バイク呉服屋の忙しい日々

今日の仕事から

お客様から、お任せを頂く仕事(後編) 「草履」のお任せ

2017.03 10

伊丹十三監督の作品は、どれも個性的だ。未亡人が、夫のラーメン店を再建する姿を描いた「たんぽぽ」や、女性査察官が脱税者を摘発する「マルサの女」。また、幼馴染が経営するスーパーを再建する主婦が主人公の「スーパーの女」、余命を宣告された人間の生き方を描いた「大病人」など、何れもほとんど題材にされなかった身近なことや、社会問題に視点が当てられ、映画としても楽しめる作品に仕上がっている。

中でも、一連の伊丹映画のはじまりとなる「お葬式」は、人間をあの世に送る厳粛な葬送の儀式を、コミカルに描いている。人生の中で、誰もが経験するお葬式だが、その式次第はどのように進めたらよいのか、戸惑うことが多い。この映画は、伊丹監督が、妻・宮本信子の父の葬儀で喪主を務めたことがきっかけになり、作られたもの。これを見ると、「葬式を出す」ということが、いかに大変なことかが、よく理解出来る。

 

葬儀の方法は、地域ごとに違いがあるが、一昔前なら自宅で執り行われるのが、一般的だった。葬儀社の手配や寺院への連絡を手始めに、家の片付けや煮炊きなど、近所の人々に協力して頂きながら、慌しく進められていく。近隣の家の葬式の手伝いとなれば、以前なら最低3日は、仕事を休まなければならなかった。

それが、葬祭場が出来たことにより、葬儀に掛かる労力は大幅に削減された。手伝いも、受付くらいで済み、後は葬儀社が全て請け負ってくれる。祭壇や飾花も、料金別に設定されている中から、選べば良い。食事の準備なども、何もせずとも整えてくれる。

 

自分が喪主となる葬儀は、ほとんどが自分や配偶者の親が亡くなった時に限られる。だから、経験していなければ、わからないことばかりだ。それを、「全てお任せ下さい」とばかりに進めてくれる葬儀社は、大変助かる存在である。

もしかしたら、我々が「お任せすること」において、かなり有用な仕事なのかもしれない。現代の葬儀形態は、大掛かりな式から、簡単な家族葬へと姿を変えつつあるが、何れにせよ、葬儀を取り仕切る仕事は、この先も消えることは無いだろう。

さて、今日は前回の続きで、呉服屋としてお客様から「お任せ」を頂いた仕事についてお話しよう。今日のお任せテーマは、草履。

 

お任せされた草履を誂えるために、龍村から取り寄せた鼻緒と台。

キモノを着用する時、草履は欠かせないモノだが、お任せ頂く品物としては、大変難しいアイテムかと思う。まず、問題になるのは、サイズ。靴を選ぶ時でも、単純に大きさが合っていれば、それで良いと言うものではなく、人それぞれの足には、特徴がある。だから、とにかく一度は、履いて試さなければ、判断出来ない。

特に、カジュアル用の草履だと、使う機会が多いだけに、「履きやすさ」が最優先される。いつまでも指先が痛かったり、歩き難いものでは駄目で、使うごとに、楽に履けるようでなければ、使い勝手の良い草履とは言えない。

 

サイズとともに問題になるのは、「どんなキモノに使う草履なのか」ということ。ここをお客様からしっかりと確認しないことには、台の材質や、鼻緒の色・模様も全く決まらない。

黒留袖や色留袖などの、いわゆる第一礼装に使うものなら、まだ想像が付く。色目として考えられるのが、白や金・銀を使ったものにほぼ限定されるからだ。だが、準礼装の無地や付下げあたりになると、着用するキモノの色や模様を考慮しなければならない。

また、紬や小紋などのカジュアルモノだと、自由度は高く、それこそ選択の幅は広がる。そして、ある程度、どんなキモノにも使い回しが利くようにしておく方が、使う頻度も高くなり、利用価値が出てくる。そしてもちろん、カジュアル用とフォーマル用では、雰囲気の違いは明らかであり、兼用にはならない。

 

今回、お二人のお客様からお任せ頂いた草履を、それぞれ紹介してみよう。

牛革台・シルバーグレー  鼻緒・濃グレー地 糸屋輪宝手文様

最初の依頼は、上の画像のような墨色に近い色紋付無地と、鼠色地の飛び柄小紋の両方に使える草履を探すこと。カジュアルというよりは、むしろ準礼装、あるいはそれに近いキモノに使うものとなる。

台の材質は、履きやすさから牛革が良いと思われ、色は、シルバーグレー・ベージュ・薄茶・茶・墨色の5色を選んでみた。お客様の年合いを考え、少し落ち着きのある色に限定してみた。

 

取り寄せた鼻緒は、6本。いずれも名物裂を復元した文様。どれも光波帯や元妙帯の図案としても使われており、一目で龍村製と判る。画像左から、咸陽宮鱗文(白)・糸屋輪宝手(グレー)・唐花雙鳥長斑錦・咸陽宮鱗文(茶)・祥龍宝華文・糸屋輪宝手(ローズ)。

