バイク呉服屋の忙しい日々

今日の仕事から

8月のコーディネート  手軽な夏大島と希少な花倉織で、夏姿を終える

2019.08 28

毎年、高校野球が終わると、秋の気配が漂い出す。決勝戦の翌日・23日は処暑だったが、暦の上では、そろそろ暑さを仕舞う頃となる。実際に、このところ、日中35℃を越えるような猛暑日は無くなり、朝夕は涼風が立ち、凌ぎやすくなった。

気候が良くなったというのに、夏から秋へと向かう季節は、多くの人が気だるさを感じる。大人は、お盆休みが長く続いたために、仕事のリズムが戻らず、子どもは、残り少なくなった夏休みの日を数えて、憂鬱になる。

 

夏と秋と 行きかふ空のかよいぢは かたへすずしき 風やふくらむ  凡河内躬恒 (古今集 巻3・168)                           訳:夏と秋が、空を行き交っている中で、片方には涼しい風が吹いているのだろうか。

空に季節の通り道があり、ここに夏と秋が並び立っている。そして境目の一方には、もう涼風が吹いていようかと。この歌からは、秋の到来を心待ちにしている作者の姿が窺える。これは、平安びとに限らず、今に生きる我々も同じであろう。だが、まだしばらくは夏が優勢で、本当の秋の訪れは、あとひと月ほど先になる。

さて、毎年8月に御紹介する薄モノのコーディネートは、すでに着用シーズンの終わりにあたるので、あまり現実味がないのだが、皆様には来夏の装いとして、ご参考にして頂ければ有難い。先月は染モノ・流水に千鳥小紋をご覧頂いたので、今日は夏の織物の中から、特に色目にこだわって、涼やかさを感じさせる品物を選んでみた。

 

(白地 浅藤紫色縞・夏大島  藤袴色地 首里花倉織・八寸名古屋帯)

夏のカジュアルモノを考える時、やはり価格が手頃で、自分で手入れが出来る綿や麻モノがどうしても主流になる。絹素材としては、夏大島や夏結城、夏塩沢、明石縮などが知られてはいるものの、価格などの条件が厳しいことから、実際に袖を通す方は限られているように思える。

そこで今回は、薄モノとしての着心地の良さと求めやすい価格、この双方が揃うことを念頭に置きながら、キモノを選んでみた。また同時に、キモノと帯の色に注目し、同系色を組み合わせることで、より涼やかさを演出出来るように心掛けたが、さてどうなるだろうか。早速、個々の品物をご覧頂こう。

 

(白地 浅藤紫色縞 夏大島紬・鹿児島 美幸)

皆様は、大島紬というと、どのようなイメージをお持ちだろうか。藍や泥などの天然材を使って糸を染め、その上で精緻な絣を作り、手機で織りなす。おそらく、とても高価で贅沢な織物と認識されている方が多いと思う。確かに大島独特の、滑るような手触りと軽さは魅力的で、手を通せば、誰もがその着心地の良さを認識する。

だが、夏大島の風合いは、通常の大島とは全く異なる。その違いは、夏大島が持つシャリ感に尽きるだろう。夏織物の場合、大島に限らず、塩沢や明石もそうだが、それぞれの生地にはシャリシャリした触感があり、これが肌離れの良い着心地を生んでいる。

では、この生地質の原因は何か。それは、使っている糸に起因している。夏大島に使う糸は、駒撚糸(こまよりいと)で、強い撚りをかけた糸を二本以上組み合わせ、一本の糸として使っている。そしてこの糸二本を左に撚りをかけ、さらに右に撚りをかけたものと組み合わせている。つまり、強い撚糸をさらに撚り込んでいることになる。

この撚糸を使って織り上げると、先述したシャリ感が生まれる。そしてもう一つ、織り方にも要因がある。通常の大島は、糸を高密度に織り込んでいるが、夏大島の場合では、経・緯糸双方に隙間が出来ていて、織密度が低い。こうして間が空くことにより、通気性が高くなり、透け感も出てくる。これが生地質と相まって、着る人に心地良さをもたらしている。

 

縞の色は、浅い藤紫。良く見るとかなり細い縞で、色に濃淡があり、間隔が不均一。遠目からは、均一な縞模様に見えるが、この偏った模様の配置が、色にグラデーションが付いているように思わせる。

白い地に、淡く浅い藤紫だけの縞は、見た目にも涼やか。着姿では、この縦のラインが、見る人に伸びやかな印象を与えるだろう。あまり地味にはならず、さりとて派手派手しくもならず、爽やかさが残る。

