バイク呉服屋の忙しい日々

その他

2016・申年の始まりにあたり

2016.01 05

あけましておめでとうございます。

今年のお正月は、春のような暖かい日が続き、穏やかな年の始まりとなりました。年末から、一週間ほどお休みを頂いていましたが、今日から仕事始めです。

 

2013年の5月に始めたこのブログも、4年目を迎えることになりますが、内容はこれまでと同じように、お読み頂く方のお役に少しでも立てるような題材を、毎日の仕事の中から探して、お話していきたいと考えています。

今年の目標は、出来るだけ平易で、判りやすい文章を心掛けることですが、これが一番難しく、どこまで実践できるかわかりません。呉服屋の扱う品物や直しの仕事には、専門的な用語が多いことがその原因ですが、画像などを多く使いながら、自分でも納得できる稿になるように、工夫してみようと思います。

 

呉服というものを一般的に見れば、決して必需なモノではないので、この稿を読まれる方は限られているかも知れません。けれども、キモノを着ない方にも、日本の伝統が息づく「不思議な世界」について楽しんで頂きたい、そんな希望もあります。

皆様が、毎日の仕事の合間に楽しんでお読みいただけるよう、様々な切り口を用意しながら書き進めますので、本年もどうぞよろしくお願い致します。

 

正月のウインド。連山模様の友禅振袖(菱一)と黒地松竹吉兆模様の袋帯(梅垣)

年の始まりなので、久しぶりに振袖を飾ってみた。うちでは一年を通して、振袖を飾ることは少ない。世間的には、呉服屋が扱うモノ=振袖のように思われているが、それは振袖というアイテムに華やかさがあり、目立つものだからであろう。また、振袖を売ることに注力を注ぐ店が多いことの表れとも言える。バイク呉服屋にとって、振袖はどうしても売りたい特別なものではなく、小紋や紬と同じ扱うアイテムの一つに過ぎない。

 

どんな仕事でも、一年の始まりには目標を掲げる。そこで多くの企業や店では、具体的な売り上げ目標を設けるだろう。どれくらいモノを売り、どれほど利益を出すか、これに向かって、これから仕事を進めることになる。

けれども、バイク呉服屋には、売り上げ目標がない。つまりは予算編成のない店と言うことになる。一年を通じた目標、あるいは月ごとの目標など、決めたこともない。もし売り上げ目標があるとすれば、「喰っていけるだけ」という、漠然としたものだろう。

では、何を目標として、仕事をするのか。年の初めなので、このことを少しお話してみたい。

 

私は、大勢の消費者に沢山モノを売り、大きく利益を揚げるということには、価値を求めない。重要なことは、依頼されるお客様の満足にどれだけ答えられるかということだ。「どれくらい売ったのか」ということより、「どのような仕事をしたか」に重きを置く。

品物を求める方にしても、直しを依頼される方にしても、希望されることには、人それぞれに違いがある。その一人ひとりに向き合いながら、出来る限り納得してもらえるものにしていく。つまりは、結果よりも過程を強く意識した仕事の進め方になる。

 

「消費者に寄り添う仕事」で大切なことは何か。二つあるように思う。一つは、時間をかけること。もう一つは、人任せにしないこと。

例えば、品物を売る時のことを考えてみよう。フォーマルモノならば、どんな場面で使うのか、どの季節に使うのか、着用する場所はどんなところなのか、それを聞いて置かなければ、品物の勧めようもない。もちろん依頼される方自身の色や模様の好みを聞くことも必要だ。それらを勘案した上で、品物の提案をする。また、事前にこれらの情報がわかっていれば、ふさわしい品物を集めることも出来る。品物を動かすということは、求める側と売る側の共同作業であり、当然時間はかかる。

また、カジュアルモノなどは、どれだけお客様の目を引く品物であるかが重要であり、店のセンスが問われる。モノ探しは簡単なことではなく、常にアンテナを張りながら、丁寧に時間をかけて仕入れをして行かなければ、思うようなモノは置けない。

