バイク呉服屋の忙しい日々

今日の仕事から

5月のコーディネート 単衣の草木紬に、初夏の型絵染帯を合わせる

2020.05 25

人工衛星を使って電波を送るBS・CS放送は、旧来の地上波放送より個性的なチャンネルが多く、従って、そこで製作される番組もマニアックなものが多い。最近私は、地上波ではNHKのニュースくらいしか見ないが、BSやCSには、ひそかに楽しみにしている番組が幾つかある。

BS-TBSで、毎週月曜日の夜9時から放映されている「吉田類の酒場放浪記」。その昔月9と言えば、民放ではトレンディドラマが全盛だったが、今やこの時間のTVは、中年のおやじが居酒屋で飲んだくれているだけだ。

キャッチフレーズは、「酒場という聖地へ、酒を求め、肴を求めて彷徨う」。芸術家であり酒場詩人の吉田類さんが、毎回黒ずくめのいでたちで居酒屋を訪ね、気になる肴を注文しながら酒を飲む。ただそれだけだが、酔ってくると、何を言っているのかも怪しくなる。そして最後に店を出ると同時に、酒場詩人らしく俳句を一つ捻る。

 

また、「玉袋筋太郎のナイトスナッカーズ」は、お笑いコンビ・浅草キッドの片割れ、玉袋筋太郎(あまりに露骨な芸名なので、NHKに出演する時は「玉ちゃん」と紹介されている)が、アポなしでスナックへ突撃し、ママや常連客と他愛もない世間話をしながら、酒を飲むだけの番組。玉袋曰く、「クリックよりスナック」だそうだ。彼は、BS-TBSでも「町中華で飲ろうぜ」という、スナックを町の中華屋に変えただけの番組も持っているが、これもまたはまり役である。

さらに「寺門ジモンの肉専門チャンネル」。これはフジテレビのCS番組だが、お笑いトリオ・ダチョウ倶楽部の一員である寺門ジモンが、毎回肉料理を食べ歩くだけ。寺門は肉に造詣が深いらしく、毎回食べる前にウンチクを述べる。そして番組では、料理が出る度に「肉、肉、肉、肉」と連呼する。彼の人生訓は、「ノーミート、ノーライフ」。どうやら、肉なしでは生きていけないらしい。だがこんな食生活を続けたら、いつかは必ず痛風を発症するだろう。

 

バイク呉服屋は「下戸」なので、酒場へ行くことなどほとんどない。けれども、こうした番組が好きな訳は、飾らない庶民の日常が、そのまま映し出されているからだろう。特別な演出もなく、特別な人もいない。「好きに飲んで、好きに食べるだけ」というてらいのない単純さが、嬉しいのだ。もちろん、番組を引っ張る吉田類、玉袋筋太郎、寺門ジモンのキャラクターも、光っている。

コロナウイルスは、こうした庶民のささやかな日常を消した。居酒屋にとって、「夜、人の集まるところへ飲みに行かないように」との要請は、たまったものではないが、飲んべい達のストレスも、かなり溜まっているだろう。酒場が復活しなければ、町の賑わいも取り戻せまい。一滴も酒を嗜まない私でも、世の中に飲み屋は必要と思う。

 

さて、「我が道を行く」番組が多いBSやCSに対して、このところの地上波はほぼウイルスや感染症一色で、それこそ「コロナ専門チャンネル」と化している。もちろん疾病の情報は必要だが、それは最低限あれば良く、こればかり聞かされていると辟易してきて、精神衛生上よろしくない。

このブログも、出来ればCS番組のように、良い意味で「世間ずれ」した内容でお送りしたい。ということで、今日はコーディネートの稿。初夏にふさわしい、爽やかな着姿を皆様にお届けしよう。

 

(白地 躑躅模様・型染絽麻名古屋帯  白地 月下美人模様・型染紬名古屋帯)

日中の気温が25℃を超え、いわゆる夏日となる頃、キモノ暦では袷から単衣へと移る。最近では、すでに5月の連休あたりで夏日があり、カジュアルにキモノを楽しむ方は、従来の6月を待たずに単衣を着用するようになる。

バイク呉服屋女房のキモノも、5月になると、その日の天候や気温、湿度により、袷になったり単衣になったりする。そしてさらに季節が進んで、5月下旬になると、帯も冬帯になったり、夏帯を使ったりする。これから6月末までの季節の狭間では、裏付き、裏無しだけでなく素材も変わり、さらに帯も変わり、バリエーションに富んだ着姿が考えられる。一年の中で一番品物選びが悩ましく、だからこそ面白い季節と言えよう。

そこで今日は、素材の異なる二点の型絵染帯を使い、無地っぽい単衣紬の着姿を工夫してみよう。どちらも初夏に相応しい色とモチーフを使っているので、爽やかな雰囲気を演出出来るように思う。ということで今日はまず、帯からご紹介することにしよう。

