バイク呉服屋の忙しい日々

今日の仕事から

薄物仕舞い、冬物開き  店内の模様替えで、季節の扉を開く

2021.09 03

9月の別名は、長月。何故に長い月なのかは、秋が深まって日が短くなり、夜が長くなるからとされる。けれども、今はまだ日が短いという実感はなく、朝も早く明ける。

それもそのはずで、長月とは旧暦の9月を指しており、現在の暦とはおよそひと月のタイムラグがある。カレンダーを捲ると、旧暦9月1日は10月6日。この頃になれば、「夜が長くなった」と誰もが感じられるだろう。旧暦では7~9月が秋。長月は晩秋にあたり、秋の終わりという意味で「季秋」と呼ぶこともある。このように、旧暦を基準とした節気と現在の季節感にズレはあるが、この先気候変動が激しくなるにつれて、その差はますます広がっていくことだろう。

 

9月はまた、ある意味では「リスタート・再始動」の月。子どもや学生たちにとっては、長い夏休みを終えて学びの場に戻る月でもある。欧米の学校では、9月を新しい年度始めの月に定めている。日本では、年明けの1月と年度替わりの4月が節目の月であるが、秋が始まる9月も、気持ちを新たにする時と言えるだろう。

バイク呉服屋にとっても、今月は新たなシーズンが始まる月である。何故ならば、経営上の決算月を8月と定めているから。一年通しての商いの結果を夏の終わりに出し、9月からはまた新しい気持ちで仕事に臨む。今期はコロナ禍の影響で厳しい数字が並ぶが、それでも何とかこれまでと変わらずに、暖簾を下げ続けることが出来た。私としては、もうそれだけで十分である。

そして今は、薄物から単衣、袷モノへと品物が移りゆく時期。模様替えをして、店の空気を夏から秋へと変えなければならない。そこで今日は、店先をどのように変化させたのか、その様子をご覧頂くことにしよう。

 

三連鷺模様の綿絽暖簾から、家紋入りの生成色麻暖簾に変えた店先。

浴衣や麻モノを始めとする薄物を店頭に並べるのは、毎年5月の半ば過ぎ。そしてこうして、冬モノへと模様替えを行うのが8月末なので、夏モノを商うのはだいたい三か月くらい。前後に6、9月の単衣の季節を挟むものの、店頭で薄物をご覧頂ける時期は、ごく短いものだ。

品物の入れ替え作業は、通常一日で終わる。店にそれほど広いスペースがある訳ではなく、また持っている在庫の数も限られているので、夫婦二人でも十分仕事は間に合う。そして店先は、一気に夏から秋へと雰囲気を変える。

毎年夏モノを片付けながら思うのだが、9月を迎えると、ここから四か月はあっと言う間に過ぎて、年の暮れがすぐ来てしまうように思える。これは年々加速が付いていて、年齢を重ねるごとに一年が早くなる。そして昨年から続く未曾有のコロナ禍では、当然呉服屋の商いも、厳しい環境下に置かれている。だが今は有難いことに、お客様からの依頼を一定程度頂けている。こんな状況の中で「やるべき仕事」を持っていることは、それだけで幸せなことだ。

そんなことを、あれやこれやと巡らせながら、衣替えをしていく。そして来年こそは、当たり前に、夏のキモノ姿を楽しめる世の中になっていて欲しいと願う。

 

メインの正面ウインド。左から、ミントグリーン色十字小絣大島・カナリア色唐花模様染帯・薄青磁色菱撫子模様単衣向き紬小紋・岡重更紗模様バッグ

秋冬物にすると言っても、まだ夏の気配が残る今は、いきなり暖色系の秋色に変える訳にはいかない。やはり単衣を意識した、薄色が中心。ウインドに入れた二点のキモノの地色は、爽やかな緑系のミント色と青磁色。若葉を感じさせる色なので、同じ単衣でも9月より6月のイメージが強いかもしれないが、清々しさは演出出来るだろう。

帯は、カナリアの羽のような明るい黄色地に、すっきりとした配色の唐花を描いた染帯。両脇のキモノ同様、パステル色が主体。合わせた小物も、同系。帯揚げは青磁色の飛絞り、帯〆は水色とレモン色を組み合わせた冠組で、どちらも淡色。ウインド内のアクセントに、黒地にステンドグラスのような唐花をあしらった、岡重のバッグを置いてみた。

今夏の最後を飾ったウインドの薄物。薄水色の秋草模様絽付下げ・白地立湧菊模様紗袋帯・木の葉絣小千谷縮・紫色露芝模様紗八寸帯・福良雀模様白コーマ浴衣・紺地博多半巾帯。入れ替えた単衣向きの品物と、それまで飾っていた白や薄地色が多い夏モノとでは、全体の色そのものの雰囲気は、あまり変わらない。季節がもう少し進めば、もっと色目のはっきりとした品物を置きたくなる。

 

