バイク呉服屋の忙しい日々

今日の仕事から

秋色小紋で作る、初めての長羽織(後編) どんなキモノと合わせるか

2016.11 15

「袖触れ合うも、多生の縁」という言葉の意味は、ほんのささやかな出会いでも、それは前世からの約束として、決められている縁(えにし)であること。「多生」とは、仏教の教義に基づく語で、命あるモノは必ず死を迎え、何度生まれ変わるという意味だ。

よく、多生の字を「多少」に間違えることがあるが、これでは根本的に意味が違ってしまう。多少では、「少しくらいは縁があるのかな」程度だが、「多生」だと「前世からの定め」なので、かなり重々しくなる。

 

この「袖」は、服の袖ではなく、袂の長いキモノの袖と思われる。洋服が普及する以前ならば、多くの人が行き交う狭い通りなどで、袖と袖が自然に触れ合っていたはずだ。今は、こんな姿を想像することは出来ないが、現代の生活で例えれば、電車やバスで隣に座った人とか、コンビ二で、自分の前に並んでレジ精算をする人などが、「袖触れ合う人」にあたるだろうか。

この言葉の戒めは、やはり「どんな人との出会いでも、大切にせよ」ということになるだろう。仕事で出会うにせよ、プライベートで知り合うにせよ、それが「予め定められた出会い」ならば、ある程度「覚悟」して関わらなければならない。

 

「どんな形で、うちの店と関わりを持ったか」というのは、お客様一人一人で違う。今日、初めてこのブログを読まれた方も、「私と小さな縁を持った人」になろうか。

最近は、このつたない「書きモノ」がきっかけになり、店を訪ねて来られる方も多くなった。ITは、人と人を繋ぐためには、欠くことの出来ない、優れたツールだと実感している。けれども、偶然店の前を通り掛かったことで、ご縁を頂いたような方もいる。

今日は、前回に続いて「初めて作る長羽織」をご紹介するが、この品物を依頼されたお客様は、3年ほど前に、仕事で甲府に来られた折、うちの店のウインドを覗いたことがきっかけとなってご縁が出来た方。以来、一年に4~5回ほど、埼玉県から訪ねて来られる。

 

(鬼シボちりめん 鉄紺色 栗山工房・京紅型小紋長羽織)

このお客様が、うちの店を覗くきっかけとなった品物は、ウインドに飾っていた竺仙の浴衣。うちでは、当たり前のように扱う「夏の定番商品」だが、買取仕入れをして、本格的に店先に置くような呉服屋は少ない。東京のデパートに行けば、ある程度数は揃えてあるが、一定の期間だけしか扱わないところも多い。

彼女にしてみれば、地方の小さな呉服屋に、竺仙の品物が豊富に並んでいることが驚きだったのかもしれない。この方が、丁度キモノに関心を持ち始めた時期だったので、竺仙がどのようなメーカーなのか、少し知識も持っていた。だからこそ、目に留まったのである。どんな品物を飾っておいても、見る人が、その質を知っているのと、まったくわからないのとでは、見方が全然違ってくる。

 

今から3年前は、丁度私がこのブログを書き始めた頃だったので、彼女は熱心な読者にもなってくれた。そして徐々にキモノ熱が高まり、知り合いの美容師の方から、着付けを習い、本格的にカジュアルキモノを楽しまれるようになっていった。

そして、忙しい仕事の合間を縫うようにして、うちの店にやって来られる。春夏秋冬の季節ごとに一度、年に4,5回はお会いしている。これまでに、袷の小紋や紬、それに何点かの単衣モノを誂えて頂いたが、羽織はまだ持たれていなかった。

寒い季節にも、キモノで町歩きが出来るようにと依頼されたのが、この長羽織である。様々な地色や模様のキモノでも使えるような、お洒落で使い勝手の良い羽織を希望されていたので、それに見合う品物を提案させて頂いた。

 

生地は、大シボちりめん地で、地色は、深い鉄紺色。模様は、梅・橘・楓・鉄線の四種類。栗山吉三郎工房の手による、京紅型の小紋。

この小紋を、どこかで見覚えのある品物と感じられた方は、このブログをかなり読み込んでおられる方とお見受けする。その理由は、以前同じ柄で配色違いのものをご紹介したことがあったからだ。

 

2015.2.20の稿で、「バイク呉服屋女房の仕事着」としてご紹介した、栗山紅型小紋。最初の画像を見れば、同じ型を使った品物だと判るだろう。お客様のものと比べると、家内の羽織は、地はグレーに藍を含ませたような地味な色。それに従って、模様の配色も大きく異なっている。

小紋は、同じ型紙を使い、地色や配色を変えながら、バリエーション豊かに品物が染め出される。この二点を見ても印象が違い、従って着用される方の年齢幅も変わる。

この小紋を羽織に使うと、大シボちりめん生地の重みで、自然に下に垂れるように感じられる。図案そのものは、四種類の植物花弁だけを散りばめたもので、単純である。だが、随所に使われている疋田がアクセントとなり、挿し色の配色も巧みで、いかにも紅型らしい個性的な品物になっている。

