バイク呉服屋の忙しい日々

にっぽんの色と文様

組紐、その奥深き世界(後編・1) 多彩な帯〆の技法・フォーマル編

2019.09 23

「くでになる」と言われても、山梨県人以外の方々は、何のことかさっぱりわからないだろう。「くで」とは、「こんがらがる」とか「絡まる」という意味の甲州弁で、紐と紐がくしゃくしゃに重なりあい、解けなくなった状態の時に、よく使う。

また、紐を人間関係に例えて、利害が複雑に絡み合った人同士や、有りがちな恋愛事情・三角関係や四角関係に陥った時などにも、「くで」を使う。だが何故「くで」が、絡まるという意味になったのだろうか。もしかしたら、く=苦、て=手で、解く人の手を苦しめるという意味からかと想像出来るが、詳しいことは全くわからない。もし語源を知っている方がおられるなら、ぜひお教え願いたい。

 

荷作りは、呉服屋として一番最初に覚える仕事の一つ。品物を問屋や職人に送ったり、時にはお客様の家へも発送する。品物は、折れ曲ったりシワだらけになれば、時として価値を失うことすらありえる。高価なモノだからこそ、常に丁寧な扱いが求められる。だから、運送屋が運ぶ途中で、形が崩れることのないように、きっちり荷作りをしなければならないのは、当たり前のことだ。

通常品物は、きれいなダンボールに専用の紙を敷き詰め、全体を覆うようにして入れる。特に問屋では、入れる反物数に応じた大きさのものを準備しており、絵羽モノや帯を専用に入れる箱もある。

そして、梱包の方法を見れば、その会社の姿勢が判る。丁寧に荷作りをするところは、やはり品物を丁寧に大切に扱うが、いい加減な荷作りをする会社は、扱いがぞんざいになっている。こうした姿勢は、商いそのものにも関わってくるように思える。たかが荷作りという無かれ、恐ろしいことに、これが全てのことに通じてしまうのだ。

 

荷作りは、箱にきれいな茶紙を巻き、最後にきっちり四手紐をかけて、終わる。昔の呉服業界では、この紐の掛け方と結び方に独特な方法があり、駆け出しの者は、まずこれを覚えなければならなかった。一本の紐を使い、真ん中に結び目を作りつつ、前後左右二重に紐を掛ける。最後の結び方は特殊で、文章では中々説明し難い方法だが、とにかく絶対に解けることのないコブ結びである。

荷作りを終えたとき、四方向の紐が箱の中心できっちりと交差して結んであると、きれいな姿に見える。昔は、紐のどこかが緩んだり、ねじれていたりすると、叱られたものだ。紐をきちんと結ぶことは、荷作りの良し悪しを左右し、送り先に与える印象も違ってくる。

さて今日は、組紐の話の続き。荷作り紐ではないが、やはり帯〆が決まっていると、着姿が決まる。前回は、組紐の長い歴史を雑駁に振り返ってみたが、今回は帯〆を使って、その多彩な種類と技法をお話し、それぞれどのような場面で使われているか、具体的にご覧頂くことにしよう。今日はまず、フォーマルに使う品物から。

 

未婚女性の第一礼装・振袖用の帯〆。

言うまでも無く帯〆は、現在最も組紐の技術を体現している品物である。和装にはどうしても欠かすことは出来ないものであり、着用する場に応じて、それぞれ相応しい品物がある。フォーマルでは、キモノや帯をより華やかに引き立たてる格調高い紐を使い、カジュアルでは、着用する方の好みにより、様々なものが使われる。

使っている糸の色、あるいは組み方の違いにより、帯〆の表情は変わり、何を使うかで着姿の印象が変わる。帯〆は、着装の最後に結ぶもの、つまり体操の着地と同じである。だからここが決まると、自ずと着姿も決まってくる。