直しモノを依頼される時には、より以上にお客様の話を聞いておかなければ、希望に適う仕事にはならない。それは、品物の状態により、直す方法も様々であり、使いみちや掛ける費用によっても違ってくる。つまりは、通り一遍の仕事で対応することが不可能であり、必然的にじっくり取り組まざるを得ない。

 

もう一つの「人任せにしない」というのは、「時間をかけて取り組む」ということとリンクしている。バイク呉服屋は、人を雇っていないので、全ての仕事を一人でこなさなければならない。一人で全てを請け負うというのは、全部の責任を背負うということの裏返しである。

例えば、預った品物の汚れを見落とし、そのまま納品してしまったら、当然自分の責任になる。品物は、お客様から預った時点で、店側に全ての責任が生まれる。だからこそ一枚のキモノでも、時間をかけ、くまなく隅々まで目を通し、職人の下へ送らなければならない。

そして職人達とは、常に意志の疎通が図れる関係を築く必要がある。もしも直しの仕事を、問屋やメーカーを通じて、間接的に職人に依頼するようなことになれば、臨機応変の対応が出来ず、さらに不具合があったときの責任の所在が不明確になる。自分で責任を取るには、どんな時でも、自分の目の届く範囲で仕事がなされていなければ、それを果たすことが出来ない。

また、新しい品物をお勧めする場合などは、なおのことだ。自分の店で扱うモノが、どこで、どのように作られているものか、そしてどこから仕入れたものかを、自分自身で把握していなければ、品物に対して責任が持てなくなる。そしてそれは、お客様に対しても、責任が果たせなくなることに繋がる。

 

無論、消費者の中には、店の者との「うっとうしい人間関係」など不要と考えている方もおられよう。人それぞれには考え方があり、決してそれを否定するものではない。ネットを通せば、店と最低限の関わりだけで、品物を購入することも出来るし、直しを依頼することも出来る。効率重視は、世の流れであり、それはそれで良いのだ。

けれども、一般には呉服と言う品物が、質の見極めが難しく、扱いも厄介なだけに、「自己責任」で品物を選んだり、手を入れたりすることが躊躇される。そこにこそ、責任を持って仕事を請け負うことが出来る呉服屋の存在価値があると思う。

「時間をかけること」と「人任せにしないこと」は、お客様への責任を考える時に、とても大切なキーワードだと、私には思える。

 

お客様が支払われる代金は、呉服屋が果たすこの「責任」に対してだろう。その値段が高いものでも、安いものでも、自分で納得した仕事になっていなければ、胸を張って頂く事が出来ない。つまりは、利益というものは、最初から目標にする額を予め設定出来るものではなく、結果として残るものでしかない。

有難いことに、毎年「喰っていけるだけ」の仕事を、お客様から依頼して頂いている。自分らしい仕事のやり方を貫くことが出来るのも、こうした方々のお陰であり、それはとても幸せなことだ。心して、今年も「責任」を果たして行きたい。

 

お客様と向き合うことは、「沢山の情報を伝える機会を持てる」ことになります。

品物のこと、職人さん達のこと、呉服屋の仕事のこと、皆様に知って欲しいことは山ほどあります。私達に全てをお任せ頂くのではなく、お客様自身が知識を持つことで、改めて日本の伝統衣装を、自分のものとして見つめ直して頂きたいですね。

このブログが、そんな方々の一助になるように、今年も書き続けたいと思います。

今日も、最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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このブログに掲載されている品物は、全て、現在当店が扱っているものか、以前当店で扱ったものです。

松木 茂」プロフィール

呉服屋の仕事は時代に逆行している仕事だと思う。
利便性や効率や利潤優先を考えていたら本質を見失うことが多すぎるからだ。
手間をかけて作った品物をおすすめして、世代を越えて長く使って頂く。一点の品に20年も30年も関って、その都度手を入れて直して行く。これが基本なのだろう。
一人のお客様、一つの品物にゆっくり向き合いあわてず、丁寧に、時間をかけての「スローワーク」そんな毎日を少しずつ書いていこうと思っています。

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