家内が着用しているのを見ていても、良い羽織だと感じていたので、この地色・配色違いの品物を「羽織用」として、菱一から仕入れていた。自分で気に入って選んだ品物だからこそ、この方にも、躊躇無く奨めることが出来たと思う。着姿は、家内の画像を見て頂ければ想像が付き、判りやすかったのではないだろうか。

 

この反物の端には、栗山工房の「吉」のマークと、社是の「キモノを創る」と共に、菱一のロゴが染め抜かれている。栗山紅型を証明する印が付いているのは判るが、わざわざ扱い問屋が菱一であることを示す意味は、どこにあるのだろう。

これは、この型紙=模様が、菱一の留め柄(菱一が栗山工房に依頼して作らせた図案)であることを表しているのではないか。栗山工房の品物自体は、様々な問屋で扱われているが、この図案に関しては、菱一の専売とするということだ。でなければ、ロゴを表示する意味は無い。菱一に確かめてはいないので、この推測が正しいのかは判らないが、今度聞いてみようと思う。

 

仕上がった長羽織の後姿。

前回ご紹介した、サーモンピンク・飛び柄蝶模様の羽織と比べると、かなり大胆で華やかに感じられ、その上、よりカジュアル感が強い。地色が濃地なので、模様がはっきり浮かびあがる。配色は、白鼠色が基調のおとなしいものだが、所々に見える赤と黄色の挿し色が、印象に残る。明るい色が僅かに見えるだけで、雰囲気はかなり変わる。

羽裏は、薄い水色に大きい梅鉢の模様。梅の花弁には、疋田が使われている。羽織紐は、柔らかい橙色の丸ぐけを合わせてみた。この方が持っているキモノには、柔らかいグレー無地の結城紬や、墨桜色の小千谷紬など、優しい印象を受けるものが多いが、すっきりと大胆な羽織を使うことで、また違う着姿を演出することが出来るように思う。

 

さて、この個性的な紅型羽織だが、意外にバリエーションのある使い方が出来る。どのような合わせ方になるのか、色目や模様の異なるキモノを使って、コーディネートした姿をご覧頂こう。

横段縞・本藍染米沢紬との合わせ。やはり、同系地色による濃淡合わせは、問題なくよく映る。キモノが単純な横縞なので、大胆な植物模様を羽織ると着姿にアクセントが付く。帯は、花の中に僅かに挿されている黄色や赤を意識して、芥子色や柿茶色などを使うとバランスが取れるように思える。

つゆ芝に蝶模様・泥染大島紬との合わせ。少し地の空いた大島だが、こんな茶紫色の地味なキモノにもよく合う。羽織に挿し色が少ない分、使い勝手が良いのだろう。帯は、模様の少ない無地感覚のモノが合いそうだ。

派手なストライプの片貝木綿を合わせてみた。こんなカラフルな模様だと、キモノだけで街を歩けば、かなり目立つ。だが、この羽織を合わせてみると、着姿に落ち着きが取り戻せる。赤い帯を一緒に使うと、よりかわいいコーディネートになるだろうか。

 

最後に、バイク呉服屋がこの羽織に、一番合わせてみたい品物を選んでみた。

わずかに緑が感じられる鼠色(松葉鼠色)の地に、ローケツ加工でよろけ縞を付けている。小粋さとモダンさを兼ね備えたような小紋。

帯は、龍村光波帯の円文白虎朱雀錦を合わせる。キモノの縞の一つと、羽織の花の一部に挿された赤を帯地に使い、キリッと引き締まるようにしたのだが、いかがだろうか。

 

お客様が求めた品物を使って、すっかりコーディネートを楽しんでしまったが、羽織を使うことで生まれる「着姿の広がり」を感じて頂けたように思う。

カジュアルに楽しむキモノ姿には、色や模様のルールなど何もなく、自分で自由に考えて、着てみたいモノを選べば良い。自分らしさをどのように表現するか、そこを考えることが一番楽しいと思う。二回にわたって、「初めての長羽織」をご紹介してきたが、これを読んだ皆様が、少しでも「羽織の良さ」を理解して頂くことが出来れば嬉しい。

 

人との繋がりが、「多生の縁」で結びついていると考えるのは、少し大仰な気がしますが、「偶然の出会い」は大切にしなければなりません。

リアルな場であれ、ITという便利な道具を通してであれ、「出会えたこと」に、変わりはありません。「一生のうちで、もう二度と会うことはない」という「一期一会」の気持ちを持ちながら、多くの方とこれからも接して行きたいと思います。

今日も、最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

 

 

 

 

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このブログに掲載されている品物は、全て、現在当店が扱っているものか、以前当店で扱ったものです。

松木 茂」プロフィール

呉服屋の仕事は時代に逆行している仕事だと思う。
利便性や効率や利潤優先を考えていたら本質を見失うことが多すぎるからだ。
手間をかけて作った品物をおすすめして、世代を越えて長く使って頂く。一点の品に20年も30年も関って、その都度手を入れて直して行く。これが基本なのだろう。
一人のお客様、一つの品物にゆっくり向き合いあわてず、丁寧に、時間をかけての「スローワーク」そんな毎日を少しずつ書いていこうと思っています。

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