お客様からは、「小物選びは楽しいけれども、とても難しい」との声をよく聞く。場面ごとに着用するキモノや帯が変わるように、帯〆も変わるので、その都度対応していくことは、厄介なことかもしれない。ということで稿の中では、少しでも皆様の参考になるように、キモノのアイテムごとに、帯〆の種類を見ていくことにしよう。

 

(フォーマル婚礼用帯〆 黒留袖・色留袖用 高麗組)

婚礼の装いで使う紐は、白や金、銀糸で組んだものだけを使い、他の色が入ることは無い。帯〆も、第一礼装を恭しく調える役割を担っているため、やはり格調の高さと流麗さが求められる。

上の画像は、表面に模様を表現した高麗(こうらい)組の平紐。図案を組み込むことを、「柄出し(がらだし)」と呼ぶが、あしらわれた模様が、紐に存在感を与える。礼装に使う帯〆には、このように柄の付いたものをよく使う。

高麗組の大きな特徴は、紐の上で自在に図案を表現出来ること。それ故に、デザインやそれに伴う糸の色配置で、紐の姿が変わっていく。それは、作り手のセンスがそのまま紐に表れることとなり、この辺りは、キモノや帯を創作することと同じである。

花菱模様を柄出しした高麗組。模様は、金糸を詰めた花菱と金糸を輪郭に使った花菱。

このように、礼装用帯〆には無くてはならない金銀糸だが、その糸質には違いがあり、本当の金箔を使う糸と、金の色を着色した糸とに分かれている。以前、帯の原材料糸についてお話したことがあったが、製造過程に大きな隔たりがある本金糸と着色糸(蒸着糸)の双方を使っている点では、帯も帯〆も同じである。

本金糸は、まず圧延した金箔を切り取り、漆を引いた和紙に手で押していく。これを裁断専門の職人が細かく裁ったものを、芯糸に撚りこんで箔糸とする。一方の蒸着糸は、テトロンやポリエステルフィルムにアルミや銀を蒸着させ、そこに金色塗料で色を付けたもの。どちらも金糸には変わりは無いが、その内容には大きな差が出来ている。

つまり、帯〆の中に表れる金色も、原料に大きな違いがあり、それが価格の差となって表れる。現在は、本金糸を使用している紐は少なく、ほとんどが蒸着糸だが、たまに「本金糸使用」と表記された品物を見かけることがある。上の画像の三本は、いずれも蒸着糸を使っていると思われる。

 

(フォーマル礼装用帯〆 振袖用 二枚の画像とも高麗組)

同じ礼装用でも、未婚の第一礼装・振袖に合わせる帯〆は多彩。デザイン、配色、組み方の違いで、様々な表情を見せる。

画像の4本はいずれも、最初の留袖用と同様に、模様を柄出しした紐。組み方も同じ高麗組。最初の赤・黄・若草の三本は、金糸のみで花模様を浮き立たせているが、後の赤・緑の二本は、色糸を混ぜて模様を表しているので、より立体的に見える。

組紐は、組み方によって使う組台(くみだい・組紐を組むために使う木製の台)を使い分ける。一般的に使う台は、角台・丸台・高台で、特殊な紐を組む台として、綾竹台・内記台・籠打台などがある。

高麗組には高台(たかだい)を使うが、この台は最も複雑なものを組むことが出来、組む紐のほとんどが平紐。高台は、畳半畳ほどの大きなもので、側面左右に様々な色糸の玉を配置する。組み方は、手順を記した模様の設計図・「綾書き(あやがき)」を元にし、左右二段に付いたコマに玉を掛け、竹箆で打ち込みながら組み上げる。

高台は、江戸時代に考案されたものだが、模様を表現する高麗組や貝の口組みは、この台で組まれる。武士は、自分の刀に付ける紐・下げ緒に、文字や模様の施しを求めたが、こうした趣向の流れが、新たな組台・高台の開発へと繋がったと思われる。

 

