バイク呉服屋の忙しい日々

出張ひとりメシ

秋晴れの児童公園で、「ちくわドッグ」のブランチ  日本橋・久松町

2018.10 08

今、20~30代の若者の30%が、朝食を食べていないらしい。農林水産省のHPには、朝ごはんを食べないと、体温が低下してエネルギー不足となり、仕事や学業の能率も上がらず、生活にリズムが生まれないと書いてある。脳のエネルギー源・ブドウ糖を摂取しなければ、一日の活力を生み出すことが出来ないようだ。

また、「朝食抜き」は、人間の体に様々な弊害をもたらす。朝食を食べない人が動脈硬化を引き起こす確率は、きちんと食べる人の数倍。その結果として、心臓病や脳血管障害、さらに糖尿病に罹患するリスクも高くなる。その上不均衡な食生活は、肥満にもなりやすい。だから朝ごはんをおろそかにすると、何一つ良いことがない。

 

かくいう私も、朝食を食べないことが極めて多い。しかも、この悪習慣は小学生の頃からで、もう50年にも及ぶ。食べなくなった原因は、朝寝坊のせいだ。小・中・高と、自宅から歩いて10分以内の近さだったことを良いことに、始業ギリギリまで寝ていたのである。学校に近い者ほど、遅刻が多いと言うが、まさにその典型だった。

さらに、東京で学生生活を送るようになると、朝メシだけでなく、昼メシも抜くことがあった。こちらの原因は、食費不足である。その昔、日本船舶振興会・笹川良一会長のモットーは、「一日一善」だったが、この頃のバイク呉服屋は、「一日一膳」だった。

 

こうして、半世紀も不規則な食生活を続けたために、自分の体には、肥満や高い中性脂肪値などの弊害を生み出してしまったが、幸いなことに重篤な疾患には至っていない。しかし、長年にわたり、脳にブドウ糖が行き渡らなかったたことで、動脈硬化ならぬ、性格硬化を引き起こしてしまった。偏屈で身勝手な捻じ曲がった悪い気質は、とても修復出来そうに無い。

けれども還暦が近くなり、性格はともかく、自分の健康には少し気を遣うようになった。最近では、朝6時前には目が覚めるので、仕事の前には、何かしら口に入れるようにしている。これは、家以外の出張先でも同じである。

そこで、久しぶりに「出張ひとり飯」の稿を書くことにした。秋の陽射しを受けながら、ひとりブランチを楽しむバイク呉服屋の姿を、皆様にはご覧頂くことにしよう。

 

(人形町・「サンドウィッチパーラーまつむら」のちくわドッグ)

出張の日の朝飯は家で摂らず、あずさに乗る前に、駅のスタンドそばか、ホームの売店でパンを買うことにしているが、たまに電車の時間に追われて、何も口に出来ないことがある。こういう時は、東京に着いてから、何がしかを食べることにしている。

この日も、慌しく仕度をして家を出たので、何も食べていない。不思議なことに、店に出る時よりも、出張の時の方が、腹がへる。この日は、年に一度だけ開かれる龍工房と加藤萬のセールのために、出張に出て来た。帯〆や帯揚げ、長襦袢のような小物を扱うメーカーでは、もともと扱い品の利益率が低いので、滅多にバーゲンをしない。だから、こんな機会を逃すのは惜しいのだ。

これから、掘り出しモノを探して気持ちよく仕入れをしようにも、腹が減っていては、落ち着いて品物を選べない。そこで、少し早めのブランチを摂ることにした。

 

今年の秋は、9月になっても真夏の暑さが残り、それが少し和らいだかと思うまもなく、続けざまに台風が襲来。どんよりとした曇天ばかりで、秋らしい穏やかな日差しは、ほとんど感じられない。

けれどもこの日は、台風が過ぎ去った後で、カラリとした空気に包まれ、心地よい微風の中、柔らかな陽が射している。こんな気持ちの良い日には、外でモノを食べたくなる。そこで、馴染みのパン屋でお気に入りのパンを買い、公園ブランチを決行することにした。

 

最近巷では、パン屋のことを、ベーカリーと呼ぶらしい。しかも店名は、ドンクだのアンデルセンだの、リトルマーメイドだのと横文字ばかり。そして、どこそこのクロワッサンはまるでパリの味だとか、バケットの焼き加減が本当に絶妙だとかと、若い女性達がのたまわっている。

何がベーカリーだ、何がパリだ。上の画像の店は、お江戸日本橋の水天宮前で、関東大震災が発生する2年前・大正10(1921)年よりパンを焼き続けている、超老舗パン店・まつむら。正式な名前は、「サンドウィッチパーラー・まつむら」。昭和36年(1961)年、店内に食べるスペース(今風に言うと、イートイン)を作ったことを機に、まつむらパン店から今の名前に改めた。

