バイク呉服屋の忙しい日々

今日の仕事から

6月のコーディネート・3 竺仙の江戸染 粋ひとがら 綿絽・綿紬編

2017.06 19

「かけはぎ」という直しは、キモノ補正の中でも、最も難しい仕事の一つである。かけはぎが必要になるのは、何らかの原因で、生地に穴が開いてしまった時や、生地を何かに引っ掛けて、切り裂いてしまったような場合。こんな生地の損傷は、この技術を使うことでしか、直すことが出来ない。

かけはぎは、ズボンやシャツなど洋服の生地損傷でも、度々使われる技術だが、キモノのかけはぎには、専門の職人が存在する。キモノ素材の多くが絹であること、また様々な技法を駆使して作られるものであり、模様の位置や複雑な糸の関係もある。だから、洋服のかけはぎとは異なる、専門的な知識が必要とされる。

 

かけはぎの方法としては、大きく分けて二つある。一つは、元の生地と齟齬がないように、糸を一本ずつ織り込んでいって直す方法。もう一つは、その生地と全く同じ、あるいは似寄りの生地を使い、損傷した部分と同じ大きさに切り取って修復する方法。

直すキモノに「残り布」がある場合は、後者の「当て布式」で直すことが多い。虫食いで穴の開いた、ウールキモノの修復などでよく使う。この場合には、専門のかけはぎ職人ではなく、仕立て職人が直す。穴の開いたところに、裏から生地を合わせて、縫いこんで修復する。この程度ならば、和裁士でも対応出来る。

 

けれども、フォーマルモノだと、ウール虫食いのような「応急処置的な修復」では済まず、きちんと元の状態に戻さなければならない。以前、振袖の袖を自転車のカゴに引っ掛けて、「かぎ裂き」にしてしまったものを依頼されたことがあったが、こんな時は専門職人に任せるほかはない。

裂いてしまったところには模様があり、しかも広範囲である。この状態だと、当て布式では上手くいかず、糸を元の組織と同じように一本ずつ織り込み、直す以外にない。これは、特殊の技術を持つ職人でなければ、出来ない仕事であり、経験が必要となる難しい補正だ。

かけはぎは、難しいからこそ職人の数も少なく、他の補正に比べると工賃が高い。修復代は、生地の種類や直す方法により異なるが、一般的には損傷の大きさで上下する。長く裂けていたり、大きい穴が開いているほうが、手間が掛かるのは当然であろう。

 

先日たまたま、穴の開いた生地の修復を依頼されたので、「かけはぎ」について、少しお話してみた。穴が開いても、生地が切れても、キモノには直す手段が残されていることを、皆様に知っておいて頂ければ、と思う。

さて、今日は浴衣コーディネートの最後として、綿絽と綿紬の品物を御紹介しよう。

 

(褐色綿絽・桔梗模様  銀鼠色縞模様浮織・首里道屯半巾帯)

前回までに御紹介したコーマ地が、湯上りの「浴衣がけ」としてふさわしい品物とすれば、今回の綿絽や綿紬は、「街着」にもなりそうな品物である。今日は、綿絽ではシンプルな粋な江戸姿を、綿紬では多色の玉むしで華やかな着姿を演出してみたい。

竺仙が使う植物模様のモチーフは、多彩。その中でも、桔梗と萩は様々な姿にアレンジされて使われており、もっとも頻度の高い図案と言えるだろう。特に褐色地や藍色地に白抜き模様、また白地で褐色・藍色に染め抜かれたものは、一番江戸らしい模様であり、粋さを感じる。

褐色(かついろ)は、生地に藍染料を深く浸み込ませたものという意味を持ち、その紺色は由来のように、沈みこむような深い色である。そんな地の上の模様は、白く染め抜かれた図案がくっきりと浮かび上がる。こんな単純な色彩であることが、姿を見る者にとっては、すっきりとした印象を残す。

この白抜き桔梗は、花にある程度の大きさがあり、添えられた葉や茎とのバランスが良い上に、深い褐色の占める生地の割合も高い。このように、単純でこざっぱりとした印象を受けるものが、粋に繋がる。

