バイク呉服屋の忙しい日々

今日の仕事から

9月のコーディネート  秋草文様の絽紗袷で、季節のうつろいを感じる

2017.09 25

代を繋いで暖簾を下げる呉服屋の棚には、今となっては、商いの道具にはなり難い品物が残っていることが、よくある。それは、店に置いた時から、すでに10年以上が経過しているもの。私は三代目だが、さすがに祖父が扱ったものはもう無いが、父が仕入れたモノは、まだ何点もある。

 

品物が売れ残った原因を考えると、幾つかのパターンに分けることが出来る。まず、色や模様にクセがあるため、これまで見初められるお客様に出会うことなく、残ってしまったケース。

私の父は、オーソドックスな古典を好んだために、模様が奇抜だから残ってしまったというものは、ほとんどない。クセのある品物は、元々嫌いだった。ただ、旬を意識した模様は、数多く扱った。例えば、楓や菊だけをあしらった濃地の付下げとか、秋草を描いた訪問着や黒留袖、サクラだけの袋帯などである。

カジュアルならまだしも、着用機会が限られるフォーマルモノで、季節が意識される模様というのは、着用する時期を限定してしまうように思われ、お客様から敬遠されることが多い。やはり、春秋に使える模様の方が、無難に思えるからだ。こうして、旬の品物が、棚に残ってしまった。

 

もう一つ、時代の経過と共に、アイテムそのものが使われなくなってしまったケース。例えば、黒の絵羽織などである。私が小学校に入学した頃・昭和40年代には、入卒に臨む母親の衣装は、色紋付のキモノに黒の絵羽織姿というのが、定番だった。今や、そんな母親の姿を覚えているのは、50歳以上の方々に限られる。

この時代、うちでもかなり黒絵羽織を売ったため、大量に仕入れを起こした。そのため、この残骸がまだ残っている。もう売り場に置ける代物ではないので、実家の倉庫の片隅にそっと潜んでいる。羽織と言えば、カジュアルモノとしても、当時は定番であり、売れ筋アイテムの一つだったが、日常の中で着用する方が少なくなるにつれ、求める方は減り、一時は全く廃れた。

今では、羽織が見直され、新たに誂える方も珍しくないが、総じて羽織丈は長いものが好まれる。そのため、羽織を作る時には、キモノを作る長さを持つ品物=着尺が使われる。だから、昔のコートや羽織専用の反物=羽尺では、丈が足りずに、用を為さない。従って、この羽尺というアイテムは、棚の隅で不貞腐れたように、残っている。

 

そして、残ってしまったことが、ありがたいような、また困ってしまうような、複雑な気持ちになるケースもある。それは、元々作家モノとして、価値があり、今となっては、もう二度と手に入らないような品物。

もちろん父は、商品として仕入れ、どなたかに売るつもりだったはずだ。けれども、売れ残るうちに作家は亡くなり、市場からはこの人の品物が無くなってしまった。そのうちに、リアルに着用するものとしてではなく、美術品的な価値が出て来ることで、価格設定が難しくなり、次第に手放し難くなってしまった。

何回かこのブログで紹介した、芹沢銈介の型絵染いろは模様訪問着や、初代・由水十久の唐子模様加賀友禅黒留袖などが、これに当たる。父の代の終わりの方でも、売りモノにはしていなかったが、私としても、手元には置いておきたい。商いの道具にすることは、もうないだろう。うちには後を継ぐ者がいないので、いずれ店の幕を引かなければならないが、その時どうするか。芹沢の作品は、静岡市にある芹沢銈介美術館にでも寄贈するのが、一番無難かとも思っている。

 

さて今日は、否応無く季節を意識させる、絽と紗の二重袷(絽紗袷)訪問着を使ったコーディネートを、ご覧頂こう。この品物も、かなり長い間、店の棚で眠り続けている。

(薄山鳩色 流水に秋草模様 絽紗袷訪問着・北秀)

