バイク呉服屋の忙しい日々

にっぽんの色と文様

夏の文様・荒磯

2013.06 04

例年より早く、梅雨入り宣言をしたのに雨が降らない。ここ何年か「空梅雨」のような感じで、降るときは「ゲリラ豪雨」のように一挙に集中して降る。甲府はもともと盆地で夏はかなり過ごしにくい土地である。

「真夏でもバイク」の私は例年「日焼け」で大変な状態になる。もちろん「日焼け対策」や「紫外線対策」など何も考えず、「ノーガード」で「発車」だ。知らない人は、とても「呉服屋」を生業にしているとは思えない肌の色だろう。この「色」は、「にっぽんの色と文様」であまり取り上げたくない「色」の様相だ。そういえば「春の花粉症対策」も「ノーガード」で「アレルギー知らず」の人生である。私の人生の「キーワード」は「自然に任せてノーガード」である。

と言うわけで今日は「夏」を感じさせる「文様」を選んでみた。

(紫紘 荒磯文様 九寸織名古屋帯)

この魚の文様を「荒磯文様」と言う。「荒磯」は中国から伝えられた「名物裂」の中の一つの文様である。この織り込まれている魚は「鯉」である。「鯉」は縁起のよい魚=吉祥魚と古来から中国では言われてきた。「鯉が川を遡って竜の門に辿り着き、やがて大きな竜に生まれ変わる」と伝えられ、「出世魚」の代表とされる。

「鯉の滝登り」のようだ、などと勢いよく上昇していく例えにも使われ、節句に送られる「鯉のぼり」を始めとして、男児の縁起物の図案として最も一般的なものである。初宮参りの着物や五歳祝い着の羽織の図案として「鯉」が使われているものもある。

この帯を織った「紫紘」という会社は、「源氏物語絵巻」を102歳まで制作し続けた「山口伊太郎翁」の立ち上げた会社で、精緻な型紙を使い数々の名品を世に生み出してきた西陣の老舗織屋だ。「山口翁」のことは近い時期にまたお話させていただこうと思うが、「袋帯」のほうを多く手がけているこの織屋にしてはめずらしい「九寸名古屋帯」の品である。帯の地色は、「消墨色」といえるような深い「鼠色」で、金糸の波文様の間を飛び跳ねる鯉が躍動している図案になっている。

この帯では「鯉」のバックに「波」が使われているが、「岩」や「波しぶき」、「流水」などが一緒に使われることが多く、「涼やかさ」や「さわやかさ」を感じさせる図案となり、「夏」の文様として「荒磯」が意識されることになるのだろう。

私はこの「鯉」の図案をどこかで見たような気がしていた。思い出してみたらそれは「お寺」の中にこの「魚の図案」を使った道具があったということだ。それは「魚鼓(ほう)」と呼ばれるもので、大きな木を使い魚が彫りこまれている。彫りこむというよりも魚の姿そのものに造られている。この魚が「荒磯で使われる鯉」に実によく似ている。この魚がかなり大きいもので、上から吊るされて宙に浮いてる状態だったため、強く印象に残っていたのだと思う。

この「魚鼓」はどこの寺にでもある訳ではなく、「禅寺」に置かれている。例えば曹洞宗の永平寺とか、黄檗宗の万福寺には巨大な「魚鼓」がある。この「魚鼓」は「鳴らしもの」として使われており、人を呼び集める時などに利用するものだ。例えば修行している雲水たちを堂に集めるため決まった時間に鳴らす=打つのだ。禅寺では時の合図がすべて「鳴らしもの」により行われており、青銅製の「雲版」などは食事の合図に使われている。

「魚鼓」の「魚」は中国伝説に魚とされ、顔は「竜」のようで他の部分は「鯉」のようである。ということは前述したように「吉祥魚」として非常に縁起のよいものとされていることからこの形になったのであろう。このことは「荒磯文様」で使われている「魚」の由来と同じところから出ていると言えるではないか。道理で「どこかで見たことがある」と思うわけである。

上の二つは博多献上半巾帯、いわゆる四寸帯である。この時期、ゆかたと一緒に使われることが多い。「夏」を感じさせる「荒磯柄」の帯は前回紹介した「褐色」のゆかたとよく合う。「荒磯」は帯の柄として使われることが多いが、キモノの柄としては少し「クセ」があり、万人受けしないからだと思われる。ということで、この「吉祥文様」とも言える「荒磯文様」、一度はお試しあれ。

今日の「荒磯」に関すること、「相撲」の「年寄名跡」の中に「荒磯」というものがあることや、「歌舞伎」の「成田屋=十一代市川団十郎」が作った「荒磯会」のことなど、まだまだ書こうと思っていたことがありましたが、長くなりそうなのでまたの機会にさせていただきます。

今日も最後までお読みいただき、ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

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松木 茂」プロフィール

呉服屋の仕事は時代に逆行している仕事だと思う。
利便性や効率や利潤優先を考えていたら本質を見失うことが多すぎるからだ。
手間をかけて作った品物をおすすめして、世代を越えて長く使って頂く。一点の品に20年も30年も関って、その都度手を入れて直して行く。これが基本なのだろう。
一人のお客様、一つの品物にゆっくり向き合いあわてず、丁寧に、時間をかけての「スローワーク」そんな毎日を少しずつ書いていこうと思っています。

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