バイク呉服屋の忙しい日々

今日の仕事から

大人可愛い麻を、個性的に着こなす  小千谷縮絣と絽型絵染帯

2019.08 10

最近、「大人可愛い女性」とか「大人可愛い着こなし」などと耳にすることがよくあるが、はて、「大人可愛い」とはどのような人、あるいは着姿を指すのだろうか。具体的な「これ」という指針がないので、何とも判り難い。

そもそも「大人」の女性とは、どんな人なのか。こう聞かれても、漠然としていて、すぐにきちんとした答えは出すことは難しいが、バイク呉服屋が想像するところでは、「思慮深く、思いやりのある落ち着いた方」といったところだろうか。そしてここに、「可愛さ」をプラスするとどうなるのか。可愛さとは、一体何を持って「可愛い」と評されることになるのだろう。

どうにもわからないので、この言葉の定義を色々と調べてみたが、判然とはしない。しかしどうやら、大人らしい振る舞いの中にも、子どものような遊び心と無邪気さを合わせ持つことが、基本になっているらしい。つまりは、年齢には関係なく、自分が「可愛い」と思えることを大切にする、ということになるのだろうか。

 

この「大人可愛い」を古語から探すと、それは「愛敬(あいぎゃう)」に当たるように思う。愛敬とは、あの「男は度胸、女は愛嬌」のあいきょうに発展した原語である。

「あいぎゃう」は元々、慈悲深い仏の温和な人相・愛敬相(あいぎゃうそう)に端を発した言葉であり、古来は「敬う」という意味で用いられてきたが、それが中世以降は「思いやりがある」とか「優しい、可愛い」に転じて使われるようになり、現代の「愛敬・愛嬌」となった。

いくつになっても可愛く、愛嬌のある大人の女性は、やはり魅力的である。そこで今日は、この「大人可愛い姿」を、夏の和の装いとして考えることにしたい。ただこれは、あくまでバイク呉服屋が想定する「可愛さ」なので、読者の方には違和感を持つ方もおられようが、そこはお許しを願いたい。

 

花びら散しと亀甲。どちらも可愛くモダンな小千谷絣縮。今日は、この二点の麻キモノを使って、大人可愛い姿を作ってみる。

浴衣以外で、気軽な夏キモノとして使えるカジュアルモノを考えると、やはり麻素材の小千谷縮が思い浮かぶ。風を通し、吸湿性にも優れている麻は、見た目にも涼しく、着心地も軽い。難点は、生地に少しゴワツキがあることと、シワになりやすい点だが、夏の日盛りで着用することを考えれば、まずは最適な素材であろう。

そして麻モノの中でも、小千谷縮には、シャリシャリとした独特の生地感がある。これが、さらりとして気持ちの良い肌触りを生み出し、麻の心地良さを高めている。細い緯糸に強い撚りをかけて織り上げた布を、二週間ほど雪の上でさらした後に、湯の中で手揉みをして撚糸の一部を解く。人の手で丁寧に一反ずつなされるこの工程を経ることで、生地にちりめんのようなシボが生まれる。この「シボ出し」こそが、小千谷縮の大きな特徴である。

 

夏キモノとして優れている小千谷縮だが、柄行きは、無地モノや縞、格子が多い。そのため、配色や模様の大きさ、配置にこそ違いはあるものの、着姿がある程度決まった雰囲気になりやすい。こうした幾何学模様では、合わせる帯で変化を付けると良いのだが、やはり直線主体の図案だと、どうしても硬さが残る。

だが、今日のテーマ・大人可愛さを考えると、キモノの図案には、どうしても女性の可愛さ・フェミニンさを持たせたい。そこで選んだものが、最初の画像で御紹介した、優しい絣模様の縮二点。数的にはかなり少ない小千谷の絣縮だが、パステル調の配色もあいまって、自然で爽やかな印象を受ける。では、一反ずつ見ていくことにしよう。

 

(オーガニック麻使用 白地 花びら散し 小千谷絣縮・小千谷 杉山織物)

