バイク呉服屋の忙しい日々

にっぽんの色と文様

ノスタルジックな、子どもの手遊び文様・玩具文

2018.01 12

このところの寒波の到来で、すっかり正月気分が抜けてしまった。雪に慣れているはずの日本海側の地方でも、ここ数日のドカ雪は、人々の生活に深刻な影響を与えている。昨夜などは、新潟で列車が立ち往生して、数百人の乗客が一昼夜、車内に閉じ込められてしまった。

雪国に暮らす人にとって、かように雪は厄介で、出来るなら降って欲しくはない。だが、不謹慎かも知れないが、温暖な地域の多くの人々は、雪が降ると、何となくワクワクするような気持ちになる。何もかも白く染めて、余計な生活音までも消してしまう、そんな非日常の姿を「ロマンチックな自然現象」と感じるからであろう。

 

大人でさえそうなのだから、子どもは雪が降ると大喜びだ。「雪やこんこん、霰やこんこん、降っては降ってはずんずん積り・・・」は、誰もが知っている滝廉太郎作曲の童謡・雪やこんこん。「こんこん」というのは、「降れ降れ」という意味で、雪に喜ぶ子どもの気持ちが、この詞にもよく表れている。

この歌は、1901(明治34)年に編纂された、幼稚園唱歌の中に入っているが、他に「鳩ぽっぽ」や「お正月」など、今も歌い継がれている歌が多い。幼児向けの歌集は、すでに1987(明治20)年、文部省音楽取締掛の手で作られてはいたが、詞が堅苦しい文語調であったために、子ども達にはほとんど普及しなかった。

これを憂いていたのが、東京女子師範学校(現在の御茶の水女子大学)教授・東基吉である。東は、子どもにわかりやすく、喜んで歌えるような歌が何とか出来ないものかと考え、妻のくめに相談する。当時くめは、東京音楽学校を出て、東京府立高等女学校(現在の都立白鴎高校)の音楽教師をしていた。

くめは、夫・基吉の発案に賛同し、「子どもの目線に立った、子どもらしい歌詞」の創作を始める。こうして出来たものが、雪やこんこんであり、お正月や鳩ぽっぽだった。そしてこの作曲を、東京音楽学校で二年後輩にあたる滝廉太郎に依頼し、伴奏を付けて唱歌として発表した。これが、明治34年の幼稚園唱歌集となったのである。

 

「もういくつ寝ると お正月 お正月にはたこ上げて 独楽を回して遊びましょ・・」で始まる「お正月」。東くめ・滝廉太郎コンビが作ったこの唱歌を聞けば、明治という時代の中で、生き生きと遊ぶ子どもの姿が、甦ってくるようだ。

この歌詞には、正月遊びで使う子どもの玩具が散りばめてある。歌の一番には、男の子の遊び・たこ上げと独楽回しが、二番には、女の子の遊び・鞠つきとおいばねつきを紹介している。

玩具は、子どもの象徴であり、いずれも若々しさや愛らしさを感じ取れるものだ。そんな道具の数々は、キモノや帯の文様・玩具文様としても、長く使われてきた。今日は、新年最初の文様の話としてふさわしい、この玩具文を取り上げてお話してみよう。

 

キモノに散りばめられた数々の玩具文様。皆様は、どのくらいご存知だろうか。

玩具文をモチーフとする品物には、やはり子どもモノが多い。特に、三歳や七歳の女児用祝着の意匠とするのが、一般的である。中でも、手鞠や鈴、糸巻、独楽などは、スタンダードな玩具として使われている。また、子どもモノばかりでなく、若い女性向きの振袖や小紋の図案として、使うこともある。愛らしさや華やかさを念頭に置けば、この文様を使っても不思議ではない。

 

(ちりめん黒地 玩具と干支尽し文様 京型友禅振袖・トキワ商事)

振袖の意匠として、一部の玩具図案を使うことはあるが、このように思い切り様々な玩具だけを使い尽くした、いわば「玩具尽し」のような品物は大変珍しい。そして、玩具と共に十二支の姿が、愛らしい図案として描かれている。

着姿の中心である肩から上前おくみ、身頃、そして後までぐるりと小さな玩具と動物が並ぶ。全て数えた訳ではないが、一つ一つの小さな模様は100種類以上にも及ぶだろう。挿し色は何れも鮮やかで、黒の地色に映える。飛び切り個性的で、目立つことこの上ない振袖である。

玩具文様を紹介するには、またとない品物なので、このキモノにあしらわれている模様を見ながら、話を進めることにしよう。

 

犬張子・薬玉・凧・絵馬など、お正月らしい文様が並ぶ。

犬は一度に沢山の子どもを産み、お産が軽いことから、安産願いや子どもの健康を守る動物として知られてきた。バイク呉服屋は、仕事で人形町の町を歩くことがよくあるが、妊婦さんの姿を多く見かける時がある。こんな日は決まって戌の日で、目指すところは、安産の神様として知られる水天宮だ。

妊娠から5ヶ月目の戌の日には、お宮に出掛けて御祓いを受け、腹帯を受け取る。犬のお産にあやかり、楽なお産になるように、そして無事に健康な赤ちゃんが生まれますようにと、戌の日を選ぶ。そんな妊婦さん目当てに、社近くの通り沿いには、赤ちゃん用品を売る店が、軒を構えている。