 

(結城紬白地 月下美人模様 型染名古屋帯・一文)

染帯の場合、モチーフに何を使うかが旬を表現する決め手となる。今は、春と夏の境目にあたるあいまいな季節なので、どちらの範疇にも入りそうな植物を使いたくなる。また図案の配色も、春の暖色から涼しげな夏の寒色へと移る。

この染帯のモチーフは、月下美人。キモノや帯の図案としては、なかなかお目に掛からない珍しい題材。この花は、丁度今頃6月初め辺りから、11月にかけて咲く。元々は、メキシコ熱帯雨林原産のサボテン科植物で、花の美しさや、夜にしか咲かないという神秘さに魅かれて、育てる人も多い。

月下美人の花弁は25cmほどあり、かなり大きい。色は純白で、この帯配色のような紺色は無い。蕾の時は下に向かって垂れ、花が咲く直前に上を向いて開く。花が開く夜の夕刻には、ジャスミンのような芳しい香りを放ち始める。

ほぼ帯巾いっぱいに、大輪の花と蕾を描く。華やかな月下美人の花の特徴をよく捉えている図案。白地に紺と芥子、グレー、白の三通りの花弁と蕾。初夏の明るいイメージが、そのまま配色にも表れている。

お太鼓を作ってみた。大胆な図案だが、柔らかな印象を受ける。型絵染は、モチーフの描き方一つで、模様の雰囲気が変わる。この帯は、月下美人の大きく伸びやかで華やかな姿が、そのまま図案に残っている。こうしてお太鼓にしてみると、特徴がよく判る。

型絵染とは、型紙を使って模様を表現する加工を指すが、代表的なものが、浴衣の長板中型と江戸小紋。中型や小紋は型紙を何枚も繋ぐが、型紙を合わせた部分の模様のズレや染のムラをいかに防ぐかが、職人の腕の見せ所である。そして無論、型紙に精緻な図案を起こす職人の技も大切だ。この型絵染帯は、お太鼓と前部分は、同じ図案になっている。同じ型紙を二度繰り返して染め付けるだけなので、あまり手間が掛からず、こうした染帯の場合はその分廉価になる。

 

(絽麻白地 躑躅(つつじ)模様 型染名古屋帯・竺仙)

先ほどの月下美人は、生地に真綿の結城紬を使っているので、模様は爽やかだが冬帯。こちらは、絽目の入った麻生地なので、夏の品物だ。

帯のモチーフは、躑躅。5~6月の初夏に旬を迎える花の代表格。種類は、レンゲツツジ・ミツバツツジ・サツキなど、野生種から園芸用の栽培種まで幅が広い。花弁の色は、真紅や濃ピンク、深紫など鮮やかな赤系色や白が中心。

配色は、本来の躑躅の色と全く違う納戸色で、ほぼ統一されている。これは、躑躅の花弁をデザインとして捉え、しかも夏用の絽麻生地を使うことから、「涼しさ」が優先されたもの。本来の躑躅色が完全に消されているのは、そのためである。このように使う季節を考えて、リアルな色と全く異なる配色にすることが、キモノや帯のあしらいではよく見られる。

一見同じ型紙を、帯全体に通しているように見えるが、よく見るとお太鼓と前部分の模様には、花弁の中心に黒い暈しが入っている。僅かな施しだが、きちんとアクセントになっている。

お太鼓を作ってみた。規則的な模様の配列により、カッチリとした印象が残る。またほぼ紺と白だけの配色なので、合わせるキモノをすっきりと見せる効果が期待できる。単純なだけに、色も模様も夏空の下で映えそうだ。

同じ型絵染と言っても、素材も模様の雰囲気も違う二点の染帯。これを同じ紬の単衣に合わせると、どのような違いになるか。試すことにしよう。

 

(レモンイエロー地色 栗と楊梅使用 横段草木染置賜紬・米沢野々花工房)

米沢の野々花工房が染めた、天然材100%の草木染紬。横段に同系色織縞を入れた「ノスタルジアシリーズ」は、これまでブログでも藍やさくら、五倍子、さくらんぼなどを使った品物を紹介してきたが、今回は黄色の地色で何となく想像がつくように、栗と楊梅(ヤマモモ)が主染料。

画像で判るように、少し緑の色を感じる黄色が、レモンの皮の色・レモンイエロー。袷、単衣どちらに誂えても良いが、この爽やかなレモン色は、初夏に合わせて単衣で使いたくなる。そして、ほぼ無地に見える紬なので、帯で雰囲気を自在に変えることが出来る。