帯は、すこし地味だが、ごく薄い銀鼠色の首里帯を使う。鼠と薄茶の縞の中に、小さな市松を集合させたような模様が見える。琉球模様ながらも、どことなく江戸の粋さをも感じさせてくれる面白い図案だ。

浴衣が単彩だけに、使う帯の色や模様により、雰囲気が変えられる。粋な姿にこだわるならば、芥子色や深い煉瓦色の帯を使うと良いように思う。

 

(藍色綿絽・紫陽花模様  白地に藍系細縞・博多半巾帯)

1回目のコーディネートで、白地に藍抜きの紫陽花模様・コーマ地を御紹介したが、これはそれと逆で、藍地に白抜き。同じ紫陽花だが、こちらの方が模様が密だ。

紫陽花は、特徴ある花の形が強調された、何も色を入れない図案がある一方、多彩な色を持つ花の姿から、挿し色にこだわる図案もある。色抜きでも良く、多色使いの玉むしでも良い。旬の姿を自由自在に演出出来るという点では、実に浴衣にふさわしい植物モチーフと言えよう。

褐色より藍色の方が、すこし柔らかい印象を持つ。そして爽やかさも残る。色が入らない浴衣姿の涼やかさは、やはり藍地に白抜きが一番感じられるように思う。

江戸姿を意識すると、やはり縞模様の帯となる。ただ、より清涼感を出すために、白地に水色を中心とした配色のものを選んでみた。この着姿に感じる色は、藍と白だけ。その潔さが、人々の目には残るだろう。

 

(白地綿絽・万寿菊)

毎年扱い商品の定番になっている万寿菊模様。今年は、白綿絽に僅かな挿し色のあるものが染められた。菊の花芯に付けられた濃紺と臙脂。この二つの色がアクセントとなっているが、粋な雰囲気は変わらない。

(藍地綿紬・万寿菊)

こちらは定番の紬地・万寿菊。色の入らない白抜きだが、縦に入った紬地の自然な織りふしに特徴がある。これとは逆に、上のような絽だと目が横に入って見える。

(白綿絽・柿茶色角通し模様博多帯  藍紬地・白地ミンサー帯)

綿絽は、花芯の臙脂色とリンクさせた柿茶色の帯。綿紬は、藍の色を生かす白地。同じ「万寿菊」の型紙を使っていても、これだけ雰囲気は異なるが、どちらも粋な姿を感じさせる浴衣としては、違いが無い。

もう10年以上も扱い続けている万寿菊だが、厭きは全く来ない。毎年、どなたかに目を留めて頂き、使って欲しい浴衣である。私は、この図案が、竺仙の品物として、もっとも江戸姿を感じさせるものだと思っている。

 

(藍地綿紬玉むし・花の丸模様  紅色地・ミンサー半巾帯)

綿紬は、綿絽やコーマ地に比べ、少し生地が厚手であることから、梅雨が開ける前や、涼風が立った秋口に着用すると良いだろう。生地の表面に見える白い筋は、節のある綿糸(ネップ糸)を織り込んだ時に自然に出来るもの。この不均一な縦の筋が、紬浴衣の特徴である。

竺仙の紬浴衣は、藍・鼠・白・ベージュの4色。今日は、この四つの色を一点ずつ御紹介してみよう。

花の丸は、小紋や帯の意匠としてはスタンダードな模様であるが、浴衣では珍しい。丸く形どられた花は、菖蒲と桔梗。どちらも浴衣モチーフとしては定番の植物。

多色使いなので、これも「玉むし浴衣」になるが、配色は、橙・鶸・紫・黄・水色の五色。地の藍色を生かせるように、控えめで柔らかい色合い。

花の丸模様は、組み合わせる花を自由に決めることが出来るため、デザインとして広がりのある、実に使い勝手の良い模様である。この丸く図案化された姿は、数ある古典模様の中でも、万人に好まれてきた文様の一つである。