(フォーマル礼装用帯〆 振袖用・高麗組)

これも高麗組だが、これは、代表的な組紐産地の一つ・伊賀で作った帯〆。作った職人は、伝統工芸士の田中節子さん。

忍者の里としても知られている三重県・伊賀地方。伊賀の中心・上野市で本格的に組紐作りが始まったのが、明治中期の20世紀初頭。東京で組紐を学んだ広沢徳三郎という人物が、上野市に帰って工房を開いたことが始まりとされる。伝統的に伊賀の組紐は、高台で組む紐が主流だが、手組み高麗組は、現在その多くが伊賀で生産されている。

 

(フォーマル礼装用帯〆 訪問着・付下げ用 畝打組・貝の口組)

訪問着や付下げに使う帯〆も、留袖や振袖用と同じように、紐に模様をあしらう「柄出し」の平紐を良く使う。画像で判るように、御紹介した紐の配色は二色で、模様も金を散らした程度。もちろんもっと模様を凝らした紐もあるが、シンプルな方がコーディネートしやすい。こうした品揃えになるのは、扱っているバイク呉服屋の趣味による。

一枚の高麗組を二本連結したように見える紐姿。紐全体が畝のように見えることから、畝打組(うねうちくみ)の名前が付いた。これも、江戸の刀下げ緒としてよく使われた組紐。この紐のように、同系色濃淡やぼかしを表現したものが多い。フォーマルを意識して、ところどころに金糸を組み入れている。高麗組同様に、高台を使って組む。

同じ畝打組の紐で、配色違いの3本。訪問着や付下げ用の紐は、着用する方の年齢や品物により、帯〆の色や組姿が変わるので、その合わせ方は何通りにも考えられる。

着姿全体を優しく仕上げるのであれば、淡い色合いの紐を、またインパクトを付けたければ、少し引き締まった濃い色を使う。多様な着姿に対応するためには、様々な帯〆を置かなければならないが、やみくもに何でもあれば良いというものでもない。紐の色や種類を絞ると、コーディネートの範囲は限られるが、かえって考え方が単純になり、スムーズに小物合わせが進むこともよくある。

 

今日はフォーマル帯〆を使って、組み方と種類を御紹介したが、やはり礼装用ということで、格調の高さや優美さを優先するために、高麗組や畝打組のような「柄出し」のものに偏ってしまった。もちろん、フォーマルに使う紐は、この他にも沢山あり、今日はほんの一部を例として見て頂いたに過ぎない。

次回のカジュアル編では、もう少し多彩な種類と組み方を御紹介出来るかと思う。

 

キモノや帯には「染と織の技」が、帯〆には「組む技」が駆使されています。和装の中では、どうしても染織に注目が偏りがちですが、組紐にも、染や織に劣らぬ歴史と技の変遷があり、とてもではないですが、簡単に理解の及ぶものではありません。

紐は、モノを結びつけたり、吊り下げる道具として、それこそ人類が生まれてからずっと、日常生活の中で使われてきました。そんな身近な道具を、美しく形作る。こうした「用の美」を求める人の心が、一本の帯〆の中に受け継がれているように思えます。

さりげないけれども、無くてはならない和装小物・帯〆。どうぞ皆様も、少しだけ注目してご覧になって下さい。今日も、最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

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このブログに掲載されている品物は、全て、現在当店が扱っているものか、以前当店で扱ったものです。

松木 茂」プロフィール

呉服屋の仕事は時代に逆行している仕事だと思う。
利便性や効率や利潤優先を考えていたら本質を見失うことが多すぎるからだ。
手間をかけて作った品物をおすすめして、世代を越えて長く使って頂く。一点の品に20年も30年も関って、その都度手を入れて直して行く。これが基本なのだろう。
一人のお客様、一つの品物にゆっくり向き合いあわてず、丁寧に、時間をかけての「スローワーク」そんな毎日を少しずつ書いていこうと思っています。

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