店の入り口脇の小さなウインドは、大きめの菊をあしらった栗山工房の京紅型染帯。シボの大きな薄栗色のちりめん地に、型染疋田を使って菊花を描く。色も模様も秋を感じさせる帯。ぽってりとした大シボのちりめんは、柔らかみと温かみを感じさせる生地で、帯の他には、長い羽織に向く小紋にもよく使われる。

 

正面の衣桁は、昨年12月のコーディネートでご紹介した、珊瑚色地正倉院唐花菱文の色留袖と、金引箔地蜀江正倉院文の捨松袋帯の組み合わせ。昨年も今年も、フォーマルな儀礼は尽く控えられているため、こうした礼装衣装の出番はほとんど回ってこない。うちの店でもこの二年は、フォーマルモノの依頼は数えるほど。このままだと、商いは一層カジュアルモノへと片寄っていくが、これはやむを得まい。

 

店内の様子。壁にそって置いた撞木には、栗染と藍染の米沢草木紬と水色系グラデーションの付いた横段縞十日町紬。帯は、紺地大唐花の型染とユウナ染久米島、茜染の飯田紬といずれも個性的。設えた台の上には、生成色の露芝にスズラン模様小紋と、しっかりした橙色地に笠と小菊をあしらった秋らしい染帯を合せてみた。

無地系の紬は、帯次第で着姿を多彩に演出することが出来る。まだ9月なので、寒色系のキモノを使うと涼し気に映る。帯は季節が進めば、濃い色目に変えていく。

浴衣専用の飾り台には、50反以上の反物が並んでいた。中央の台には、多様な半巾帯。最もポピュラーな博多帯をはじめとして、グラデーションの付いた麻無地や沖縄モノの琉球ミンサーや八重山ミンサー、首里道屯帯など。昨年はほとんど動かなかった浴衣や帯類だったが、今年は中形や絹紅梅など、高級品に少し動きがあった。

撞木には、絽小紋と紗九寸名古屋帯。夏のお茶事や和楽器の演奏会が開かれなかったので、今年も絹の染モノの需要は限定的だった。ただ、カジュアルな小千谷縮やアイスコットンは求める方がおられ、それに伴って気軽な麻や綿帯には多少なりとも動きがあった。置く場所を必要とする浴衣を仕舞うと、店内はすっきりとする。

 

ガラス窓の付いた吊るし棚には、薄地の飛柄小紋と唐花模様の名古屋帯を飾る。小紋の地色は薄水色、薄ベージュ、薄桜。飛模様は、沢潟、小七宝、小花の丸。三点とも控えめで上品な小紋なので、お茶席に向く。また、こうして少しカジュアルな名古屋帯を合せると、洒落た街着にも使えそう。いずれにせよ、閉塞感が蔓延している現状では、こうした品物もなかなか出番は回ってこない。

この棚で夏物の最後は、絹紅梅と綿紅梅。竺仙、新粋染、阿波正藍染と各々作り手が違う。帯は麻と博多の八寸。紅梅の特別な着心地を、多くの方に試して頂きたいと毎年思うが、今年も何人かのお客様に「はじめての紅梅」を誂えて頂くことが出来た。

 

薄物を仕舞い、冬物開きを終えた店内。品物が入れ替わり、夏から秋へと季節の扉を開くことが出来た。店先には、相も変わらず消毒液が置かれているが、マスクと消毒が必要なうちは、需要が元に戻ることは難しいだろう。けれどもそれとは関係なく、何があっても、旬を意識したウインドや品揃えを怠ることは出来ない。専門店として暖簾を掲げているのであれば、それは呉服屋としてのルーチンワークだからである。

さて、今年もあと四か月。あっという間に過ぎ去る時間の中で、どれだけの仕事が出来るだろうか。バイク呉服屋は普段通り、お客様からの依頼を待ちながら、慌てず、焦らず、淡々と店を開け続けたいと思っている。

 

昨年の今頃は希望として、一年も経てば、ある程度は以前の日常を取り戻せるのではないかと、考えていました。けれども流行病は、一向に収まる気配が見えず、今は先行きが全く見通せなくなってしまいました。

果たして、来年の今頃はどうなっているのでしょう。現状からすれば、とても楽観的にはなれませんが、さりとて悲観しすぎることも、どうでしょうか。自分で出来る限りの対策を立て、「自分の身は自分でしか守れない」と自覚する。その上で、時を待つしかないように思います。

この先、呉服屋の仕事がどうなるか判りませんが、店を続ける限り、やるべきことを欠かす訳にはいきません。今日も、最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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このブログに掲載されている品物は、全て、現在当店が扱っているものか、以前当店で扱ったものです。

松木 茂」プロフィール

呉服屋の仕事は時代に逆行している仕事だと思う。
利便性や効率や利潤優先を考えていたら本質を見失うことが多すぎるからだ。
手間をかけて作った品物をおすすめして、世代を越えて長く使って頂く。一点の品に20年も30年も関って、その都度手を入れて直して行く。これが基本なのだろう。
一人のお客様、一つの品物にゆっくり向き合いあわてず、丁寧に、時間をかけての「スローワーク」そんな毎日を少しずつ書いていこうと思っています。

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