浴衣の配色が柔らかい色なので、濃い目の紅色地の帯で、引き締めてみた。模様の中の一色を帯の色として使うことが多いが、このように全体が優しい色でまとめられていると、ぼやけてしまう気がする。思い切って、ビビッドな帯色を使う方が、着姿を印象付けるためには、効果的か思う。花の丸図案のかわいさもあり、若い方に向く品物。

 

(グレー地綿紬玉むし・桔梗模様  白地三本縞・博多半巾帯)

桔梗は、バイク呉服屋が最も好きな浴衣モチーフの一つ。だから毎年、この模様の品物を仕入れずにはいられない。

花そのものは、控えめで決して目立たない野の花。けれども、その楚々とした姿と、憂いのある薄紫の花の色に惹かれる。浴衣に限らず、薄物や単衣モノの図案として代表的な草花になっていることを考えると、この花の姿がどこか日本人の心に響くのだろう。

最初に御紹介した、キリリとした褐色白抜きの桔梗とは違い、どこか憂いを含んだような、本来この花が持つ特徴を生かした雰囲気が、この浴衣にはある。

花弁の中心だけを、ほんのりぼやかした薄紫色。葉の緑色は、地味な鶯色ぼかし。地の鼠色同様に、挿し色を沈めた色にすることで、大人っぽい浴衣となる。すこし「影のある女性」に似合いそうだ。

葉の鶯色から、帯を考えてみた。ただ、もっと単純なもの、例えば色の入らない白献上帯などの方が、良かったのかも知れない。控えめに咲く桔梗の姿を生かすのであれば、帯に余計な主張はいらない。今日のコーディネートで、一番難しかった浴衣。

 

娘(花の丸)と母(桔梗)が揃って街歩きに使えそうな、二点の紬浴衣。

 

(ベージュ地綿紬玉むし・クローバー模様  橙色ぼかし・麻市松半巾帯)

大概三葉のクローバーだが、四葉のものを探し当てると幸運を呼ぶという。そんな言い伝えを信じて、「四葉のクローバー」を探し歩いた方も多いのではないだろうか。

この植物は、牧草地や田んぼの畦などに自生するような、本当に目立たない草。けれども、「ハート型」の三葉が集まって一つの形となる姿が愛らしく、図案化して模様に使われることがよくある。和名は、「ツメクサ」。

この浴衣のクローバーも、草の特徴を生かした可愛い模様。配色は、橙と緑。大小二つの葉を散らした模様の配置は、地空き部分が多く、すっきりとたもの。

帯地色は、クローバーの橙色でぼかし無地。通常より巾が広めの麻無地帯を使えば、より若々しく見えるだろう。もう一つ模様色・緑系を使う手もあるが、生地の生成ベージュを考えれば、こちらの方がしっくりと馴染む。

 

(白地綿紬玉むし・秋草更紗模様  梔子色浮織・首里道屯半巾帯)

白紬地の上に、色とりどりの秋草を唐花のように蔓を繋げて表現した、とても個性的な図案。多色染めの美しさが引き立つ、これぞ玉むし浴衣といえる品物。

竺仙では、模様の中で一番大ぶりな紫配色の花は、柘榴をイメージしているとのことだが、私には女郎花に見える。そこに撫子と菊を組み合わせていることから、秋草限定の更紗模様に映る。こんな鮮やかな色の使い方は、地が白だからこそ。だから、これだけ色が使ってあっても、暑苦しくはない。

街でよく見かける多色使いのプリント浴衣では、爽やかさがあまり感じられない。その一因は、配色の拙さにあると思える。暖色地色の中に、濃色を重ね合わせた模様を使えば、やはり浴衣らしい姿にはならない。

この更紗模様では、割とはっきりした色を使っているが、蔓を使った伸びやかな模様であることと、地の空いた部分が白く残っていることで、涼やかさが保たれている。こんな模様の配置と色のセンスは、やはり竺仙ならでは。