このキモノは、下は絽・上は紗の二枚重ねの生地で出来ている。同じ生地を二重にしたものを無双と呼び、一般的にはこの絽と紗の袷も、無双の中に括られることが多い。だが、厳密に言えば、絽と紗二枚の違う織り方の生地を重ねて使っているので、無双と呼ぶにはふさわしくないような気がする。長襦袢の袖に見られるような、表裏同じ生地で袷にする仕立は、「無双仕立」と呼ばれる。だから、本来的には共(とも)生地(全く同じ生地)を重ねることが、無双なのである。

こんな堅苦しい解釈はあまり意味が無いので、話を先に進めよう。画像で判るように、下の絽生地に図案を描き、上の紗生地は無地を使う。この二枚を重ね、模様を透かして見せる。そこには、上下の生地が動く時に模様が揺らめき、独特の立体感と涼やかさが生まれる。こんな特徴的な映り方をする品物は、絽紗袷・紗無双をおいて他にはない。

 

盛夏のキモノに、紋紗があるが、これは紗の生地に文様を織り出したもので、濃い地色のものが多い。この下に白い襦袢を付けて着用すると、生地の織文様が浮かび上がる。「重ねた時の映り」を考えた品物であり、その意味では、この絽紗袷にも同じ意図が伺える。

このように、色と色または色と文様を重ねることで、着姿を演出することは、平安期の「襲色目(かさねのいろめ)」に遡ることが出来よう。男性の直衣(のうし)や狩衣(かりぎぬ)、女性の唐衣(からぎぬ)や袿(うちぎ)など、いずれも表裏の色の重なりで、着姿に表情を映す。この重ねる色の配合には、季節ごとに決まりがあり、着用する人の年齢によっても変えられていた。

現代において、四季の移ろいを、色の合わせで表現した平安襲色目を踏襲する品物が、盛夏の紋紗であり、この絽紗袷・紗無双のキモノではないかと思える。

 

上の紗生地は、くすませた緑に白い膜を張ったような色で、山鳩の羽の色に近い。下の絽の文様は、桔梗や萩、撫子を描いた秋草模様。所々には、流水が挿し入れてある。

このような絽紗袷や紗無双のキモノを、どの時期に着用するかだが、ネットで調べると、様々な考え方が散見される。5月の終わりから6月にかけて、初夏に限定されるとするもの。6月下旬と9月上旬が着用時期とするもの。さらに、6月と9月の単衣モノと同様に考えて良いとするもの。それぞれ、使える季節の範囲には、少し差があり、確固とした答えがわからない。それは、どの考え方にも、納得出来る根拠があまり書かれていないからだろう。

先日、薄物と単衣モノをどのように区切って使うか、そのしきたりの捉え方をブログでお話したが、この絽紗袷も、季節的には微妙な品物にあたる。こんな特徴的な着姿を表現出来る品物は、「この時期に使う」と限定的な縛りはかけず、ある程度自由度は残して、着用機会を増やしたい。そうかといって、やはり旬を意識しない訳にはいかない。難しいところだが、5月下旬から6月いっぱい、そして9月上旬とするのが、この品物の意図する着姿から考えれば無難なように思う。但しこれは、あくまでバイク呉服屋の考えなので、正解では無い。

 

撫子と萩、桔梗が控えめに描かれる図案。糊を置かず、すっと模様を描いた写生的な無線描き友禅。楚々とした野の花が、秋の気配を醸し出す。

ここに山鳩色の紗を重ねると、このような映りになる。模様を強調するために、中心となる上前おくみと身頃部分には、編み込みのようなもじりが織り込まれている。

紗の生地目を拡大してみた。経糸二本の位置を、緯糸一本ごとに左右に組み替え、交差させることでもじり目を生み、そこに緯糸を通すと、このような「透かし目」が生まれる。シャリっとした紗生地は、肌にまとわりつかず、サラリとした着心地を呼ぶ。

さて、この季節感あふれる絽紗袷は、どのような帯で演出すれば、その姿をなお印象つける事が出来るのか。試してみよう。

 

(白地 変わり花菱連ね 紗袋帯 西陣・りょうこう織物)

