、多面的な物の見方や、様々なコーディネートをするための「引き出し」を、「知識」として持つことが必要です。特に「晴れの日」にお召しになられる品物は、長い間使われるものです。だからこそ、「不易流行」である、「文様」や「柄行き」を考えなければなりません。

「いつ着ても、飽きが来ない」という品物を選ぶことこそ、フォーマルに使うモノ選びの基本ということをわきまえつつ、自分らしい工夫を試みたいと思っています。

今日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 

 

 

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このブログに掲載されている品物は、全て、現在当店が扱っているものか、以前当店で扱ったものです。

松木 茂」プロフィール

呉服屋の仕事は時代に逆行している仕事だと思う。
利便性や効率や利潤優先を考えていたら本質を見失うことが多すぎるからだ。
手間をかけて作った品物をおすすめして、世代を越えて長く使って頂く。一点の品に20年も30年も関って、その都度手を入れて直して行く。これが基本なのだろう。
一人のお客様、一つの品物にゆっくり向き合いあわてず、丁寧に、時間をかけての「スローワーク」そんな毎日を少しずつ書いていこうと思っています。

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