薄ピンク、若草、薄グレーの三色であしらわれた小花絣を、生地一面に散らしている。ただし、画像で判るように、生地の左側の花びらは疎であり。右側が密になっている。この比率は、3:7で、仕立てをする際に、衿と衽にどちらを使うかで、仕上がる姿が変わってくる。そのため、模様配置には少し注意が必要となる。

本来の小千谷縮原料は芋麻(ちょま)だが、糸にするためには、ぬるま湯に浸してから指先で繊維を裂き、撚り繋ぐ作業・芋績(おうみ)を施し、その上で、数本ずつ合わせて撚りをかけなければ、仕上がらない。この工程は全て手作業であり、一反分の糸が出来るまでには一ヶ月以上を要す。だから現在は、この伝統技法に則った「手績(てうみ)糸」を使用している小千谷縮は、年間に数反しか生産されていない。

現在、使っている麻糸は、そのほとんどが機械紡績された「ラミー糸」だが、この小千谷縮には、「オーガニックラミー」の表示がある。これは、有機栽培による麻原料を使った証であり、そのことを国際認証団体・コントロールユニオンが承認している。

この糸を製造したのは、麻の原料メーカー・トスコで、栽培地は中国・四川省。有機農法を使って栽培された麻を使い、細番手の糸を作っている。番手は40から120までと広く、中には、綿に例えれば海島綿ばりの細番手のものがある。

この品物も、細番手麻糸を使っているので、通常の麻織物よりしなやかな風合いを持つ。また、麻独特のチクチクとする手触りが抑えられていて、光沢もある。

パステル色の花びら絣が、鮮やかな白い地の上で、ふんわりとやさしく浮かんでいる。小千谷縮に施される「雪晒(ゆきざらし)」は、雪に反射する太陽の熱で発生するオゾンを利用して、生地を漂白する。際立つ地の白さは、この特徴的な工程からもたらされる。

清潔な白さの中に、淡い色の花びらが舞う図案は、やはり可愛い。直線的な縞や格子と違って、模様に柔らかさがあるので、女性らしい優しい雰囲気となる。「大人可愛さ」は、十分に演出出来るだろう。

 

(オーガニック麻使用 白地 沢潟亀甲模様 小千谷絣縮・小千谷 杉山織物)

もう一点の縮は、先ほどの散し模様とは違い、生地巾一杯に連続模様を付けた絣。これも白地だが、若草色と鶸色の緑系パステル二色だけの配色なので、全体に夏らしい清々しさを残している。

小千谷の絣作りは、まず、図案を写した定規を作り、その定規に従って模様のところへ墨で印を打つ。そこを糸で硬く縛り、色が入らないようにする。そして、刷り込みヘラと名前が付いた専用のヘラで、染料を糸に刷り込んでいく。この人の手による絣付け・手括り(てくびり)が、この縮の一つの特徴でもある。

鏃(やじり)形の三枚葉・沢潟(おもだか)を連想させる図案を、大小二つ繋いで、六角形の亀甲を形作っている。沢潟は、水辺に自生する水草で、夏の植物文様。亀甲にはカクカクとしたイメージがつきまとうが、優しい配色と図案の面白さとで、堅さは払拭され、モダンな模様の姿になっている。

遠目から見ると、楕円が連鎖しているようにも見える。これも最初の品物同様、雪に晒した白い地を生かした夏らしいデザイン。白と若草色のコントラストが爽やかで、丸みをおびた模様は可愛さも持つ。花散らしとは違った「大人可愛さ」があるように思う。

 

さて、この「大人可愛い小千谷絣縮」を、より個性的に着こなすには、どのような帯を使えば良いのか。やはり帯にも、可愛げがなければ、うまくバランスがとれないのだろう。そこで考えたのが、次に御紹介する型絵染の名古屋帯である。

蔓唐花と菊模様。いずれも竺仙が製作した絽麻の型絵染名古屋帯。夏の装いの中では、どちらかと言えば、寒色系のすっきりとした図案のものを使うことが多いが、こんな多色使いの華やかな帯を合わせれば、また雰囲気が変わる。

竺仙の主力商品は、浴衣や江戸小紋。どちらも「型紙」を使って模様を染めだすことには変わりは無い。この型絵染の帯も、その延長線上にある品物である。生地の素材は麻で、絽目が入っている。こうした染帯は、織帯とは異なる模様の柔らかさと優しい色合いを感じる。