子どもっぽい顔立ちの犬の張りぼて(張子)の歴史は古く、平安期にはすでに日本に伝来しており、後に貴族や公家など、上流階級の産室に設えられたとされる。これが江戸期になって庶民に普及し、今に至る。犬はそもそも、神社の狛犬に見られるように、人々を守護する動物として意識されていたことも、犬張子が生まれた一つの要因なのかも知れない。

 

羽子板に羽根・でんでん太鼓・独楽・達磨・獅子頭など。

年末を彩る風物詩の一つに、浅草・浅草寺の境内で催される羽子板市がある。最近では、その年の話題となった人物を板に描くものが、よく紹介されているが、これは江戸期に、人気歌舞伎役者を描いた板がもてはやされた名残である。

元々羽子板には、魔除けの意味があり、年末に羽子板市が立つのは、一年の厄を落とす意味もある。また、板だけではなく、羽根にも意味がある。羽根の材質には、ムクロジの木の種子を使っているが、このムクロジを漢字で書くと「無患子」となる。すなわち、羽根をつくことで「患わない子ども」になるよう、そんな願いが込められている。

 

画像の真ん中に見える「三つ巴模様」の太鼓が、でんでん太鼓。これは、両面とも必ず同じ模様になっている。太鼓の両端には紐があり、その先端に玉を付ける。太鼓を手に持って振ると、玉が鼓に当って音が出る。これは、赤ちゃんをあやす道具として使っていたもの。

うちでは、八千代掛けや七五三祝着などをお客様に納める時には、品物の上に熨斗を掛けているが、この熨斗紙のデザインが、犬張子とでんでん太鼓。実物を切らしているので、画像でお目に掛けられないのが残念だが、表裏一体模様のでんでん太鼓には、裏表の無い素直な子どもになるように、という意味がある。「健やかで素直な子」であることは、すべての親の願いでもあろう。

 

 

模様の中心、上前のおくみと身頃の玩具模様。一番目立つところに、お神輿を担ぐ子ども達の姿が見られる。模様の中でも、凧と独楽は、色と形を変えたものを数多く使っている。

「お正月」の歌にもあるように、凧上げと独楽回しは、最もポピュラーな男の子の正月遊び。どちらも平安頃から、貴族の遊びとして楽しまれてきた歴史があり、江戸以降は庶民の間でも流行した。

江戸時代には、男の子が生まれた時の風習として、凧を上げていた。凧は、高く上がれば上がるほどに、子どもの未来が開けて、大きく育つとされる。また独楽も同様に、良く廻るほどに縁起が良く、独り立ちが早くなると信じられてきた。

こうして見てくると、子どもが遊びで使う玩具一つ一つには、意味があり、そこには親の思いがある。古くから伝わる玩具文様は、「子どもの健康や幸せを祈る心を託す姿」と、考えることが出来よう。

 

玩具文と一緒に、ユニークで可愛い干支・動物文様が各所に見える。

上から、子(鼠)・丑(牛)・寅(虎)・卯(兎)・辰(龍)・未(蛇)。どこにどの干支文が付いているのか、探すだけで苦労する。まるで、イギリスの絵本「ウォーリーを探せ」を、読んでいるような気がしてくる。

 

今日は、ユニークな振袖を使いながら、玩具文様についてご紹介してきた。お話出来たのは、あしらいの中のほんの一部の模様だけであり、全ての図案に触れていたらキリがない。また中には、私が知らないものも多数あり、それがどんな遊びに使われたのかもわからない。皆様も、気になる文様があれば、ぜひお調べ頂きたい。

玩具文と一口に言っても、持つ意味はそれぞれ異なる。それは安らかな出産を願うものであったり、赤ちゃんをあやす道具であったり、幼児の手遊びに使うおもちゃだったりする。そして、男の子向き、あるいは女の子向きと、性別ごとに分かれるものも多い。

いずれにせよ、一つ一つの玩具は、「親が子を思う気持ち」を代弁しているものであり、新しい年の始まりにあたり、改めてその意味をかみしめながら、この文様の品々を見ていきたいと思っている。

 

明治の教育者達の手で作られた歌が、誰もが知る童謡として、今なお歌い継がれている理由は、子ども目線に立ち、子どもの言葉として素直に綴っているからでしょう。

この国で、少子化が将来の大きな課題とされるようになって、久しいですが、未来を考えれば、様々な制度に「子どもや親の目線に立った施し」が必要ではないでしょうか。

それは例えば、親の働き方であったり、子どもの教育の機会均等であったりするでしょう。社会制度のあらゆることが、「子どもの幸せ」に向いていなければ、この問題はとても解決しないと思います。

大人達が、「子どもは国の宝」と心出来るような社会に、ぜひなって欲しいものです。

今日も、最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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松木 茂」プロフィール

呉服屋の仕事は時代に逆行している仕事だと思う。
利便性や効率や利潤優先を考えていたら本質を見失うことが多すぎるからだ。
手間をかけて作った品物をおすすめして、世代を越えて長く使って頂く。一点の品に20年も30年も関って、その都度手を入れて直して行く。これが基本なのだろう。
一人のお客様、一つの品物にゆっくり向き合いあわてず、丁寧に、時間をかけての「スローワーク」そんな毎日を少しずつ書いていこうと思っています。

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