旗印の証紙は、この品物が鹿児島の組合を通ったことを示している。

大島と言えば、まず経緯絵絣の高価な品物が思い浮かぶが、この品物のような縞モノや格子、無地には絣糸を必要としない。その上、糸染めは化学染料を使い、製織はほぼ自動織機である。このように、手間をかけずに量産出来ることから、価格は絣モノと比べれば、格段に安い。

統計によれば、一昨年、鹿児島の組合(旗印)を通った大島は、全部で20376反。そのうち、縞や無地大島は15058反で、生産全体の74%・約4分の3を占めている。そして高価な経緯絣は3309反、緯絣は2014反。この内訳からは、安く簡単に作れる大島へと、生産をシフトさせている産地の現状が窺える。

蛇足だが、大島のもう一つの組合・奄美(地球儀印)を通った品物は、4402反に過ぎず、鹿児島の5分の1余りとなっている。なお、奄美で作る縞モノの製織は、ほとんど手機であり、この点が、自動織機を使う鹿児島の縞モノとの大きな違いである。

このように今回の品物は、証紙からも判るように、自動織機で織った生産数の多いものだが、糸質は変わらず、その風合いは、高価な経緯絣と遜色な無い。つまりこれは、手軽に夏大島の着心地を楽しめる、懐に優しい品物と言えよう。

 

(藤袴色 矢模様 首里花倉織 八寸名古屋帯・工房 真南風 伊波末子)

琉球の花織(はなうぃ)は、読谷や首里、南風原など沖縄本島だけでなく、離島の与那国や竹富でも生産されている。どれも、文様部分の糸を地から浮かせ、刺繍のようにも見える紋織物だが、産地それぞれに特徴があり、その技法も異なる。

例えば、読谷山(よみたんざん)花織は、経糸を手で拾い、色糸を緯にはめ込んで刺繍のように模様を織り上げる手花(てぃばな)花織と、紋綜絖(もんそうこう・緯糸を入れるために、織物の組織に合わせて経糸を上下に開ける織機の開口装置)を使い、平織地に色糸を緯糸に用いて、模様を浮かせて織る綜絖(ひゃいばな)花織という二つの技法により、織られている。また与那国花織は、二枚の紋綜絖と一枚の地綜絖により、糸を浮かせて模様を表現しているが、古くは、紋綜絖の代わりに細長い板を使っていたとも言われ、そのことから板花織と呼ばれている。

産地ごとに説明をしているとキリがないので、この辺りでやめておくが、今日御紹介する「首里花倉織」は、様々な花織の中において、最も技術を要する品物として知られている。では、どのような花織なのか、話を進めてみよう。

 

動物染料のコチニールを使い、糸染めをした花倉織帯。この帯は、花織・絽織・平織と、異なる三つの技法を組み合わせて、織り出されている。技法からも判るように、生地は絽目になっている部分があり、品物は夏モノとして位置付けられる。

花倉織は、緯糸を浮かせた花織と、経糸を絡ませて地を透かす絽織(紋絽)を併用したもので、作り手には高度な技術と手間を必要とする。このため、以前から生産は限られていたが、特に琉球王朝時代には、この織物が、王家一門の女性・妃だけに着用が許されていた。つまりは、高貴な人のみが身にまとうことの出来る「特別な夏織物」だったのである。

文様を浮き上がらせる「浮織」は、この花倉織に限らず、立体感のある図案が表情となって着姿に表れるために、皇族や貴族の装束にさかんに使われてきた。技法そのものは、すでに奈良時代には伝来しており、袍や狩衣、袿(うちぎ)などにその姿が見える。現在残っている浮織装束としては、鎌倉期の「紫地向鶴三盛丸紋袿(鶴岡八幡宮所蔵)」や室町期の「緯白小葵文唐衣(熊野速玉大社所蔵)」などがある。

 

帯地表面からも、平織と絽織、花織とそれぞれに違う表情が見て取れる。地の藤袴色より濃い色糸を、浮織(花織)に使っているが、ここは紋綜絖で緯糸を浮かせて図案を表現している。

画像からは絽目が見えているが、これが絽織によるもの。製織には絡み綜絖を使い、絡み経糸は、緯糸ごとに地の経糸の左右に位置を変えて組織され、緯糸と緯糸の間に隙間を作る。この隙間を織り込んだ絡み組織により、絽目が出来る。一般には、こうした織物のことを、捩(もじ)り織と呼ぶ。

花倉織は、綜絖ごとに違う踏み木を踏んで、織り進めていく。どのような織組織を形成するか、その帯の図案設計に従い、一越ごとに足で綜絖を踏み変えながら、緯糸を挟み込む。この織物に、高い技術と織り手間が必要なのは、このような製織方法を採っているからなのだ。