 

(白地 唐花繋ぎ 絽麻型絵染 九寸名古屋帯・竺仙)

モチーフを特定出来ない「唐花」のデザイン。蔓を繋げて、動きのある図案になっているが、ピンク濃淡の花が可愛く、これがポイントになっている。こうした型絵の帯は、手描きとは違い、配色を変えてどのようにも染めることが出来る。制作する方とすれば、型紙さえ作ってしまえば、破損しない限り、いつでも染め出すことが出来る。

(苗色地 菊模様 絽麻型絵染 九寸名古屋帯・竺仙)

若草色より少し深い緑・苗色が地色。モチーフは菊だが、図案化されているために堅苦しさが無い。最初の唐花よりも、地に空きがあるので、地の苗色が前に出ている。  さてそれでは、それぞれの帯を、二点の小千谷絣に合わせてみよう。

 

花散らしの中の色・淡いピンクに合わせて、ピンク濃淡唐花の帯を使ってみる。キモノ図案に模様の繋がりが無いので、密集した図案の帯を合わせても、しつこさが無い。むしろ、これくらい目立つ帯でなければ、可愛さが増幅しないように思われる。

夏モノには珍しい、ピンクを基調にした品物同士の組み合わせ。ピンク系=可愛いとするバイク呉服屋のセンスには、異論があるかも知れぬが、やはりこの色は、女性の可愛さを引き出すことが出来ると、私は思う。

 

こちらの組み合わせの方が、少し落ち着きがある。最初のピンク合わせ同様、絣の配色と帯の地色をリンクさせたものだが、色が緑系なので、浮わついた感じがしない。

キモノは幾何学連続文で、帯は地の空いた植物文と対照的なことから、バランスも取れている。爽やかさのある「大人可愛さ」となるであろうか。

 

今日は、「大人可愛さ」をテーマに、麻素材を使った夏のカジュアル姿を考えてみた。薄物に涼やかさや爽やかさを求めるだけではなく、時には「可愛さ」も加味して着姿を考えると、品物の選択肢が広がるように思う。皆様も、自分なりの「大人可愛さ」を夏姿の中で試してみたら如何だろうか。

 

何を持って「大人可愛さ」とするか。人それぞれに、その基準は違うと思います。今日ご覧頂いた組み合わせも、見る人によっては「少しも可愛くない」と思われる方もいるでしょう。

人の印象が、受け取る人によって違うように、色や模様を見る感覚も、人によって違ってきます。だからこそ面白く、そこに個性が生まれます。カジュアルな和装では、着用する方が、自分なりのセンスで自由に楽しめばそれでよく、それ以上でも以下でもありません。

毎日暑い日が続いていますが、薄モノを楽しめる時期も、あとひと月ほど。皆様には、灼熱の太陽に負けることなく、一度でも多く着用されることを、願って止みません。

 

なお誠に勝手ですが、12日の月曜日から18日の日曜日まで、一週間お盆休みを頂きます。従って、頂いたメールのお返事も少し遅くなると思いますので、何卒ご了承下さい。ブログの更新は、休み中のどこかで一度行う予定です。

今日も、最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日付から

  • 総訪問者数:1777600
  • 本日の訪問者数:227
  • 昨日の訪問者数:344

このブログに掲載されている品物は、全て、現在当店が扱っているものか、以前当店で扱ったものです。

松木 茂」プロフィール

呉服屋の仕事は時代に逆行している仕事だと思う。
利便性や効率や利潤優先を考えていたら本質を見失うことが多すぎるからだ。
手間をかけて作った品物をおすすめして、世代を越えて長く使って頂く。一点の品に20年も30年も関って、その都度手を入れて直して行く。これが基本なのだろう。
一人のお客様、一つの品物にゆっくり向き合いあわてず、丁寧に、時間をかけての「スローワーク」そんな毎日を少しずつ書いていこうと思っています。

ご感想・ご要望はこちらから e-mail : matsuki-gofuku@mx6.nns.ne.jp

©2024 松木呉服店 819529.com