バイク呉服屋の忙しい日々

今日の仕事から

多彩な生地を使って、「自分だけ」の個性的な帯を作ってみよう

2018.08 05

キモノや帯の構造は、極めて単純に出来ている。裁ちはすべて直線であり、それぞれの布パーツの組み合わせも、大変判りやすい。そして生地を分割する時は、反物の巾を縮めることなく、そのまま生かす形になっている。

キモノの胴にあたる身頃は、着姿の正面から見える上前と、内側に入ってしまう下前の二枚。後から見ると、背を中心として左右に分かれる。寸法は一枚が9尺3~4寸ほどあれば、身長170cm以内の女性では、十分に間に合う。9尺を単純に半分にすると、4尺5寸となり、縫込みを2寸考えても、4尺4寸程度までの身丈に対応出来る。4尺4寸というのは、166~8cmの身長の方の身丈寸法に相当する。ということで身頃に必要な布は、9尺3寸×2で、1丈8尺~9尺程度となる。

袖は、丈が標準寸法の1尺3寸であれば、縫込みを2寸入れるとして、一枚(片袖分)に約3尺が必要となる。これが左右二枚なので、袖は6尺となる。そして、衽(おくみ)と衿は、反物の同じ位置を二分割して使うが、内訳は、衽が一枚4尺でそれが上前・下前二枚だから8尺。衿は本衿が5尺5寸、掛衿が半分の2尺7寸5分となり、衿部分の合計は8尺2寸5分で、衽より僅かに長くなる。

そして各部分をあわせると、身頃1丈9尺(約7m45cm)+袖6尺(約2m25cm)+衿・衽8尺2寸5分(約3m10cm)=3丈3尺2寸5分(12m80cm)となる。キモノのパーツは、全部で8枚で、約13mの生地が必要となる。だからほとんどの着尺用の反物は、おおよそこの長さを基準として作られている。

 

鯨尺で寸法の説明をしたので、読んでいる皆様には判り難かったように思うが、大変申し訳ない。バイク呉服屋は、寸法を鯨尺で覚えてしまったので、どうもメートル法は苦手である。ここで長々と寸法についてお話した理由は、極めて簡単な生地分割で、キモノが構成されているということを、知って頂きたかったからである。

絵羽モノ(黒・色留袖、振袖)や付下げは、模様の配置によりすでに裁ち位置が決まっているが、無地や小紋など反物全体が一律であれば、寸法に合わせて裁ちを入れていく。しかし小紋や紬の中には、模様の位置取りで仕上がり姿が大きく変わるものがあり、これは生地を裁つ時に「呉服屋と和裁士泣かせの品物」となる。

このような生地の構成を考えると、8枚のパーツ全てを別々の生地で作ることも可能となる。無論、バラバラ模様の生地をつなぎ合わせた「パッチワーク的品物」など見かけることはないが、左右二分割になったキモノ、つまり左右半身ずつ異なる模様を、二反の生地を使って誂えた品物がある。

この半身別々のキモノは、「片身替り(かたみがわり)」と呼ばれ、桃山期から江戸初期にかけて大流行した。すでに鎌倉期の直垂・ひたたれ(武家男性の装束)にこの形式が見られることから、かなり以前の時代から、別生地を繋ぎ合わせ、一枚のキモノとして仕上げていたことが理解出来よう。

 

このようにキモノは、生地を工夫して作る余地を十分残しているが、帯の場合は、もっと柔軟に品物を作ることが出来る。何しろ帯という代物は、一枚の長い生地が繋がっているだけだからだ。そんな訳で今日は、既存の品物には無い、「自分だけの帯」を作った事例をご紹介して、皆様の参考にして頂くことにしよう。

 

(サファリパーク模様・インド木綿名古屋帯  濃紺無地・真綿紬名古屋帯)

帯の長さは、袋帯だと1丈1尺5寸(4m35cm程度)で、名古屋帯は締める方の体格によっても違うが、だいたい9尺2寸~5寸(3m50cmほど)の範囲に納まる。そして模様の取り方には、端から端まで全て模様のある「全通」、巻きの中に入る部分に柄を付けない「六通」、そして着姿として表から見える部分の、お太鼓と手の前部分にだけ模様がある「太鼓柄」の三種類がある。

帯巾は、仕立上がりで8寸と決まっている。名古屋帯の中には9寸巾のものがあるが、仕上がり巾は他の帯同様に8寸となる。つまり、この寸法に仕上げることが出来るならば、どのような素材の布を使っても、それはすべて帯として使うことが出来るのだ。

以前ブログで、バティックを用いて作った帯をご紹介したことがあったが、バイク呉服屋のお客様の中には、様々な布を駆使して「自分だけのオリジナル帯」を楽しまれている方がいる。今回もそんな方からの依頼である。

 

持ち込んで来られたのは、ご覧のような布。これを見た瞬間、「ほんとにほんとにほんとにほんとにライオンだぁ~ 近すぎちゃってどうしよう フ~ジサファリパーク」と、思わず唄いそうになってしまった。

ショッキングピンクの地色の中に、豹やキリン、サイ、鸚鵡、手長猿などが熱帯植物を囲むように散りばめられている。これがサファリパークでなくて、一体何なのか。こんな模様の帯は、既存の品物では絶対見つかるまい。どうせ作るのであれば、こんな「突き抜けた奇抜さ」のある帯の方が、面白いに違いない。