龍村の京袋帯には、光波帯と元妙帯の二種類があるが、光波帯の方は、図案から見ても、どちらかと言えばカジュアル向きで、元妙帯には、金銀使いの文様が多く、準礼装にも使えそうなものが多い。

 

(元妙帯 糸屋輪宝手・グレー 龍村美術織物)

輪宝(りんぽう)は、元々古代インドの投擲用の武器だったものが、仏教の転輪聖王の宝となり、仏法を象徴するものとして尊重されるようになった。糸屋とは、室町期に堺の豪商として知られた「絲屋」のことで、ここの蔵から見つかった輪宝文様の裂にちなんで、龍村が名付けたもの。

(元妙帯 糸屋輪宝手・ローズ 龍村美術織物)

龍村の光波・元妙帯には、同じ文様でも地色や大きさの違うものが、作られているが、比べてみると雰囲気が違っている。同じ糸屋輪宝手の帯でも、色により向く年代が変わってくる。

グレー系のキモノ地色に合わせ、台・鼻緒ともグレー系を使ってみた。一口にグレーと言っても、様々な色があるので、出来るだけ色が重ならないように、濃淡に差を付けて選んだ。台は薄色を使い、鼻緒に濃くすることで、アクセントが付く。

鼻緒の輪宝文様のところには、金糸が織り込まれているため、少しフォーマルっぽくもなる。無地や飛び小紋のような、準礼装的なキモノに使っても、違和感はない。

 

牛革台・薄茶色  鼻緒・海老茶色 稜華文錦

もう一つの草履は、前回「八掛のお任せ」の稿で取り上げた、泥染紬に合わせるもの。

先ほどの草履とは違い、これは完全にカジュアル使いの品物。とすれば、どんな色・模様の台や鼻緒を使っても構わないが、やはりそこは、着用する方の雰囲気やキモノに、出来るだけ馴染むものの方が良い。

 

鼻緒と同じ「稜華文錦(こちらはブルー地)」を使ったクッション。龍村の小物には、帯と同様の裂地が多く見られるが、どれも不思議にマッチし、独特の高級感を醸し出している。

キモノの地色が、限りなく黒に近い茶なので、足元で少し色を和らげるように、薄茶色の台を使う。鼻緒は、茶にも紫にも感じられる八掛の色を意識し、ほぼ同じ気配の色を合わせた。

こちらも、台を薄色で、鼻緒には同系色の濃色を使ってまとめたが、やはり鼻緒を濃くした方が、引き締まった感じになる。文様の稜華(りょうか)文は、先日ご紹介した、「天平鏡花錦・袋帯」と同様に、正倉院に所蔵されている銀平脱鏡箱の八弁唐花をモチーフにしている。

 

光の当たり方で、最初の画像とはかなり雰囲気が違って見える。八掛の色目と同様、渋く落ち着きのある草履になっている。もし、八掛にこれとは違う色を使っていれば、やはり草履の姿も変わってくるだろう。

草履と言えども、使うキモノの色や雰囲気に関連を持たせることは、ある程度必要かと思う。だが、カジュアル草履に関しては、基本的には、使う方の好みで自由に考えれば良い。今回は、バイク呉服屋が「任された品物」ということで、選んだ理由を述べてみただけである。

 

台と鼻緒が決まって、加工に出す前の二足の草履。

仕上がって戻ってきた、二足の草履。当たり前だが、どちらも選んだ時のイメージにそぐわない出来上がりになっている。

 

八掛、草履と二回にわたり、お客様から「任された品物」について、話を進めてきた。「任されること」は、信頼の証であり、必ずお客様には満足して頂かなければならず、その責任は重い。

適品を選ぶ時に大切なのは、使うお客様のイメージを想起すること。人には個性があり、それぞれ雰囲気も違う。自分のこれまでの経験を生かしながら、その人に合った色目や模様を探していく。その時には、ただやみくもに「色や柄を揃えれば何とかなる」というものではなく、ある程度範囲を絞ることが必要かと思う。

品物を依頼された時には、いつでも適切に対応出来るよう、アンテナを広げ、想像力を膨らませていく。難しいことだからこそ、「任せて良かった」と言われた時の喜びは、大きい。

 

5日に母が亡くなり、葬儀の準備、通夜、告別式と慌しい一週間になりました。実は、今週のブログ更新を、諦めていましたが、やはり、普段通りに一つでも仕事をすることが供養にもなると考え、稿を書くことにしました。

戦争の苦労はあったものの、呉服屋の女房として、良い時代に仕事が出来て、幸せな人生だったのではないかと、改めて思います。

今日も、最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

 

 

 

 

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このブログに掲載されている品物は、全て、現在当店が扱っているものか、以前当店で扱ったものです。

松木 茂」プロフィール

呉服屋の仕事は時代に逆行している仕事だと思う。
利便性や効率や利潤優先を考えていたら本質を見失うことが多すぎるからだ。
手間をかけて作った品物をおすすめして、世代を越えて長く使って頂く。一点の品に20年も30年も関って、その都度手を入れて直して行く。これが基本なのだろう。
一人のお客様、一つの品物にゆっくり向き合いあわてず、丁寧に、時間をかけての「スローワーク」そんな毎日を少しずつ書いていこうと思っています。

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