創業から1世紀。地元の人に愛され続けてきた「街のパン屋さん」。4代続く家族経営で、伝統の味を守っている。一日に100種類のパンを焼き、朝7時から店を開ける。全てが手作りの素朴なパンには、ここでしか食べられないものも多い。そのため、昼過ぎになると売り切れになる人気商品が沢山ある。

安産の守り神・水天宮。戌の日になると、妊婦さんで賑わいを見せる。まつむらさんは、この水天宮の交差点を人形町方向に少し戻った、右手の路地先にある。20年以上人形町界隈を歩いているバイク呉服屋にとっても、まつむらさんは馴染みの店。時には店内で食べたり、持ち帰って帰りの電車の中で食べたりもする。そして、お気に入りのパンがある。

新宿駅から丸の内線に乗り、銀座で日比谷線に乗り換えて、人形町に到着。甘酒横丁側の改札を出て、まっすぐまつむらさんに向かう。まだ10時すぎなので、売り切れているものは少ないと思うが、少し心配になりながら、店へ向かう。すでに買うパンは、決めてある。

 

まつむらさんでパンを購入した後、人形町の交差点にもどり、東の浜町方面へ向かう。加藤萬は富沢町に店舗があり、龍工房が開くバーゲン会場は、東日本橋。久松公園は、久松警察署のすぐ隣にあるので、どちらへ向かうにも好都合。

公園は、車の入らない細長い通路を挟んで、左右にある。画像左手の樹木が繁っているところが公園で、ラインが引いてあり守衛と思しき人が立っている場所は、久松小学校の敷地。土地が限られる都会の学校ならではの、スペースの使い方。一般の人は、この校庭部分には立ち入ることが出来ず、左の公園だけが使える。

公園には、遊具のほかに、砂場や池がある。ジャブジャブ池と命名されたこの池は、小さな子どもの水遊び場として、暑い日にはとても賑わう。学校に隣接し、目と鼻の先に警察もあるという立地から考えても、東京の中心・中央区の中では、安心して子どもを連れてくることが出来る貴重な場所になっている。

右側には、幼稚園を併設した区立久松小学校の校舎。この辺りはマンションが急増し、小さなこどもを持つ新しい住民が増えている。幼稚園の教室は、1.2階を使い、小学校は一昨年、新しい校舎を増設した。

久松小学校は、都内でも一、二を争う伝統を誇り、創立は1873(明治6)年。すでに150年近くの歴史を持つ。学校名は、維新前にこの辺りに屋敷を構えていた、伊予・松山藩の久松定謨(ひさまつさだこと)が、学校設立時に多大な寄付をしたことから、付けられた。

この小学校の由緒正しきことは、創立の節目節目に行われたこれまでの記念式典に、多くの皇族方が参列していることでも判る。例えば、1963(昭和38)年の創立90周年には、昭和天皇・皇后両陛下が臨席されている。その後、100周年には、現在の陛下・明仁殿下が皇太子として、110周年には、現在の皇太子・徳仁親王、120周年には秋篠宮ご夫妻が、それぞれ臨席された。日本の学校の中でも、これだけ皇族を迎えているところは、そうあるまい。

 

学校側の校庭にいる守衛さんの目を気にしながら、公園側の木の下にある木製の台に腰を下ろす。この台はベンチではなく、遊び場として使っているように思える。木で陽射しが遮られ、細道を風が通り抜ける。ブランチを決行するには、最適な場所。

早速購入したパンを広げ、並べてみる。手前から、ちくわドッグ・魚肉ソーセージパン・クリームパン・森永コーヒー瓶牛乳。今回、希望していた三種類のパンを、全て買うことが出来た。

校舎の脇に座っているので、窓からはパンを食らう姿が丸見え。何だか、学校に侵入した不審者が、校庭の真ん中で堂々とメシを食べているように思えて、落ち着かない。けれども、バイク呉服屋は「ただ、腹がへっているだけ」なので、すぐにパンに噛り付く。まずは、一番インパクトのある、ちくわドッグから行ってみよう。

 

ちくわ一本を丸ごと挟み込んだ、強烈なシルエット。初めてこのパンを見つけた時は、その大胆な姿にびっくりしてしまった。中途半端に切るのではなく、そのままというのが良い。この発想は、横文字ベーカリーでは、到底出て来ない。そして、パリジェンヌ達には理解出来まい。

驚くなかれ、ちくわには、シーチキンのマヨネーズ和えがぎっしりと詰まっている。この貫通したトンネルの中に、詰め物をするのは、とても面倒な作業だろう。けれども「ちくわ イン シーチキン」は、パンとの相性がとてもよく、あっと言う間に一本を「丸飲み」してしまう。