色やモチーフに季節を取り込んでいる染帯は、飛柄小紋や遠目には無地に見える江戸小紋、そしてこうした無地感覚の紬に合わせると、その個性が如何なく発揮できる。

栗は、幹や樹皮、果皮や落葉、そして「いが」までも、染料になる。それぞれの材料は、沸騰した湯で30~40分熱して煎液にする。これに異なる媒染剤を使って、様々な色に発色させる。この紬に表れているやや緑を含んだ黄色は、樹皮か葉、あるいはいがの煎液に、アルミ媒染をしたもの。栗の場合、鉄媒染をすると、どの煎液もグレーか、あるいは黒に近い墨色に発色する。また、栗皮の煎液にアルカリと鉄を併用して媒染すると、皮そのままの色・栗皮色を作ることが出来る。

ヤマモモは、街路樹としても馴染みがあり、本州ではよくみられる常緑樹。染料として使うのは樹皮で、野々花工房ではこれを、沸騰した湯に20分熱する作業を4回繰り返して、煎液を抽出する。そして使うのは、この液を一日置いて出来た上澄み液。これに、様々な媒染剤を使って発色させる。この横段の織で使っているオリーブ色がおそらく楊梅で、鉄と銅が仲立ちをするとこの色になる。

では、酸っぱくて爽やかなレモン皮の紬は、二点の染帯で、それぞれどうなるか。

 

 

光の当たり方で、かなり紬のレモン地色が変わって写ってしまったが、それぞれの帯の個性は画像に表れているように思う。月下美人の紡錘型の花弁と蕾が、帯巾いっぱいに咲き誇っている姿は、否応なしに目に飛び込む。躑躅は、その納戸色がキモノのレモン色を引き締めていて、キリリとした着姿になる。

それぞれの前姿。月下美人は、花模様が横に変わっても雰囲気は変わらない。また、白と水色が混在する帯地の配色が、この季節には相応しい。躑躅の方は、同じ青系でもはっきりとした納戸色なので、潔さがある。こうした一定の法則で並んでいる図案は、見る人にはっきりとした印象を残すだろう。

一番濃い月下美人の水色の花弁に合わせて、小物の色を選んでみた。水系ではなく、黄色系でまとめても良いかも知れない。(絞り絽帯揚げ・加藤萬 冠組帯〆・龍工房)

こちらは同じ青系でも、帯模様の納戸色より薄い水色を基調にした小物合わせ。いかにも涼しげなこの帯だと、青系以外の色目は使い難いか。(段ぼかし絽帯揚げ・加藤萬 夏帯〆・龍工房)

 

キモノを生かすも殺すも帯次第と言われるが、今日は遊び心のある型絵染の帯を使い、初夏の街着として装うには相応しい姿を、コーディネートしてみた。無地感覚のキモノは、帯の色や意匠が最も着姿に反映されるので、思い切った組み合わせが楽しめる。

旬の色と模様を装うことは、着用する本人だけでなく、着姿に触れる人達の目も楽しませる。四季折々の姿を衣装で表現できる「ニッポンのキモノと帯」は、長い歴史に培われた伝統の上に立つ、この国の文化そのもの。だから感染症の流行くらいでは、決して廃れたりはしない。これだけは、確かである。

最後に、今日ご紹介した品物を、もう一度どうぞ。

 

バイク呉服屋が好きなBS・CS番組ですが、さすがに今は取材が控えられていて、新しい収録がなされていないようです。

過去に重い肺炎を患ったという吉田類さんは、「今は、ひたすら家で自重する時だけれど、いつかは必ず終わりが来る。その時には真っ先に行きたいもつ焼きの店が、五軒ある」そうです。また、玉袋筋太郎さんは、今は「スナックよりジタック(自宅)」として家で蟄居しているようですが、「早く酒場が元通りにならないと、いつまでも俺の仕事が無い」と嘆いています。

それに引き換え、地上波のコロナ専門チャンネルでは、様々な専門家が代わる代わる登場して、まさに毎日「百家争鳴」状態です。一体何が正しくて、何が間違っているのか。今まで、誰も経験していない事態なので、誰にも判らないでしょう。そんな時は、思い切って一時情報を断った方が、かえって冷静になれそうです。

とにかく一日も早く、「ノーマスク、ノーライフ」からは、解放されたいものです。

今日も、最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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このブログに掲載されている品物は、全て、現在当店が扱っているものか、以前当店で扱ったものです。

松木 茂」プロフィール

呉服屋の仕事は時代に逆行している仕事だと思う。
利便性や効率や利潤優先を考えていたら本質を見失うことが多すぎるからだ。
手間をかけて作った品物をおすすめして、世代を越えて長く使って頂く。一点の品に20年も30年も関って、その都度手を入れて直して行く。これが基本なのだろう。
一人のお客様、一つの品物にゆっくり向き合いあわてず、丁寧に、時間をかけての「スローワーク」そんな毎日を少しずつ書いていこうと思っています。

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