バイク呉服屋の忙しい日々

現代呉服屋事情

いかにして、個性的な呉服屋足り得るか(2) 売ることより大切なこと

2019.07 15

店を構えていると、毎日様々なお客様と巡り合う。そして、店の暖簾をくぐる方々も、様々な思いを持ちながら、入ってくる。

偶然通りかかり、ウインドの品物に惹かれて、何気なく店に入る方。気にはなっていたものの、敷居が高い店と感じていたので、いつもは覗くだけにしていたが、今日は、「意を決して中に入りました」と話す方。もちろん、最初から目的を持って来られる方もおられる。それは品物の相談であったり、悉皆の依頼だったり、その内容は人それぞれである。

最近は、このブログを読んで、どうしても「バイク呉服屋の悪顔と店の姿」を見たくなったという方も多くなった。そして、甲府に来る機会があったら、その時にはぜひ寄ってみたいとして、観光や仕事のついでに来られる方もいる。普段から店の存在を心掛けて頂き、遠方からわざわざお出掛け下さる事は、本当に有難い。

 

さて、こうして来て下さる方々に、私はどのように対応するのか。やはりお客様は、うちの店の品物、あるいは仕事ぶりに期待や興味を持たれたから来て頂けた訳で、その思いにそえるような答えを出さなければ、申し訳が立たない。もしも満足して頂けなければ、二度目は無いだろう。

これを突き詰めてみると、多くの方は、他の店とは違う「個性」を求めてこられた、とも言えるだろう。沢山ある呉服屋の中で、うちを選んで頂いたこと。そこにそれだけの価値が見出せなければ、店に来た意味は無いのである。

前回この稿では、個性的な店とする条件として、「旬を意識した品揃えをすること」を挙げた。今日は、品物の売り方や、依頼の受け方など、商いの根本となるお客様への対応をどのように考えているのか。その心がけをお話してみたい。そこからは、仕事に対する私の個性が浮び上ってくるように思う。

 

ウインドは店の顔。通りを歩く人の目を惹く姿でなければ、「入る気」にはなってもらえない。また、入って頂けなくとも、見て楽しめるものにしておかなければ、路面店の意味が無い。「ウインドショッピング」こそ、店を認知して頂く最大のチャンスである。それは、たとえ街行く人が少なくなっていても、この意識を変えてはいけない。「見ている人は見ている」からだ。

呉服屋のウインドには四季がある。そう感じて頂くことが大切。だからこそ、「旬を意識した品揃え」をしなければ、ウインドに折々の表情を出すことは出来ない。ウインドにこそ、店としての個性が表れる。

では、来られたお客様に、どのような応対をしているのか。品物を求めに来られた方のケースを例にとり、話を進めてみよう。

 

一昨日の夕方、30代前後と思しき若い女性が一人、店に入ってきた。丁度悉皆仕事をしていたので、しばらく声を掛けずにいた。彼女は並んでいる浴衣を熱心に眺めていたので、「適当に引っ張り出して見ていいよ」と、一声かけた。

こうした時に、「何をお求めですが」とか「何かお探しですか」などと直接的に聞くことは、愚の骨頂である。お客様の多くは、思い切って店に入ってきたはずで、まず話を切り出す時には、相手の心をほぐしてからでなければ、何も始まらない。それが出来ないと、何となく居辛くなって、そのまま帰ってしまうことにもなりかねない。

「実は、質の良い浴衣を探しにきたのです」と、この方は目的を話し始めた。聞けば、以前外を通りかかった時に、ウインドに飾ってあった「菖蒲模様の浴衣」が、ずっと目に焼き付いていたと言う。「ここならば、本格的な浴衣が見つかると思って、今日は思い切って店に入りました」とのこと。これで、このお客様が何を求めて、どんな気持ちで店に来られたのかを、理解出来た。この来店された方の「思い」を引き出すことが、私の仕事の第一歩なのである。

 

色々なところで、沢山浴衣姿は見るものの、どれも安易に作ったプリントモノばかりで、質の良さを感じない。欲しいものは、人の手を伴って染めた本格的な浴衣。そして、仕立て上がったプレタではなく、きちんと自分の体型に合わせて、誂えてみたい。自分の好みは、白地に紺抜き、あるいは紺地か藍地に白抜き。柄行きは、夏らしさを感じさせるモチーフなら問わない。

これが彼女の「具体的な希望」である。来店された意図と、こうした具体的な希望が揃ったところで、初めて品物を見せることが出来る。私が応対で大切にしているのが、この二つの「前振り」なのだ。

 

紺地・藍地に白抜き浴衣と一口に言っても、様々なものがある。注染を使った綿コーマ、綿絽、綿紬。そして、浴衣本来の技法を受け継いだ中型。さらに綿紅梅や絹紅梅。

まず私は、「浴衣と言っても、色々ありますよ」と言いながら、一通りの品物を見せる。その時には、それぞれの品物の生地質や染め方の違いを説明する。実際に目で見て、手で触って確かめてもらいながら聞いて頂けば、品物への理解がなお深まる。そして、使っている図案の説明もする。

例えば、上の画像の中で、流水に浮かんだ楓模様の絽の中型があるが、これは「竜田川」という文様だと知らせる。お客様は、何故その名前が付いたのか聞かれるが、そこで、「この川は、奈良の生駒山から流れていて、昔平安貴族達が紅葉狩りに訪れたところ。川を流れる楓葉の美しさから、文様の名前になったのですよ」と教える。