実はこの夏袋帯、一昨年の9月のコーディネートでご覧頂いた、京縫単衣付下げの合わせとしても使っているので、ブログで二回目の登場になる。ということは、この二年の間に、この帯が売れていないということがわかってしまう。お恥ずかしい限りだが、この絽紗袷のキモノにふさわしいものが、他に無かったため、再登場となった。

このキモノの着用時期を、6月か9月上旬と考えると、使う帯にも迷いを生じる。夏用・冬用のどちらの帯も考えられるからだ。この時期に冬帯を使うとすれば、重苦しい色や図案は出来るだけ避けたい。これは、絽紗袷だけでなく、単衣モノでも同じことだろう。

冬帯だと、悩むことが多い。ならば、夏帯を使う方が使い心地も良く、図案や色は薄物らしい涼やかさがあり、季節感も出しやすい。特に絽紗袷は、重ねた色や模様の映りを楽しむものであり、初夏や初秋の雰囲気を感じさせることを目途としている。だから帯には、夏の気配が残る方が、良いように思える。

基本は花菱文様。菱の中の花を様々に図案化することで、単調さを消している。配色は、水色・紫・ベージュ・鶸だが、そのすべてが薄色。地が白だけに、このくらいの薄色でも、模様が浮き立つ。では、コーディネートしてみよう。

 

紗の山鳩色も薄地だが、白地の帯を合わせると、コントラストは十分に付く。キモノの文様が秋草だけに、抽象図案の帯を使う方が、くどさが出ない。また、帯の配色にあまり主張が無いだけに、キモノの模様の方が前に出て、絽紗袷の特徴・重ねの映りが強調されやすい。

前の合わせ。帯に地空き部分が多いために、すっきりとした印象を残す。帯にインパクトを付けないことも、品物によっては必要かと思う。

小物は、紗の山鳩色より、明るめな色を使ってみた。着姿全体がボワっとした雰囲気になるので、帯〆の色を少しだけ強めにして、引き締めてみる。

(鶸色 平打夏帯〆・薄鶸色と薄橙色 ぼかし夏帯揚げ 共に龍工房)

 

絽紗袷は、夏の始まりと終わりのキモノ。それは夏と秋、二つの季節を予感させる品物である。そして、季節の狭間の微妙なうつろいを、そのままキモノに反映したもの、と位置付けることが出来よう。

絽紗袷や紗無双のほとんどは、今日のような訪問着として、作られている。季節が限定され、しかもフォーマルモノだけに、需要も限られる。そのため作られる数も極めて少ない。どなたにでも勧められるものではないが、こんな贅沢なモノがあることを、皆様には知って頂きたかった。

最後に、今日御紹介した品物を、もう一度どうぞ。

 

着用の場が限られ、しかも季節も限定されるということになれば、やはり棚に残る可能性は高いですね。この絽紗袷など、ピッタリ条件に当てはまってしまいます。

専門店をうたう呉服屋では、売れる売れないに関わることなく、扱うモノがあります。それは、採算度外視、いわば商売抜きとも言えましょう。「専門店と名乗る限り、持っていなければならない」というプライドが、仕入れに向かわせるのです。

「予想に反して、早々に売れてしまう」というようなことはほとんど無く、案の定、長く棚に残ります。丁寧に扱っていますので、何年経っても、品物として劣化してしまうようなことはありませんが、商いの道具には全くなっていません。

いつ求めるお客様と出会えるのか、予想も付かない商品を置くなど、呉服屋とは何とも不思議な商売です。

今日も、最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日付から

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このブログに掲載されている品物は、全て、現在当店が扱っているものか、以前当店で扱ったものです。

松木 茂」プロフィール

呉服屋の仕事は時代に逆行している仕事だと思う。
利便性や効率や利潤優先を考えていたら本質を見失うことが多すぎるからだ。
手間をかけて作った品物をおすすめして、世代を越えて長く使って頂く。一点の品に20年も30年も関って、その都度手を入れて直して行く。これが基本なのだろう。
一人のお客様、一つの品物にゆっくり向き合いあわてず、丁寧に、時間をかけての「スローワーク」そんな毎日を少しずつ書いていこうと思っています。

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