菊の黄色に合わせて、濃い梔子色を使う。白地浴衣だけに、柘榴のピンク紫、撫子の桜色、また葉に挿された青や空色でも良い。帯の色を替えて、自在に楽しめる浴衣。

梔子(支子)の花は、7月頃に黄色い花を咲かす。そしてこの鮮やかな首里帯の色は、南の島の暑い夏をも連想させてくれる。そんな意味も含め、今回は黄地を考えた。

 

モダンでかわいく、少し垢抜けた玉むし浴衣で、花火デートはいかが。

 

(男モノ黒地綿紬クレヤー細川・雲取模様  水色地・琉球ミンサー男帯)

最後に男モノの紬浴衣を一点。クレヤー細川というのは、地染めの後で、もう一度模様を型染めする、いわゆる二度染めされている品物のこと。これも、紬浴衣や綿絽、コーマ地の浴衣などと同様、染技法は注染。

模様は幾何学的で、何がモチーフなのかはっきりしない。雲取り模様を縦につけたような姿だが、見ようによっては、流水のようでもある。菊五郎格子やくるわ繋ぎなどの、伝統的な役者柄とは違い、新しく斬新な模様。

帯は、浴衣配色の中の一つ・水色に合わせた。四つ玉と五つ玉をつなぎ合わせた面白いミンサー模様。男帯の色や模様は、限定されているが、このように密な図案の浴衣には、無地系の帯が良いように思われる。

 

どちらも個性的で現代感覚あふれる浴衣。二人で歩けば、間違いなく視線が集まる。

 

今年も、三回にわたり様々な生地、図案、色目の浴衣を御紹介してきた。出来るだけ、マンネリにならないように品物を選んだつもりだったが、終わって改めて確認してみるとモチーフが偏り、ある程度定番化しているものが多いように思う。

毎年この稿を読んでくださる方には、新たな発見が少なく、つまらなく思えるかもしれない。けれども、浴衣に求められる姿は、やはり涼やかさや爽やかさを印象付けるものであり、だからどうしても、選択の巾は限定されてしまう。

また私が、奇をてらうよりも、スタンダードな伝統模様を好むことが、紹介する品物の雰囲気が偏る要因であろう。つたないコーディネートだが、せめて読んでくださる方の浴衣選びの参考になれば、と毎年思っている。

なお、浴衣というより夏キモノの意味合いが強い、絹紅梅や紅梅小紋、小紋中型などは、改めて来月、ご覧頂く機会を作る予定。こちらも、ぜひお読み頂きたい。

 

 

生地に穴が開くというのは、大変困ることですが、法律に穴が開くというのは、国の根幹を揺るがす重大な問題です。

先頃成立した「テロ等準備罪=共謀罪法案」は、警察権が乱用される怖れがあり、国民の思想・信条の自由、またプライバシーが侵害される危険をはらんでいるように思えます。戦前の日本は、自由にモノが言えない、風通しの悪い社会でしたが、この法律は「先祖帰り」を思わせます。

特定秘密保護法、安保法案、そして共謀罪法案。戦後この国が築いてきた民主主義に、小さな穴が幾つも開いてしまった気がします。この上、憲法改正となれば、それこそ生地がかぎ裂きになったようなもので、修復は困難でしょう。

国民主権の国として残るか、あるいは70年前のような、国家が権力を握る国に戻るのか、ここ数年はまさに正念場。すべての鍵は、選挙民たる国民が握っています。無関心ではいられませんね。

今日も、最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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このブログに掲載されている品物は、全て、現在当店が扱っているものか、以前当店で扱ったものです。

松木 茂」プロフィール

呉服屋の仕事は時代に逆行している仕事だと思う。
利便性や効率や利潤優先を考えていたら本質を見失うことが多すぎるからだ。
手間をかけて作った品物をおすすめして、世代を越えて長く使って頂く。一点の品に20年も30年も関って、その都度手を入れて直して行く。これが基本なのだろう。
一人のお客様、一つの品物にゆっくり向き合いあわてず、丁寧に、時間をかけての「スローワーク」そんな毎日を少しずつ書いていこうと思っています。

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