バイク呉服屋の忙しい日々

今日の仕事から

6月のコーディネート 不易流行・竺仙の夏姿(1) 綿絽・綿紬地編

2015.06 02

6月は水無月(みなつき)。そろそろ梅雨に入ろうとする今の季節が、水無し月とは、これ如何にと思われるが、これは陰暦時代に付けられたものなので、今とは季節の感覚が違う。

今年の陰暦6月1日は7月16日に当たる。例年この頃は、梅雨明けの時期である。つまり、旧暦の6月を現代の太陽暦で考えれば、夏の盛り7月半ばから8月半ばにかけてということになる。二十四節気の、大暑(7月23日)と立秋(8月8日)を含む旧暦・水無月は、風待月(かぜまちつき)とか涼暮月(すずくれつき)の別名が冠せられている。

6月を、水が無くなる月とするよりも、夏の夕暮れに吹き抜ける涼風を待つ月とする方が、趣があるように感じられる。

 

さて昨年同様に、今年も6月のコーディネートでは、竺仙の様々な浴衣をご紹介してみたい。昨年は「若い方編」「小粋編」と、使う方の年齢や求められる着姿に分けて、浴衣の帯合わせを考えてみたが、今年は浴衣生地の種類別に、今日から3回にわたってコーディネートしていく。

江戸・天保年間より170年。不易流行を掲げてモノ作りを進め、本質を大切にしつつも、新しい意匠を凝らした竺仙の品物。さて、バイク呉服屋がどれだけ涼感ある夏姿を引き出すことが出来るか、早速始めて見よう。

 

今日の生地素材は、綿絽・綿紬の二つ。どちらも、浴衣というより夏の街着として使えるもの。目にも涼やかな絽と、よりしゃれ感が出せる紬、異なる生地を使えば、浴衣といえども雰囲気はかなり変わる。まずは、綿絽から。

 

(綿絽白地・大つゆ芝にススキ  首里道屯織半巾帯・藍濃淡浮織)

竺仙では、毎年「ポスター」を製作する。使われる品物は、綿絽・綿紬・コーマ生地・紅梅など年毎に変わるが、例年モデルになる方の年齢は20代半ばくらいなので、その世代に似合う色と模様のモノが選ばれる。

今年のポスター柄が、上の品物。どんな着姿になっているか、お目にかけよう。

ポスターの帯合わせは、渋い柿茶色の濃淡半巾帯を使っている。浴衣の模様に配されている色から離れているが、引き締まった印象になっている。

バイク呉服屋のコーディネートは、模様の中の青と帯地の色をリンクさせたもの。少し大人っぽくはなるが、キリリとした涼感を求めてみた。ススキに使われている芥子色を、帯地色に使ってみるのも良いだろう。また違う雰囲気になる。白地の浴衣は帯の合わせ方一つで、いろんな楽しみ方が出来る。20代から30代くらいの方に向く品だろうか。

 

(綿絽白地・大鉄線模様  首里道屯織半巾帯・緋色縞に亀甲浮織)

大きな鉄線の花びらだけを散らし、鮮やかな赤・黄・ピンクに彩られた、大胆で若々しい浴衣。

鉄線は、竺仙の代表的なモチーフの一つ。もっとも夏らしさを感じさせてくれるこの植物は、色やデザインを変えながら、様々に意匠化されている。うちの庭にある鉄線も、毎年のように今頃花をつける。鮮やかに澄んだ赤紫色の花。一般的なこの花のイメージは、紫色だが、種類により様々な花の色がある。鉄線の名前は、蔓が鉄線のように硬いところから付けられている。洋名はクレマチス。

帯は、錆朱系の緋の色を基調にしているが、浮き織がアクセントになっている首里道屯織。10代から20代前半の若い方の品だが、白地に浮き上がる鮮やかな鉄線は、かなり人の目を引く。帯地色は茜や緋色系を使えば、引き締まる気がするが、花に付けられている黄、ピンク、黄緑でも良いだろう。

どちらも、白地綿絽と首里道屯織の組み合わせ。沖縄独特の鮮やかな帯の色。

 

もう一枚、白地綿絽の品物をお見せしよう。

涼やかさが湧きたつような、桔梗模様。葉の緑と花の藍、それぞれぼかしを使いながら、シンプルに付けられている。茎をまっすぐ立ち上がらせることで、よりスッキリした印象の着姿となる。

(綿絽白地・小桔梗 からむし織八寸帯・麻絹混紡 生成地色青磁横段模様)

半巾帯より八寸帯を使うことで、より街着らしくしてみる。あえて白に近い生成色の帯で、大人しい合わせ方。からむし織は苧麻(ちょま)と呼ばれるイラクサの皮を原料にしたもの。この帯は、麻・絹混紡なので、独特な風合いになっている。どことなくモダンな青磁濃淡の小縞模様に、爽やかさが感じられる。

(薄青磁色桔梗模様絽帯揚げ・加藤萬  青磁色に薄橙ぼかし夏帯〆・龍工房)

帯〆と帯揚げを、青磁色の濃淡で付け、水をイメージしてみた。帯〆のわずかな橙色がアクセント。夏のしゃれ着としても十分使えそうだ。

 

綿絽で、地色付きの品物も一枚ご紹介しよう。

竺仙の伝統色とも呼べる深い褐色(かちいろ)地の綿絽。燕は、初夏の文様として使われることが多く、どことなく小粋な感じがする。

柳と言えば、東京では銀座の並木を思い起こさせる。明治初頭から植えられた柳は、銀座のシンボルであった。戦後まもない1947(昭和22)年、藤山一郎が唄った「夢淡き東京」という歌の冒頭には、「柳青める日、燕が銀座に飛ぶ日」という歌詞が出てくるが、「柳と燕」の組み合わせは、以前から夏の到来を思わせるものだったのだろう。この歌詞は、戦火で焼失してしまった柳の復活に、銀座の復興を思い描いて作られたと思われる。なおこの歌の作詞はサトーハチロー、作曲は古関裕而という昭和を代表する二人の作詞・作曲家の手によるものだった。