ちくわに噛り付いていると、近くで遊んでいた2歳くらいの男の子が傍に来て、じっと食べるのを見始めた。あわててお母さんがやってきて、「どうもすみません」と言い、子どもを引き離そうとした。ただそう言いながらも、ちくわを挟んだパンに驚きの表情を見せたことを、私は見逃さなかった。

思わず、「一口如何ですか」と言いそうになったが、何とも上品な若いお母さんだったので、思い止まる。おそらく、この辺りに建つ高級マンションの新しい住人で、ご主人はエリートに違いあるまい。ちくわ一本とパンのコラボは、彼女のこれまでの食生活からは、とても考えられなかったのだろう。パンを勧めたことで、近くにいる学校警備員に不審者として通報されても困る。しかも隣は、警察署だ。

 

品の良い親子がいなくなったのを見計らい、次の魚肉ソーセージパンに取り掛かる。こちらもパンに魚肉ソーセージが貫通している。但し、丸ごとではなく、縦半分に切ってある。パンは、カレーパン同様に、パン粉を付けて揚げてある。しかもソーセージには、ほんのりカレー味が付いていて、食欲をそそる。

パンにソーセージを挟むのは定番だが、まさかの魚肉である。バイク呉服屋は若い頃、嫌と言うほど魚肉ソーセージを食べた。それはとりも直さず安かったからだが、豚肉に比べて、淡白で厭きの来ない味だったこともあろう。そんな訳で、愛着のある魚肉を丸揚げしたこのパンには、初めて見た時から好感を持っていた。

 

練り物パンを二つ食べた後、最後はクリームパン。滑らかな優しい色のクリームが、郷愁を誘う。まつむらさんはクリームパンのレシピを、創業時・大正年間から変えていない。つまり、100年前と同じ味である。甘さを抑えた品の良いクリームは、しつこくなく、いくらでも食べられる気がする。やはりこのパンは、まつむらさんの看板商品である。

強烈な魚肉系の後は、優しいクリームで口直し。緩急をつけたパンの選択に、我ながら満足する。そして、コーヒー牛乳を飲み干す。甘いパンと一緒にコーヒー牛乳を飲むと、牛乳本体の甘さが消えて、独特の味わいとなる。これがまた良い。

バイク呉服屋は、コーヒー牛乳には一家言を持つ。つまり、こだわりがあるということだが、一番旨いと思うのは、北海道・音更に本社のあるよつば乳業のもの。コクがあって甘さ控えめ。地元山梨の武田牛乳が作るコーヒー牛乳も良い。少し甘めだが後味はすっきり。大手の乳業メーカーだと、雪印>森永>名糖>明治の順。

そして、瓶で飲むコーヒー牛乳は、一味違う。それは、瓶から得られる口当たりと、ほんのり漂う牛乳の薫りを、実感出来るからのように思う。また、この牛乳のキャップは残念ながらプラスティックだが、紙の蓋だと、なおその感が強くなる。

 

コーヒー牛乳の残りも僅かで、ブランチの時間も終わりに近づいた。東京のど真ん中にある小さな公園で、レトロで個性的なパンを食べる。都会で、こんな食事の楽しみ方があっても良い。時計は、11時半を廻った。腹がくちたところで、仕事に向かうことにする。今日は、良い仕入れが出来そうだ。

 

久しぶりに書いた「出張ひとりメシ」は、如何だったでしょうか。相も変わらずの、バイク呉服屋のアホさ加減に、呆れられた方も多いと思います。けれども、出張の大きな楽しみの一つは、何を喰うべきかを考えることにあります。

取引先が集中している日本橋人形町界隈には、まだまだ個性的で美味しい店が沢山あります。また機会を見つけてご紹介することにしましょう。

今日も、長い話にお付き合い頂き、ありがとうございました。

 

(サンドウィッチパーラー・まつむらの情報)

営業時間  月~金曜日 7:00~18:00 土曜日 7:00~15:00  定休日   日曜・祭日

場所    地下鉄・半蔵門線 水天宮前駅8番出口から徒歩1分

(久松児童公園の情報)

地下鉄・日比谷線 人形町駅A4出口から、久松警察署方向へ徒歩3分

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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このブログに掲載されている品物は、全て、現在当店が扱っているものか、以前当店で扱ったものです。

松木 茂」プロフィール

呉服屋の仕事は時代に逆行している仕事だと思う。
利便性や効率や利潤優先を考えていたら本質を見失うことが多すぎるからだ。
手間をかけて作った品物をおすすめして、世代を越えて長く使って頂く。一点の品に20年も30年も関って、その都度手を入れて直して行く。これが基本なのだろう。
一人のお客様、一つの品物にゆっくり向き合いあわてず、丁寧に、時間をかけての「スローワーク」そんな毎日を少しずつ書いていこうと思っています。

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