バイク呉服屋の忙しい日々

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バイク呉服屋の、「染帯」グラフィティ  季節の彩を映して

2020.05 03

いちめんのなのはな いちめんのなのはな いちめんのなのはな・・・。何度も何度もくりかえされるこのフレーズを読んでいると、知らず知らずのうちに、鮮やかな黄色で染まった菜の花畑が、目の前に現れてくるようだ。

この詩の題名は「風景」。作者は山村暮鳥(やまむらぼちょう)。とてもポピュラーな詩なので、教科書の中で読んだことがあるという方も多いだろう。大正時代に創作された古い作品だが、これほど見事に春景色を描いている詩はあまりなく、今も多くの人に愛されている。バイク呉服屋も今頃になると必ず思い出し、読んでいるうちに、房総半島辺りの菜の花畑の長閑な風景が、浮かんでくる。

 

この詩は9行の三連構成になっていて、どの連も、最初から7行までが「いちめんのなのはな」と同じ言葉を連ねているが、三連とも8行目だけが違っている。一連目は「かすかなるむぎぶえ」、二連目が「ひばりのおしゃべり」、三連目が「やめるはひるのつき」である。そして9行目は、どの連もまた「いちめんのなのはな」に戻っている。

この、連により違う言葉は、作者が「いちめんのなのはな」を見つめている中で遭遇したこと。遠くから誰かの吹く麦笛が聞こえ、花の間を行き交うひばりの声を耳にする。そして、空には青ざめた色の月を見る。「やめるはひるのつき」のやめるは、「病める」の意味で、昼間の月の色が、病気の人のように「蒼褪めた色」に見えたのである。

山村暮鳥は、この詩に「純銀モザイク」という副題を付けている。春の陽ざしを受けて銀色に輝く菜の花があり、そこに麦笛とひばりの声、昼の月が、モザイクのようにはめ込まれている。おそらく、情景を見た素直な思いから、この題材を付けたのだろう。

 

キモノや帯のモチーフとなっているのは、花や鳥だけでなく、陽ざしや空に広がる雲の色など、森羅万象の自然の姿。「いちめんのなのはな」のように、模様姿を見ただけで、一目で季節を実感させる品物もある。旬を身にまとうことは、やはり贅沢である。

染帯は、作り手の意識がそのまま図案となるので、個性的な意匠が多い。そして、最も季節感が溢れるアイテムでもある。そこで今日は、これまでブログの中でご紹介した染帯の画像を、まとめてご覧頂こう。毎年ゴールデンウイークには、こうした「過去画像」を載せるだけの「手抜き」をさせて頂くが、何卒お許し頂きたい。

 

(石榴色 紬染帯 花鳥文様 型絵染・鈴木紀絵  2013.9.29)

品物は、出来る限り春夏秋冬の季節を追いながら、順番にご紹介する。また、季節に関係のない図案の紅型や型絵染帯は、一応、模様の雰囲気や色目から、それぞれを相応しい季節として分類させて頂いた。なお、掲載する帯の中で、すでにブログに記載があるものについては、その日を記しておいた。よろしければ、ぜひそちらもお読み頂きたい。では、始めることにしよう。

 

【新春・早春編】

(茄子紺色 ちりめん染帯 福良雀に松模様・菱一  2016.2.24)

(卵色 ちりめん染帯 福良雀文様・岡重  2019.1.11)

(卵色 ちりめん染帯 貝合わせ文様・トキワ商事  2020.1.14)

(黒地 変り生地染帯 梅文様・四ツ井健  2020.2.25)

(楊梅色 塩瀬染帯 梅散し文様・菱一  2019.2.19)

(白地 塩瀬染帯 光琳椿文様・千切屋治兵衛  2016.2.2)

(白地 塩瀬染帯 椿リース模様・菱一 ブログ未掲載)

 

【春・晩春編】

(白鼠色 塩瀬染帯 ツクシ模様・内田万里子  2016.3.25)

(空色 変り生地染帯 桜にメジロ模様・水橋さおり  2018.3.23)

(極薄鶸色 塩瀬染帯 桜模様・菱一  2016.3.15)

(白地 織名古屋帯 ウイリアムモリス 木に鳥・紫紘  2017.3.29)

(薄白鼠色 変り生地染帯 丸紋辻が花模様・森健持  2017.4.30)