 

上はお太鼓、下は前姿。花織の図案は同じだが、糸の色を変えている。

沖縄における染織品の大きな特徴の一つが、糸染めに天然染料を使うこと。花倉織もその例に洩れることはなく、この帯には、動物染料のコチニールを使用している。

コチニールとは聞きなれない名前かと思うが、これは、サボテン科の植物に寄生するカイガラムシ(別名・臙脂虫)の雌から得られる色素のこと。この主成分は、カーミン酸という赤い色素だが、使う媒染剤により異なる色が得られる。

この帯の糸に使っている紫系色は、石灰などのアルミニウム塩、または鉄塩系の硫酸銅や硫酸鉄を媒染剤に使うと得られる色。画像を見れば、お太鼓と前の花織部分には濃淡はあるが、おそらく仲立ちをした金属塩は同じものであろう。だが、何を媒染剤としているかは、色を見ただけでは特定できない。

花倉織は、市松模様を浮かせて織り込んだものが多いが、この帯のような図案は珍しい。短い矢印が双方向に並んでいるが、バイク呉服屋には、80年代、喫茶店に置いてあったテレビゲーム・「パックマン」のように見えて仕方がない。

では、どちらも同じ藤色系を意識した夏大島と花倉帯を組み合わせると、どのような姿になるか、試してみよう。

 

夏大島の縞の色と、花倉織の地色や花織模様の色がリンクする。大島が白地なので、帯の柔らかい藤紫色が優しく映り、夏らしい爽やかな印象を残す。キモノが単純な縞だけに、帯地から浮き上がる花織の模様が、着姿のアクセントとなるだろう。

前姿を写してみた。お太鼓では、花織の矢模様が濃い色になっているが、前では地色と同じ色糸を使っている。読谷花織は、色糸を多用して華やかに模様を浮かせているものが多いが、花倉織を含む首里花織では、元来、色糸を使わず無地に織り組織だけで変化をつけて、模様を表現していた。この帯の前姿も、この様式に則っていることが判る。

着姿全体で色の統一感を出すために、同系色の小物を使う。だが、キモノ・帯ともに色のおとなしさが前に出ているので、帯〆は色をリンクさせながらも、濃い色を使って引き締める。これが薄色の帯〆だと、ぼやけた印象を与えかねず、こうしてアクセントを付けた方が、キモノと帯の上品で爽やかな色合いを、より強調できるように思う。

 

今日は、夏の終わりを彩るコーディネートとして、夏大島と花倉帯を使ってみたが、如何だっただろうか。計らずも、手の届きやすい普及品・夏大島と、手を尽くした希少品・花倉織という、対照的な品物の組み合わせになった。

夏織物や夏帯はカジュアルモノなので、8月までと限ることなく、その日の気候に応じて、9月に入っても自由に着用出来る。まだ少し暑さが残るので、ぜひ皆様には薄モノを着用する機会を作り、夏の装いを惜しんで頂きたい。最後に、今日御紹介した品物を、もう一度ご覧頂こう。

 

8月を過ぎると、一年のうち3分の2が終わることになりますが、毎年、夏モノを仕舞うと、あっという間に年の暮れがやってくるように思えます。そしてそれは、年齢を重ねるごとに加速度が付いて、速くなっている気がします。

呉服屋の仕事は、ある意味では毎年同じことを繰り返す単調なものですが、季節ごとに扱う品物が変わり、その誂え方も単衣・袷と変わります。いわば、日本の四季と連動した仕事と言えるでしょう。

あと一週間ほどで、店は冬モノへと模様替えをします。今日ご覧頂いた夏大島や花倉織を含めて、売れ残った夏モノは、また来年の5月まで、出番を待たなくてはなりません。箱に入れて仕舞う時には、来年こそ誰かに見初めてもらえるようにと、願いを込めながら片付けますが、なかなか思うようには行きません。

何はともあれ、来年の夏もきちんと薄モノを扱えるように、専門店らしく仕事を続けたいものです。今日も、最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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このブログに掲載されている品物は、全て、現在当店が扱っているものか、以前当店で扱ったものです。

松木 茂」プロフィール

呉服屋の仕事は時代に逆行している仕事だと思う。
利便性や効率や利潤優先を考えていたら本質を見失うことが多すぎるからだ。
手間をかけて作った品物をおすすめして、世代を越えて長く使って頂く。一点の品に20年も30年も関って、その都度手を入れて直して行く。これが基本なのだろう。
一人のお客様、一つの品物にゆっくり向き合いあわてず、丁寧に、時間をかけての「スローワーク」そんな毎日を少しずつ書いていこうと思っています。

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