材質は木綿。織目が粗く、生地にシャリ感がある。インド製のプリント染。とりあえず布の寸法を測ってみると、縦5尺8寸(2m20cm)・横2尺9寸(1m10cm)。模様は総柄だが、図案は一定方向に並んでいる。

 

この布のサイズだと、このまま帯生地として使うことはもちろん無理で、どこかで布を繋ぐ、いわゆる「ハギ」を施す必要が出てくる。帯は、太鼓部分と手先の二つに分かれるが、それぞれの寸法は、太鼓が2尺9寸~3尺(1m15cmほど)で、手先は6尺5寸(2m50cmほど)。

実際に着姿から見える部分は、太鼓7寸5分(28cm)、垂れ2寸5分(9cm)、そして前模様は1尺(38cm)ほど。帯の総丈は3m以上あるが、表に出るところがこのように限定されているので、接ぎの箇所を探す苦労はあまり無い。中に巻き込んで見えないところに、布を足せば良いのである。

仕上がった「オリジナル・サファリ模様帯」。仕立てをする際、注意しなければならなかったのが、模様の向き。この柄は、全て上向きに付いているので、この方向を途中で変えないようにする。そして、太鼓模様に登場する動物と、前模様に表れる動物を変えるように、心掛けた。せっかく生地の中にいろんな獣がいるので、これを生かさない手は無い。

手先の仕上がり。着姿の中心となる前模様には、豹とサイとワニがいる。お太鼓模様は、手長猿と鸚鵡。これまで帯の前巾は4寸が基準だったが、最近では2分ほど広くすることが多くなった。これは前姿として、帯模様をより強調する試みであろう。

菊を図案化したような久留米絣の綿縮に、サファリ帯を合わせてみた。キモノはこのように、どちらかと言えば濃い地色で、無地場の多いものが良さそうだ。折角なので、帯の面白い図案が、着姿の中心になるように考えたい。

 

依頼のあったもう一つの生地は、男モノの兵児帯。ご覧のように端に房が付いてる。一見したところ、広巾のショールにも見える。素材は紬生地で、真綿を使っている。軽くてしなやかな質の良い品物。

この兵児帯を手に入れた経緯は、お客様に聞かなかったが、おそらく父か祖父が愛用していた品物なのであろう。生地を生かして名古屋帯に作り替えることは、もっとも簡単に品物を受け継ぐことが出来る手段である。

 

兵児帯の寸法を測ると、長さが9尺ほどで、巾は1尺近くもある。依頼された方の帯丈は9尺4寸なので、足し布はそれほど必要にはならない。巾は広いので、現状を生かしながら、名古屋帯を作ることが出来る。しかも無地なので、模様の出し方を考える必要が無い。

足し布は、出来るだけ使う布に近い色と材質を選ぶ。無論表からは見えないのだが、素材を合わせる方が接ぎがしやすい。この場合、元の品物が絹素材の無地紬生地なので、絹の黒無地を使ってみた。

 

仕上がった「濃紺無地・紬名古屋帯」。自然に表れる白い織筋が、元々は質の良い兵児帯だったことを知らせている。

手先の仕上がり。ご覧のように柄が付いていないので、その分職人の仕事も簡単になる。預った時に、少々カビのにおいが残っていたので、最初に丸洗いをしてから、仕立を行った。生地がとても柔らかく軽いために、名古屋帯として使い勝手の良いものに仕上がった。

白地に薄紫色の幾何学絣が飛んでいる十日町紬に、無地紬帯を合わせてみた。模様の無い帯は、帯〆を工夫することで、着姿を変えることが出来る。帯色が深く沈んだ色調なので、帯〆を思い切って派手にしてみるのも良いだろう。

 

今日は、工夫次第でいかようにも作ることが出来る「オリジナル名古屋帯」をご紹介してきた。「帯は、布さえあれば、どうにかなる」と皆様もぜひ覚えておいて頂きたい。そして、二つと無い自分だけの帯を作ってみたら如何だろうか。そうすると、帯に使う布を探すという、別の楽しみも味わえるようになると思える。

 

呉服屋の仕事は、実に多面的です。元首が列席するような、特別の場で使う、とびきりのフォーマル品を扱ったかと思えば、今回のような遊び心満載の「富士サファリパーク帯」も喜んで作ります。

150kの直球で勝負出来るけれども、力を抜いたスローカーブも時々混ぜて、打者を仕留めることが出来る。そんな多彩な球種を持つ投手と、よく似ています。多様な依頼に対応出来ることこそが、専門店の証。これからも、職人さんと膝を突き合わせて相談しつつ、お客様の様々な要望に臨みたいと思います。

今日も、最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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このブログに掲載されている品物は、全て、現在当店が扱っているものか、以前当店で扱ったものです。

松木 茂」プロフィール

呉服屋の仕事は時代に逆行している仕事だと思う。
利便性や効率や利潤優先を考えていたら本質を見失うことが多すぎるからだ。
手間をかけて作った品物をおすすめして、世代を越えて長く使って頂く。一点の品に20年も30年も関って、その都度手を入れて直して行く。これが基本なのだろう。
一人のお客様、一つの品物にゆっくり向き合いあわてず、丁寧に、時間をかけての「スローワーク」そんな毎日を少しずつ書いていこうと思っています。

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