(墨色 たたき型染帯・唐草に花喰鳥模様・松寿苑  2016.4.3)

(コバルトブルー 塩瀬染帯 橘文様・菱一  2019.5.8)

(生成色 生紬染帯 小唐草模様・トキワ商事  2014.5.20)

(ミモザ色 紬染帯 象に唐花模様・トキワ商事  2018.5.21)

 

【初夏・夏編】

(カナリア色 麻染帯 ウサギに鉄線模様・竺仙 ブログ未掲載)

(薄桜色 紗染帯 鉄線模様・菱一  2018.8.24)

(白地唐花・苗色菊 絽麻型染帯・竺仙  2019.8.10)

(萌黄色 絽染帯 蔓唐草模様・四ツ井健  2019.9.29)

(白地 絽染帯 茶屋辻模様 江戸紅型・菱一 ブログ未掲載)

 

【初秋・秋編】

(黒地 紗染帯 つゆ芝にウサギ模様・トキワ商事 ブログ未掲載)

(クリーム色 変り生地染帯 秋桜模様・湯本エリ子  2019.11.17)

(クリーム色 塩瀬染帯 壺垂れに大菊模様・菱一  2019.10.23)

(黄土色 ちりめん型染帯 菊に松模様・栗山工房 ブログ未掲載)

(黄土色 紬染帯 ペイズリー模様・松寿苑  2016.11.29)

(朽葉色 刺繍紬帯 野の小菊模様・松寿苑  2018.11.21)

 

【初冬・冬編】

(紫紺色 ちりめん染帯 吹き寄せ模様・トキワ商事 ブログ未掲載)

(白地 紬染帯 更紗模様 江戸紅型・菱一 ブログ未掲載)

(クリーム色 変り生地染帯 更紗文様・岡重 ブログ未掲載)

(桜鼠色 塩瀬染帯 雪輪うさぎ模様・千切屋治兵衛  2015.12.10)

 

駆け足ではあるが、以上32点の帯をご覧頂いた。織帯と刺繍帯が一点ずつ含まれているが、残り30点は全て染帯。おおよそではあるが、使う季節ごとに分類してみた。ただ更紗や紅型、辻が花などは、この限りではなく、季節を問わずに使うことが出来る。

こうして並べてみると、読者の方には、改めてバイク呉服屋の偏った好みが見えてくるように思う。唐花・唐草を使った図案が多く、動物や鳥を好む。中でもウサギには目が無いことが判ってしまった。

そしてモチーフは、写実的なものより、図案化されている方が多い。これは、硬い古典的な模様よりも、モダンさを優先させていることの表れだ。裏返せば、現在来て頂いているお客様の好みを、意識していることになる。

仕入れる品物は、自分の好みとお客様の好みを勘案しながら選んでいるが、同時に、品物の中には「旬の彩」をも、添えなければならない。年々、きちんと作られる品物は少なくなっているが、これからも、お客様が思わず「締めてみたい」と思う帯を、丁寧に探して扱っていきたいと思う。

今は一日も早く、季節を彩る装いで、街歩きが楽しめるるようにと、願うばかりだ。

 

一部の公園では、ゴールデンウイークを前に、丹精を込めて育ててきた花が、切り落とされてしまいました。チューリップ、藤、牡丹など、春から初夏に咲き誇る花々。本来なら連休中には多くの人が訪れて、花を楽しむはずでした。咲いている花があれば、人が集まってしまう。だから切り取るしかない。公園の管理者にとっては、苦渋の選択だったのでしょう。

せめて今は、路傍でけなげに咲く野の花の強さに目をやりながら、家での自粛生活を送りたいと思っています。

今日も、最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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このブログに掲載されている品物は、全て、現在当店が扱っているものか、以前当店で扱ったものです。

松木 茂」プロフィール

呉服屋の仕事は時代に逆行している仕事だと思う。
利便性や効率や利潤優先を考えていたら本質を見失うことが多すぎるからだ。
手間をかけて作った品物をおすすめして、世代を越えて長く使って頂く。一点の品に20年も30年も関って、その都度手を入れて直して行く。これが基本なのだろう。
一人のお客様、一つの品物にゆっくり向き合いあわてず、丁寧に、時間をかけての「スローワーク」そんな毎日を少しずつ書いていこうと思っています。

ご感想・ご要望はこちらから e-mail : matsuki-gofuku@mx6.nns.ne.jp

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