(綿絽褐色・柳に燕  博多半巾帯・生成地に菱縞模様)

伝統色に小粋な模様となれば、帯もそれを生かして着姿を考える。真ん中に生成色の無地場、両端に菱と縞が模様付けされた博多帯。白抜き褐色の浴衣には、やはり白系の帯がすっきりと映える。また、白地献上縞の八寸帯などでも良いだろう。

 

さて、綿紬に移ろう。竺仙のこの生地は、先染紬糸にネップという節糸を織り込んで作られている。生地の地色は、薄グレー・濃グレー・薄青・濃青の四種類で、いずれも自然な織節が生地に生かされている。

まず、小粋な文様から一枚。薄グレー色の綿紬地だが、白い織節が自然な模様として生かされていることがわかる。細かいつゆ芝と蛍の組み合わせ。蛍の尻の黄色がアクセントになっているが、粋さをも感じる浴衣である。

(薄グレー地綿紬・つゆ芝に蛍  絽半巾博多帯・市松模様に源氏香)

市松と源氏香という、粋な文様を組み合わせた博多帯。博多と言えば献上帯に代表されるように、硬い織生地を想像できるが、上の半巾帯は絽目が通り、しなやかで締めやすい織り出し。控えめな色で大人の着姿になるように、組み合わせてみた。

「おとな向けのコーディネート」を考えた、綿絽と綿紬。色といい、模様といい、いかにも竺仙らしさを感じさせる品物である。

 

さて、もう少し若い方向けの綿紬の浴衣も見ておこう。

こちらは、濃い青地の綿紬生地。節の入り方がなおはっきりする。模様は葉の形をみればアザミだが、花のあしらいはかなり図案化されていて、モダン。スッキリした藍の浴衣地色と、黄ぼかしの花の色がよく合う。

(濃藍地綿紬・アザミ  博多半巾帯・ベージュに鶸色、華皿に立枠模様)

藍に合う色を考えれば、クリームかベージュが思い浮かぶ。大胆なアザミだけの模様が生きるように、おとなしい色目の帯を選んでみた。少し背の高い方に向く浴衣の図案か。若いミセスにも着て頂きたい品である。

 

先ほどのつゆ芝に蛍模様と同じ、薄グレー地の綿紬。桔梗に蔓が延びている面白い図案。桔梗というモチーフでも、先の白い綿絽の品と比較すれば、その意匠の違いがわかると思う。こちらは、蔓唐草風に模様付けされていて、立体感のある図案になっている。

(薄グレー地綿紬・蔓桔梗 琉球ミンサー半巾帯・薄橙色)

桔梗に付けられた橙色に合うように、それより少し淡い橙地色のミンサー帯を考えてみた。ミンサーは綿紗の語源のように、木綿の平織帯。同じ沖縄の織でも首里道屯の浮織とは締め心地が違うが、色合いはどちらも南国らしさが感じられる。こちらの浴衣は、小紋のような模様付けなので、小柄な方に向くものか。

浴衣というより、気軽な町歩きにも使える綿紬二点。衿の形を広衿にしておき、長襦袢を使う着こなしにすると、いっそう夏キモノの姿として使いやすくなるだろう。この浴衣なら、帯〆を使いアクセントを付けてみても良い。

 

今日は、綿絽4点と綿紬3点のコーディネートをしてみたが、如何だっただろうか。それぞれの品物により、使う年合いも異なるが、着る方それぞれが、自分のイメージで帯や小物合わせを楽しまれれば良いと思う。

ここまでご覧になってわかるように、バイク呉服屋の合わせ方は、浴衣の模様にほどこされている色の中から、帯地色を割り出すという、どちらかと言えば標準的でありきたりな考え方だと思う。皆様ならば、もっと大胆に、もっと個性的にコーディネート出来るはずである。

今日の合わせ方が、少しでも読まれている方の品物選びの参考になれば、幸いである。次回は、竺仙浴衣の基本生地ともいえる「コーマ地」の品物を何点か取り上げて、コーディネートを考えてみたい。

 

バイク呉服屋が好む夏の文様には、どうも偏りがあるようです。うちに置かれる浴衣図案で多いのは、桔梗・つゆ芝・鉄線など、今日のコーディネートに登場したもの。さらに、千鳥や蜻蛉なども定番と言えましょう。

本来ならば、様々なモチーフの品物を、バランス良く仕入れなければいけないと思うのですが、この辺りが一人仕事の弊害と言えるのかも知れません。

私が、「竺仙らしさ」だけを品物に求めると、どうしても伝統模様に目が行き、冒険が出来ません。「不易」ということは実行出来ても、「流行」を取り入れることは難しいとつくづく思います。

今日も、最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

 

 

 

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このブログに掲載されている品物は、全て、現在当店が扱っているものか、以前当店で扱ったものです。

松木 茂」プロフィール

呉服屋の仕事は時代に逆行している仕事だと思う。
利便性や効率や利潤優先を考えていたら本質を見失うことが多すぎるからだ。
手間をかけて作った品物をおすすめして、世代を越えて長く使って頂く。一点の品に20年も30年も関って、その都度手を入れて直して行く。これが基本なのだろう。
一人のお客様、一つの品物にゆっくり向き合いあわてず、丁寧に、時間をかけての「スローワーク」そんな毎日を少しずつ書いていこうと思っています。

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