もちろんその前に、「中型浴衣」はどのような技法を使い、どんな歴史があるのかも伝えている。お客様、特に若い方が技法や模様を理解することは、伝統に培われた和装への関心を深めることに繋がっているだろう。こうした情報を提供できる場こそが、呉服屋の店先であり、店主の役割だと私は心得ている。

 

話を進めながら見て頂いているうちに、数点目に留まるものが出て来た。そこで今度は、選ばれた品物を少し詳しく説明する。

選ばれた三点。桔梗模様の綿絽・桔梗と羊歯模様の絹紅梅・クローバー模様の綿紬。

材質も色合いも異なる三点。それぞれに材質が違うので、着心地も変わることを伝える。そして一点ずつ、着姿として見える特徴を話す。桔梗の綿絽は、江戸伝統の粋な姿を感じさせ、空色の絹紅梅は、浴衣というより夏キモノの雰囲気。クローバー綿紬は、模様と配色に可愛さがある。

同じ系統の品物で迷う時は、図案や配色の違いだけが問題になるので、一点を選ぶことはあまり難しくはないが、この三点のように、質も雰囲気も異なるものを比較して、これと決めることは難しい。しかも、絹紅梅の値段は他の二点の倍。予算的なことを考えても、悩むところだ。

こうした時、品物を選ぶ決め手となるのは、お客様がどこで着用し、どのような浴衣姿を演出したいか、ということが関わってくる。そこで、お客様にイメージを膨らませてもらうために、帯合わせをしてみる。「例えば、この浴衣には、こんな帯を組み合わせると、こんな雰囲気になります」と提案すれば、着姿がより明確になり、自分はどんな浴衣を望むのかが、おぼろげながら見えてくるだろう。私としても、折角、これと決めて誂えるのだから、納得して選んで欲しい。そのためのヒントを、出来る限り提示しなければならない。

 

白地水色縞の博多献丈半巾帯・レモン地色に鉄線と兎をあしらった麻染名古屋帯・橙色ぼかしの麻半巾帯。浴衣の雰囲気が変われば、帯も変わる。こうすると、コーディネーションの楽しさも判って頂ける。

試した帯合わせも、どうしてこの浴衣にこの帯を使ったのか、その理由を説明する。白地半巾帯を使うと、紺地に白抜きの浴衣を、よりすっきりした姿に印象付ける。遊び心のある染帯は、水色絹紅梅を、楽しい夏キモノ姿として演出する。クローバーの橙色をそのまま帯に生かすと、バランスのとれた姿になる。

それぞれの浴衣姿には、それぞれの良さがあり、無論私が「こうしなさい」と言うべきことではない。選ぶのは、お客様自身。彼女が一番着てみたいと思う品物を選べばそれで良いのだ。私の仕事は、その手助けをするだけである。

 

こうして、あれやこれやと品物を見たり、コーディネートを考えたりする間に、時間はあっという間に過ぎる。彼女は、何を着るべきか迷いながら、呉服屋にいる時間を、夢中で楽しんでいる。来店してすでに1時間半が過ぎた。

そして結局、この日はとうとう一点を決めることが出来ず、名残惜しそうに店を後にした。帰り際彼女は、次に来る日と自分の名前、住所を私に告げた。「呉服屋さんは、楽しいところなのですね」。こう言い残した言葉は、私への最大の「褒め言葉」だと思っている。

 

品物を間に挟んで、私とお客様が向き合い、様々な会話を交わす。これこそが、リアル店舗が持つ最大のアドバンテージかと思う。素材のこと、模様のこと、コーディネートのポイント、着用場所の使い分け、呉服屋が来客者に伝えられることは、山ほどある。

品物が売れるか否かは、全く問題ではない。それよりも、和を装うことの楽しさや、品物への理解を深めてもらえれば、それが何よりのこと。そして、私とお客様とで楽しい時間を共有する。これが大切なのだ。結果よりも過程を重んじる仕事の進め方こそが、私の個性かと思う。

「きれいごと」と言われてしまえばそれまでだが、モノを売る前になすべきことは沢山ある。これを疎かにして、結果(利潤)を求めるばかりに、失ってきた信頼は多く、またそれにより和装本来の姿も見失われている。全ての来店者が、「来て良かった」と感じて頂くためには、長い目で商いを見つめる視点と、不断の努力が必要になる。まだまだ未熟なところが多いバイク呉服屋だが、店を続ける限り、自分のポリシーを貫いて、頑張ってみようと思っている。

次回のこの稿では、「直すこと」に対する姿勢から、呉服屋としての個性を考えたい。

 

「あなたは少し、喋りすぎです」と、度々家内から窘められます。お客様により多くのことを伝えて、興味を深めて頂きたい。その気持ちが強すぎることは、自分でも判っているのですが、時として一方通行になっているようです。

「過ぎたるは、及ばざるが如し」と言うように、小難しいことを、つらつら説明するだけでは、かえって逆効果になってしまいます。まず、お客様それぞれの関心を、どのように引き出すかを考えることが、先決ですね。この辺りのことは、何年経っても進歩していないように感じています。「伝える」ということは、やはり難しいことですね。

今日も、最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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このブログに掲載されている品物は、全て、現在当店が扱っているものか、以前当店で扱ったものです。

松木 茂」プロフィール

呉服屋の仕事は時代に逆行している仕事だと思う。
利便性や効率や利潤優先を考えていたら本質を見失うことが多すぎるからだ。
手間をかけて作った品物をおすすめして、世代を越えて長く使って頂く。一点の品に20年も30年も関って、その都度手を入れて直して行く。これが基本なのだろう。
一人のお客様、一つの品物にゆっくり向き合いあわてず、丁寧に、時間をかけての「スローワーク」そんな毎日を少しずつ書いていこうと思っています。

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